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検品で見逃されやすい“縫い目ズレ”と“波打ち”の判定基準

目次
はじめに:縫製品における検品の重要性
衣料品や布製品、工業用フィルターなど、縫製が関わるあらゆる製造現場において「検品」は最終品質を左右する重要な工程です。
中でも、“縫い目ズレ”や“波打ち”といった現象は、製品の信頼性や完成度を大きく損なう原因となりやすいにもかかわらず、現場では「許容範囲内」と正しく判定できず、見逃されるケースが後を絶ちません。
今回は、製造現場の目線から、見逃されがちな「縫い目ズレ」「波打ち」にフォーカスし、「何を基準とするべきか」「最新の業界動向」「現場での工夫・事例」まで丁寧に解説します。
縫い目ズレ・波打ちとは?なぜ発生するのか
縫い目ズレの定義と主な発生原因
縫い目ズレとは、2枚以上の布が正しく重なるべきラインから、実際に縫い合わされた位置(ステッチライン)がずれている状態を指します。
たとえば、シャツの袖やズボンの脇線など、表面から見て直線状に仕上がっているべき部分に“ゆがみ”“蛇行”が生じる現象です。
主な原因は以下の4つです。
– 部材そのもののカット精度が低い
– 縫製工程で片側だけが引っ張られたり送られたりする
– ミシンやガイドの設定ミス
– オペレーターの熟練度不足や集中力低下
縫い目ズレは“見た目の美しさ”だけでなく、“肩が合わない”“すそが均一でない”など、機能面や耐久性にも影響することがあります。
波打ちの定義と主な発生原因
波打ちとは、縫い合わされた布の縁に思わず目がいってしまう“うねり”や“ヨレ”が発生する状態です。
シャツやスカートの袖口・裾など、真っすぐに落ちるべき部分がフリルのように波状になったり、ギャザーが意図せず発生することを指します。
主な原因は、
– 上下布の送り量や生地の張りの違い
– ミシンの送り歯設定の不適切
– 針や糸の選択ミス
– アイロン工程の省略や不十分
といった、「人」「設備」「資材」「方法」のいずれかに課題が潜んでいます。
“見逃し”が起きる背景と、昭和的アナログ業界の現状
現場目線で見た見逃しの実態
縫い目ズレや波打ちは、「パッと見では気付かない」「基準が曖昧」という理由で検品現場で見逃されやすい課題です。
現場でよくある「見逃し」の背景には、
– 作業量や納期が優先され、細部の品質判定がおろそかになりやすい
– ベテラン作業者の“感覚的基準”が先行し、明確な判定基準の文書化が少ない
– 目視検査に大半を頼るため、作業者の体調や“今日は見落としが多い”など属人的ばらつきが大きい
– 「ここまでならOK」という“なあなあな許容範囲”が現場ごとに違う
といった現実があります。
特に昭和から続くアナログ的な検品体制では、「みんなこの程度で流してきた」「取引先からのクレームも来ていない」の一言で、品質改善が進まないことが多いです。
業界動向:デジタル化への移行は進むか?
近年、AIや画像認識技術を用いた自動検品装置が登場しつつあり、海外工場や大手アパレルでは部分的な導入例もみられます。
しかし、多品種小ロット・サンプル品など、人の手による生産のウエイトが高い業界・工場では「最終的にはベテランの目に頼り切っている」現場のほうが、まだまだ主流です。
現状多くの現場での検品は「基準書はあっても、実際は感覚的に流されがち」という実態が、波打ちや縫い目ズレの“見逃し温床”となっています。
検品判定基準の明確化:どう決め、どう周知すべきか
JIS・業界標準と社内基準の関係
縫い目ズレや波打ちについて、JIS(日本工業規格)や各業界団体が基準を設けている場合もあります。
例えばJIS L 0851(縫製品の外観検査法)などでは、
「外観上明らかに目立つもの」
「着用や使用時に支障があるもの」
といった抽象的な表現で“不可”としています。
しかし、細かい許容範囲(例:1cm未満はOK、1cm超はNGなど)は実際には自社・自現場で決める必要があります。
実務に即したOK/NG判定基準の例
以下に、現場で使いやすい判定基準のサンプルを示します。
– 縫い目ズレ
– 表側から見て、本来の縫製ラインからのズレが○mm未満ならOK。○mm以上はNG。
– ズレが着用時にシルエットに影響を及ぼす場合はNG。
– 波打ち
– 製品平置き時、本来の直線部分に波形状のうねり幅が○mm以内ならOK。○mm超でNG。
– 仕上げアイロンや洗濯後に改善しないものはNG。
– 現場合意で「ここまでは許容する」「取引先仕様書ではどう指定されているか」なども明記
これを、現物サンプル写真とセットで“誰が見ても分かる”ように基準化し、必ず現場での確認会議を行いましょう。
基準運用の落とし穴と現場教育
判定基準は「文書化して終わり」ではありません。
– 新人やパート作業者への反復教育
– 現場リーダーの“感覚ずれ”の是正
– クレーム品・良品の現物比較による傾向把握
など、現場ヒアリング・教育サイクルを根気強く回すことが不可欠です。
また、取引先(バイヤー)との基準すりあわせや「現場の声をどう反映するか」が最終的な満足度や信頼関係に直結します。
バイヤー・サプライヤー双方での課題と“本音”
バイヤーの視点:どこまで求め、どう伝えるか
バイヤー(調達・購買担当)の立場からすれば、できるだけ歩留まりの高い、高品質な商品を安定して納入して欲しいという思いがあります。
しかし、「現場にどこまで厳密な基準を求めるか」「少量不良はクレーム対象にするのか」といった線引きは非常に難しい。
また、過剰な品質基準を押しつけ過ぎると
– 価格転嫁を要求される
– 納期が守られない
– サプライヤーの離反や品質ダウン
など、逆効果になるリスクもあります。
クレームを減らすための細やかなチェック体制構築には、サプライヤーとの「何をどこまで守るか」明確な意思疎通が大切です。
サプライヤーの視点:現場で抱える現実と課題
サプライヤー(ものづくり現場)の立場からすれば、日々の納期プレッシャーや人手不足、高齢化といった課題の中で「理想の品質」と「現実」とのギャップに悩まされています。
現場では、
– 「ここまでは大丈夫」という“暗黙の了解”
– 若手の育成が思うように進まない状況下での技能伝承
– 目視検査員の“疲労・集中力低下”による見逃し増加
など、簡単に一足飛びでは解決できない問題が山積です。
また、実際の取引先担当者が現場事情を知らないまま要求ばかり強くなると、「やる気をなくす」「業界としての持続性が損なわれる」リスクも無視できません。
“昭和的”アナログ検品からの脱却へ:現場実践のヒント
実物サンプルでの教育・可視化の推進
基準書や仕様書だけでは伝わらない“感覚のズレ”は、実際の製品サンプルを用いた「OK例・NG例」の比較提示が最も効果的です。
現場で日々使う「検品見本」「写真付きマニュアル」「基準掲示板」などを整備し、検査者全員の“目線合わせ”を定期的に行いましょう。
自動化・デジタル化の現場応用
量産品やバラツキが少ないプロセスでは、AIカメラや画像解析システムによる自動検品が徐々に導入可能になっています。
また、タブレットを用いた判定チェックリストのデータ化や、簡易ビューアによる「波打ち・ズレ」測定なども、今後進展する分野です。
既存のアナログ工程に「部分的なデジタル補助手段」を重ねることは、中小工場でも現実的なアプローチとなっています。
改善活動:現場主導&バイヤー巻き込み型の推進
現場主導の品質改善活動(QCサークル活動)を推進し、縫い目ズレや波打ちをテーマにした改善事例を共有することで、熟練技術の“見える化”や新人教育に直結します。
また、取引先バイヤーを現場見学に招待し、生産工程のリアルや検査の現場を体感してもらうことで、双方の理解と合意形成が進みやすくなります。
まとめ:技術と感性、両輪で“見逃さない”現場へ
縫い目ズレ・波打ちの見逃しを防ぐには、技術的な知識と“現場での感性”、そして標準化された明確な判定基準が三位一体となることが必要です。
アナログ中心の昭和的検品現場から一歩抜けだすためには、
– 判定基準の文書化と現場教育
– 実物サンプルによる“目線合わせ”の徹底
– デジタル技術や自動化の部分導入
が次世代のものづくり現場を支えていくでしょう。
製造業、調達購買担当者、サプライヤー各位が「なぜそれがNGなのか」「どうすれば見逃さない現場になるのか」を自分ごととして“深く、深く”思考しあうことで、現場品質は底上げできます。
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