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品質保証の指摘が“コスト増の犯人扱い”される構造

目次
はじめに:品質保証部門が“悪者”にされる現実
製造業の現場で日々さまざまな課題と向き合っていると、「品質保証」部門がしばしば“コスト増の犯人”のように扱われてしまう現象に直面することが多々あります。
部門横断のコミュニケーションが十分でなかったり、経営や営業、設計部門との意識のギャップから、品質保証が提出する指摘内容が「コストを無駄に増やしている」「とにかく厳しすぎる」と批判を受けるのです。
なぜ、日本の多くの製造業、なかでもアナログな現場が根強く残る企業でこのような”構造“が存在してしまうのでしょうか。
本記事では、現場で実際に管理職として長年品質保証・購買・生産管理に携わった視点を元に、その実態と構造をひも解きつつ、「品質保証の正しい役割」そして今必要な意識変革についてラテラルシンキングで深掘りします。
品質保証の“指摘”がコスト増に直結するメカニズム
1.なぜ品質保証部門は「コストの敵」とされてしまうのか
まず多くの現場で起こるのは、品質保証部門が不良・不適合品への対応として、工程の追加、素材や設備の変更、検査の厳格化を提案することです。
しかし、これらの取り組みは一見すると目先のコストアップ要因に映ります。
例えば
・外部機関での追加検査を提案 → 直接的な検査費用が発生
・工程中の確認強化 → 作業者や時間の追加=人件費増
・発注先の変更や特別対応依頼 → 調達コストや管理費が膨らむ
という分かりやすい“コスト増”があります。
このため、短期的視点で「品質指摘=余計なコスト」とみられがちです。
2.真の原因は「プロセスの未熟さ」と「組織の壁」
しかし、コスト増の本質的な原因を突き止めれば、品質保証部門がいたずらにコストを押し上げているわけではありません。
プロセス設計や材料選定など、より上流での品質づくりが十分になされていなかった結果、後工程で多大な手間やコストがかかる“手戻り”が発生しているのです。
ところが…
・購買=最安価格重視
・生産=歩留まりや納期最優先
・品質保証=市場クレームやリスク防止
という部門ごとの評価基準や行動指針の違いが、相互の歩み寄りを妨げています。
業界特有の縦割り文化や、昭和型の「現場に問題を押しつける空気」、データのデジタル化や横断的な議論の不足が「とにかく品質保証はうるさい」→「コスト増の犯人」という一面的な原因論につながっています。
コスト対品質のアナログな現場意識、これが業界の“昭和体質”だ
今も根強い「数字で測れない価値」への軽視
日本の多くの中堅・老舗メーカーでは、製造業本来の泥臭い現場主義が残っています。
確かに現場力やカイゼンの積み重ねは日本の産業競争力を支えてきました。
しかし、「品質はコスト(または納期)の敵」という対立構造が温存されやすいのも事実です。
これは「短期的な目に見える数字(原価、納期)」という指標が評価の全てとなりやすい職場風土が少なからず影響しています。
効率化や合理化が進みつつあるものの、まだまだ数字化しきれない現場ノウハウ、ヒューマンスキル、そして“未然防止”の大切さが経営評価や上層部の意識に十分反映されていません。
そのため、「なぜここまでしつこく品質保証部門が指摘するのか?」という本質的な議論に発展させず、「コストアップばかり言って、売上・利益を圧迫する存在」とレッテル貼りされてしまうのです。
事例:不良品1個が企業イメージ全体を壊す危機
例えば、数十円、数百円単位で品質を落とせば即座に原価低減が達成できるように見えます。
しかし、1個の不良品がエンドユーザーに流出し、重大なクレームや社会的批判に発展した場合、その損失は「見えるコスト」どころでは収まりません。
現実には
・返品・回収費用
・顧客からの受注減
・社会的信用失墜による株価暴落
・場合によっては法的賠償責任
・社員の士気低下・離職
など、企業の根幹を揺るがす深刻な“見えないコスト”を発生させてしまうのです。
それでも、「今回だけは…」と一度でも妥協やルール違反を認めてしまえば、“例外”は必ず現場文化になってしまいます。
この認識不足が、品質保証部門の役割を軽視する根因と言えるでしょう。
バイヤー、サプライヤー間で必要な意識変革は何か
昭和型から脱却するためのラテラルシンキング
従来のような「営業対品質」「購買対品質」「生産対品質」ではなく、全社横断型で品質の重要性と中長期目線でのコスト最適化に取り組むべきです。
私が経験した成功事例では、バイヤー(購買担当)主導で「品質トラブル1件の本当のコスト」を全工程で見える化し、社内外のサプライヤーまで巻き込んだ「品質×コストの最適バランス」を検討しました。
すると、
「単純な原価低減策→納期優先の無理な計画→結果として品質トラブル&コスト増」
という“悪循環ループ”の無駄が明らかになりました。
さらに、品質保証部門と調達部門が連携し、サプライヤーとも定期的な未然防止会議を開催。
その場で経験知を共有し、不良リスクとコストアップ要因の「本当の境界線」を一緒に議論できるようになったのです。
バイヤーが知るべき「サプライヤー目線の品質コスト」
サプライヤーから見れば、バイヤーによる過度なコストダウン要求は本来必要な品質管理コストを削る圧力につながります。
結果として、
・検査工程の簡略化
・人員不足での無理な納期対応
・代替材料による性能変動
など“表に見えないリスク”が製造現場に残りやすくなります。
これを防ぐため、バイヤーには最低限「コスト削減のしわ寄せがサプライヤーのどこに現れるか」、そして「その先に品質事故の芽が眠っている」ことを想像する力が求められます。
サプライヤーとの定例会議で、
・現場での改善提案や苦労話を直接聞く
・異常処置にかかる手間・コストの構造を分析する
・不良予防策に必要な投資を含めて価格交渉を行う
といった本音のぶつかり合いができる関係性の構築が重要です。
これからの品質保証は「コストセンター」から「利益貢献部門」へ
“指摘部門”で終わらない品質保証の在り方
品質保証が「ルールで縛る、現場を監視するだけ」では存在意義が薄れていきます。
むしろ、全社的なリスクマネジメントや、製品価値の向上をリードする“利益貢献型”部門を目指すべきです。
そのために必要なのは
・市場動向やクレーム動向を先取りする情報収集力
・生産・調達・営業と本音で意見を交わすコミュニケーション力
・単なる「不具合指摘・是正要求」から、「未然防止・最適提案型」への意識改革
です。
現場主義と数値管理、現場と経営層、それぞれの視点を双方向に理解し、社内外の連携を強く推進してこそ、真に意味のある「品質保証=利益貢献部門」が成立します。
AI・自動化時代に問われる“本質的な品質”
AIや自動化により工程管理が効率化されつつある今こそ、一歩先を行く「人間らしい品質価値創造」が重要です。
例えば、AIでの自動チェック工程導入に際し、どうしてもアルゴリズムが拾えないヒューマンエラーや例外的なトラブル。
そうした領域こそ、20年以上の現場経験から培われたノウハウや、職人が感じる「違和感」「危機管理意識」を活かす場なのです。
これを部門の枠を超えて“会社の財産”として共有する文化が、コスト最適化と高品質を両立させる最短ルートです。
まとめ:すべては“お客様視点”の追求に帰結する
「品質保証の指摘はコストを増やすだけ」という見方は、部分的な短期的コストだけに目を奪われた発想です。
本当の意味で“ムダを省く”とは、「お客様が望む価値を高水準で安定的に提供し続けるために投資すべきコスト」と「許容できる妥協点」の真の最適バランスを見抜くことです。
これには、アナログ現場のカン、経験知、そしてデジタルによる客観的データの融合、部門を超えた本音の議論が欠かせません。
調達購買、生産、品質保証、それぞれが自分の立場に固執するのではなく、“顧客と未来志向”で自社の競争力を支える意味で「品質への投資=利益への貢献」を見直す時期が来ています。
イノベーションのカギは、現場一人ひとりの気付きと、ラテラルシンキングによる現状打破への意志にこそ眠っています。
品質保証部門が次なる成長の旗振り役となり、部門間連携を結果に直結させることで、製造業全体の地平線を切り拓く一歩を踏み出せるのです。
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