投稿日:2025年12月3日

“やってはいけない材料組み合わせ”の知見が共有されない課題

はじめに:なぜ「やってはいけない材料組み合わせ」が現場で共有されないのか

製造業の現場では、「これはやってはいけない」という禁断の材料組み合わせや設計例が数多く存在します。

例えば、アルミと銅を密接に組み合わせるとガルバニック腐食が発生して製品寿命が短くなる、特定のプラスチック同士で不具合の原因となるケミカルコンパチビリティの問題など、経験を重ねた技術者やバイヤーならごく当たり前に避けている盲点が現場の至るところに潜んでいます。

しかしながら、この「やってはいけない知見」は現場に強く根付いているにもかかわらず、形式知として広く体系的に共有されることが少ないのが実状です。

本記事では、なぜこのような現象が起きるのか、その背景を昭和から続くアナログな文化や業界動向と結び付けながら紐解きます。

また、材料選定や調達、バイヤー・サプライヤー間コミュニケーションの現実を踏まえた実践的なアプローチも合わせてご提案します。

「やってはいけない材料組み合わせ」とは何か?

失敗知識の伝承が極めて重要な理由

製造現場で素材や部品を組み合わせる際、教科書通りではありえないトラブルがしばしば起きます。

それは実験室レベルの話ではなく、工場のラインで実際に生産し、市場へ出し、顧客からのクレームで初めて明らかになるような「現場ならではの学び」だからです。

例えば次のような事例があります。

– ステンレス鋼部品と異種金属ねじを雨ざらし環境で直結し、数ヶ月で錆が回ってトラブル
– シリコンゴムの密着パーツとオイルが反応し、部品が膨張・劣化
– 一般樹脂製ネジ受けと高トルクスチールボルトの締結でネジ穴の早期破損

こうした「やってはいけない組み合わせ」の知見を暗黙知として現場で伝承できている会社は極めて少数です。

その主な理由は、現場で個人的な経験や口伝え、ベテラン技術者の勘ピュータによって維持されていたため、データベース化や標準化が進みにくいという点が挙げられます。

設計者・バイヤー・品質管理、それぞれの現場課題

設計技術者は理論値や材料表でしか判断できず、実際の現場で起こる細かな問題までは想像しきれません。

一方、調達バイヤーやサプライヤーもコストや納期、スペックに目が行きがちで、材料同士の相性や現場の苦労を「言われて初めて気づく」ことが多いのです。

また、品質管理部門に関しても、過去データや不具合事例を分析していても、「なぜ問題が発生したか」は分かるものの、「今後どう100%防ぎきるか」には至らず、失敗事例の再発防止レベルにとどまっている傾向があります。

昭和的アナログ文化が“失敗知識の共有”を阻む理由

属人化された“暗黙知の壁”

多くの日本の製造業は、長年職人技や現場主義で高品質を支えてきました。

一見、現場の失敗知識も自然に蓄積・伝承されているように思えます。

しかし、ベテランの「感覚」や「経験則」に依存する部分が大きいため、新人や異動者は―くしくも昭和のまま―「見て覚える、やって覚える」環境が色濃く残っています。

つまり“なぜそれがいけないのか”が端的なマニュアルで残されていなかったり、形式知化されていなかったりするのです。

その結果、ベテランの定年後や異動によって「知識の断絶」「再発のリスク」が生じます。

この属人化が日本の製造現場における大きな課題です。

組織を跨ぐナレッジ共有の希薄さ

設計・生産技術・調達・品質保証…これらの部門間で失敗知識を体系立てて共有する仕組みは、未だに少数派です。

例えば、「新入社員は設計部門しか見たことがなく、現場のトラブルを知らない」

「調達部門はコストや納期重視、品質部門は安全マージン重視、現場はどちらの事情も知らされていない」

こういった部門間サイロ化が、蓄積した知見の伝承を難しくしています。

加えて、「失敗を報告すると減点評価される風土」や「過去のトラブルをオープンにすることへの心理的抵抗感」も影響しています。

ペーパーレス・DXが意外に進みにくい本当の理由

多くの工場では“ノウハウ帳”や“昔話ファイル”といったアナログ資料がいまだ現役で機能しています。

DXやナレッジマネジメントの導入が進んでいても、結局、現場の細かな知見は“口頭”や“察して”でしか伝達できない。

こうした文化的・風土的障壁が、エラーやトラブルの再発防止、未然防止を妨げているのです。

典型的な失敗事例とその裏側

プロが選ばない材料組み合わせの具体例

– アルミ×銅の直結(ガルバニック腐食)
– 鉄×亜鉛メッキ×水分(局部腐食)
– 強化ガラス×ポリカーボネート(割れ・熱膨張係数違い)
– シリコンゴム×鉱油(膨潤、劣化)
– ABS樹脂×高温(歪み、クラック)

これらの組み合わせは、理論上・カタログ値レベルでは「使えそう」に思えても、現場レベルでは長期間にわたる使用に耐えきれず、必ずトラブルを引き起こします。

なぜ現場知識が伝わらないのか?

1. 「暗黙知」にとどまり、技術資料に記載されない
2. 設計時点で「未知のトラブル」として認識されていない
3. 小規模な失敗は現場内だけで処理され、大本営には報告されない

このようなパターンが、すべての現場に驚くほど根付いています。

バイヤーが知っておくべき“失敗知識”とサプライヤーの立場

バイヤー目線での危険信号

バイヤーの立場では、ついつい「コスト」や「納期」を重視した材料選定・調達判断をしがちです。

しかし、「やってはいけない材料組み合わせ」による不良や品質トラブルは、あとで莫大な損失につながります。

バイヤーにとって重要なのは、単なる材料スペック表の確認以上に「過去にどんな失敗事例があったか」「組み合わせリスクはないか」を現場の声として吸い上げることです。

もし、同一用途で似た事例を知っているサプライヤーがいた場合は、積極的にアドバイスを仰ぎ、未然防止の情報収集を怠らないことが肝要です。

サプライヤーの立場で考えるべきこと

サプライヤーは「自社の商品を少しでも多く売りたい」という立場にありますが、同時に「顧客(バイヤー)が何に悩んでいるか」を知ることが長期的な信頼構築につながります。

もし自社の材料が「やってはいけない組み合わせ」に使われている可能性がある場合は、リスクを隠さず正確に伝えることが最大の価値提供です。

また、過去納入先で発生したクレームやトラブル事例を積極的にナレッジとして提供し、顧客の設計側・調達側の盲点になっている危険箇所を一緒に潰していく姿勢が、良好な関係維持のカギとなります。

知見共有を阻む“構造的な壁”をどう突破するか?

「失敗知識のナレッジ化」への第一歩

– 失敗事例を隠蔽・責任追及で終わらせず、「なぜ起きたか・未然防止できるか」を全社で議論する
– 現場・設計・品質・調達の垣根を超えた“ヨコ連携”の場を常設する
– サプライヤーとも失敗知見を「オープン情報」として共有する

このような取り組みが、組織の質を大きく押し上げます。

ペーパーレス化を見据えた“現場発DX”

– 組み合わせ別・使用条件別の「NGリスト」をデータベース化
– “何が起きたら、どう対処すべきか”を事例形式でナレッジ化
– 若手や異動者がサッと調べられるように現場端末にマニュアル・動画・事例集を配備

すぐに100%の効果は望めませんが、現場の声をデジタルに蓄積することで、属人化解消・再発防止が徐々に実現可能になります。

まとめ:未来に向けて「やってはいけない」を共有する組織をつくる

失敗知識の共有を怠った結果、最も損をするのは現場の皆さん自身であり、お客様であり、ひいては日本のモノづくり全体です。

組んではいけない材料の組み合わせ、現場でしか分からない地雷情報こそが本当の競争力になります。

バイヤーは現場知識を積極的に吸い上げ、現場作業者や品質技術者は余裕をもってナレッジを蓄積する。

サプライヤーも顧客事情に寄り添い、積極的に失敗ノウハウを提供する。

こうした「やってはいけない」をオープンにし、みんなで共有し、次の世代に引き継げるメーカーになっていきたいものです。

現場発のリアルな知識、アナログな知見、そして新たな地平線への挑戦。

製造業の持続的な発展は、こうした地道な実践から生まれてくるものです。

ぜひ、明日から「やってはいけない材料組み合わせ」が現場・組織を越えて語り継がれる一歩を共に踏み出しましょう。

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