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設備投資の判断基準が曖昧で現場の声が届かないもどかしさ

目次
はじめに:設備投資、その判断はなぜ難しいのか
製造業の現場に長年身を置いてきた方なら、一度はこう感じたことがあるはずです。
「なぜ、この古い設備をいつまでも使い続けるのだろう」
「現場として困っているのに、本部はまったく動いてくれない」
こうした現場のもどかしさの多くは、設備投資の判断基準が曖昧であることに起因しています。
本記事では、設備投資の意思決定がなぜ現場感とかけ離れてしまうのか、そして「昭和的」な経営体質から抜け出せず閉塞感が残ってしまう理由について、現場目線で掘り下げていきます。
また購買担当者やサプライヤー、将来バイヤーを目指す方まで、設備投資の舞台裏がよりリアルに理解できるよう、深く具体的な解説をします。
現場の声が「届かない」3つの根本的理由
1. 経営層と現場の認識ギャップ
多くの企業で現場は「設備更新の必要性」を早期に発見します。
「この装置の故障率が上がっている」
「不良品率が下がらない原因は、古い加工機だ」
実際にモノと向き合う現場の方が、設備の老朽化や性能限界を肌で感じ取っています。
しかし経営層は、モノとしての設備ではなく「損益計算書上の数字」として設備投資を評価しがちです。
そのため、現場からの「SOS」が経営判断に直接つながることは多くありません。
このギャップが埋まらないまま時間が経ち、結果として設備更新も遅れがちになります。
2. 設備投資の判断基準が「数値化」されていない
設備投資を申請するとき、ほとんどの企業では「投資対効果(ROI)」や「回収期間(Payback Period)」という評価指標を使っています。
しかし現場レベルでは、
「実際のダウンタイム」
「不良品による損失」
「メンテナンスに割かれる工数」
などが十分に数値化されていないケースが圧倒的に多いです。
本社の財務部門や調達部門は「数字」で判断する文化ですが、現場は「経験値」や「肌感覚」で危機感を訴えます。
この温度差が申請書の説明や社内プレゼンで明確に浮き彫りになるため、「何となく押し返される」「後回しにされる」といった状況が続きやすいのです。
3. 「見えないコスト」の軽視
老朽化した設備で発生する
「予期せぬトラブル対応」
「人件費の増加」
「エネルギーコストの上昇」
こうした“見えないコスト”は、ともすれば見過ごされがちです。
予防保全よりも、故障してから対応する事後保全の方がコストは圧倒的にかかります。
しかしアナログな経営体質の下では、こうした隠れたコストに光を当てて判断に組み込む文化が育ちにくいという現実があります。
昭和的アナログ体質が強く根付く背景
設備投資の現場では、未だに“現物”“現場”“現実”の三現主義が重視されています。
これは日本のものづくりを下支えしてきた大切な価値観です。
一方で時代が変わり、デジタル技術やAI化、自動化が急速に普及するなか、「昔ながらのやり方」に固執してしまう企業体質も根強く残っています。
多くの老舗工場では、「壊れるまで使う」「同じメーカーで買い続ける」という習慣が染み付いており、「設備投資=イレギュラーな大仕事」という認識さえあります。
その背景には、
「大きな投資は何年に一度だけ」というルール化
「減価償却が終わるまで使い倒す」という財務的発想
「新しい設備を入れてもどうせ使いこなせない」という意識
が複雑に絡み合っています。
時代遅れに見えるオペレーションでも、組織としては「安全」に見える選択肢を選びがちです。
この現状を打破しなければ、次の「成長の芽」を摘み取ることすらあるのです。
購買・調達担当者の本音と葛藤
調達や購買部門でも大きなジレンマを感じています。
「本当に現場の要望通りの設備が最適解なのか」
「値段が高い新型を導入するリスク」
「複数メーカーからの見積取得や社内稟議手続きの複雑化」
調達部門の人間としては、慎重さが求められます。
現場の満足、経営陣の納得、そしてコストパフォーマンス――この“三方よし”を満たすには、リサーチ力、判断力、コミュニケーション力がすべて求められるのです。
しかし現実は
「目先のコストが最優先」
「ベンダーロイヤリティ(昔からの取引)重視」
「書類の不備や根拠不十分で申請が差し戻される」
など、形式的な“正しさ”が優先されてしまうのも事実です。
この状況では現場の困りごとが「認識されにくい」「伝わりにくい」まま年月が経過し、積もり積もって老朽化設備だらけの工場になってしまいます。
サプライヤー側から見たバイヤーの心理
サプライヤー(供給業者)は常に、バイヤーであるメーカーや調達担当者の本音を探っています。
「なぜ、なかなか設備更新の話が出てこないのか」
「どうして最終決定までにこんなに時間がかかるのか」
これは前述のような判断基準の曖昧さ、稟議フローの硬直化などが主因です。
とくに伝統的な日本企業の場合、
「上意下達型の体制」
「不必要に長い検討期間」
「他社事例待ち症候群」
といった保守的な傾向が強く、サプライヤーの提案も活かされにくい環境があります。
サプライヤーとしては現場の課題や本音を丁寧にヒアリングし、数値根拠を持った試算や導入効果、リスクヘッジ方法までセットで提案することが重要です。
バイヤーの立場からすると、
「最安値」だけで判断できる時代ではなく、
「投資の妥当性」と「現場の納得感」のバランスを見極めていくことが、今後ますます不可欠となっていきます。
実践的:説得力ある設備投資の進め方
これらの背景を踏まえつつ、現場の声を経営層や購買担当者まで正しく伝えるためには、どのようにアプローチしたらよいのでしょうか。
長年の現場経験から、次の4つのアクションをお勧めします。
1. 問題の「見える化」と数値化
現場の「困りごと」を“感情”ではなく“データ”に変換することが重要です。
故障頻度やトラブル件数、生産性への影響など、エクセルや日報で定量的に記録しましょう。
「この設備のダウンタイムは月●時間」
「不良品による損失金額は年●万円」
というように、誰が見ても納得できる事実を明示します。
2. 投資対効果(ROI)の具体化
単に「新設備が欲しい」ではなく、
「これだけコストが削減できる」
「工場全体の生産性が何%上がる」
という効果を可能な限り数字で示します。
導入コスト、運用コスト、メンテナンスコスト、故障による損失、それぞれを現行設備との比較で数年分シミュレーションしましょう。
3. リスクマネジメントと優先順位付け
もし設備投資を先送りした場合に起こるリスク(生産ライン停止、納期遅延、欠品、不良増大など)を具体的に提示することも有効です。
また複数の案件が併存するときには、「数字にインパクトが大きいもの」を優先する提案が求められます。
4. ステークホルダーを巻き込む「共創」型アプローチ
現場/管理/調達/経営といった立場を越えて、早い段階から意見交換会や現場見学、デモ等を実施し、合意形成を図る場を設けることが有効です。
現場主張型ではなく、経営との“共創意識”をもったプレゼンや提案書を作成することで、「現場の声」を企業全体の意思決定に昇華させることができます。
まとめ:いま「新しい地平」に立つために
設備投資の判断基準が曖昧なままだと、現場力があっても、その力が十分に活かされません。
「現場 ≠ 会社全体の利益」になってしまう前に、現場感覚と経営・調達視点とを“繋ぐ”コミュニケーション力やデータ活用力が、一層求められる時代です。
アナログ時代の成功体験を大切にしつつ、最新のデジタル技術やロジカルな手法も取り入れ、変化を恐れずに新しい地平を共創していきましょう。
製造業に関わるすべての人が、現場の声を活かした強いものづくりのために、「本質を見極める目」と「数字で語る力」を磨くことを強くお勧めします。
それが、もどかしさを打破し、企業全体の競争力を高め、未来を切り拓く最短ルートなのです。
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