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中小企業が製品づくりで最初に直面するデザインコストとROIの計算方法

目次
はじめに
製造業において新しい製品を開発し、市場へ投入する際、必ず避けて通れないプロセスがあります。
それが「デザインコスト」の計上、そして「ROI(投資対効果)」の算出です。
特に中小企業にとっては、開発費用を安易に投入できるほどの余力があるわけではありません。
一つの投資判断が会社の今後を左右することも少なくないのです。
本記事では、大手メーカー出身の現場経験者として、誰もが悩む「デザインコストの見積もり」と「ROIの計算」を、実践的かつ分かりやすく解説していきます。
また、日本の製造業が抱えがちなアナログな商習慣や昭和マインドも踏まえ、時代の流れに合った視点を提供します。
デザインコストとは何か?
デザインコストの定義
デザインコストとは、製品を開発・設計(デザイン)するために必要なすべての費用を指します。
一般的には以下の項目が含まれます。
– 商品企画・仕様策定にかかる人件費
– CADやCAE(解析ツール)などソフトウェア利用料
– プロトタイプ(試作品)製作費
– 外部デザイン会社への外注費
– モデル評価・改良費
必要に応じて、特許申請や法規対応のための調査費も含めます。
中小企業では特に「ヒト」に頼る部分が大きくなりがちであり、設計者や営業、製造担当までが企画段階で巻き込まれることも多く、その分のコスト計上が漏れやすいのが現実です。
表面化しづらい“隠れコスト”の存在
コスト集計の際につい見落としがちなのが、“隠れコスト”です。
会議のための移動時間や、社内アンケート作成、承認プロセスのやりとりなど、直接「モノ」を作っていない部分の時間も立派なコストです。
また、設計部門と生産部門、営業部門がそれぞれ“自部門の最適”で動いてしまい、追加的な手戻りが発生するケースもよく見られます。
これらを正確に把握できていないと、ROIの見積もり精度が大きく狂ってしまうので注意が必要です。
なぜ中小企業はデザインコストでつまずくのか?
資金力・体力の壁
大手企業であれば数年がかりの大規模開発プロジェクトが回せたとしても、多くの中小企業では、そもそも開発に投入できるヒト・モノ・カネが限られています。
プロジェクトが失敗したときのダメージも相対的に格段に大きいのです。
「最小コストで最大の成果」を絶えず求められる、そのプレッシャーこそが“中小企業の現場”を象徴しています。
商習慣と昭和的アナログ思考
日本の中堅・中小の製造業には、未だに「見積もりは適当でいいだろう」「現場感覚で動ければ十分」といった過去の価値観が根強く残っています。
部長以上にはコスト感覚が浸透していても、現場設計者は「手間が見えないから全部サービスで」となると、結果的にコスト計上があいまいに。
また、「競合はもっと安くやっているらしい」「親会社の指示でとにかく安く」といった理由だけで本質的な改善を怠ると、いわゆる“安かろう悪かろう”ループから抜け出せません。
ROI(投資対効果)をなぜ重視しなければならないか?
ROIとは何か?
ROI(Return on Investment、投資利益率)とは、「ある投資に対してどれだけの利益が得られたか」を定量的に評価する指標です。
計算式はシンプルです。
ROI(%)=(投資による利益 – 投資額)÷ 投資額 × 100
この指標を使えば、
– 商品開発に“いくら”かけて
– 商品リリース後に“いくら”利益が出て
– 最終的に“どれだけ会社にリターンがあるのか
を判断できます。
中小企業での失敗事例に学ぶ
ROIを事前に正確に計算していなかったために発生する失敗は枚挙にいとまがありません。
例えば、「社長一声」で突発的に新製品の開発プロジェクトが走り出す。
開発費の裏付けもなく、途中で想定以上の手直し–試作–再設計が続き、気がつけば想定の数倍のコストがかかる。
ようやく発売にこぎつけたが、販売量が見込みより大幅に伸び悩み、投資の回収目途が立たない……。
このような構図が、昭和から続く日本型の製造業には強く根付いています。
ROI重視の考え方がもたらす組織変革
ROI重視の考え方が組織に根付くと、「現場感覚」や「前例踏襲」から脱却できます。
従来は「誰かの思い付き」「営業が何とかするだろう」「造れば何とか売れるだろう」といった根拠なき楽観論が幅を利かせていました。
しかし、全ての開発案件を数字(ROI)で評価することで“客観的”な投資判断ができるようになります。
結果として、「開発すべきでない案件にしがみつかない」「撤退判断も柔軟になる」といった、より健全な開発体質が醸成されます。
デザインコストの見積もり方法
精緻に積み上げる「ガントチャート思考」
デザインコストの見積もりでは、工程ごとに「誰が」「何を」「何時間・何日で」「いくらで」作業するかをガントチャートやWBS(作業分解構成)で細かく洗い出します。
例えば、
– 仕様決定ミーティング(参加者3名×2時間×5回=30時間)
– CAD設計(設計者A×50時間)
– プロトタイプ試作(部品加工費+組立工賃+材料費=○○万円)
などを一つ一つ積み上げていきます。
この“見える化”がコストの精度を大きく向上させます。
「外注」と「内製」どちらが得かの判断
社内担当より外部パートナー(設計事務所やフリーランスエンジニア)に部分的委託した方が安く・速く進むこともあります。
「時は金なり」の観点から“スピード”も忘れずに数字化して比較検討するのがポイントです。
リスク・バッファを見積もりに組み込む
製品開発では予期せぬトラブルや追加作業がつきものです。
現場では「想定外」「知らなかった」で済まされないため、最初からリスク分として全体コストの10〜20%を織り込むのが定石です。
ROIの具体的な算出フロー
ステップ1:販売数量・価格予測
市場リサーチや顧客ヒアリングを通じて「現実的な」販売計画を立てます。
ここでありがちなのが「希望的観測」ですが、楽観的な数字は命取りになります。
取引先(バイヤー)やユーザー、現場スタッフから生の声を集めるとともに、競合製品の動向や過去の実績など、複数の視点から数字を“多面的に”検証してください。
ステップ2:製造原価および関連コストの計算
量産を開始した場合の「1個あたりの原価」、「物流コスト」、「アフターサービス費用」や「営業・マーケティングコスト」など、すべて上乗せして算出します。
見かけ上の「部品代+加工費」だけではなく、全社のリソース配分まで含めた“全コスト型思考”に切り替えましょう。
ステップ3:利益のシミュレーション、ROI算出
「実売価格」から「全コスト」を差し引き、利益を算出。
これを“期間あたり”で見積もり、初期投資(デザインコスト+生産設備投資など)と照らし合わせます。
3年、5年という長期スパンで考えることで「短期回収」「長期での利益成長」いずれも検証するべきです。
ステップ4:シナリオ別で追加リスクを評価
・販売数量が当初計画比▲30%だった場合
・設計変更やリコールなどでコストが激増した場合
といった悲観シナリオも同時にシミュレーションします。
経営判断はこのリスクに十分耐えうる数字かで決断しましょう。
サプライヤー目線で知っておきたい「バイヤーのROI志向」
バイヤーとの信頼関係がコスト管理に直結
サプライヤー側は「ただ言われた通りに安く早く作る」だけが能ではありません。
バイヤーは「予算内で最大リターンを得たい」という意識で常に案件を評価しています。
そのため、以下の観点を持った提案が重視されます。
– 設計段階で“生産性向上”や“コストダウン”のアイデアを織り込む協働姿勢
– 隠れコストやリスクの開示ができる“透明な見積もり”
– ROI算定に必要な情報(リードタイム短縮や品質安定化など)を積極的にサポート
共創型パートナーが選ばれる時代へ
安さ・速さだけでなく、製品企画の段階から「ビジネスパートナー」として寄り添えるサプライヤーは、今後バイヤーから選ばれ続ける存在です。
まとめ:ROIの「見える化」が現場力を高める
製品開発は情熱やアイデアだけではなく、「数字=ROI」と「プロセス=デザインコスト管理」という土台が必要です。
中小企業ほどこの部分が抜けやすく、昭和的思考に引っ張られがちです。
しかし、全社一丸で「ROI志向経営」にチャレンジすれば、“失敗の確率”を大きく下げ、ヒト・モノ・カネを次の成長につなげることができます。
現場のリアルな知恵と最新のマネジメント手法を掛け合わせ、新たな製品開発の未来を切り拓いていきましょう。
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