投稿日:2025年12月13日

設計工数が増え続け改善の余地が見えない疲弊感

設計工数が増え続け改善の余地が見えない疲弊感

設計現場で広がる疲弊感の実態

製造業の設計部門は、近年かつてないほどの多忙を極めています。
現場を知る方であれば、「設計工数の増加」は日常的な会話の話題になっているのではないでしょうか。
新しい設計案件が舞い込むたびに、「人手が足りない」「納期が守れない」「品質が下がりそう」と、どこかで誰かが眉をひそめている光景を目にすることも多いと思います。
 

以前は「がんばれば何とかなる」「人を増やせば解決できる」という楽観視が多少あった現場も、今やすっかり疲弊感に包まれています。
要因は単純ではありません。
高度化・多様化する顧客要求、既存製品と新規開発の両立、グローバル化による設計規格・品質要求の複雑化、そして長年見直されていない設計プロセスやアナログツールの継承。
いずれも昭和の成功体験に根差した、今の時代と相いれない古い構造に深く起因しています。

なぜ設計工数が減らないのか―現場目線で探る三つの壁

属人化の罠に陥る設計フロー

設計部門には経験や勘、暗黙知に頼る仕事が依然として多く残っています。
ヒト「Aさんしかできない設計」「Bさんがいないと資料が探せない」という属人化現象です。

設計変更やトラブル対応もこの呪縛から逃れられず、結果として新規案件と平行して多くのイレギュラー業務が紛れ込みます。
ベテラン技術者が抜けるたびに、ノウハウの引き継ぎで混乱し、標準化の遅れにつながります。

“エクセル地獄”などレガシーツールの残存

紙図面や手作業による資料管理、Excelの分散ファイルによる「設計進捗管理」や「仕様確認」。
いわゆるアナログ由来の業務スタイルが根強く残る状態は、今も多くの工場で日常的に見られます。

本来であれば、PLM(製品ライフサイクル管理)や設計BOMなどのITシステムが導入されているはずですが、コストや運用のハードルから一部の大手以外には浸透していません。
このため、設計情報の追跡・再利用の効率が上がらず、毎回一から作業や検証が必要になることも多く、工数増加に拍車をかけています。

長納期化・多品種化が招く悪循環

顧客要求の多様化を背景に、機種バリエーションの拡大や、特注・小ロット案件の増加が加速しています。
これに伴い、設計者は同時進行のタスクをいくつも抱え込むことになります。

さらにサプライヤーやバイヤーとの調整、サプライチェーン全体の影響分析、コスト最適化の検討など、本来なら設計とは異なる業務までも巻き取らされているケースが少なくありません。
設計リードタイムは伸びる一方、効率的な「やり直しの効かない設計」が求められ、ますますプレッシャーが増しています。

業界全体を覆う「昭和の残像」―刷新を阻む構造的課題

イノベーションに出遅れる理由は、単に現場の、やる気や人手不足だけに収まりません。

多くの日本の製造業界には、「過去の成功体験」に引きずられ、根本的な業務改革やデジタルシフトが進まない、「業界文化」的な壁があります。
「今までこれでやってきた」「大きな失敗はしていない」そんな無意識の思考停止状態が、設計工数増加の本質的な課題解決を妨げています。

たとえば設計と他部門(生産、調達、品質、営業など)との情報連携不足もそのひとつです。
図面や設計変更情報の伝達ミス、コミュニケーションギャップが重なることで、現場のやり直しや手戻り工数が増えています。
また、サプライヤーや顧客との仕様打ち合わせも「フェイス・トゥ・フェイス」のアナログ重視が抜けず、情報共有スピードの遅さに拍車をかけています。

バイヤー・サプライヤーの真意と現場設計者の葛藤

バイヤー(調達購買担当)は、往々にして「コストダウン」と「納期短縮」ばかりを優先しがちです。
一方で、設計現場としては構想や検証にきちんと時間をかける必要があるため、短納期化要求には戸惑いを隠せません。
双方の立場の溝が大きければ大きいほど、途中で設計変更や仕様戻しといった混乱が発生します。
サプライヤーの多くは、自社の生産キャパや加工制約から設計案を受け入れるのに難色を示す場合もあります。

その結果、幾度もやり取りや条件調整が発生し、本来不要な工数が膨れ上がり「疲弊感」だけが残ります。
設計者としては、「調整役」「説明責任」を果たさねばならず、本来集中すべき設計業務がどんどん後回しになります。

昭和からの慣習として、「設計がリスクを最小に抑えるべき」「設計者が何とかするべき」という暗黙の了解が色濃く、トラブル対応や仕様打ち合わせでも設計主導が続いているのが実態です。

改善のための新発想―ラテラルシンキングのすすめ

現状打破には、単なる「改善」ではなく、ラテラルシンキング(水平思考)による「新たな地平線」を切り開く発想が必要です。
現場で実際に成果を上げている事例や、実践的な方法論をいくつかご紹介します。

設計・調達・サプライヤーの三位一体連携

設計情報を「オープン化」し、調達・サプライヤーを共同検討のパートナーに据える考え方が今求められています。
たとえば、設計段階から調達部門や主要サプライヤーを設計レビューに呼び込み、コスト制約や製造制約、購買可能部品の仕様などを最初から共有する。

この仕組みなら、設計者の独断によるやり直しや、後戻り工数を大幅に減らせます。
近年のデジタルツール(オンライン設計会議、クラウドPLM)の活用も、この動きを加速させています。

設計BOM・E-BOMの標準化と再利用文化の構築

設計データの「標準化」「デジタル化」「再利用性向上」はカギを握っています。

個人フォルダやエクセル地獄から脱して、設計BOMや3DCAD、E-BOMデータベースを用意し、部品の最新・適正在庫や過去設計の再利用可否を見える化します。
これにより、“似たような設計を毎回ゼロから作る”というムダをなくせます。
引き継ぎや教育も楽になり、新人や中堅でも活躍しやすい現場になります。

プロセスマイニングによる工数可視化と自動化への第一歩

設計現場の実作業を、プロセスマイニングなどの最新技術で「見える化」し、どこで工数や「手戻り」「待ち」が発生しているのかを正確にデータ化しましょう。

そこから設計フローの“ボトルネック”を特定し、繰り返し作業や単純な情報連携はどんどん自動化する。
手作業にこだわらず、「設計者が本来やるべき価値創出」に集中する職場をめざすのです。

アナログ文化からの脱却には「巻き込み力」が必須

従来型の昭和カルチャーで根強く残る現場慣行を変えるには、現場リーダーの強い巻き込み力・コミュニケーション力が不可欠です。
抵抗勢力を“説得”するのではなく、“納得”し、一緒に新たなフロー・ツールにチャレンジする文化づくりがポイントです。
現場のちょっとした「困りごと」起点に、段階的に成功・実感を積み上げていく活動が、意外と突破口となります。

まとめ-変革の主役は「現場」そのもの

設計工数の増加に苦しむ現場の疲弊感は、今やどの工場・企業でも共通の大きな課題となっています。
その根底には、属人化、アナログ業務、長納期・多品種化、そして昭和由来の慣習や“思考の壁”が色濃く横たわっています。

ですが、今こそ現場の知恵と、ラテラルシンキングによる新発想の力が求められています。
バイヤー、サプライヤー、設計者それぞれが立場を越えて情報を開示し合い、「全体最適」「一つのチームとしての課題解決」に取り組む時代が来ています。
デジタルツールを勇気をもって導入し、小さな成功体験を積み重ねながら、設計工数最適化への道は確実に開けるはずです。

昭和から続く「疲弊の連鎖」を断ち切り、ものづくりの最前線を革新していく。
その一歩を、今、あなたと共に踏み出しましょう。

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