調達購買アウトソーシング バナー

投稿日:2025年12月14日

トレーサビリティが低いサプライチェーンで品質保証が困難になる現実

はじめに:変革期を迎えるサプライチェーンの現場から

「トレーサビリティ」という言葉は、ここ20年で急速に製造業の現場に浸透してきました。
しかし、昭和から続くアナログな業界ではいまだにエクセルや帳票、手書き管理が根強く残っているのも現実です。
そんな中、グローバル調達やサプライヤーの多重構造化により、サプライチェーンの複雑化と品質リスクが増大しています。
本記事では、現場で肌身に感じてきた「トレーサビリティが低いサプライチェーンで起こる品質保証の困難」について、具体的な事例や現実的な課題、そして実践的な対応策を深掘りしながら解説します。
バイヤーやサプライヤー、現場で品質に悩む全ての方のヒントとなれば幸いです。

トレーサビリティとは何か?製造業の現場から考える意味

トレーサビリティの基本とその本質

トレーサビリティとは、「追跡できること」を意味します。
製品や部品の生い立ち、生産履歴、検査結果、流通経路など、サプライチェーンの全工程を後から辿れる状態を指します。
近年はサステナビリティの観点からも、どのような原材料がどの工程を経て届けられているのかの説明責任を問われるようになりました。
食品や自動車、医薬品など多くの産業で法規制が厳しくなる中、単なる管理手法ではなく「品質保証の根本」となっています。

なぜ今、トレーサビリティが重視されるのか

グローバル化、多品種少量生産、コストダウン要求の高まりにより、従来の「顔が見える取引」は崩れました。
部品の内製化から外部委託(外注)へ、地元調達から海外サプライヤーまで範囲を拡げている今、工程や供給元が増加し、「どこで・何が・どう作られたか」をブラックボックス化してしまいやすくなっています。
不具合やクレーム発生時に即時原因究明・責任範囲の特定が求められ、トレーサビリティは経営上も不可欠なキーワードとなりました。

なぜトレーサビリティが低いと品質保証が困難になるのか

現場で起きている典型的な問題

トレーサビリティが低い現場では、実際に次のような問題が頻発します。

  • 品質不良品が出た際に、どのサプライヤーのどのロットが原因か分からない。
  • 生産現場での作業記録が手書き・口頭伝達で不正確、証跡として残らない。
  • 材料業者や工程加工先が多重に絡むため、全体像の把握が困難。
  • 過去の不具合対応策や是正措置の履歴が現場で共有されていない。
  • 最終製品に問題が発生した際に、迅速なリコール・市場回収ができない。

これらの問題は、現場の工場長や品質管理担当者、バイヤー、営業など全方位で現れてきます。
特に大規模メーカーになるほど階層構造、外部委託化、グローバル化が進み、問題の責任所在が曖昧になりやすいのが実態です。

アナログ管理の弊害

多くの現場では「製品ラベルに手書き」「入庫伝票が紙でバインダー保管」「ロット番号の管理がエクセル」など、昔ながらの方法がいまだ根付いています。
これらの方法では、記録漏れや人的ミス、改ざんリスクが付きまとい、いざトラブル時の情報追跡が非常に困難です。
昭和のルールや慣習、「これで今まで何とかなってきた」の延長では、現代の複雑なサプライチェーン管理はきわめて困難です。

業界で見られる現実的なトラブルケース

ケース1:複数拠点にわたる部品混入事例

ある大手自動車部品メーカーでは、中国・東南アジアのサプライヤーから調達した部品の一部に混入が発覚しました。
しかし、サプライヤー側のロット・工程管理がアナログで、一部はノート手書き。
どのタイミングで混入したのか、ロット境界が不明瞭で調査に数週間を要しました。
結果、最終製品の出荷も滞り、数億円規模の損失と信頼低下を招きました。
「コスト優先」「納期最重視」でIT投資を後回しにする姿勢のつけが、将来の致命的な品質リスクとして現場を襲っています。

ケース2:リコール時の市場追跡不能

家電業界では、数年前に発生したバッテリー発火問題で、該当ロットの特定に難航しました。
複数サプライヤーからの部品納入、組立工場での再パッキング、国内外の物流拠点を経て最終出荷される流れの中で、「どのユーザーにどのバッテリーが搭載されているのか」を逆追跡できなかったのです。
この結果、全量回収という極めて高コストな選択を迫られ、不必要な廃棄により環境面・社会的にも大きなダメージとなりました。

ケース3:伝承されない技術と暗黙知の消失

老舗の部品加工現場では、帳票管理+口頭伝達、熟練作業者の勘と経験に依存した「匠の技」に頼っている事例が見受けられます。
若手や新人への技術・ノウハウの伝承が追いつかないばかりか、記録として残らず、ヒューマンエラーや不注意で品質トラブルが再発。
現場内でPDCAや是正策が回らず、「昭和のまま進歩が止まる」危機的状況に陥ります。

品質問題が発生した時の調査と対応の遅れ

サプライヤー管理の実態

バイヤーや購買担当者の立場では、複数のサプライヤーから部材・原材料を効率よく調達しなければなりません。
しかし、調達コスト削減や納期厳守のプレッシャーで、「品質マネジメント」よりも「取引基準」「コストパフォーマンス」重視になりがちです。
サプライヤー任せ、カタログスペックを信用しきり、現場監査や工程監視、記録管理の指導が手薄化。
ひとたび不具合やコンプライアンス違反が起こった場合、「記録がない」「現場の口頭報告だけ」となれば、バイヤー自身の責任問題に発展します。

現場からのリードタイムと情報拡散リスク

生産現場では、納品部品や材料に異常が検出された場合、元の工程まで遡り迅速な是正・再発防止策を講じることが求められます。
しかし、トレーサビリティの仕組みが整備されていない現場では、リードタイムが延びて関係各所への影響情報の伝達が遅れます。
情報共有や初動対応が遅れれば、被害は倍増し、納入先への連鎖トラブルや大規模なリコール・法的リスクにも繋がりかねません。

日本型サプライチェーンの課題と背景

系列取引と多重下請け構造の盲点

日本の製造業、とりわけモノづくり現場は、昔ながらの系列企業や多重下請け構造で運営されてきました。
「親会社の顔を潰すな」「融通と現場対応力」「人情重視」といった良さが一方で、情報の定量化・見える化が蔑ろにされがちです。
取引履歴や品質記録が属人的な帳票・電話・FAXにより処理され、エビデンスとしての信頼性が低いという課題があります。

デジタル化への抵抗感も根強い

IT化・DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる一方、現場では
「今さらシステム導入するコストが惜しい」
「現場のおじさん達が使いこなせない」
「ミスがあっても手で修正すればいい」
といった声も根強く、変革へのハードルが高い状況です。
しかし、現状維持に甘んじ続けるリスクは、将来的に日本の製造業全体の競争力喪失に直結します。

課題解決に向けた実践的アプローチ

まずは「記録を標準化」し、小さな成功体験を積み重ねる

すぐに全社・全工程へ最先端のIT化は困難です。
まずは、現場でよく見る「記録を残さない」「コピペや転記ミスが多い」といったアナログ要素を一つずつ標準化しましょう。
たとえば

  • 納入品ラベルをQRコード化する
  • 検査結果を手書きからタブレット入力へ変える
  • トラブル対応時の連絡はLINEワークス、Teamsなど工場内SNSを活用する

など、小規模でも即効性が高く現場に受け入れられやすい施策から始めることが重要です。

バイヤーによるサプライヤー監査の強化

バイヤーや調達担当者の役目は、「安く仕入れる」「早く納品する」だけではありません。
サプライヤーの管理体制、トレーサビリティの仕組み・自工程管理が適切に回っているか、現場監査や定期レビューを繰り返して信頼できるパートナーシップを築きましょう。
現場目線で「なぜ品質問題が起きるのか?」「記録がどこで途絶えているのか?」を直接確認する姿勢が必須です。

取引先との『オープンな信頼関係』の構築

サプライチェーン内での不良情報や工程異常を、早期にオープンに共有できる信頼関係が重要です。
各社が自社都合や責任回避に走ることで「隠蔽」や「炎上」を招いてしまうリスクを避けるため、お互いに是正・改善を前提としたオープンな協働体制を目指しましょう。
これには、定期的な情報交換会・現場ラウンドテーブルや社外研修・互訪などが効果的です。

AI・IoT時代のトレーサビリティ最前線

クラウド管理とビッグデータ解析

近年は、モバイル端末やIoTを活用したリアルタイム記録、クラウドによる履歴データの一元管理、AIによる異常予兆検出など、最新技術が現場で活用されつつあります。
原材料の入荷時から出荷まで、ロットごと個別ID管理を徹底し、各工程でデータを自動収集。
不具合発生時にもシステム上で瞬時に追跡し、リコール範囲やリスクの最小化が実現できます。

導入効果と現場の『納得感』

「監視されている」「手間が増える」と感じがちな現場作業者にも、
「不良発生時の責任の押し付け合いを減らせる」
「クレーム対応の負担が減る」
「現場が主導権を持てる」
といった納得感が生まれ、むしろ働きやすさ・やりがいの向上に繋がります。

まとめ:トレーサビリティが低い現実を直視し、現場から変革を

トレーサビリティは単なる「面倒な管理」でも「取引先との契約書に書いてあるだけ」のものでもありません。
過去の失敗や不具合事件から、今や現場の安全・安心を守り、ユーザー・取引先・自社の信頼を支える根本インフラとなりました。
業界全体として昭和のアナログ管理から脱却し、最先端技術と現場目線の小さな改善を積み重ねることこそが、製造業の持続的発展のカギです。

バイヤーもサプライヤーも現場作業者も、現実の課題を直視し、多層なサプライチェーンを共に進化させていきましょう。
困難な時代だからこそ、現場でしか語れないリアルな視点を、製造業の未来に活かすことが重要です。

ノウハウ集ダウンロード

製造業の課題解決に役立つ、充実した資料集を今すぐダウンロード!
実用的なガイドや、製造業に特化した最新のノウハウを豊富にご用意しています。
あなたのビジネスを次のステージへ引き上げるための情報がここにあります。

NEWJI DX

製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。

製造業ニュース解説

製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。

お問い合わせ

コストダウンが重要だと分かっていても、 「何から手を付けるべきか分からない」「現場で止まってしまう」 そんな声を多く伺います。
貴社の調達・受発注・原価構造を整理し、 どこに改善余地があるのか、どこから着手すべきかを 一緒に整理するご相談を承っています。 まずは現状のお悩みをお聞かせください。

You cannot copy content of this page