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少量多品種にロールフォーミングが向かない理由

目次
はじめに:少量多品種生産の難しさとロールフォーミング
少量多品種生産は、顧客ニーズの多様化や市場変動が激しい現代において、製造業にとって大きなテーマとなっています。
しかしながら、これまでの高度成長期を支えてきた生産方式の中には、昭和の時代から根強く残る考え方や技術が、多様化に十分対応できていない場合も少なくありません。
その代表例が、ロールフォーミングと呼ばれる成形技術です。
大ロット・単一製品向けで大きな威力を発揮するロールフォーミングは、なぜ少量多品種生産には向かないのでしょうか。
本記事では、現場経験を踏まえながら、その理由をわかりやすく解説します。
また、今後の調達購買や生産管理、さらにはバイヤー・サプライヤー間で気をつけるべき業界動向にも言及していきます。
ロールフォーミングの基礎知識
ロールフォーミングとは
ロールフォーミングとは、帯状の金属板を多数のロール(金属ローラー)間に通すことで、連続的に曲げ・成形し、断面形状を得る成形法です。
自動車の部品や建材のパネルなど、比較的長尺かつ同一形状で大量生産が求められる部品の成形に適しています。
ロールに形状を刻みつけることで、材料が一度の通過で目的の形に仕上がるため、極めて高い生産性が得られるのが特徴です。
生産規模と設備投資の関係
ロールフォーミングの最大の長所は、大ロット生産における圧倒的なコストダウン効果にあります。
1分間に数十m以上も連続的に製品を生み出せるため、最初の金型設計やロールの準備に時間・コストをかけても、量産することで1個あたりコストを大幅に下げられます。
逆に、少量・高頻度の型品番切替が必要な場合は、先行投資の負担ばかりが大きくなり、利益が出にくくなってしまいます。
少量多品種にロールフォーミングが向かない理由
1)セットアップの初期コストが高すぎる
ロールフォーミングを実施するためには、各品番ごとに専用のロール(金型)を設計・製造する必要があります。
その製作費用は数百万円から、複雑なものでは数千万円に及ぶこともあり、少量多品種生産では初期投資が回収しきれません。
また、短期間だけの受注や季節品などにも適用しにくい点が課題です。
2)段取り替えに時間と労力がかかる
現場からみると、ロールフォーミング設備の「段替え」は非常に手間がかかります。
10段、20段といった多数のロールを一つひとつ交換し、位置出しや寸法調整をする作業は、ベテランであっても数時間を要します。
品番ごとに専用のロールが必要なうえ、それぞれ微妙な加工条件も異なるため、量産工場であれば日常的な作業ですが、少量多品種だと頻度が高すぎて非効率となります。
3)柔軟な設計変更が困難
現代の製造業では、現場の知恵やヌケ道的な微調整が価値を持っています。
しかしながら、ロールフォーミングは「型に頼った生産」ですので、設計変更や短納期対応が極めて困難です。
例えば、顧客から「ここの寸法を2mm縮めてほしい」といった要望が来た場合、プレスや曲げ金型であれば応急加工や現場改造も可能ですが、ロールフォーミングの場合はほぼ新規ロールの再設計・再製作となります。
4)材料ロスが多くなりがち
量産の場合は材料コイルを丸ごと使い切るため、スクラップや端材が少なくて済みます。
しかし、少量多品種だと品番ごとに材料が余りやすく、特注ロットも多くなり在庫管理コストや物理的なロスが高まります。
また、一度セットしたロールで無駄打ちを防ぐために材料長を多く取りがちになり、段積みや拾い出しといった現場作業も煩雑化します。
5)品質保証のハードルが高い
多品種・小ロット生産の場合、品番ごとに検査基準も異なり、作業員の技能も細分化されます。
ロールフォーミングは構造上、ロールの消耗や微妙な調整不良でNG品が一気に連続発生するリスクがあり、小ロット多品種ではその都度の調整・検査対応が増えるため、品質コストが跳ね上がります。
それでもロールフォーミングを使う場合の工夫
1)設計段階での標準化・共通化の推進
出来るだけ多くの品種で共通ロールが使えるように、製品設計段階から標準化・ユニット化を進めます。
断面形状や板厚、材料幅などに互換性を持たせることで、段替え工数を減らし、ロール製作費も抑制できます。
設計と現場の密な連携が極めて重要です。
2)段替え作業の自動化・効率化
最近では段替え支援の計測機器やロール自動交換装置、カメラによる補正システムなども導入可能になっています。
特に自動化が進みにくいとされてきたロール交換工程も、IoTを組み合わせた自動計測・適応システムで短縮できる余地が増えています。
生産管理と連動させ、先読み段取りやスケジューリングでムリ・ムダを除去する工夫が重要です。
3)ロール汎用化・多品種対応金型開発
すべてを専用ロールでまかなうのではなく、パーツごとに組み替えたり、組み合わせ自在な「モジュラー型ロール」も開発されています。
抜型や曲げ型と組み合わせ、プレス加工やベンダー加工も一部流用することで、単品案件にも対応しやすくなります。
現場目線での段替え・検証のフィードバックを重視しましょう。
現場バイヤー視点:ロールフォーミングの活用判断基準
1)ロット数・型費・段替えコストのトータルバランス
発注側(バイヤー)は「一品一様」な部品要求が増える中、生産方式を見極める設計マネジメント力が必須です。
ロールフォーミングで本当にメリットが出るロット数なのか、型費償却を価格にどう織り込むのか、段替えコストの低減は可能か。
これらをサプライヤーと事前に議論し、各社生産方式の得意分野・不得意分野を理解しましょう。
2)サプライヤー選定のポイント
単なる「価格勝負」ではなく、多工程切り替えの早さや、標準化設計のノウハウ、検査体制の柔軟性など、現場の生産技術力そのものが問われる時代です。
「うちはこの型なら安いが、段替えコストは別途発生」といった、ベタな業界慣習も根強く残っています。
工場の管理職や調達担当は、課題をきちんと「見える化」「言語化」して、交渉時の評価基準を多面的に持つことが求められます。
サプライヤー目線:得意不得意の開示とパートナー関係構築
1)能力の過信は命取り
どんなに優秀な現場でも、少量多品種を無理してロールフォーミングで引き受ければ、却ってコスト高・不良多発となり信用を失いかねません。
不得意領域は正直にクライアントへ説明し、代替加工法(NCベンダー、プレスブレーキ、曲げ加工など)を提案する姿勢こそ重要です。
2)共通型や段替えノウハウの売り出し
もし自社で共通化設計やモジュラー金型、短時間段替えの実績があれば、それを「価値」として提案します。
現場で積み重ねた改善ストーリーや導入実績は、サプライヤー営業の大きな武器になります。
発注側が気づきにくい現場視点の提案こそ、価格競争に勝る信頼構築のカギです。
今後の業界動向とアナログ現場の進化
構造的な「昭和的体質」が色濃く残る製造現場ですが、脱炭素化・環境対応や、DX・IoTの波が一気に押し寄せています。
実際には、小型多機能機械やIoT接続ロールの本格導入は、設備投資・教育コストも高く、単純な自動化一辺倒では解決できません。
最も大切なのは、現場スタッフ・設計者・調達担当が一体となり、「最小投資・最大効果」を模索する開発型マインドです。
少量多品種の生産では、段取りの柔軟性や人的スキルの活用、ムダの見直しが「アナログ現場」こそ今後も武器となるでしょう。
まとめ:ラテラルシンキングで“最適解”を模索しよう
ロールフォーミングは、日本の製造業を支えてきた伝統技術であり、今なお大ロット品では圧倒的な強みを発揮します。
一方で、少量多品種の生産現場では「型に頼った生産方式」の限界も見えてきました。
初期コスト、段替え作業、柔軟性、安全性、品質といった多面的な課題をラテラルに考え、他工程との組み合わせやDX活用、現場独自の標準化など、様々な解決策があります。
大切なのは、現場力と設計・調達・サプライヤー間のオープンなコミュニケーションです。
これからの製造業は、“深く考え”“広くつながる”ことで、アナログとデジタルの垣根を乗り越えることができるはずです。
製造業に勤めるみなさん、バイヤー、サプライヤーすべてが、最適な生産方式を現場目線で「共創」する時代が、いよいよ本格化しています。
ぜひ、変革を楽しみながら、自社・現場の“新たな地平線”に挑戦してください。
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