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安全弁シート部材の摩耗が過圧リスクを高める背景

目次
はじめに:安全弁は工場の命綱
近年、製造業における設備の自動化や省人化が進む一方で、依然として現場の安全を支える重要な装置である「安全弁」の役割は揺るぎないものとなっています。
その中でも、安全弁の「シート部材」の摩耗は、見逃されがちなリスク要因の一つです。
安全弁は、過圧時に余分な圧力を自動的に開放することで、装置や配管の破損・爆発事故を未然に防ぎます。
しかし、その心臓部とも言えるシート部材が摩耗すると、本来の機能を発揮できなくなり、逆に危険性を高めてしまうのです。
本記事では、20年以上の製造現場経験と管理職としての視点、アナログな現場で直面した課題や事故事例も交えながら、「なぜ安全弁のシート部材が摩耗すると過圧リスクが上がるのか」を現場目線で紐解きます。
また、バイヤーやサプライヤーの方、これから調達部門・品質管理部門を目指す方にとっても必ず参考になる内容となっています。
安全弁とシート部材の基礎知識
なぜ安全弁が必要なのか
工場や発電所、化学プラントなど、あらゆる産業設備において、圧力機器は多用されています。
もし、配管や装置の内圧が規定値を超えた場合、最悪は爆発事故につながることもあります。
そのため、圧力機器には必ず「安全弁」が設置されており、設定圧以上になると瞬時に開いて圧力を逃し、装置や人命を守ります。
シート部材の役割
安全弁にはいくつかの構成部品がありますが、その中でも最も重要なパーツの一つが「シート部材」です。
シート部材は、弁体と密着して圧力の保持・遮断を担う部分であり、「すき間なく密閉する」ことが本来的な役割です。
シート部材がしっかりしていれば、設備は規定圧で安全に運転され、異常時だけ素早く圧を逃がせます。
しかし、ここに摩耗や損傷が生じると、圧力保持や遮断が曖昧になり、逆に「過圧リスク」や「圧力逃がし不良」が顕在化することとなります。
なぜシート部材が摩耗するのか?現場で多発する原因
材料選定と設置環境
シート部材は金属や樹脂、ゴムなどの素材で製作されますが、耐摩耗性・耐食性は使用条件で大きく異なります。
・高温多湿環境
・腐食性薬品の暴露
・微細な固形物(スラリー)の混入
・頻繁な開閉による機械的摩耗
これらの悪条件が重なると、シートの摩耗やエロージョン(浸食)は急速に進行する場合があります。
特に、昭和から変わらない設備や、メンテナンスが不徹底な現場では、シート部材劣化の進行が早く、問題になりやすいでしょう。
定期点検・保全の盲点
多くの現場では、「外から見える故障」や「目に見える漏洩」にしか点検の目が届いていないのが実情です。
安全弁シート部材の摩耗は、内部で進行するため「静かな危機」と言える部分です。
さらに、シート部材だけを外して確認するには熟練作業が必要で、多忙な現場では後回しにされがちです。
私の経験でも、「たまたま分解検査をしたらシートがボロボロだった」というケースを何度も見てきました。
昭和世代の現場では「壊れてから対応」を美徳にしていた風潮もあり、こうした意識が事故につながった事例もあります。
シート部材摩耗が引き起こす“過圧リスク”の本質
1. 設定圧力で安全弁が動作しなくなる
シート部材が損傷・摩耗すると、弁体との密着性が低下します。
この状態では、設定圧力に到達しても
・弁が完全に開放しない
・遅れて作動する、もしくはビリついて開閉を繰り返す
といった不具合が発生し、本来逃がすべき圧力が逃がせません。
最悪、「開放不足」で装置が異常過圧に至り、全体の爆発事故やライン停止を招く危険性が高まります。
2. 不要な圧力漏れ・連続動作の発生
逆に、シート部材が摩耗して「密閉力」が無くなると、少しの圧力変動でも弁が作動してしまいます。
これにより、設備全体の圧力維持が困難になり、定常的な圧力変動を招きます。
頻繁な誤作動は
・生産効率低下
・品質問題(圧力不足による製品不良など)
・現場のトラブル増加(警報多発、調整員の負担増)
といった副次被害にもつながるのです。
3. サージング・チャタリングの誘発リスク
さらに、劣化したシート部材は「チャタリング」と呼ばれる高速開閉動作を誘発することがあります。
これは、弁の突然の動作と圧力回復の繰り返しで、本体や配管に異常な振動および騒音を与え、最終的に配管や安全弁そのものの破損・脱落という深刻な事態に発展する恐れがあります。
チャタリング事故は多くが「予兆のない突発故障」として現れるため、専門的な点検体制がなければ防げません。
ケーススタディ:現場で起きたシート部材摩耗事故
食品工場の過圧トラブル
ある食品工場では、蒸気ボイラーの安全弁から「連続的な蒸気漏れ」が見られるようになりました。
現場担当は「あれ、漏れてるな」程度の認識でしたが、ある日突然ボイラー自体が異常停止。
分解調査の結果、シート部材が化学洗浄の影響で局所的に摩耗し、全く圧力を保持できない状態になっていたのです。
結果として長期の操業停止、製造ロスが発生しました。
石油化学プラントの重大事故
昭和時代から続く大型プラントでも、類似の事件がありました。
経年劣化によりシート部材が摩耗し、圧上昇時に「弁が開かない」現象が数回発生。
事前に異音や不良警報が出ていたものの、現場は「古い設備だから仕方がない」と対応を先送りし続けていたのです。
そのまま運転を続けた結果、ついに設計圧を超える大きな過圧が発生。
幸いにも大事故は回避できましたが、現場では「現状維持」や「応急対策」が積み重なって、本質的なシート交換まで踏み込めなかったのが原因でした。
なぜアナログ業界ではリスクが見逃されやすいのか
保全文化と“原因追究”の壁
今も日本の多くの製造現場では、「経験と勘」に頼った作業や、ベテランに依存した保全運用が根強く残っています。
デジタル化や設備診断ツールは徐々に普及していますが、「シート部材の摩耗」などの繊細な劣化は
・数値では拾いきれない
・記録に残らない“手触り”の異常
として軽視されがちです。
現場が人手不足・コスト削減に追われているとなおさら、「そのまま使えれば良し」としてしまいがちです。
バイヤー・サプライヤーの対応意識
部品サプライヤー側でも、「現場でどんな環境・条件で使われるか」を深く考慮せず、価格勝負・納期優先となるケースが散見されます。
一方、調達担当者(バイヤー)は「最小限のコストで最高の品質」をメーカーから引き出したい意識が強く、ともすれば“見えない部分”への投資を渋りがちです。
お互いの価値観のギャップが、「リスクを見落としたままの運用」に繋がりやすいのです。
本質的な対策とこれからのアプローチ
1. 摩耗モニタリング・可視化の推進
シート部材を“消耗品”として認識し、定期的な抜き取り検査や、摩耗診断技術を積極的に導入することが急務です。
最新の設備では、超音波や画像診断などで劣化を見える化する手法も開発されています。
ひと手間かけてでも現場点検の頻度と質を上げることが、最終的なコストダウン・事故防止につながります。
2. 駆け引きでなく“協創”で
調達部門とサプライヤーは対立関係に陥りがちですが、「現場の実情」や「過去の事故例」を率直に共有し合う姿勢が両者には求められます。
たとえば
・実際のシート摩耗サンプル提供
・各種テストデータの可視化
を通じて、価格以外の“本当の付加価値”で部品を見極めましょう。
3. SOP(標準作業手順)の見直し
アナログな現場体質を脱するには、単なる「慣習による点検」から、「根拠に基づいた交換基準」への切り替えが鍵となります。
「○年ごと」ではなく
・シート部材の摩耗限界値の設定
・予兆データにもとづく交換時期の明確化
など、科学的アプローチを業務に組み込むことが、持続的な安全につながるのです。
まとめ:現場力と知恵で、安全文化をアップデートしよう
安全弁のシート部材摩耗は、目につきにくく、かつ工場や装置全体に重大な過圧リスクを与える“静かな危機”です。
失敗しない調達・品質管理には、現場の苦い経験や事故から学び、摩耗の兆候を早期につかむ「五感」と「科学」双方のバランス感覚が必要です。
サプライヤーもバイヤーも、現場に足を運び、部材一つ一つの使われ方まで理解することで、真の品質と安全を実現しましょう。
昭和式のアナログ保全を超えて、次世代の安全文化を一緒にアップデートしていくこと。
それが、ものづくり現場のさらなる発展に必ずつながります。
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