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投稿日:2026年1月28日

人的資本経営を進めるほど管理項目が増える弊害

はじめに

人的資本経営という言葉が、製造業界でも注目を集めています。
昨今の経済産業省による「人的資本可視化指針」の制定を契機に、多くの企業が人的資本を従来の「費用」ではなく「投資」として捉えるようになり、社員一人ひとりの成長と企業価値向上を結びつける動きが加速しました。
しかし、現場で真剣に人的資本経営を推進していくと、思わぬ落とし穴=「管理項目の際限なき増加」という弊害にぶつかるケースが増えています。
この記事では、昭和からアナログな体質が根強く残る製造業の現場経験をもとに、人的資本経営の本質的な狙いと、なぜ管理項目が肥大化するのか、その弊害をどう乗り越えていくべきかを、ラテラルシンキングで深堀りしてみたいと思います。

人的資本経営が求められる背景

グローバル競争と人材価値の変化

工場自動化やIoT化が進む中でも、現場で働く人材のスキルや生産性、創造性は企業競争力に直結します。
従来なら「ラインの作業員」と括られていた役割も、今や「品質データをタブレットで入力・可視化」「改善提案を自部門で推進」といった、多様で主体的な行動が求められるようになっています。
また、グローバル市場との競争では「ヒト」に投資し成長を促す意識が不可欠です。
そうした時流を受け、企業は人的資本を「管理」から「育成」「最大化」の視点にシフトしています。

法制度・開示の潮流

2023年からは、大企業を中心に人的資本関連の情報開示が義務化され始めました。
多様性(ダイバーシティ)、従業員エンゲージメント、リスキリングなど、各社が様々な人的資本の数値指標を可視化し、公表しています。
しかしここに落とし穴も潜んでいます。
「管理・見える化」が目的化し、管理指標が複雑化、現場に過重な負担がかかり始めているのです。

人的資本経営で管理項目が増える主な理由

成果主義=多元的な評価基準の導入

従業員一人ひとりの多面評価や自己目標管理の導入が一般化するなか、「業績評価」だけでなく「スキル」「リーダーシップ」「成長ポテンシャル」「多様性貢献度」「チーム内フィードバック」など多様な評価軸が新たに設定されています。
その結果として、管理・記録・モニタリングすべき項目が十重二十重に膨れ上がります。

デジタル化による「何でもデータ化」の罠

IoT・ERP・人事システム等の普及でデータ取得・蓄積が容易になりました。
企業は「集められるものは全てKPI化」し、次々と新たな管理指標を生成します。
たとえば「OJT回数」「目標面談実施率」「資格取得進捗」「ワークライフバランス指標」など、当初は数個だった指標が数十個まで膨れ上がる例は珍しくありません。

コンプライアンス・ESG経営での管理強化

昨今の企業は人的資本開示義務に加え、ハラスメント対策やメンタルヘルス、女性・シニア・外国人雇用の推進等、コンプライアンスやESG経営視点でも厳しく管理されています。
これにより制度や規則が毎年のように追加・改訂され、そのたびに管理帳票や報告作業も増大します。

増え続ける管理項目がもたらす負の側面

現場リーダークラスへの過重負担

製造現場の班長や係長クラスには、生産進捗・品質管理・安全管理・5S推進など従来業務に加え、「1on1面談」「部下のキャリア開発面談」「ストレスチェック対応」「社内ダイバーシティ研修」等の新しい管理作業が加わります。
これに日常的な報告書やシステム入力作業がのしかかり、本来の現場リーダー業(作業者育成や現場改善)が手薄になるという本末転倒な事態が各所で見られます。

「管理作業」が目的化するリスク

各種KPIや指標で社員が評価されるようになるため、「KPI達成のためにデータを整えるのが主な仕事」となり、本来の顧客価値や現場改善活動がおろそかにされることがあります。
また、「KPIが多すぎて自分の仕事の優先順位が見えない」という迷走感が広がり、現場の士気が低下するケースもあります。

「昭和的アナログ現場」とのギャップ拡大

日本の多くの町工場や中堅メーカーでは、いまだに紙台帳やホワイトボードで日報を管理しています。
経営層が性急に「面的データ管理」や「クラウド入力」を進めても、現場のITリテラシーやリソースが追いつかず、帳票記入の手間が激増し、かえって現場効率が下がる逆効果も多発しています。

では、どうすればよいのか?現場目線で考える本質的アプローチ

「管理項目の棚卸し」を実施する

人的資本経営の真の目的は「従業員の自律的な成長」と「組織力最大化」です。
その本質に立ち戻り、現場リーダーと一緒になって「現状の管理項目で目的からズレてきたもの」「集めても活用されていないデータ」「省略できる帳票」を徹底的に見直しましょう。
管理作業の「やめ方」や手抜きではなく、「現場力を生かすために何が本当に大事か」の目線で棚卸しをすることで、余計な管理項目を削減できます。

「現場にやさしいデジタル化」を追求する

急なDX化で機械が増えれば現場は当然混乱します。
管理項目を増やす際も、徹底して「現場ファースト」「一括入力・自動連携」など工夫を施しましょう。
たとえば、PCが苦手な現場にはタブレットでのタッチ入力や音声入力、紙→スマホ撮影によるOCR自動転記などの仕組みで「入力の手間・二重管理」を極小化できます。

「KPI削減こそ進化」と捉える組織文化の醸成

KPIを新設するより、現場で価値を感じなくなったKPIを削除・統合していくことで業務効率と本質的な成果を両立させるべきです。
経営層から「KPIを減らす工夫をしてみよう」「現場から不要KPIの意見募集」といったメッセージを出し、KPI削減がキャリアや業績に不利益をもたらさない文化づくりが、長期的な現場力アップにつながります。

海外事例と比較して見えてくる論点

欧米製造業の「結果よりプロセス志向」のバランス

欧米の先進製造業では、従業員満足度やダイバーシティ、従業員への教育投資等の人的資本管理指標が重視されています。
一方で「定性評価」「現場起点のプロセス改善」を強く評価するハイブリッドな仕組みを持ちます。
つまり、数字で全て縛るのではなく、「現場の裁量を積極的に信頼し、報告も最小限化」を徹底しています。
管理項目の肥大化が現在日本で抱える課題である一方、「現場が自分で目標やプロセスを作り出せる」ような土壌と裁量権を整えることが不可欠です。

バイヤー・サプライヤー視点でも避けたい「管理項目過多」症候群

調達購買部門やバイヤーがサプライヤーに対して人的資本経営の情報開示を求めるケースが増加しています。
たとえば、CSR調達基準やグリーン調達で「従業員教育の実績」「ダイバーシティ率」等を求める場面です。
しかし、管理項目だけを形式的に増やしても、サプライヤーの本来的な競争力や健全な現場力をむしろ削ぎかねないリスクもあります。
サプライヤーの現場事情やIT・人材リソースも十分に考慮しながら、管理指標の「本当に意味がある部分」をピンポイントで求める姿勢が、取引全体の生産性向上に欠かせません。

まとめ:人的資本経営の目的に立ち返ろう

人的資本経営を進めるほど管理項目が増える弊害は、誰しもが直面する「成長痛」とも言えます。
大事なのは「管理のための管理」となり現場力やイノベーション力を削がないことです。
定量データを増やしたくなる誘惑をぐっと堪え、最小限のKPI管理と、現場リーダーが動きやすく“本質的な成長”を促せる土壌づくりこそ肝となります。
アナログ体質から一歩踏み出す今こそ、「現場の声」と「組織の文化との調和」を起点に、人的資本経営のあり方を再定義していきましょう。
管理負担と成長推進——両者のバランス感覚こそ、これからの製造業バイヤー、現場マネージャー、サプライヤーに最も求められる知恵だと信じます。

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