- お役立ち記事
- EN ISO 13849-1機械安全PLの決め方
EN ISO 13849-1機械安全PLの決め方

目次
はじめに:EN ISO 13849-1と機械安全の重要性
製造業界に身を置く皆さんであれば、安全対策の重要性は日々実感されていることでしょう。
近年、国際的な安全規格の遵守が世界中で義務付けられつつあり、日本でも機械安全のグローバルスタンダードとして「EN ISO 13849-1」が強く意識されるようになりました。
この規格の核となるのが「Performance Level(PL)」の考え方です。
本記事では、現場目線で理解しやすいEN ISO 13849-1のPLの決め方について、実務経験に基づき、アナログ文化の残る業界事情も踏まえながら、深掘りして解説します。
これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーのニーズを理解したい方にも役立つ内容となっています。
EN ISO 13849-1とは何か
EN ISO 13849-1は、工作機械や自動化ラインで使われる安全関連制御システムの機能安全性に関する国際規格です。
従来のアナログ的な「安全回路設計」では見えにくかった“どれだけ安全なのか”“どこまで対策できているのか”を「PL=Performance Level」という客観的な尺度で見える化した点が特徴です。
いわば、安全設計の“根拠”を持つことが求められ、欧米を中心に取引には必須となりつつあります。
PL(Performance Level)とは?
PLとは、その安全関連機能が「どれくらいの事故リスクを許容できるか」(リスク低減能力)の度合いを、a~eの5段階で示すものです。
PL(e)が最も高く、PL(a)が最低ランクです。
数値が高いほど、安全性が高く、事故が起きにくい設計レベルとなります。
このランク付けの根拠として「設計したシステムや部品が、どれだけ故障しにくいか」だけでなく、「回路構成」「診断機能(故障検出能力)」「ソフトウェアの信頼性」なども総合的に判断されます。
PLの決め方・決まるプロセス
PLの「設定=決定」は、大きく以下3つの流れ・ステップで行います。
1. リスクアセスメント(危険源の特定とリスク評価)
まず最初に、装置やラインの設計前段階で「どのような危険があるか」「事故が起きうるシナリオ」を一つ一つ洗い出します。
このとき重要なのが、「危険源」と「事故の起きるプロセス」を机上の理論だけでなく、現場のヒヤリハット情報や、過去のクレーム、小さなトラブル情報も活用することです。
昭和的な“勘や経験”と、現在の定量評価をブレンドさせることで、真に“起こりやすい事故”を漏らさず拾い上げることができます。
そのうえで、「事故が発生した時の重篤度」「作業者がその危険にどれだけ頻繁に直面するか」「危険発生時に迅速に逃れられるか」の3軸で各リスクを評価します。
2. 必要PLの決定(リスク低減目標の設定)
リスク評価が済んだら、そのリスク低減に必要な「目標PL(PLr)」を決めます。
ここで使われるのが「決定チャート(リスクグラフ)」です。
通常、「S(Severity: 重篤度)」「F(Frequency: 暴露頻度)」「P(Possibility: 回避可能性)」3つのステップに質問形式で答え進むことで、必要なPLrをa~eの中で機械的に決定可能です。
例えば、「死亡または重傷の恐れあり」→「作業者が頻繁に危険箇所にさらされる」→「迅速な回避は困難」となれば最上位「e」が定まります。
逆に、「軽微なケガで済む」「極めてまれな作業」「危険があっても容易に避けられる」ケースでは、下位PL(a)や(b)を選べます。
この判断が甘いと、万一の時に企業責任を問われるリスクがあるため、現場の声・保全や作業スタッフのヒヤリ体験もしっかり吸い上げて決定に盛り込むことが肝心です。
3. 実現PL(各機構の実力値)の算出と照合
目標PLが定まったら、「実際に使う制御回路・コンポーネントが、そのPLrを満たせるか」個別に検証します。
回路図、配線方法、機器の信頼性データ(B10d, MTTFd値)、診断カバー率(DC)、アーキテクチャ(カテゴリ)などを総合的に精査し、計算・照合します。
例えば、B10d値(10%故障率までの運転回数)、設計の冗長性・故障検出機構の有無などがポイントです。
メーカーから提供された製品認証データ、IoT対応センサの自己診断機能なども活用可能です。
これらをISO 13849-1の付録G「PL算定フローチャート」や計算ツールで整合し、最終的に「装置として十分なPLに達しているか」を確認します。
昭和アナログとデジタル主流時代の交差点にいる現場のリアル
多くの製造現場では、「昔からの回路設計法や紙面レビュー」が今なお根強く残っています。
単純なリレーシーケンス、ヒューズ、一重保護など、“一発勝負”の安全対策への信頼が抜け切れない空気も散見されます。
その一方で、欧州の自動車・家電分野のバイヤーや外資系企業では「EN ISO 13849-1完全準拠」が常識。
「PLを証明できなければサプライヤーリストに載せない」という取引先も増え続けています。
現場の声としては、
・設計や回路、機器選定の“理屈”が腹落ちしにくい
・安全部品のスペックデータの読み解きが難しい
・設備納入後に客先から「PLデータ」を急に求められ、突如工程が止まる
こんな問題に直面した経験、皆さんにも多いはずです。
この現場・工場側とバイヤー側の“断絶”こそが、今の業界の大きな課題の一つです。
バイヤー・サプライヤーの視点:PLと調達購買の関係性
グローバル取引では、調達購買部門が
・コスト
・納期
・性能
・安全データ
この4条件でサプライヤーを選択します。
PL証明がきちんとできている=「安全リスクのコントロールが標準化されている」とみなされ、信頼の礎となります。
逆に、「安全基準が曖昧」「PL説明ができない」「十分な証明資料がない」となると、今後の取引や新規受注に大きな障害が生まれます。
バイヤーを目指す方、またサプライヤーサイドの方は、ISO 13849-1に精通しておくことが今後必須スキルとなってくるでしょう。
PLの具体的な現場事例
実際の現場では、たとえば「プレス機の両手操作スイッチ」「コンベヤラインの非常停止回路」「ロボット囲い扉のインターロック」など、身近な仕組みにPL適用が求められます。
・両手操作の押しボタンはPL(c)以上
・安全光線によるエリアセンサはPL(d)以上
・非常停止回路は最低でもPL(b)相当
これは欧州主要メーカの標準図書でも推奨されている基準です。
PLに適合しない古い設備、十分な評価ができていない改造箇所は、見落としがちですが、最も事故リスクが高い盲点でもあります。
レガシー設備と最新IoT技術のブリッジとして、現場担当者には「PLチェックリスト」を自作する、外部安全スペシャリストと連携して見える化を進めるなど、工夫とPDCAが求められます。
PL決定・導入の失敗と教訓:業界あるある
PLの判定作業でよくある失敗
・過去の事故なし=PL(a)で妥当と過信する
・メーカー任せのデータ流用で正確な計算をしていない
・実装現場の手直しで設計意図とズレが生じる
・定期点検や保全教育が不十分でPL設計効果が薄れる
これらは「リスクの見積もりが甘い」「現場と設計、バイヤーの連携不足」から起きる典型例です。
PLの考え方を「面倒な事務作業」で終わらせるのではなく、現場・調達・設計・保全が同じ“リスクマインド”を持つことが、根本的な企業体質強化につながります。
これからの業界トレンドとPL文化の定着を目指して
デジタル変革やIoT技術の浸透により、センサの自己診断、クラウドでの稼働監視など、新しい安全管理の道具が一気に増えています。
昭和型のアナログ思考と、PLによる数値化、安全証明の客観性をミックスし「どうやればリスクを防ぎ、コストと現場手間を合理化できるか」、ラテラルシンキングで考えることが今後不可欠になります。
また、これまで設計や購買の領域とされていたPL策定も、実装現場・メンテナンス部門・生産オペレータの参画が必須です。
それぞれの立場で「なぜこのPLにしたのか?」という判断プロセスを共有しあうことで、バイヤーもサプライヤーも「共にリスクをコントロールするパートナー」へと進化できるのです。
まとめ:PL決定を現場の競争力に変えるために
EN ISO 13849-1に基づくPL決定は、「とりあえず安全そうだから良し」といった曖昧な姿勢では難しい時代になりました。
精度の高いリスクアセスメント、業界・現場の肌感やヒヤリハットの“生”情報、調達・設計・現場・保全の多層的連携が、求められています。
バイヤーを志す方には「安全設計と調達の相互理解」を、サプライヤーや現場リーダーの方には「PL証明が現場と顧客双方の信頼基盤である」ことを意識していただきたいです。
人と技術、昭和とデジタルの知見を融合させることで、日本の製造現場はまだまだグローバルな競争力を高められます。
EN ISO 13849-1の“PL文化”を次世代につなげていきましょう。