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投稿日:2026年9月26日

受発注システムへのデータ移行——何を移し、何を旧システムに残すか

この記事のポイント(結論先出し)

表計算や古いシステムから受発注・購買のシステムへ移るとき、最初に決めるのは「何を移すか」ではなく「何を移さずに、旧の場所で保存し続けるか」である。情報処理推進機構(IPA)のガイドは、全部移行すると作業量が増えるので移行対象は絞ったほうがよいとしている。一方で、過去の発注の記録は取適法で 2 年、取引関係の書類は法人税法施行規則で 7 年の保存の対象になり、移さないからといって捨ててよいことにはならない。移すのは、これから使う品目・取引先・有効な単価と、まだ終わっていない発注(発注残)である。いちばん事故が起きやすいのは発注残で、新しいシステムから同じ注文を送り直さないこと、旧の発注番号との対応を記録に残すことが要になる。切替日は締め日の境目に置き、移したあとは件数と金額の合計を旧と新で突き合わせてから旧側の入力を止める。

「全部移す」から考えない

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システムを入れ替えると決まると、旧システムや表計算にあるデータを丸ごと新しい側へ流し込む計画が立ちやすい。過去の発注も見積もすべて新しい画面で引けるほうが便利に思えるからである。だが、この発想で始めると、移行の作業量が膨らみ、古いデータの不整合を片付けるために切替日が延びていく。

IPA の「システム再構築を成功に導くユーザガイド」第 2 版は、データ移行で問題が起こりやすい代表的な観点の筆頭に「移行対象の整理」を挙げ、全部移行すると作業量が増え、時間がかかり、コスト増にもつながるので移行対象は絞ったほうがよい、と書いている[1]。例として、送る範囲の方針(稼働期間で 3 年以上前のデータや、トランザクションデータは捨てるなど)を明確にすること、対象範囲のデータ量と件数を抑えることを挙げている[1]。ここでの「捨てる」は、新しいシステムへ送らないという意味で読む。記録として消してよいかは、次に見る保存の期間で別に決まる。

移行の対象を決めるときは、データを 3 つに分けて考えると迷いが減る。

  1. 新しいシステムへ移すもの:これから使う品目・取引先、いま有効な単価、終わっていない発注
  2. 移さずに、旧の場所で保存し続けるもの:完了した過去の発注・検収・支払の記録、授受した電子データ
  3. 移す前に直す・寄せるもの:重複した取引先、使われていない品目、表記のゆれ

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移さなくても、捨ててはいけない期間がある

2 つ目の「旧の場所で保存し続けるもの」には、法令の保存期間がかかっている。代表的なものを並べると次のようになる。

根拠 対象 期間 数え始め
取適法第 7 条と記録規則第 3 条 給付・受領・代金の支払などを記録した書類等(7 条記録) 2 年 記載・記録すべき事項の全部を記載・記録した日
法人税法施行規則第 59 条 青色申告法人が受け取った注文書・見積書等と、自ら作成した書類の写し 7 年 作成・受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から 2 月を経過した日
IPA ガイドの例(法令ではない) 新しいシステムへ送る範囲の方針 例:3 年以上前は送らない 稼働期間で数える

取適法第 7 条は、委託事業者に対し、給付・給付の受領・代金の支払その他の事項を記載・記録した書類又は電磁的記録の作成と保存を義務づけており[5]、記録規則第 3 条は、その書類等を、記載・記録すべき事項の全部を記載・記録した日から 2 年間保存しなければならないとしている[3]。法人税法施行規則第 59 条は、青色申告法人に、取引に関して相手方から受け取った注文書・契約書・送り状・領収書・見積書その他これらに準ずる書類と、自己の作成したこれらの書類の写しを 7 年間保存させ、その起算日を作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から 2 月を経過した日としている[4]。

移行計画でこの表が効くのは、旧システムを止める日の判断である。旧システムの中にしか過去の記録がないなら、契約の解約やサーバの廃棄を先に決めると、取り出す手段のほうが先に無くなる。電子帳簿保存法の一問一答は、検索機能は現在使用しているシステムで確保しなければならないかという問いに、変更前のシステムを用いること等により検索機能が確保されているなら、現在使用しているシステムで検索できなくても差し支えないと答えている[2]。旧の場所で保存し続ける選択肢は、制度の側でも否定されていない。旧データの置き場所の組み方、移行期間中の改ざん防止の扱いは発注の記録を 2 年どう残すかの記事にまとめてあるので、ここでは繰り返さない。あわせて一問一答は、バックアップデータの保存は法令上の要件ではないが、保存期間中の可視性の確保という観点から望まれるとしている[2]。旧システムを止める前に、読める形で外へ出した控えを 1 つ作っておく。

調達現場で押さえるポイント

移行の打ち合わせで「過去データはどこまで持っていきますか」と聞かれたら、答えを 2 つに分ける。新しい画面で日常的に見たい範囲と、法令で保存しなければならない範囲である。前者は短く、後者は長い。両方を新システムに入れる必要はない。

データの種類ごとに、移すものと移さないものを決める

受発注・購買で扱うデータは、性質の違う 5 つほどに分かれる。それぞれ、移すもの・移さないもの・移す前に整えることが違う。

データ 移すもの 移さないもの 移す前に整えること
品目 これから発注する品目 長く発注していない品目、廃番 重複の統合、単位・表記のそろえ
取引先 取引を続ける先と、その送付先・支払条件 取引をやめた先(旧側に残す) 同じ会社の二重登録を寄せる
単価 いま有効な単価と、その根拠の参照 過去の改定の履歴(旧側で引ける状態に) 税抜・税込、通貨、数量の単位をそろえる
発注残 切替日に終わっていない発注(移す場合) 完了した発注 残数量と受領済み数量の確定
過去の実績・書類 必要なら集計値だけ 明細と授受したデータ(旧側で保存) 旧側で検索できるかの確認

品目と取引先:移す前に、減らして寄せる

品目と取引先は、移行の時がいちばん手を入れやすい。新しいシステムに入れてから直すと、発注や見積がその行に紐づいてしまい、動かせなくなる。使っていない品目の見分け方、重複した取引先の寄せ方はマスタの棚卸しの記事に、コードの付け方は取引先コードの記事にある。移行で固有に起きるのは、旧と新でコードが変わる場合の扱いである。

コードを振り直すなら、旧コードと新コードの対照表を作り、移行が終わっても捨てない。旧システムに残した過去の記録は旧コードで書かれているので、対照表がなければ、同じ取引先の過去と現在をつなげなくなる。国税庁の一問一答は、EDI で受け取ったデータのコードを自社のコードに変換して保存することについて、コードの表記だけを変えて内容に手を加えないなら認められるとしている。ただし条件が 2 つ付く。変換は変換テーブルで自動的に行うこと(目視による手入力は認められない)、そしてその変換テーブル自体も一緒に保存しておくことである[2]。授受した電子データそのものを新しい形で持ち直すなら、この条件がそのままかかる。マスタの対照表も、同じ考え方で保存の対象として扱っておくと、あとで説明がつく。

単価:いま有効なものと、その根拠だけを移す

単価は、改定の履歴まで全部移そうとすると重くなる。移すのは、切替日時点で有効な単価と、その単価がどの見積・どの合意にもとづくかの参照である。過去の改定の経緯は旧側で引ける状態にしておけば足りる。単価をどういう形で持つか(数量別の単価、有効期間、改定の履歴)は購買単価の持ち方の記事で扱う。移行で必ずそろえておくのは、税抜か税込か、どの通貨か、単価がどの単位の数量に対するものかの 3 点である。表計算では列の見出しで暗黙に分かっていたことが、新しいシステムでは項目として明示されていないと、同じ数字が別の意味で入る。

発注残は、送り直さない

移行でいちばん事故が起きやすいのが、切替日に終わっていない発注である。よく起きるのは、新しいシステムに発注残を登録した結果、新しいシステムがそれを新規の発注として取引先へ送ってしまうことだ。取引先から見れば、同じ品目の注文が 2 回届く。二重に作られれば、それはそのまま過剰な納品と支払の問題になる。

取適法の側から見ると、送り直す必要はそもそもない。第 4 条第 1 項は、製造委託等をした場合は直ちに明示せよと定めており[5]、発注残にあたる注文は、発注した時点で旧の手段により明示が済んでいる。移行は自社の中の置き場所の変更であって、取引の内容の変更ではない。新しいシステムへの登録は「送らない」扱いで行い、取引先には、発注番号や送付元のアドレスが変わるなら、その事実だけを別に知らせる。

発注残の扱いは、2 つのやり方から選ぶ。

やり方 1:旧で最後まで完結させる

切替日以降の新規発注だけを新しいシステムで出し、それまでの発注は旧の側で納品・検収・支払まで終わらせる。移す作業がいらず、二重送付も起きない。その代わり、しばらくの間は発注残を見る場所が 2 つになる。納期の長い品目が多いと、旧の側がなかなか閉じられない。

やり方 2:残っている分を移す

終わっていない発注を新しい側へ移し、以後の受領・検収・支払は新しい側で記録する。見る場所は 1 つになるが、ひとつの発注の記録が旧と新にまたがる。記録規則は、記載・記録すべき事項を、その相互の関係を明らかにしてそれぞれ別の書類等に記載・記録することを認めている[3]。またがること自体は問題ない。必要なのは、新しい側の記録に旧の発注番号と発注日を持たせ、旧の記録からたどれるようにしておくことである。記録規則第 3 条の 2 年は、事項の全部を記載・記録した日から数えるので[3]、またがった発注の保存期間は、新しい側で支払までを記録し終えた日から始まる。

どちらを選んでも、切替日の時点で発注ごとの残数量を確定させておく。分納や一部の検収がある発注では、「発注数量」「受領済み数量」「残数量」の 3 つを分けて移さないと、新しい側で残数量が発注数量のまま復活する。発注残をどう数え、どう追うかは発注残の管理の記事で詳しく扱う。

移す前に、データの形を整える

IPA のガイドは、データ移行で確認すべき代表的な観点として 6 つを挙げている。移行対象の整理、レイアウトの確認、データクレンジングの実施、文字コードのマッピング、移行方法の確認、移行実施結果の確認である[1]。表計算からの移行に置き換えると、次のようになる。

1. 移行対象の整理
前の節で見たとおり、送る範囲を決める。

2. レイアウトの確認
ガイドは、移行対象のファイルやデータのレイアウトを必ず確認することを求めている[1]。表計算では、途中から列が挿入されたり、担当者ごとにシートの形が違ったりする。1 行目の見出しだけでなく、途中の行まで同じ形かを確かめる。

3. データクレンジング
想定外の値が含まれるおそれがあるため実施する、とされている[1]。数量の列に「10 個」「約 50」「別途」が混ざる、単価の列に円記号や桁区切りが入る、日付が和暦と西暦で混在する、といったものである。

4. 文字コードのマッピング
ガイドは、外字や同じ字形が次のシステムに存在しない場合に、字形と用語の意味のどちらを優先するか調整するよう求めている[1]。取引先名の旧字体や、機種に依存する丸数字・単位記号がこれに当たる。

5. 移行方法の確認
一括移行・段階移行・差分移行などから選ぶ、とされている[1]。品目と取引先を先に一括で入れ、発注残を切替日に差分で入れる、という組み合わせが現実的なことが多い。

6. 移行実施結果の確認
移行の結果が正しいかを確認する方法を決めておく[1]。次の節で具体的に見る。

ガイドはあわせて、データ移行による問題は終盤で表に出るので、問題が起きた場合の解消期間も計画に盛り込むべきだとしている[1]。切替日は、移行作業が予定どおり終わる前提ではなく、1 回はやり直せる日程で置く。

切替日を決め、並行運用の期間を区切る

切替日は、締め日の境目に置くのが基本になる。月の途中で切り替えると、同じ月の発注・受領・請求が旧と新に分かれ、月末の照合を 2 か所で行うことになる。締め日と支払期日の関係は締め日と支払期日の記事にあるが、移行の観点で言えば、1 つの締めの期間を 1 つのシステムで閉じられる日を選ぶ。

切替日の前には、旧の側で新規の登録を止める日を決める。品目や取引先の追加が切替の直前まで続くと、移した後に旧の側だけにある行が生まれる。止めた日から切替日までに追加が必要になったら、旧と新の両方に入れる手順を決めておく。

並行運用は、切替後の不具合を洗い出す手段として有効だが、負担がある。IPA のガイドは、リリース後のリスク対策の例として、一定期間、現行システムと新システムの両方で同一オペレーションを実施して故障を洗い出す並行稼働を挙げ、注意点として、利用部門の負担が増加するためどれほど許容可能かを確認すること、現行システムの EOL・EOS(販売や保守の終了)の期限内で実施可能かを確認することを挙げている[1]。購買の担当者が 2 つの画面に同じ発注を入れる期間が長くなるほど、入力の食い違いが生まれる。並行運用をするなら、期間を先に決め、その間どちらを正とするか(取引先へ送るのはどちらか、記録として保存するのはどちらか)を決めておく。

移したあとに、件数と合計で突き合わせる

移行の結果の確認は、目で何行か見るだけでは足りない。旧と新で、数えられるものを数えて突き合わせる。

1. 件数
品目数、取引先数、発注残の件数が、移すと決めた範囲の旧の件数と一致するか。一致しなければ、落ちた行か、重複して入った行がある。

2. 金額の合計
発注残の金額の合計、有効単価の合計(全品目の単価を足した値)が一致するか。単価の合計は意味を持たない数字だが、桁の取り違えや税込・税抜の混在を見つけるのに使える。

3. 数量の合計
発注残の残数量の合計が一致するか。分納の扱いを誤ると、ここがずれる。

4. 取り込めなかった行
取り込みで弾かれた行の一覧と理由を残し、1 行ずつ、直して入れるか、入れないと決めるかを記録する。

5. 抜き取りの照合
取引の多い取引先を数社選び、旧と新の画面で、品目・単価・発注残を 1 件ずつ見比べる。

この 5 つが一致してから、旧の側の入力を止める。取引先との方式を同時に変える場合(取引先にアカウントを作ってもらうか、メールで届けるか)は、移行と別の論点としてサプライヤーポータルが要るかの記事で扱っている。取引先に負担を求める変更を移行と同じ日に重ねると、どちらで問題が起きたのか切り分けられなくなる。

よくある質問

表計算の過去の発注一覧は、新しいシステムに全部入れるべきですか

入れる必要はない。IPA のガイドは移行対象を絞ることを勧めており[1]、電子帳簿保存法の一問一答も、変更前のシステムで検索できるなら現在のシステムで検索できなくても差し支えないとしている[2]。ただし、旧の側に残したものを、保存期間のあいだ読める状態にしておく責任は残る[3][4]。

旧システムの契約をいつ解約してよいですか

中に残した記録を、読める形で外へ出し終えてからにする。取適法の記録は事項の全部を記録した日から 2 年[3]、法人税の帳簿書類は起算日から 7 年[4]の保存の対象になる。解約の日を先に決めると、取り出す手段のほうが先に無くなる。

発注残を移すとき、発注番号は振り直してよいですか

振り直してもよいが、旧の番号を新しい記録に必ず持たせる。取引先の手元の注文書は旧の番号で書かれているので、納品書や請求書も旧の番号で届く。旧と新の記録の相互の関係が分かることは、記録を分けて持つときの条件でもある[3]。

移行のためにデータを手で打ち直してもよいですか

マスタを整えるために手で直すこと自体は妨げられない。ただし、取引先と授受した電子データの保存を新しい形に置き換える場合は別である。一問一答は、授受したデータを手動により転記して別形式のデータを作成する場合は、合理的に編集したものに当たらないとしている[2]。授受したデータは元の形のまま旧の側で保存し、新しい側には業務で使う形で入れる、と役割を分ける。

移行はどのくらいの期間を見ておけばよいですか

一律の目安はない。IPA のガイドが言うように、データ移行は準備に手間と時間がかかり、問題は終盤で表に出る[1]。品目と取引先の整理を先に終わらせ、発注残の差分移行と切替日を最後に置く形にすると、日程を読みやすくなる。

まとめ

受発注・購買のシステムへの移行は、全部を運ぶ作業ではなく、運ぶものと置いていくものを分ける作業である。IPA のガイドは移行対象を絞ることを勧め[1]、置いていくものには取適法の 2 年[3][5]と法人税の 7 年[4]の保存がかかる。旧の側で検索できる状態を保てば、新しい側に過去を全部入れなくてもよい[2]。

移すのは、これから使う品目と取引先、いま有効な単価、終わっていない発注である。品目と取引先は移す前に減らして寄せ、コードを振り直すなら対照表を捨てない[2]。発注残は送り直さず、旧の番号との対応を記録に残す[3]。切替日は締め日の境目に置き、並行運用は期間とどちらを正とするかを先に決める[1]。最後に、件数・金額・数量の合計を旧と新で突き合わせてから、旧の入力を止める。

出典・参考資料

  1. システム再構築を成功に導くユーザガイド 第 2 版〜ユーザとベンダで共有する再構築のリスクと対策〜(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア高信頼化センター/2018 年 2 月)
  2. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
  3. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  4. 法人税法施行規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  5. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))

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