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赤伝と消込をどう扱うか——切る 5 つの場面は、法的な位置が違う

この記事のポイント(結論先出し)
返品や訂正のたびに赤伝を切っていると、どれがどれと相殺されたのか半年で追えなくなる。だが本当の問題は追えないことではなく、赤伝を切るという行為が、法律の側では「伝票を 1 枚足したこと」として扱われないことにある。取適法の運用基準は、代金から差し引く行為を「控除」と呼び、民法上の相殺が成立したかどうかとは関係がないと明記している。消費税法も、返品や値引きを「買掛金その他の債務の額の全部若しくは一部の減額」と定義していて、伝票の形は要件に入っていない。つまり赤伝という様式そのものには、免罪符の効果も、記録としての効力もない。効くのは3つだけである。①差し引いた理由が「相手の責めに帰すべき理由」に当たるか、②増減額とその理由を速やかに記録したか、③赤伝と元の伝票の対応関係が後から確認できるか。この3つを満たさない赤伝は、単に金額を減らした事実として残る。
目次
「赤伝」は制度上の言葉ではない
赤伝(あかでん)は実務の呼び名で、法令にも通達にも出てこない。マイナス金額の伝票を起こして、先に出した伝票の効果を打ち消す、という会計処理上の手続きを指す言い方である。だから「赤伝を切ったから処理は済んだ」という言い方は、社内では通じても、取適法にも消費税法にも対応する概念がない。
ここを押さえておかないと、話が噛み合わなくなる。経理は「赤伝で消した」と言い、購買は「返品の合意は取ってある」と言い、監査は「差し引いた理由の記録がない」と言う。三者とも同じ 1 件を見ているのに、見ている層が違う。層を分けると次のようになる。
第一の層は、取適法。ここでは「代金の額を減らしたか」だけが問題になる。減らしたなら、その理由が相手の責めに帰すべきものかどうかで、適法か違反かが分かれる。第二の層は、消費税。ここでは「対価の返還等があったか」が問題で、あったならその日の属する課税期間で税額を調整する。第三の層は、記録。取適法第 7 条の記録として、増減額とその理由を残さなければならない。
赤伝はこの3層のどこにも登場しない。登場するのは、3層それぞれの要件を満たしているかどうかを示す手段の一つとしてだけである。
調達現場で押さえるポイント
「赤伝を切る」を業務の終点にすると、理由が伝票の摘要欄に一言入るだけで終わる。終点は「元の伝票と赤伝が、理由つきで対応づいた状態」であって、赤伝の発行そのものではない。
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伝票をどう切ったかではなく、いくら払ったかで見られる
取適法第 5 条第 1 項第 3 号は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに製造委託等代金の額を減ずることを禁じている[2]。中小受託取引適正化法テキストは、これを「歩引き」や「リベート」等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても本法違反となると説明している[1]。これまでに違反とされた名目の一覧には「値引き」「協力値引き」「一括値引き」「原価低減」「支払手数料」「管理料」なども並ぶ[1]。
さらに、減らす方法も問われない。テキストは「代金の額を『減ずること』には、代金から減ずる金額を差し引く方法のほか、委託事業者の金融機関口座へ減ずる金額を振り込ませる方法等も含まれる」としている[1]。差引きでも別途振込でも、結果として相手が受け取る金額が減れば同じ扱いになる。
もっとはっきり書かれているのは、有償支給原材料等の項にある「控除」の説明である。テキストは、「控除」とは代金から対価の全部又は一部を差し引く事実上の行為をいい、支払期日に代金を全く支払わないことも含む、としたうえで、こう続けている[1]。
なお、これは、民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく、そのため、「相殺」という民事法上の用語ではなく、「控除」という一般的な用語が用いられている。[1]
相殺が成立していようがいまいが、差し引いた事実で見る、と書いてある。「赤伝を起こして相殺したので減額ではない」という説明は、この一文で成立しなくなる。伝票の形式を整えることは、社内の帳尻を合わせるためには要るが、法の判断を動かす材料にはならない。
減額そのものの線引き――何が減額に当たり、何が当たらないか――は代金を後から下げる——減額に当たる行為と、当たらない行為に整理してある。この記事では、減額してよいと判断がついたあと、その処理を伝票と消込にどう落とすかだけを扱う。
赤伝を切る5つの場面は、法的な位置が違う
現場で「赤伝」と呼ばれているものは、少なくとも5種類ある。同じ形の伝票を起こしていても、根拠も、必要な記録も、消費税の扱いも違う。
| 場面 | 取適法での位置 | 消費税での位置 | 減らせる額の上限 |
|---|---|---|---|
| 1. 返品(引き取らせる) | 第 5 条第 1 項第 4 号。理由があれば第 3 号の減額も可 | 対価の返還等(返品) | その給付に係る代金の額 |
| 2. 引き取らせずに手直し・値下げ | 第 5 条第 1 項第 3 号(理由を事前に伝えた場合) | 対価の返還等(値引き) | 客観的に相当と認められる額 |
| 3. 数量の訂正(過納・過少計上) | そもそも代金が発生していない部分の是正 | 当初の請求の誤りの訂正 | 実際に受領した数量との差 |
| 4. 単価の訂正(遡って適用) | 合意日前の発注分に及ぶと第 3 号の減額 | 対価の返還等(値引き) | 合意日以後の発注分のみ |
| 5. 別の債権との相殺 | 弁済期にある債権なら「減ずること」に当たらない | 対価の返還等ではない | その債権の額 |
1. 返品——引き取らせるなら、減らせるのはその給付の代金だけ
相手の責めに帰すべき理由があって現品を引き取らせた場合、その給付に係る代金を減らすことは認められている。ただしテキストは、この場合に減ずる額は「その給付に係る代金の額に限られる」と明記している[1]。返品にかかった運送費、選別にかけた工数、代替品の手配で生じた費用を上乗せして差し引くことは、この枠に入らない。返品そのものが認められるかどうかの条件(検査の方法と期間)は受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかにある。
2. 引き取らせない場合は「客観的に相当と認められる額」まで
現品は返さず、こちらで手直しして使う、あるいは値下げして受け入れる場合がある。テキストは、受領後に理由がある旨をあらかじめ伝えた上で引き取らせなかったときに、委託内容に合致させるために手直しをしたとき、または委託内容と異なること等もしくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなときに限って減額を認め、その額は「客観的に相当と認められる額に限られる」としている[1]。
ここで効いてくるのが順序である。テキストの Q104 は、委託事業者が所有する物品の加工を委託し、受領後に遅滞なく検査を行わず、後日不適合が判明した際に相手へ直ちに通知せずに自社で所有し続けたうえで、代金から不良品に係る額を差し引いて支払う場合には、相手の責めに帰すべき理由があるとは認められず、減額として問題となる、と回答している[1]。締めの直前にまとめて赤伝を起こす運用は、この形にそのまま当てはまる。不適合が分かったのが今月 3 日で、赤伝の日付が今月 31 日なら、その 28 日間に通知をしていない説明が要る。
3. 数量の訂正は、そもそも代金が立っていない
納入数量が請求より少なかった、二重に計上していた、という訂正は、性質が違う。受領していない分の代金は発生していないので、それを取り消すのは減額ではなく、当初の記録の誤りを直す行為である。ただし記録の側では区別がつかないので、「訂正」なのか「減額」なのかを伝票の摘要ではなく理由欄で書き分ける必要がある。あとから見て「数量差」と「品質による値引き」が同じ▲行に見えると、監査で全部が減額として扱われる。
4. 単価の訂正は、遡らせた時点で減額になる
いちばん事故が多いのがここである。テキストは、代金の額を減ずることの例の筆頭に「中小受託事業者との間で単価の引下げについて合意が成立し単価改定した場合、単価の引下げの合意日前に旧単価で発注されているものにまで新単価を遡及適用して代金の額から旧単価と新単価の差額を差し引くこと」を挙げ、正しい方法は「単価改定日以降の発注分から新単価を適用すること」だと図示している[1]。違反行為事例にも、価格交渉の開始が遅れて合意が期初にずれ込んだため、合意日前に発注した分へ新単価を適用して差額を減額した例が載っている[1]。
交渉が長引くと、現場は「4 月分から新単価」と言われたと理解して、4 月に発注済みの分にも新単価で赤伝を起こす。悪意はないが、これがそのまま違反の型である。単価改定で赤伝が発生している時点で、いったん止めて発注日を見る。合意日より前の発注分が混ざっていたら、その分は赤伝を切らない。
5. 相殺は、弁済期が来ている債権かどうかで分かれる
テキストは「代金の額を『減ずること』には当たらない場合」として、中小受託事業者に販売した商品等の対価や貸付金等の弁済期にある債権を代金から差し引くことを挙げている[1]。有償支給材の対価、貸与した治具の代金、立て替えた運賃などが、これに当たりうる。
条件は「弁済期にある」ことである。まだ支払期日が来ていない債権を先に引くと、有償支給材については第 5 条第 2 項第 1 号の早期決済の禁止に触れる。テキストは、早期決済にならないためには、加工期間や検査期間を考慮して代金の支払と有償支給原材料等の対価の決済が「見合い相殺」になる仕組みにしておくことが大切だとしている[1]。相殺の可否は、金額ではなく日付の前後で決まる。
赤伝を切ったら、記録に何を残すか
取適法第 7 条は、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、保存しなければならないと定めている[2]。何を書くかは記録規則が決めている。赤伝に関係する号を抜き出すと次の5つになる[3]。
| 記録規則 第 1 条第 1 項 | 残す内容 | 赤伝との対応 |
|---|---|---|
| 第 3 号 | 検査を完了した日、検査の結果、検査に合格しなかった給付の取扱い | 返品・値引きの根拠。日付がここで決まる |
| 第 4 号 | 給付の内容を変更させ、又は受領後にやり直させた場合の内容及びその理由 | 仕様変更・手直しに伴う訂正 |
| 第 5 号 | 代金の額及び支払期日、その額に変更があった場合は増減額及びその理由 | 赤伝そのもの。金額と理由の両方 |
| 第 11 号 | 代金の一部を支払い、又は原材料等の対価を控除した場合のその後の残額 | 部分入金・相殺後にいくら残るか |
| 第 12 号 | 遅延利息を支払った場合の額及び支払った日 | 不当な減額を戻したときに発生しうる |
この表で見落とされやすいのが第 11 号である。「その後の残額」を記録することが求められているので、赤伝を切ったあとの残高がいくらかを、伝票の集合ではなく数字として持っていなければならない。消込が追えない状態は、便利さの問題ではなく記録義務の未達になりうる。
「速やかに」と「訂正の履歴」の2つが効く
記録規則第 2 条第 1 項は、これらの記載又は記録を「それぞれその事項に係る事実が生じ、又は明らかになったときに、速やかに」行わなければならないとしている[3]。締め後にまとめて起票する運用は、ここに引っかかる。前述の Q104 で「遅滞なく検査を行わず」「直ちに通知せず」が問題にされたのと、同じことを別の角度から言っている。
もう一つが、電磁的記録で残す場合の要件である。記録規則第 2 条第 3 項第 1 号は、記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができることを求めている[3]。テキストも、公正取引委員会等の検査に当たって内容が容易に確認できるようにするための要件として同じ3点を挙げている[1]。
これが、そもそも赤伝という方式が使われてきた理由でもある。元の伝票を書き換えてしまうと、いくらだったものをいくらに直したのかが残らない。元を残したままマイナスの伝票を足す形にすれば、訂正の事実と内容が両方残る。逆に言えば、赤伝を切っておきながら元の伝票との対応関係を持たせていないなら、この要件を満たすために払っているコストが無駄になっている。記録の全体像は取適法が求める記録——何を書いて、2 年間どう残すかにまとめてある。書類等の保存期間は、記載又は記録をすべき事項の全部を記録した日から 2 年間である[3]。
なお、相手の責めに帰すべき理由がないのに代金を減じてしまった場合、第 6 条第 2 項により遅延利息の支払義務が生じる。起算日は、減額を行った日または受領日から起算して 60 日を経過した日のいずれか遅い日で、率は公正取引委員会規則により年 14.6% である[2][1]。条文の対応関係や社内書式の見直しをまとめて済ませるなら、改正点を整理した法令・規格 改訂対応パック(中小受託取引適正化法)が使える。
消費税は「赤伝の日」で動く
もう一つの層が消費税である。ここでも伝票の様式は要件になっていない。
発注側から見ると、根拠は消費税法第 32 条になる。同条第 1 項は、課税仕入れにつき返品をし、又は値引き若しくは割戻しを受けたことにより、支払対価の額の全部若しくは一部の返還、又は買掛金その他の債務の額の全部若しくは一部の減額を受けた場合を「仕入れに係る対価の返還等」と定義し、その返還等を受けた日の属する課税期間の課税仕入れ等の税額から控除するとしている[4]。
売る側(取引先)の規定は第 38 条第 1 項で、返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたことにより、税込価額の全部若しくは一部の返還または売掛金その他の債権の額の全部若しくは一部の減額をした場合を「売上げに係る対価の返還等」としている[4]。国税庁のタックスアンサーは、この調整を「当初の課税資産の譲渡等を行った課税期間でなく、売上げに係る対価の返還等を行った課税期間において調整を行います」と説明している[7]。
実務上の意味は1つに絞られる。赤伝を先月分に遡らせて起票しても、消費税は遡らない。調整するのは返還等があった日の課税期間である。期をまたぐ月に「先月の請求を訂正する」処理をするときは、伝票の日付をどちらに置くかが税額に直結する。
相手が出す返還インボイスと、1 万円未満の免除
適格請求書発行事業者は、課税事業者に返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書(返還インボイス)を交付する義務を負う(消法 57 の 4 ③)[5]。記載事項は次の5つである[5]。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 売上げに係る対価の返還等を行う年月日、及びその返還等の基となった課税資産の譲渡等を行った年月日
- 返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
- 返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率
ただし、売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が 1 万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除される(消法 57 の 4 ③、消令 70 の 9 ③二)[5]。国税庁は、この免除について適用期限や適用対象者について特段の制限はないと明示している[6]。経過措置ではなく、恒久的な取扱いである。
判定の単位を取り違えないこと。国税庁は、1 万円未満かどうかは「返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとに減額した金額」で判定するとし、標準税率と軽減税率が混ざっていても税率ごとに分けて判定するものではないと注記している[5]。示されている例は、50 万円の請求に対し買手が振込手数料相当額 440 円を減額して 499,560 円を支払い、売手が 440 円を対価の返還等として処理した場合で、これは 1 万円未満なので交付義務が免除される。一方、40 万円の請求に関し 1 商品当たり 100 円のリベートを後日支払い合計 20,000 円になった場合は、1 万円以上なので免除されない[5]。1 件ごとではなく、その請求・債権の単位でまとめた減額金額で見る。
支払通知書に載せれば、別紙の返還インボイスは要らない
発注側が支払通知書(仕入明細書)を作って支払っている場合、返品分を▲行で載せる運用が実際に多い。国税庁の Q&A は、相手方が仕入税額控除のために作成・保存している支払通知書に、返品に関する適格返還請求書として必要な事項が記載されていれば、売手は改めて適格返還請求書を交付しなくても差し支えないとしている[5]。
さらに、事業者ごとに継続して、課税仕入れに係る支払対価の額から売上げに係る対価の返還等の金額を控除した金額と、それに基づき計算した消費税額等を税率ごとに記載することで、仕入明細書と返還インボイスの両方の記載要件を満たすこともできる、としている[5]。「継続して」が条件なので、ある月は控除後、ある月は両建て、という切り替えはできない。支払通知書そのものの記載事項と確認の取り方は支払通知書とはにある。
ここが赤伝の設計に直結する。支払通知書に▲行として載せる方式を採るなら、赤伝は「相手に別紙を出させるための伝票」ではなく「支払通知書の 1 行を作るための元データ」になる。だとすれば、赤伝が持つべき情報は返還インボイスの記載事項に合わせて決まる――返還を行う年月日、基となった課税資産の譲渡等を行った年月日、対象の品名、税率ごとの金額。とくに2番目の「元の取引の日付」を持っていない赤伝は、そのままでは支払通知書の行にできない。追えなくなるという症状は、たいていここから始まる。インボイス自体の経過措置の状況はインボイスの経過措置は 2026 年 10 月から 7 割へにまとめてある。
追えなくなるのは、消込の単位を決めていないから
「どれがどれと相殺されたか分からない」という状態は、記録の量ではなく単位の問題である。消込には、少なくとも次の2段がある。
| 段 | 何と何を突き合わせるか | 崩れるとどうなるか |
|---|---|---|
| 第 1 段:請求への計上 | 納品の記録 ↔ 締め請求書 | 同じ納品が二重に請求される/落ちる |
| 第 2 段:入金の充当 | 締め請求書 ↔ 入金 | 残額が分からない(記録規則 第 11 号) |
赤伝が絡むと、第 1 段で必ず判断が要る。取り消した納品分を、締め請求書にどう出すかである。選べる形は2つしかない。
形 A:元の伝票と赤伝を両方載せ、差額を合計で見せる。請求書の上で相殺の経過が見える。相手は自分の売上帳と突き合わせやすい。ただし請求書の行数が増え、返還インボイスの記載事項を満たす作りにしておく必要がある。
形 B:元の伝票と赤伝を両方とも請求から外し、訂正後の伝票だけを載せる。請求書は正しい金額だけになる。相手から見ると「先月出した納品書が請求に出てこない」ので、なぜ落ちたかを別に伝える必要がある。
どちらが正しいということはない。決めていないことが問題になる。月によって A と B が混ざると、相手の売掛と自社の買掛が合わなくなり、その差を埋めるためにまた赤伝が起票される。これが「追えなくなる」の実体である。締め請求書そのものの作り方は締め請求書をどう作るかに、突き合わせて合わなかったときの処理は請求と発注が合わないときどう処理するかにある。
部分入金と過入金は、ステータスではなく差額で持つ
第 2 段では、入金と請求書が 1 対 1 にならない。複数の請求書へまとめて 1 回で振り込まれる、1 つの請求書に分けて入金される、端数が合わずに多く振り込まれる――どれも普通に起きる。ここで請求書に「入金済/未入金」というフラグを持たせると、部分入金のときに嘘になる。
持つべきは充当の記録である。どの入金の、いくらを、どの請求書に充てたか。これを足し合わせて請求総額と比べれば、未入金・一部入金・入金済・過入金は毎回計算で出る。記録規則第 11 号が求めている「その後の残額」も、この形なら常に出せる[3]。フラグは書き換えを忘れるが、差額は忘れない。
受発注システム側では何ができるか
ここまでの要件を、日々の操作に落とすとどうなるか。Newji one の帳票まわりを例に挙げる(締め請求書と入金消込は、有効化した会社で使える機能である)。
取消は、元を消さずに赤伝を起こす形になっている。発行済みの納品書を取り消すと、元の納品書は取消の状態で残り、金額の符号を反転させた赤伝が、元の伝票番号に R を付けた番号で新しく発行される。赤伝にはどの伝票を訂正したものかが記録されるので、対応関係を人が覚えておく必要がない。取消理由は入力しないと処理が進まない。記録規則第 1 条第 1 項第 5 号が求める「増減額及びその理由」を、伝票の摘要欄ではなく必須項目として取る形である。赤伝をさらに取り消すことはできないので、訂正の連鎖が二重にならない。
締め請求書は、上の「形 B」を採っている。集めるのは、発行済みで、赤伝ではなく、まだどの請求書にも紐づいていない納品書だけである。つまり取り消した元の伝票と赤伝は、どちらも締め請求書の集計に入らない。相殺の経過を請求書に見せるのではなく、訂正後の正しい伝票だけを載せる。明細の粒度は納品書単位で、金額は各納品書の確定した合計をそのまま足す(発行時に再計算しないので、あとから単価マスタを変えても過去の請求書は動かない)。消費税は税率ごとに分けて集計する。通貨が混ざっている期間はエラーになって止まる。
消込は、請求書と納品書の紐づけで表す。締め請求書を発行すると、集めた納品書に請求書が紐づく。締め請求書を取り消すと紐づけが外れ、その納品書は再び請求できる状態に戻る。入金の側は、どの入金のいくらをどの請求書に充てたかを記録し、その合計と請求総額の差から未入金・一部入金・入金済・過入金を出す。1 回の入金を複数の請求書に充てることも、1 つの請求書に複数回入金することもできる。入金が記録されている締め請求書は取り消せないので、先に入金記録を消してから取り消す手順になる。
仕組みで解けない部分
システムが決められるのは「対応関係を残す」「残額を計算する」ところまでである。その赤伝を切ってよいか(相手の責めに帰すべき理由があるか)、いつ切るか(速やかに通知したか)、いくらまで切れるか(客観的に相当と認められる額か)は、人が判断して記録に書く。ここを空欄のまま運用に乗せると、整った形式で違反が量産される。
先に決めておく6項目
項目 1:赤伝の種類を分けているか
返品・手直しに伴う値引き・数量訂正・単価訂正・相殺を、同じ「赤伝」で処理していないか。理由の区分が伝票に載っていれば、記録規則第 1 条第 1 項第 5 号の「理由」がそのまま埋まる[3]。
項目 2:切ってよい上限を書いてあるか
引き取らせた場合はその給付に係る代金の額、引き取らせない場合は客観的に相当と認められる額[1]。運送費や工数を上乗せする欄を伝票に作っていないか確認する。
項目 3:起票までの日数を決めてあるか
不適合が判明してから相手に通知するまで、通知から赤伝を起こすまで。記録規則第 2 条第 1 項は「速やかに」と書いている[3]。締め処理と一緒にしない。
項目 4:単価訂正で発注日を見る手順があるか
単価改定の赤伝は、合意日より前の発注分が混ざっていないかを必ず見る。混ざっていればその分は切らない[1]。
項目 5:締め請求書の形を A か B かで固定してあるか
相殺の経過を請求書に載せるのか、訂正後だけを載せるのか。月によって変えない。相手にどちらかを伝えてあるかも含めて決める。
項目 6:返還インボイスをどちらが出すか決めてあるか
相手に交付してもらうのか、自社の支払通知書に合わせて記載するのか[5]。後者なら「継続して」が条件になるので、途中で戻せない。1 万円未満は交付義務が免除されるが[6]、免除されるのは交付義務であって、こちらの仕入税額の調整は必要である[4]。
よくある質問
取引先が同意しているなら、赤伝で減額してよいですか
テキストは、仮に委託事業者と中小受託事業者との間で代金の減額等についてあらかじめ合意があったとしても、中小受託事業者の責めに帰すべき理由なく代金の額を減ずる場合は本法違反となる、としている[1]。同意は要件ではない。判断するのは理由の側である。
赤伝ではなく、元の請求書を直してもらうのは問題ありますか
取適法の側では、増減額とその理由が記録され、訂正の事実と内容が確認できれば方式は問われない[3]。ただし電磁的記録で残す場合、記録規則第 2 条第 3 項第 1 号が訂正・削除の事実と内容を確認できることを求めているので、元の数字が残らない上書きは要件を満たさない[3]。差し替え前の版を保存するか、赤伝方式にするかのどちらかになる。
先月分の赤伝を今月切りました。消費税はどちらの月ですか
仕入れに係る対価の返還等は、その返還等を受けた日の属する課税期間で調整する[4]。売る側の売上げに係る対価の返還等も、返還等を行った課税期間で調整する[7]。当初の取引月には遡らない。
振込手数料をこちらで引いて振り込んでいます
テキストは、合意の有無にかかわらず、代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させ、代金の額から差し引くことを「代金の額を減ずることの例」に挙げている[1]。取適法の側ではまずここを確認する。消費税の側では、売手が振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合、通常 1 万円未満なので返還インボイスの交付義務は免除される[6]。2つの層で結論が違うので、消費税で免除されることを取適法の根拠にしない。
有償支給材の代金を毎月の支払から引いています
弁済期にある債権を差し引くことは「減ずること」に当たらない[1]。ただし有償支給原材料等については、その材料を用いた給付に対する代金の支払期日より早い時期に控除すると第 5 条第 2 項第 1 号に触れる[2]。テキストは、加工期間や検査期間を考慮して「見合い相殺」になる仕組みにしておくことが大切だとしている[1]。
不当に減額してしまったことに後から気づきました
戻すだけでは終わらない。第 6 条第 2 項により、減額した額について遅延利息の支払義務が生じる。起算日は減額を行った日または受領日から起算して 60 日を経過した日のいずれか遅い日で、率は年 14.6% である[2][1]。テキストは、遅延利息を支払えば代金を減額してよいという趣旨ではない、と注記している[1]。支払った遅延利息の額と日も記録事項である[3]。
まとめ
赤伝は会計処理の様式であって、法律上の概念ではない。取適法は差し引いた事実で見るので、テキストは「控除」を民法上の相殺が成立したか否かとは関係がない事実上の行為だと説明している[1]。消費税法も「買掛金その他の債務の額の全部若しくは一部の減額」という言い方をしていて、伝票の形は要件に入っていない[4]。伝票を切ったこと自体では、何も済んでいない。
済ませるために要るのは3つである。理由――返品なのか、手直し後の値引きなのか、数量の訂正なのか、単価の遡及なのか、別債権との相殺なのかを分けて書く。上限が場面ごとに違う[1]。日付――不適合が分かってから通知し、速やかに記録する[3]。消費税は赤伝の日で動く[4]。対応関係――どの伝票を訂正したものかを残し、請求への載せ方を A か B に固定し、入金は充当額で持って残額を計算で出す[3]。
追えなくなっているとき、増やすべきは伝票ではない。伝票と伝票の間の線である。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 消費税法(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(国税庁 軽減税率・インボイス制度対応室/平成 30 年 6 月・令和 8 年 5 月改訂)
- 少額な返還インボイスの交付義務免除の概要(国税庁)
- No.6359 値引き、返品、割戻しなどを行った場合の税額の調整(売上げに係る対価の返還等)(国税庁)
訂正したことと、その理由を、伝票の外に残さない
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