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鋼材価格の改定と購入契約——価格の時点・新単価の適用・余材と支給材

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の最新の公表値である 2026 年 8 月の企業物価指数(日本銀行・速報)で見ると、類別「鉄鋼」は前年同月比 2.4% の上昇、「スクラップ類」は 22.7% の上昇だった[1]。非鉄金属(43.3%)ほど大きくはないが、鋼材は製鋼メーカーから中間加工・二次加工を経て届く商流が長く、改定が届く時期が仕入先ごとにずれる[2]。購入契約で決めておくのは、どの時点の鋼材価格で単価を決めるか、改定後の単価をどの発注から使うか、設計変更で余った材料や専用材の費用を誰が持つか、材料を支給するならその条件である。金属産業取引適正化ガイドラインは、鉄鋼業では発注の書面の不備が違反の類型として比較的多いと指摘している[2]。合意前の発注に新単価を遡って当てて代金を減らすことは、取適法の減額に当たる[3]。
目次
鋼材の値動きを、公表された数字で見る
鋼材の価格は、製鋼メーカーの価格改定や原料・エネルギーのコスト、需給などで動く。公表された統計では、日本銀行の企業物価指数の類別「鉄鋼」と「スクラップ類」で全体の動きを確かめられる。
| 国内企業物価指数の類別 | 2026 年 8 月の指数(2020 年=100) | 前月比 | 前年同月比 |
|---|---|---|---|
| 鉄鋼 | 146.6 | +0.2% | +2.4% |
| スクラップ類 | 200.3 | -4.7% | +22.7% |
| 金属製品 | 137.7 | +0.4% | +3.5% |
| (参考)非鉄金属 | 261.1 | +1.9% | +43.3% |
表はいずれも 2026 年 8 月の速報値である[1]。日本銀行は、鉄鋼の前月比の上昇に寄与した主な品目として小形棒鋼、鉄鋼シャースリット、機械構造用炭素鋼を、スクラップ類の下落に寄与した主な品目として鉄屑と銅・アルミニウム屑を挙げている[1]。前年同月比で見ると、鉄鋼の 2.4% に対してスクラップ類は 22.7% で、原料の一部である鉄屑の動きと鋼材の動きは同じ速さでは動いていない[1]。
この指数を使うときに知っておきたいのは、何の価格を測っているかである。日本銀行は、国内企業物価指数は原則として生産者段階における出荷時点の生産者価格を調査していると説明している[4]。製鋼メーカーが出荷する時点の価格の動きなので、加工業者や流通を経て自社に届く鋼材部品の価格の動きとは、時期も幅も一致しない。また、速報は翌月の第 8 営業日に公表され、その後 3 か月間は訂正が入り、毎年 9 月には前年 1 月以降を対象に定期遡及訂正が行われる[4]。契約の参照値に使うなら、速報で確定させるのか、訂正後の値を使うのかを決めておく。素材と加工品で値動きの効き方がどう違うかは、非鉄の例として銅の価格変動と、銅を含む部品の価格の決め方でも扱っている。
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商流が長いと、改定は遅れて届く
経済産業省の金属産業取引適正化ガイドラインは、鉄鋼業界の商流として、製鋼メーカーから、コイルセンターや厚板シャーなどの中間加工業者、磨棒鋼メーカーなどの二次加工メーカー、三次加工メーカー、鉄骨加工業者などを経て需要家に至る形を示し、各段階に受託加工業者がつき、商社は介在する場合としない場合があるとしている[2]。
発注側から見ると、直接の仕入先がこの商流のどこにいるかで、鋼材の改定が単価に届く時期が変わる。製鋼メーカーが価格を改定しても、中間加工業者はその後の仕入から新しい価格になり、二次加工メーカーはさらにその後の仕入から、という具合に、段階を経るごとに遅れて届く。仕入先が「鋼材が上がったので」と申し入れてきたとき、指数の上昇と時期が合わないことがあるのはこのためである。指数と申し入れの時期のずれだけを理由に、申し入れを退けないほうがよい。
実務では、仕入先ごとに「鋼材をどこから、どの形(コイル・切板・棒など)で買っているか」を聞いておくと、申し入れの時期を読みやすくなる。主な鋼材の仕入先が複数の段階を経ているなら、その段階の数だけ遅れがあると考えておく。
購入契約で決める「時点」
鋼材部品の単価を相場の変化に合わせて見直すとき、最も揉めやすいのは「どの時点の鋼材価格を前提にするか」である。候補はいくつかあり、どれにも長所と短所がある(以下は実務の整理であって、法令の定めではない)。
- 発注日:発注側にとって単価が早く確定する。ただし仕入先が材料を手配するのは発注の後なので、手配までの間の値上がりを仕入先が持つことになる
- 仕入先が材料を手配した日:仕入先の実際の仕入値に近い。発注側は手配日の確認が要る
- 前月平均など一定の期間:日々の振れをならせる。どの期間を使うかを決めておく必要がある
公共工事の単品スライド条項の運用では、工事材料の価格増加分について、受注者が出す実際の購入価格と物価資料の単価を比べて安い方を用いるのが従来のルールで、2022 年の改定で、購入価格が適当と示す証明書類を出せば実際の購入価格が高くてもそれを使えるようにした[5]。同じ改定では、鋼橋上部工事に特有の商慣行で実際の購入価格を示せない場合は、購入時期を証明できれば購入した月の物価資料の単価を使えるようにしている[5]。公共工事の単品スライドは鋼材類を対象資材に含む仕組みで[6]、鋼材の価格を「いつの、何の値で見るか」を決める手本になる。条項の一般的な作り方はアルミの価格変動と価格スライド条項の作り方で項目ごとに説明している。
新単価をいつの発注から使うか
鋼材の価格改定にあわせて単価を見直したら、新単価をどの発注から使うかを、合意の記録に必ず書く。取適法の対象取引では、ここを誤ると減額になる。
テキストは、溶接材料の製造を委託し 4 月と 10 月の年 2 回単価を改定していた委託事業者が、交渉の開始が遅れて引下げの合意が新しい期に入った 4 月 20 日になったのに、合意日より前に発注した分にも新単価を当てて旧単価との差額を減じた例を、減額の違反行為事例として挙げている[3]。金属産業取引適正化ガイドラインにも、3 月に値下げ交渉が決着し、4 月検収(3 月分)から新単価を当てた結果、取適法に反する減額が発生し、減額分を支払った改善事例が載っている[2]。
二つの例に共通するのは、「いつの検収分から」「いつの期から」という区切りで新単価を当てたことである。新単価の適用は、合意した日以降に発注した分からとするのが基本になる。期首から新単価を使いたいなら、期首の発注までに合意を済ませておく。引上げの場合も、どの発注から新単価にするかを記録に残しておかないと、請求と支払で双方の理解が食い違う。新単価の適用と減額の関係は減額に当たる行為と、当たらない行為で整理している。
設計変更で余った材料と、専用材
鋼材部品の取引に特有の論点として、余材と専用材がある。金属産業取引適正化ガイドラインは、鋼材加工業者が注文を受けて材料を購入・加工している間に、当初の設計に変更が加わり、必要以上に鋼材を購入したり、加工後の鋼材が不要になったりする場合(余材の発生)があると指摘している[2]。必要以上に購入した鋼材や余材は他に転用するとしても歩留まりのロスが出ることが多く、ミルシート(鋼材検査証明書)に工事名などが表記された専用材の場合は、転用自体が極めて困難だとしている[2]。そのうえで、発注後に設計を変更し、それによって鋼材加工業者に生じた費用を負担しないことは不当な給付内容の変更の禁止に、倉庫での保管費用を支払わないことは不当な経済上の利益の提供要請の禁止に、それぞれ違反するおそれがあるとしている[2]。
購入契約で決めておくことを挙げる(実務の提案である)。
- 発注後に仕様や数量を変えた場合、仕入先が既に手配した材料の費用をどう扱うか
- 専用材(特定の案件向けに手配する材料)を使う品目はどれか。その材料を手配した時点を、仕入先から知らせてもらうか
- 余った材料を発注側が引き取るのか、費用を負担して仕入先が処分・転用するのか
鋼材価格が動いている時期ほど、設計変更で余った材料の費用は大きくなる。改定前の安い時期に手配した材料が余り、改定後の高い材料で作り直す、ということも起きる。費用の扱いは、変更が起きてから話すのではなく、先に決めておくほうが揉めない。
材料を支給するなら
鋼材の値動きを発注側が持つ方法として、鋼材を発注側が買って仕入先に支給するやり方がある。無償で支給するなら、仕入先との単価は加工費だけになり、鋼材価格の改定の影響は発注側が直接受ける。代金を取って支給する有償支給の場合は、仕入先が鋼材を買い取って製品の代金で回収する形になるので、支給する鋼材の価格と製品の単価を組にして決め、鋼材価格を改定するときは両方を同時に見直す。支給価格だけ改定後の値に上げて製品単価を据え置くと、値上がり分は仕入先の負担になる。
ただし、有償で支給する場合は取適法の線がある。金属産業取引適正化ガイドラインは、発注時に明示すべき事項の一つとして、原材料等を有償支給する場合の品名・数量・対価・引渡しの期日・決済期日・決済方法を挙げている[2]。取適法の対象取引では、仕入先に責任がないのに、支給した鋼材の代金を、その鋼材を使った製品の代金の支払期日より前に差し引いたり支払わせたりして仕入先の利益を不当に害すると、有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第 5 条第 2 項第 1 号)に当たる[3]。テキストは、早期決済にならないよう、加工期間や検査期間を考えて、製品代金の支払と支給材の代金の決済が見合いで相殺される仕組みにしておくことを勧めている[3]。詳しくは有償支給材と金型代の禁止行為を参照してほしい。
鉄鋼業で多い、書面の不備
金属産業取引適正化ガイドラインは、鉄鋼業では違反の類型として書面等の不備事例が比較的多く、注文書のフォーマットの工夫や実務担当者へのルール遵守の徹底などが必要だと書いている[2]。設備のトラブルなどによる緊急の発注でも、速やかに書面等で発注内容を明示する必要があるとし、緊急を要するとして口頭(電話)で発注し、その後も注文書等で発注内容を明示しない場合を違反行為事例に挙げている[2]。鋼材加工業者が、鉄骨加工業者から注文書等で発注内容を示されず、材料を購入・加工して納入した後になってまとめて発注内容を示される場合は、明示義務に違反するおそれがあるとも指摘している[2]。
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鋼材の価格が動いている時期に、電話で頼んで価格は後で、という運用をすると、価格をめぐる食い違いと書面の不備が同時に起きる。取適法の対象取引では、発注書に書く代金は具体的な金額が原則である。発注の時点で鋼材価格が確定せず、金額を示すことが困難なやむを得ない事情があるときに限り、価格が確定すれば金額が自動的に決まる算定方法を書面に書いて発注することで足りる[3]。どちらもできないまま電話で発注を先に済ませる運用はやめる。発注書に書く項目は発注書の 4 条明示 12 項目にまとめている。
よくある質問
仕入先から「メーカーが値上げしたので」と言われましたが、指数はほとんど動いていません
指数は製鋼メーカーの出荷時点の価格の全国的な動きであり[4]、仕入先が買っている形や段階の価格とは一致しない。指数との違いだけで申し入れを退けず、仕入先がどこから何を買っていて、いつ、いくら上がったのかを聞く。協議の進め方は値上げの申し入れが来たときの進め方を参照してほしい。
スクラップの価格が下がったので、鋼材部品も安くなるはずだと上司に言われました
2026 年 8 月の速報では、スクラップ類は前月比で 4.7% 下がったが、鉄鋼は 0.2% 上がっている[1]。原料の一部の動きがそのまま鋼材部品の単価に出るわけではない。次の発注から使う単価について協議を申し入れることはできるが、既に決めた代金を後から減らせば減額になる[3]。
長期の購入契約で単価を固定しています。途中で見直す必要はありますか
金属産業取引適正化ガイドラインは、労務費、原材料費、エネルギー価格等が上昇して受託側から価格交渉を求められた場合には、委託事業者は期中の価格変更にもできる限り柔軟に応じるものとしている[2]。固定の期間中であっても、申し入れがあれば協議に応じる。最初から見直しの条件を契約に入れておけば、期中の協議が進めやすい。
まとめ
2026 年 8 月の企業物価指数では、鉄鋼は前年同月比 2.4%、スクラップ類は 22.7% の上昇で、鋼材と原料の動きは一致しない[1]。指数は製鋼メーカーの出荷時点の価格で、訂正も入る[4]。鋼材は商流が長く、改定は段階ごとに遅れて届く[2]。購入契約では、どの時点の鋼材価格で単価を決めるか(公共工事の単品スライドの運用が参考になる[5][6])、新単価を合意後のどの発注から使うか、余材・専用材の費用、支給材の条件を決めておく。合意前の発注に新単価を遡って当てて代金を減らすことは減額に当たり[3]、鉄鋼業で多い書面の不備にも注意がいる[2]。
出典・参考資料
- 企業物価指数(2026年8月速報)(日本銀行調査統計局/2026 年 9 月 11 日)
- 金属産業取引適正化ガイドライン(金属産業における受託適正取引等のためのガイドライン)(経済産業省/平成 29 年 2 月策定・令和 8 年 1 月最終改訂)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 2020 年基準 企業物価指数の解説(日本銀行調査統計局/2022 年 6 月)
- 工事請負契約書第26条第5項(単品スライド条項)の運用改定について(国土交通省)
- 単品スライド条項の運用に関する説明資料(国土交通省/令和 4 年 12 月)
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