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米国ウイグル強制労働防止法と調達の書類——30日で出せるか

この記事のポイント(結論先出し)
米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)は、中国の新疆ウイグル自治区で全部または一部が採掘・生産・製造された物品と、「UFLPA エンティティー・リスト」に載った事業者が生産した物品を、強制労働で作られたものと推定して米国への輸入を禁じる[1]。2022 年 6 月 21 日から執行されている[2]。この推定を覆すには、輸入者が政府の指針に従い、税関(CBP)の照会に全て答えたうえで、強制労働で作られていないことを「明白かつ説得力のある証拠」で示す必要がある[1]。2026 年 10 月時点で確認した範囲では、リストは 2026 年 8 月 3 日に 43 事業者が追加されて 187 事業者・団体になり[3][5]、重点的に執行する分野は鉄鋼・銅・アルミニウム・ポリ塩化ビニル(PVC)などを含む 12 分野に広がっている[4]。米国に製品を出す日本の会社の調達部門が備えるべきは、発注書・請求書・部品表(BOM)・原産地証明・生産記録を、原材料までつないで英語で出せる状態にしておくことである[2]。
目次
何が輸入できなくなるのか——「全部または一部」と「推定」
UFLPA の第 3 条は、税関・国境警備局(CBP)の長官に、新疆ウイグル自治区で全部または一部が採掘・生産・製造された物品、またはリストに載った事業者が生産した物品について、1930 年関税法第 307 条により輸入が禁止され、米国のどの港でも輸入が認められないものと推定するよう定めている[1]。この推定は法の成立から 180 日後に効力を持つと定められ[1]、CBP は 2022 年 6 月 21 日以降に輸入される貨物に適用している[2]。
日本の製造業にとって重要なのは、CBP の運用ガイダンスが中国国内の他の地域や第三国で作られた、あるいは経由した物品でも、新疆で作られた投入物を含むものには推定が及ぶと書いている点である[2]。日本で組み立てた製品でも、中国から買った材料や部品の上流に新疆が入っていれば対象になりうる。CBP はデュー・ディリジェンス、サプライチェーンの追跡、サプライチェーン管理の措置を、サプライチェーン全体、つまり中国の他の地域や第三国でのさらなる加工にまで及ぶ要求として説明している[2]。
推定を覆して輸入を認めてもらう(例外)には、輸入者が次の全てを満たす必要がある[1]。
1. 指針への準拠
法律に基づいて作られた輸入者向けの指針(UFLPA 戦略)と、それを実施する規則に完全に従っていること。
2. 照会への回答
強制労働で作られたかどうかを確かめるための CBP の照会に、全て完全かつ実質的に答えたこと。
3. 証拠
物品が全部または一部でも強制労働で作られていないことを、明白かつ説得力のある証拠で示すこと。
例外が認められると、CBP は 30 日以内に、対象の物品と考慮した証拠を議会に報告し、公表しなければならない[1]。CBP のガイダンスも、例外が認められた場合に輸入者が出した情報は公開の対象になりうると注意している(情報公開法の例外で伏せられる部分もある)[2]。
EU にも強制労働製品の禁止規則があるが、仕組みが違う。EU の規則には UFLPA のような推定の規定はなく、当局がリスクに基づいて調査し違反を判断する。違いはEU 強制労働製品禁止規則と仕入先の確認の記事で扱っている。
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2026 年の状況——リストと重点分野が広がっている
| 項目 | 内容 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| エンティティー・リスト掲載数 | 2025 年 8 月時点で 144 → 2026 年 8 月 3 日に 43 事業者を追加し 187 事業者・団体(併せて指定された子会社等を除く) | 2025 年 8 月[4]/2026 年 8 月 3 日[3][5] |
| 重点執行分野(2025 年 8 月より前に指定された 7) | アパレル、綿・綿製品、ポリシリコンを含むシリカ系製品、トマト・同製品、アルミニウム、ポリ塩化ビニル(PVC)、水産品 | [4] |
| 重点執行分野(2025 年追加 5) | 鉄鋼、銅、リチウム、苛性ソーダ、ナツメ(計 12 分野) | 2025 年 8 月 19 日発表[4] |
| 輸入差し止め等の対象貨物 | 2026 年 4 月までに 4 万 2,000 個以上・約 40 億ドル相当(CBP の統計をジェトロが引用) | [5] |
2026 年 8 月 3 日の追加は、国土安全保障省(DHS)が官報(Federal Register)で公示したもので、43 の新たな事業者を加え、うち 2 事業者は二つの下位リストに載っている[3]。ジェトロによれば、今回の追加にはアルミニウムや銅、アパレル、水産品、トマトなどの生産・販売に関わる企業が含まれ、公示の日以降、これらの企業が生産した製品の米国への輸入は禁止される[5]。
重点執行分野の拡大は、製造業の部材と直接重なる。2025 年に加わった鉄鋼・銅・リチウム・苛性ソーダは、金属部品、電線・ケーブル、電池、化学品の上流にある。アルミニウムと PVC は以前から重点分野である[4]。重点分野でない品目が対象外になるわけではなく、執行の対象は全ての産業に及ぶ[4]。
米国は強制労働の問題を通商政策でも扱っている。ジェトロによれば、米国通商代表部(USTR)は 2026 年 7 月 23 日、強制労働産品の輸入を禁じていない、または効果的な措置をとっていないとして、日本を含む 60 か国・地域からの輸入に 1974 年通商法 301 条に基づく追加関税を課すと発表した[6]。関税の取り決めは米国の関税措置と購入契約の記事で扱う。
止められたら何が起きるか——5 日、30 日、そして証拠
CBP の運用ガイダンス(2022 年 6 月 13 日)によると、CBP は貨物が検査に提示された日から 5 日(週末・休日を除く)以内に、引き取りを認めるか留め置くかを決める。それまでに引き取りが認められない貨物は留め置き(detention)とみなされる[2]。留め置きの通知を受けた輸入者は、一般に貨物が検査に提示された日から 30 日以内に、推定の例外を求めて回答できる[2]。その後は、輸入の排除(exclusion)に対する異議申立てや、差押え(seizure)に対する申請の手続きに進む[2]。
道は二つある。一つは、物品とその投入物が全て新疆の外から調達され、リストの事業者とも無関係であることを書類で示し、そもそも UFLPA の対象外だと示す道。この場合、例外を求める必要はない[2]。もう一つは、対象であることを前提に、強制労働で作られていないことを明白かつ説得力のある証拠で示して例外を求める道である[1][2]。どちらでも、上流までつながった取引書類が要る。30 日は、日本から書類を集め、翻訳し、整理するには短い。
CBP が求める書類——調達部門が持っているもの、持っていないもの
CBP のガイダンスは、求めうる書類を例示している(網羅ではない)[2]。調達部門の立場で、誰が持っているかを並べると次のようになる。右の列は当社の整理である。
| CBP が例示する書類[2] | 持っているのは誰か(整理) |
|---|---|
| サプライチェーンの詳細な説明(採掘・生産・製造の全段階)、各段階の供給業者の一覧(名称・住所・メール・電話)、関与する各社の宣誓供述書 | 一次仕入先までは調達部門。二次以降は仕入先から出してもらう |
| 発注書、全ての供給業者と下請業者のインボイス、梱包明細書、部品表(BOM)、原産地証明書、支払記録 | 自社分は調達・経理。下請業者分は仕入先 |
| 売り手・買い手の在庫記録、船荷証券などの出荷記録、輸出入記録 | 物流・倉庫。仕入先の出荷記録は仕入先 |
| 生産指示書、工場の生産能力の報告、工場訪問の報告、投入した材料の量と生産量が一致する証拠 | 製造元。訪問報告は監査をした側 |
| (中国原産の場合)関与する全事業者のサプライチェーンマップ、労働者の賃金支払いと一人当たり生産量、採用と内部統制、信頼できる監査 | 製造元と監査機関 |
デュー・ディリジェンスの仕組みについても、仕入先との関わり、原材料から製品までのリスクの洗い出し、強制労働を禁じ中国政府の労働移転の制度に触れたサプライヤー行動規範、仕入先を選ぶ社員の研修、行動規範の遵守の監視、是正(できなければ取引の終了)、独立した検証、公表といった要素を挙げている[2]。また、提出書類は英訳し、索引を付け、各書類の関連性を説明して整理すると審査が進めやすくなると書いている[2]。
高リスク品目の例として、ポリシリコンについては、原料の珪石の産地からポリシリコンの製造工場、それを使う下流の工場までの各段階を図にし、各材料の原産地を示すことを求めている[2]。金属や樹脂の部材でも、同じ考え方で問われうる。
発注側が今から変えること(提案)
以下は法律や CBP の要求そのものではなく、上の書類を 30 日で集められる状態にするための調達実務の提案である。
1. 米国向け製品の BOM で、重点分野の材料を洗い出す
鉄鋼、銅、アルミニウム、PVC、リチウム、ポリシリコン、綿など重点 12 分野にあたる材料を使う部品を、BOM から拾い出す。仕入先に聞くのはそこからでよい。
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2. 材料の出どころを、発注仕様と契約に書く
該当する部品の購入仕様書や個別契約に、新疆ウイグル自治区で生産された材料を使わないこと、エンティティー・リストの事業者から調達しないこと、求めに応じて材料の調達先と原産地を示す書類を期限内に出すことを書いておく。購入仕様書の書き方は購買仕様書の書き方の記事を参照してほしい。
3. リストの更新を、仕入先台帳の点検日にする
リストは官報で更新される[3]。更新のたびに、一次仕入先と、分かっている範囲の二次仕入先の名称を照合する。新しい仕入先の審査項目にも入れる。審査の進め方は新規仕入先の審査の記事にある。
4. 量の整合を取れる記録を残す
CBP は投入した材料の量と生産量が一致する証拠を例に挙げている[2]。ロットごとに、どの材料ロットをどれだけ使ったかを仕入先が記録しているかを、監査や品質の確認のついでに見ておく。
5. 仕入先に一方的な負担を負わせない
書類の整備には仕入先の手間がかかる。発注側の立場を背に、費用も作業も仕入先任せで書類を出させる進め方は、国内の取引では取適法(旧下請法)や独占禁止法の問題になりうると、日本の政府ガイドラインも注意している。話し合いで範囲と期限を決める進め方は調達で進める人権デュー・ディリジェンスの記事にまとめた。
よくある質問
米国に直接輸出していなくても関係するか
米国の顧客や現地法人が輸入者になって日本の製品を輸入するなら、輸入者が CBP から書類を求められ、その依頼は日本の納入元に来る。日本の会社が輸入者でなくても、書類を出せなければ顧客の貨物が止まる。
日本製と表示している製品なら対象外か
原産国の表示だけでは決まらない。CBP は、新疆で作られた投入物を含むなら、中国の他の地域や第三国で作られた・経由した物品にも推定が及ぶと説明している[2]。
中国の仕入先との取引をやめるべきか
この記事ではそこまで言わない。法律が求めるのは、物品が新疆やリストの事業者と無関係であること、または強制労働で作られていないことを書類で示せることである[1][2]。仕入先を分けるかどうかは費用と供給の判断になる。その考え方はチャイナプラスワンの記事で扱う。
まとめ
UFLPA は、新疆で一部でも作られた物品とリストの事業者の物品を強制労働製品と推定し、覆すには明白かつ説得力のある証拠が要る。2026 年にはリストが 187 事業者・団体に増え、重点分野は鉄鋼・銅・アルミニウム・PVC を含む 12 分野になった。米国向け製品を持つ会社の調達部門は、重点分野の材料を使う部品を BOM から拾い、発注仕様と契約に材料の出どころの条件と書類提出の約束を書き、リストの更新ごとに仕入先を照合しておく。留め置きから 30 日で書類を出せるかどうかが分かれ目になる。
出典・参考資料
- Public Law 117-78(Uyghur Forced Labor Prevention Act)(米国議会/2021 年 12 月 23 日成立・GovInfo 掲載)
- ウイグル強制労働防止法 米国税関・国境警備局 輸入者向けの運用ガイダンス(暫定的な仮訳・原文併記)(米国税関・国境警備局 2022 年 6 月 13 日、日本貿易振興機構(ジェトロ)仮訳/2022 年 6 月)
- Notice Regarding the Uyghur Forced Labor Prevention Act Entity List(米国国土安全保障省/Federal Register 2026 年 8 月 3 日)
- トランプ米政権、ウイグル強制労働防止法の優先執行対象に5分野追加、鉄鋼・銅・リチウムなど(日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信/2025 年 8 月 20 日)
- 米ウイグル強制労働防止法に基づくリストに中国企業43社追加、トランプ政権で初(日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信/2026 年 8 月 3 日)
- 米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定(日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信/2026 年 7 月 24 日)
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