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チャイナプラスワン——調達先を分けるときの進め方と費用

この記事のポイント(結論先出し)
ジェトロが 2025 年 11〜12 月に 3,369 社から回答を得た調査では、主要な原材料・部品を海外から調達している企業の 6 割超が中国から調達し、海外から調達している企業全体の約 2 割は、海外の調達先が中国だけだった[1]。調達先を分けること自体は、内閣府の事業継続ガイドラインも挙げる基本の対策である[2]。ただし、分けた先が同じ材料メーカーや同じ地域に頼っていれば、リスクは減っていない[2]。また、2 社目を立ち上げる費用(評価・承認・型・在庫)と、1 社あたりの数量が減ることによる単価の上昇を見込まずに始めると、途中で止まる。2026 年 10 月時点では、米国が 7 月から課している強制労働を巡る関税の率は中国とベトナム・タイが同じ 12.5% で[5]、「中国以外ならよい」という単純な判断はできない。
目次
中国からの調達は、まだ多数派である
チャイナプラスワンは、中国に集中した調達や生産の一部を他の国に移し、一か所が止まっても全体が止まらないようにする考え方である。実態としてどこまで進んでいるかを、まず公表された調査で確かめておく。
ジェトロの 2025 年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(調査期間 2025 年 11 月 4 日〜12 月 3 日、有効回答 3,369 社)によれば、主力製品に欠かせない主要原材料・部品を海外から調達している企業は 65.1% だった[1]。海外調達をしている企業のうち、中国から調達している企業の割合は製造業・非製造業ともに 6 割を超え、自動車・同部品、繊維・アパレル、情報通信機械・電子部品では 8 割以上だった[1]。
分散の度合いも数字で出ている。海外調達をしている企業の約 2 割は中国だけから調達しており、その約 9 割が中小企業だった。一方、中国から調達している企業の約 7 割は他の国・地域からも調達しており、その他の調達先としては ASEAN を挙げる企業が 4 割強で最も多かった[1]。
今後の動きについては、今後 1〜2 年でサプライチェーンの見直し・再編を「実施する」企業が 9.0%、「検討する」企業が 17.8% で、合わせて約 4 分の 1 だった。情報通信機械・電子部品と自動車・同部品・輸送機器では約 4 割が実施または検討と答えている[1]。自由記述には、中国依存度の高い原料の見直しや、ベトナム周辺国からの部品調達を進める声がある一方で、コスト削減のために中国からの調達を広げる声もある[1]。移す方向だけが進んでいるわけではない。
新しい調達先で重視されていること
同じ調査は、地政学リスクが調達に影響している(懸念がある)と答えた企業に、新しい調達先を検討するときに重視する要素を聞いている[1]。
| 重視する要素(複数回答) | 全体(n=1,102) | 大企業(n=171) | 中小企業(n=931) |
|---|---|---|---|
| 品質の高さ | 65.5% | 77.2% | 63.4% |
| 価格の安さ | 64.9% | 77.2% | 62.6% |
| 地政学リスクが相対的に低い(安定性) | 52.1% | 64.9% | 49.7% |
| 生産地・販売先への近さ(輸送コスト) | 48.6% | 60.2% | 46.5% |
| FTA などの制度上のメリット | 27.3% | 41.5% | 24.7% |
| 米国の関税措置の影響が小さい | 12.9% | 25.7% | 10.5% |
品質と価格に次いで、安定性と近さが半数前後で並ぶ。FTA の利点は大企業では 4 割を超えるが、中小企業では 4 社に 1 社程度にとどまる[1]。協定の税率を使えるかどうかは、移す先を決める前に確かめておく価値がある。原産地規則の確かめ方は 原産地規則と EPA の記事で扱う。
分けたつもりで、分かれていないことがある
内閣府の事業継続ガイドラインは、調達・供給の対策として、調達先の複数化や代替調達先の確保を挙げている。そのうえで、複数の調達先が同時に被災する場合や、2 段階以上先の調達先が同じで、そこが被災する場合にも留意するよう書いている[2]。チャイナプラスワンに置き換えると、次のような状態が「分けたつもり」になる。
- 2 社目の材料が 1 社目と同じ国から来ている。組立をベトナムに移しても、樹脂や電子部品が中国の同じメーカーから入っていれば、材料の段階で止まる
- 2 社目が 1 社目の関連会社や下請けである。名前は別でも、工程の一部を同じ工場で行っていることがある
- 2 社目に発注を流していない。承認だけして注文を出さないと、いざというときに量産の体制も人も残っていない
対策は、2 社目の審査で材料の調達元と工程の外注先まで聞き、図面に指定した材料のメーカー・産地を一覧にしておくことである。ガイドラインは、代替調達をしやすくするために汎用部品を使うなど、設計仕様の段階で考えておくことも挙げている[2]。調達だけでは片付かないので、設計・品質と一緒に決める。
2 社目を立てるのにかかる費用
調達先を分けると単価が下がる、と考えて始めると見誤る。1 社あたりの数量が減れば、型代や段取りの費用を割る数が減り、単価はむしろ上がりうる。分散は保険であり、保険料がかかるものとして予算を立てる。
1. 審査と承認の費用。新しい仕入先の審査(新規仕入先をどう審査するか)、量産前の承認の提出物と評価(量産承認で仕入先に何を出させるか)、現地の監査の出張費。
2. 型・治具の費用。型を移すか、もう一面作るか。移す場合は輸送と再調整、作る場合は型代そのもの。
3. 在庫の費用。切り替えの間の重複在庫と、輸送日数が延びる分の在庫。
4. 単価差。数量の分割による単価の上昇と、物流費・関税の差。
5. 管理の手間。品番ごとに 2 社分の図面・規格の版・検査基準を維持する工数。
これらを品目ごとに見積もり、止まったときの損失(売上の逸失、顧客への納期遅延)と比べて、分ける品目を絞る。全品目を 2 社にする必要はない。
2 社にどう配分するか
2 社目を承認した後の配分は、平時の効率と非常時の切り替えやすさの兼ね合いで決まる。決め方の目安を、品目の性格ごとに整理しておく。
型や専用設備が要る品目は、2 社目に型を持たせるかどうかで配分が変わる。型を 1 面しか持たないなら、2 社目は「承認済みで、型を移せば作れる」状態にとどまり、切り替えには型の輸送と再調整の期間がかかる。この期間を在庫で埋めるのか、型をもう 1 面作るのかを、止まったときの損失と比べて決める。
汎用品や標準品は、2 社に継続して発注を分けやすい。割合を固定するより、品質と納期の実績で毎期見直す方が、2 社目の改善を引き出しやすい。
材料の調達元が同じ品目は、配分を変えても材料の段階のリスクは残る。この場合は、材料の在庫を持つ場所を分ける、材料メーカーの複数化を仕入先に求める、といった手当てを配分とは別に考える。
どの品目でも、仕入先との連携が配分を支える。事業継続ガイドラインは、調達先との連携として、在庫の持ち合い、調達先の事業継続能力の把握、事業継続の取組の実施の要請や支援、共同訓練、さらにその先の調達先企業の事業継続能力の把握を求めることを挙げている[2]。2 社目の審査で、止まったときに何日で再開できるか、材料の在庫を何日分持っているかを聞いておくと、配分と在庫の量を決める根拠になる。
国内の仕入先から移すときに守ること
調達先を分ける過程で、国内の仕入先への発注が減ったり止まったりすることがある。その仕入先が取適法の対象になる取引先なら、移す側の手続にも決まりがある。
いちばん起きやすいのは型の扱いである。公正取引委員会のテキストは、部品の発注を長い間行わないといった事情がある型を仕入先に保管させる場合、仕入先からの請求の有無にかかわらず、廃棄・回収するか保管を続けるかを協議し、保管期間中に生じた保管費用を払わなければならないとしている。型を仕入先が所有していても、廃棄に発注側の承認が要るなど事実上管理している場合は同じ扱いになる[3]。海外に移した品番の型を国内の仕入先に置いたままにしない。型と保管費用の扱いは 有償支給材と金型代の記事で詳しく書いた。
移すことを理由に、残る品番の単価を発注側だけで決め直すこともできない。コストの上昇などで仕入先が価格の協議を求めてきたときに、協議に応じなかったり必要な説明をしなかったりして代金を決めることは、取適法の禁止行為の一つである(第 5 条第 2 項第 4 号)[3]。
移した先の「原産地」が変わるとは限らない
調達先を移す理由が関税なら、移した後の品がどこの原産になるかを確かめておく。EPA では、第三国の材料を使っていても、品目別規則が求める実質的な変更があれば原産品と認められる[4]。一方、米国の追加関税については、ジェトロが「中国で作っていた最終製品の部品を日本に輸入して組み立てる」といった例を挙げ、単純な組立をしただけでは原産地は変わらないと判断されるケースが大半だと注意を促している[6]。
税率そのものも、国を変えれば下がるとは限らない。2026 年 7 月 24 日から米国が課している通商法 301 条の関税は、中国・ベトナム・タイなどが 12.5%、インドネシア・マレーシアなどが 10% で、日本は一般関税率と合わせて 12.5% が基準になっている[5]。中国の原産品には、品目によってこれとは別の 301 条関税もかかる[7]。米国向けの品について、移した先の税率を品目ごとに比べてから判断する。関税の変動を契約でどう吸収するかは 米国の関税措置と購入契約の記事で扱う。
進め方——品目を選び、2 社目を育て、流し続ける
1. 対象の品目を選ぶ。中国 1 社にしか頼っていない品目のうち、止まったときの影響が大きく、代わりが効きにくいものから。経済安全保障の観点で国が指定している物資に当たるかも見る(経済安全保障推進法の特定重要物資と調達先の把握)。
2. 材料と工程の出どころを確かめる。2 段階先の調達先まで聞き、1 社目と重なっていないかを見る[2]。
3. 仕様をそろえる。図面・規格の版、検査基準、梱包を 2 社で同じにする。2 社目のために仕様を緩めるなら、その判断を記録に残す。
4. 承認してから、少量でも流し続ける。割合を決めて発注を続け、品質と納期の実績を取る。実績の測り方は サプライヤー評価の項目と点数化を参照。
5. 見直しの時期を決める。為替・関税・相手国の事情で前提が変わるので、年に一度は費用と効果を計算し直す。
よくある質問
国内に戻すのとどちらがよいか
品目による。輸送の近さや安定性を重視するなら国内も候補になる。国内に生産や調達を移すときの考え方は 国内回帰と部材の調達先の組み直しの記事で扱う。
中国の仕入先に、他国の工場を使ってほしいと頼むのはどうか
中国系の仕入先が ASEAN に持つ工場へ移す方法もある。ただし材料が中国から来るなら、材料の段階で止まるリスクは残る。原産地の判断も、組立の場所だけでは決まらない[6]。
2 社目への発注は、どれくらい流せばよいか
決まった割合はない。目安は、2 社目の工程と人員が維持され、品質と納期の実績が評価に足るだけ取れる量である。1 社目が止まったときに 2 社目へ寄せられる上限の量も、承認の段階で聞いておく。
まとめ
海外から主要部材を調達する企業の 6 割超が中国から買っており、同じく海外から調達する企業の約 2 割は海外の調達先が中国だけである[1]。調達先を分けるのは基本の対策だが、2 段階先の調達先が同じなら分けたことにならない[2]。2 社目を立てる費用と単価の上昇を保険料として見込み、品目を絞って始め、承認した後も発注を流し続ける。国内の仕入先から移すときは型の保管費用と協議の義務を守り[3]、関税が理由なら移した先の原産地と税率を確かめる[5][6]。この順で進めれば、分散が途中で止まることも、移した後に想定外の費用が出ることも減らせる。
出典・参考資料
- 2025年度 ジェトロ海外ビジネス調査 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本貿易振興機構 調査部/2026 年 3 月)
- 事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(内閣府 防災担当/令和 5 年 3 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 原産地規則の概要(財務省関税局・税関/2024 年 7 月)
- 米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2026 年 7 月 24 日)
- 米国関税措置に関連する留意点 ~意図せず不正行為を行わないために~(日本貿易振興機構/2026 年 2 月)
- 米国トランプ政権の関税政策の要旨(日本貿易振興機構/2026 年 8 月 26 日)
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