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国内回帰(生産拠点の国内移転)と、部材の調達先の組み直し

この記事のポイント(結論先出し)
日本政策投資銀行の 2026 年度設備投資計画調査(2026 年 8 月 4 日公表)では、大企業の国内設備投資は前年比 19.7% 増の計画で、海外投資よりも国内投資の伸びが上回り、海外設備投資比率の低下が続く見込みとされた[2]。生産を国内に戻すと、調達の側では仕入先の顔ぶれだけでなく、取引のルールそのものが変わる。国内の仕入先の多くは取適法の対象になりうるため、発注内容の明示、受領日から 60 日以内の支払期日(公取委は 2 か月以内として運用しており、月末締め翌月末払いは遅延扱いしていない)、価格協議への対応が義務として加わる[4]。また、組立を国内に移しても材料や部品が海外から来るなら、その段階のリスクは残る[3]。国内回帰は、2026 年 10 月時点の公表資料で見る限り、人手不足と物価高を抱えた国内の仕入先に新しい仕事を頼むことでもある[2]。
目次
国内回帰は、どのくらい起きているか
「国内回帰」という言葉は広く使われるが、どこまで進んでいるかは公表された調査で確かめる必要がある。日本政策投資銀行(DBJ)の 2026 年度設備投資計画調査によれば、大企業の 2026 年度の国内設備投資は前年比 19.7% 増で、前年度計画の伸び(14.3% 増)を上回った。製造業は AI・データセンター関連の投資拡大で二桁増の計画である。同じ調査は、多くの企業がコストカット重視の効率的なサプライチェーンから、よりレジリエントな(止まりにくい)サプライチェーンを志向しており、海外投資よりも国内投資の伸び率が上回って海外設備投資比率の低下が続く見込みだとしている[2]。
ジェトロの 2025 年度の企業アンケート(2025 年 11〜12 月、有効回答 3,369 社)にも、国内に寄せる動きを示す自由記述がある。事業継続の観点から一部を国内調達に切り替えた、品質と円安の影響から海外調達を止めて国内調達に移行中、中国の生産比率を徐々に減らして国内生産を増強する、といった声である[1]。一方で、同じ調査には、国内の仕入価格の高騰を受けて海外調達を検討する声や、日本のコスト環境では成り立たず現地生産に切り替えるという声も並んでいる[1]。国内回帰は一方向の流れではなく、品目ごとに損得を比べた結果として起きている。
海外調達と国内調達で、何が変わるか
海外の仕入先から国内の仕入先に切り替えるとき、購買の業務で変わる点を並べておく。
| 項目 | 海外の仕入先 | 国内の仕入先(取適法の対象となる場合) |
|---|---|---|
| 発注内容の明示 | 契約と取引条件の合意による | 発注の都度、書面または電磁的方法で明示する義務 |
| 支払期日 | 契約で決める(前払い・信用状などもある) | 受領日から起算して 60 日以内(受領日を算入)。運用上は 2 か月以内として扱われる |
| 価格の見直し | 契約と交渉による | 協議を求められたら応じ、必要な説明をする義務 |
| 使わない型の保管 | 契約による | 廃棄・回収・保管継続を協議し、保管費用を払う |
| 関税・為替・輸送日数 | 価格と納期に直接効く | 部材が輸入品なら間接的に効く |
表の国内の列は、公正取引委員会・中小企業庁の取適法テキストにある義務・禁止行為に基づく[4]。取引先が対象になるかどうかは資本金と従業員数、取引の内容で決まり、判定の手順は 自社の取引は取適法の対象かで書いた。
発注の書き方を、国内の義務に合わせて直す
海外の仕入先向けに作っていた発注の様式を、そのまま国内に使うと義務を満たさないことがある。取適法は、委託事業者が発注した場合に、給付の内容、代金の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法で直ちに明示することを求めている[4]。支払期日は、給付を受領した日から起算して 60 日以内(受領日を算入)の期間で、できる限り短く定めなければならない[4]。
海外取引では、出荷基準や船積み書類の到着を起点に支払条件を決めていることが多い。国内の仕入先に切り替えた品目でこれを引き継ぐと、起算の基準が受領日とずれる。なお、公取委は「受領後 60 日以内」を「受領後 2 か月以内」として運用しており、毎月末締め・翌月末払いの制度で受領から 61 日目や 62 日目の支払になる場合も、支払遅延として問題とはしていない[4]。起算日と遅延利息の考え方は 支払期日は受領日から 60 日の記事を参照してほしい。
国内の仕入先の事情を、先に聞く
国内に仕事を戻すとき、受け皿になる仕入先の側にも事情がある。DBJ の調査は、中東情勢などによる調達リスクのほか、物価高と人手不足を企業のリスクとして挙げ、中堅企業では中東情勢や物価上昇、人手・後継者不足を大企業よりも強くリスクとして認識しているとしている[2]。
人件費の前提も変わっている。厚生労働省が公表している令和 8 年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で 1,177 円(改定前 1,121 円)で、発効日は都道府県によって 2026 年 10 月 1 日から 12 月 2 日まで分かれている[5]。国内で新たに頼む仕事の見積は、改定後の人件費を前提にしているかを確かめる。最低賃金の改定と値上げ要請への向き合い方は 最低賃金の引上げと仕入先からの値上げ要請の記事で扱う。
新しく頼む仕入先には、少なくとも次の点を見積の前に聞いておく。
- 受けられる量と立ち上げ時期。設備と人員の余力。増産のために人を採用する前提なら、その見通し
- 事業の継続性。後継者の有無、主要設備の更新時期。兆候のつかみ方は 仕入先の廃業・後継者不在の記事で扱う
- 材料の調達元。材料や下請けの加工を海外に頼っていないか
- 価格の前提。人件費・電気料金・材料費をどの時点の水準で見ているか
審査の全体の進め方は 新規仕入先をどう審査するかにまとめてある。
組立を戻しても、部材は海外のままのことがある
内閣府の事業継続ガイドラインは、調達先を複数化するときの注意として、複数の調達先が同時に被災する場合や、2 段階以上先の調達先が同一で、そこが被災する場合にも留意するよう書いている[3]。国内回帰でも同じことが起きる。最終の組立を国内に移しても、電子部品や樹脂、特殊な材料が以前と同じ海外のメーカーから来るなら、そこで止まったときの影響は変わらない。
そのため、国内に移す品目は、部品表の階層を下りて、どの材料・部品が海外依存のまま残るかを洗い出す。残るものについては、在庫の持ち方や代替の材料を設計と一緒に考える。ガイドラインは、汎用部品を使うなど設計仕様の段階で代替調達をしやすくすることも挙げている[3]。
移す理由が米国向けの関税であれば、国内で行う工程によって原産地が変わるかも確かめる。単純な組立だけでは原産地は変わらないと判断されるケースが大半だと、ジェトロは注意を促している[6]。関税と契約の扱いは 米国の関税措置と購入契約の記事を参照。
単価ではなく、届くまでの総費用で比べる
国内の仕入先の見積は、海外の見積より単価が高く出ることが多い。比べるときは、単価の差だけで判断せず、品が自社に届いて使えるようになるまでの費用をそろえて並べる。並べる項目の例は次のとおりである。
- 輸送費と関税。海外品は海上・航空の運賃、通関の費用、関税がかかる。国内品は国内の運賃が中心になる
- 在庫の費用。輸送日数が長いほど、途中と手元に置く在庫が増える。発注から入荷までの日数の差を、在庫の金額に置き換えて比べる
- 品質の費用。受入検査の工数、不良が出たときの交換や選別にかかる日数
- 管理の費用。英文の書類、為替の管理、現地への出張
- 止まったときの損失。輸送の遅れや相手国の事情で止まる可能性を、止まった日数あたりの損失で見積もる
この比べ方は、国内回帰に限らず調達先を移すときに共通して使える。過去の購入単価と見積を比べるときの補正の考え方は、届いた見積を過去の購入単価と比べるで扱った。
量産を始める前の承認をやり直す
同じ図面で作ってもらうとしても、作る会社が変われば、工程も設備も検査の方法も変わる。国内の仕入先に切り替える品目は、新規の品目と同じように量産前の承認をやり直す。海外の仕入先で積み上げた検査記録や不具合の履歴は、新しい仕入先と最初に合意する検査項目や合否の基準の材料になる。何を出させて承認するかは 量産承認で仕入先に何を出させるかを参照してほしい。
材料を自社で買って支給する形にする場合は、支給する材料の品名・数量・対価・引渡しの期日・決済の期日と方法も発注の際に明らかにしておく。有償で支給した材料の対価を、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに、その材料を使った品の代金の支払期日より早い時期に支払わせたり代金から差し引いたりして、仕入先の利益を不当に害すると、取適法の禁止行為に当たる(第 5 条第 2 項第 1 号)[4]。仕入先が支給材を壊した、不良品を作った、転売したといった場合は「責めに帰すべき理由」に当たりうる。そうでない限り、納入品の代金の支払と支給材の対価の決済が見合いで相殺される時期に揃えておく[4]。
海外の仕入先との取引を閉じるときの手順
国内に移すときは、海外の仕入先との取引を終える側の手続も要る。終え方を誤ると、残った在庫・型・未払いの精算で揉める。
1. 最終発注の数量と時期を決めて通知する。切り替えの間の在庫を見込んで、最後の発注の時期を相手に早めに伝える。
2. 型・治具・支給品の扱いを決める。自社所有の型を引き取るのか、廃棄するのか。引き取るなら輸送と通関の段取りも要る。
3. 未出荷・仕掛品の精算。発注済みで未出荷のものをどう扱うか、契約の解約条項を確かめる。
4. 品質の記録を引き取る。検査記録や変更の履歴は、国内の仕入先で同じ品を作るときの比較の基準になる。
移す先が国内の仕入先で、元の発注先も国内にある場合は、使わなくなった型の保管費用を払う義務がある点に注意する。部品の発注を長い間行わない事情がある型を保管させる場合は、請求の有無にかかわらず、廃棄・回収か保管継続かを協議し、保管期間中の費用を払わなければならない[4]。
進め方
1. 品目を選ぶ。輸送の近さ、品質の安定、関税の影響など、国内に寄せる理由がはっきりしている品目から。全量を戻すか、一部を国内の 2 社目にするかも決める。調達先を分ける考え方は チャイナプラスワンの記事と共通する。
2. 総費用で比べる。単価だけでなく、輸送・関税・在庫・管理の手間を含めて比べる。国内の単価が高く見えても、在庫と輸送日数の短縮で差が縮まることがある。
3. 発注の様式と支払条件を国内用に直す。明示の項目と、受領日から 60 日以内の支払期日[4]。月末締め翌月末払いの制度はそのまま使えるが、起算を出荷日や書類の到着日から受領日に置き換える。
4. 仕入先の余力と継続性を確かめてから量を決める。
5. 部材の海外依存を洗い出す。2 段階先まで[3]。
よくある質問
国内に戻すと、仕入先から値上げを求められやすいか
人件費や電気料金の上昇を理由とする申し入れは、国内の仕入先からも来る。取適法の対象になる取引では、仕入先からの価格協議の申し出に応じなかったり、必要な説明をしないまま発注側だけで代金を決めたりすることが禁止行為に当たる(第 5 条第 2 項第 4 号)[4]。申し入れの受け方は 値上げの申し入れが来たらで書いた。
海外の仕入先は残しておくべきか
止まったときの代わりとして、承認を維持したまま少量の発注を続ける方法もある。国内の仕入先の余力が限られている品目では、とくに検討する価値がある。
まとめ
大企業の国内設備投資は 2026 年度に二桁の伸びが計画され、止まりにくいサプライチェーンを志向する動きが続いている[2]。生産を国内に戻すと、調達では仕入先が変わるだけでなく、明示・支払期日・価格協議・型の保管といった国内の取引のルールが加わる[4]。受け皿になる国内の仕入先は人手不足と物価高を抱えており[2]、組立を戻しても部材が海外のままなら、その段階のリスクは残る[3]。品目を選び、総費用で比べ、発注の様式を直し、仕入先の余力と部材の出どころを確かめてから量を決める。この順を踏めば、国内回帰を一時の判断で終わらせずに済む。
出典・参考資料
- 2025年度 ジェトロ海外ビジネス調査 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本貿易振興機構 調査部/2026 年 3 月)
- 「2026年度 設備投資計画調査」について(日本政策投資銀行/2026 年 8 月 4 日)
- 事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(内閣府 防災担当/令和 5 年 3 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)
- 米国関税措置に関連する留意点 ~意図せず不正行為を行わないために~(日本貿易振興機構/2026 年 2 月)
国内に戻すときの取引のルールを、実務の形で押さえる
NEWJI総研は、調達・購買を中心に製造業の実務・法令・規格・市場動向を調べ、研修テキスト、実務書式、法令・規格の改訂対応、実務トレンドレポートの棚にまとめて出している調査の場です。取適法については法令改訂対応の棚もあります。
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