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価格交渉促進月間とフォローアップ調査——発注側はどう評価されるか

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の整理である。中小企業庁は 2021 年 9 月から毎年 9 月と 3 月を「価格交渉促進月間」とし、月間のあとに受注側の中小企業へフォローアップ調査を行っている[1]。調査は受注側から見た発注者の評価であり、回答は発注者に知られないよう匿名で集計され、発注者ごとの評価をまとめた「発注者リスト」が公表される。状況の芳しくない発注者には、振興法に基づき事業所管大臣名で経営陣あてに指導・助言が行われる[1]。2026 年 3 月の月間についての調査では、価格転嫁率は 54.2%(原材料費 55.7%、労務費 50.0%、エネルギーコスト 48.9%)だった[2]。発注側が整えるのは、申し入れを待たずに協議の場を作ること、転嫁しない部分の理由を説明すること、支払条件を点検すること、調達担当者が価格転嫁に応じても評価で不利にならない仕組みを作ることの 4 つである。
目次
月間は何のためにあり、いつ何が起きるのか
経済産業省の説明では、価格の改定は半期に一度、4 月と 10 月に行う企業が比較的多いことから、その前月の 3 月と 9 月を価格交渉促進月間とし、広報や講習会、フォローアップのための調査を行っている[2]。中小企業庁は、エネルギー価格や原材料費、労務費が上昇するなかで中小企業が価格転嫁しやすい環境を作るため、2021 年 9 月から月間を設けていると説明する[1]。
月間に合わせて中小企業庁が発注者に向けて出しているメッセージは、誠実に協議を行うことと、直接の取引先のその先まで考慮した価格決定を行うことである[1]。振興基準も、毎年 9 月と 3 月の月間の機会をとらえるなどして、委託事業者と中小受託事業者が少なくとも年 1 回以上の協議を行うものとしている[5]。振興基準の全体像は振興基準の改正で、発注側に求められていることで扱う。
1 回の月間について、流れはおおむね次のとおりである。月間の前に中小企業庁から周知文が出され、月間の後に調査票が配られ、数か月後に調査結果、さらにその後に発注者リストが公表される。2025 年 9 月の月間では、調査結果の公表が 2025 年 11 月 28 日、発注者リストの公表予定が 2026 年 1 月中下旬、状況が芳しくない発注者への注意喚起や事業所管大臣名での指導・助言が 2026 年 2 月以降とされていた[3]。2026 年 3 月の月間では、調査結果が 2026 年 6 月 26 日に公表され[2]、発注者リストは 2026 年 8 月 4 日付で掲載されている[1]。2026 年 9 月の月間についても、中小企業庁は 9 月 18 日付で調査への協力を呼びかけている[1]。
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調査は誰に、何を聞いているか
2026 年 3 月の月間についての調査は、受注側の中小企業 30 万社に配布され、2026 年 4 月 20 日から 6 月 3 日までに 69,625 社が回答した。回答から抽出される発注側企業は延べ 91,233 社である[2]。主な調査項目は、主な発注企業との価格交渉・価格転嫁の実施状況、業種別・都道府県別の価格転嫁率、価格転嫁に関する発注企業の説明の状況、取引階層と価格転嫁の関係、支払手段・支払期日・支払手数料の負担状況、官公需での価格交渉・転嫁の状況である[2]。
ここで押さえておきたいのは、回答しているのが受注側だという点である。発注側が「協議した」と思っていても、受注側が「協議の場がなかった」「説明に納得できなかった」と答えれば、その答えが評価の材料になる。中小企業庁は、回答が発注者に知られないよう匿名性の確保を徹底して集計すると明記し、アンケートに加えて取引Gメンによるヒアリング調査も行っている[1]。取引Gメンの聞き取りについては取引Gメンの聞き取りで、発注側が備えることにまとめる。
直近 2 回の結果を並べる
次の表は、2025 年 9 月と 2026 年 3 月の月間についての調査結果から、発注側の運用に関係する数字を並べたものである。いずれも受注側中小企業の回答による。
| 項目(受注側の回答) | 2025 年 9 月の月間[3] | 2026 年 3 月の月間[2] |
|---|---|---|
| 回答企業数 | 69,988 社 | 69,625 社 |
| 価格転嫁率(全体) | 53.5% | 54.2% |
| 原材料費の転嫁率 | 55.0% | 55.7% |
| 労務費の転嫁率 | 50.0% | 50.0% |
| エネルギーコストの転嫁率 | 48.9% | 48.9% |
| 官公需の価格転嫁率 | 52.1% | 48.4% |
| 支払期日が 60 日を超えている企業の割合 | 7.2% | 6.6% |
| 支払手数料を受注側が負担している | 約 3 割 | 約 2 割 |
| 全額転嫁に至らなかった企業のうち、発注企業から「納得できる説明があった」 | 約 6 割 | 約 6 割 |
表に入れなかった数字がある。2025 年 9 月の結果では「発注側企業から申し入れがあり、価格交渉が行われた割合」が 34.6% とされ[3]、2026 年 3 月の結果では「価格交渉が行われた」割合が 90.7% とされている[2]。前者は発注側からの申し入れに限った数字、後者は交渉の有無そのものの数字で、同じ物差しではない。並べて「交渉が 3 倍近くに増えた」と読むのは誤りである。
表から読み取れるのは、交渉が行われても転嫁率は 5 割台で、労務費とエネルギーコストの転嫁がとくに進みにくいこと、そして全額の転嫁に至らなかった受注側のうち約 4 割は「納得できる説明があった」とは答えていないことである[2]。さらに、受注企業の取引階層が深くなるほど価格転嫁の割合が低くなる傾向は続いており、1 次請けと 4 次請け以上の差は縮小したとされる[2]。
業種別・都道府県別・労務費の結果をどう読むか
調査結果には業種別と都道府県別の集計が付く。2025 年 9 月の月間についての結果では、都道府県別の価格転嫁率のランキングが初めて公表され、上位と下位で 10% 以上の差があった[3]。2026 年 3 月の月間についての結果では、その差が 20% 以上と示され、業種別のランキングに警備業とビルメンテナンス業が新たに加わった[2]。発注側にとっては、仕入先の所在地や業種によって、価格転嫁が進んでいる地域・業種とそうでない地域・業種があることを示す材料になる。同じ部品を複数の地域の仕入先から買っている場合、遅れている側の仕入先ほど、申し入れをためらっている可能性がある。
労務費については、2025 年 9 月の月間についての結果で、価格交渉が行われた企業の 7 割超が「労務費についても価格交渉が実施された」と答え、労務費の転嫁率は初めて 50% に達した[3]。それでも 2026 年 3 月の時点で 50.0% にとどまっている[2]。振興基準は、委託事業者と中小受託事業者が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に掲げる行動をとったうえで取引対価を決め、指針別添の「価格交渉の申込み様式」も活用して労務費の上昇分を転嫁できるよう協議するものとし、とくに最低賃金の引上げや人手不足への対処など外的要因による労務費の上昇があった場合はその影響を十分に踏まえるものとしている[5]。最低賃金の引上げを理由とする申し入れへの向き合い方は最低賃金の引上げと、仕入先からの値上げ要請で扱う。
発注者リストと大臣名の指導・助言
中小企業庁は、各月間のあとに価格転嫁率や業界ごとの結果、順位付けなどをとりまとめ、状況の芳しくない発注者に事業所管大臣名で指導・助言を行うと説明している[1]。指導・助言の対象は振興法に基づいて拡大され、相手は発注者の経営陣であり、経営陣から調達部門へ改善を指示させる形をとる[1]。2026 年版の中小企業白書も、令和 8 年度に講じる施策として、フォローアップ調査結果に基づく「発注者リスト」の公表と事業所管大臣による行政指導を挙げている[4]。
経営陣に届くということは、調達部門の判断が経営の評価に直結するということである。経済 3 団体が 2026 年 1 月に出した共同要請も、経営者が先頭に立って取引適正化に取り組むことを求め、調達部門などの実務者が価格転嫁を受け入れても不利益を被ることのない人事評価制度の整備に努めるよう呼びかけている[6]。
月間に合わせた調達の段取り
月間は受注側が申し入れをしやすくするための期間だが、発注側が受け身で待つ期間ではない。振興基準は年 1 回以上の協議を求め、その機会として 9 月と 3 月の月間を挙げている[5]。調達部門としては、月間を軸に次のような年間の段取りを決めておくと、自社の運用に組み込める(実務の提案)。
| 時期 | やること | 残すもの |
|---|---|---|
| 2 月・8 月 | 主要な仕入先の一覧を作り、前回の単価改定日と当時の前提(材料・人件費・電力)を確認する | 仕入先ごとの改定履歴 |
| 3 月・9 月 | 発注側から協議の場を案内し、申し入れがあれば社内期限内に一次回答する | 案内文、協議の日付と出席者 |
| 4 月・10 月 | 合意した単価を発注に反映し、転嫁しなかった部分は理由を書面で伝える | 回答書、単価の適用開始日 |
| 調査結果の公表後 | 業種別の結果と自社の運用を比べ、支払期日・支払手段・手数料を点検する | 点検結果と是正の記録 |
申し入れを受けてからの具体的な受け方は仕入先から値上げの申し入れが来たらに、それぞれの時期にやる協議・支払・型の中身を振興基準の規定ごとに点検する表は振興基準の改正で、発注側に求められていることに、取適法でいう買いたたきや協議に応じない一方的な代金決定との関係は買いたたきとは何かにまとめてある。表の 3 段目の「理由を書面で伝える」は、振興基準が、引上げを求められたのに転嫁しない理由を書面等で回答せず価格を据え置くことを、買いたたきに該当するおそれがある決め方として挙げていることに対応する[5]。
支払条件も評価の対象になっている
調査は価格だけでなく支払も見ている。2026 年 3 月の月間の結果では、支払手段を「現金のみ」とした回答が 87.5% まで増えた一方、支払期日が 60 日を超えている企業の割合が 6.6% 残った[2]。2025 年 9 月の結果では、手形等の利用があって手形サイトが 60 日を超えている企業が 6.1% あった[3]。手形・小切手の交換は 2027 年 3 月末に廃止されるので、支払手段の切り替えは紙の約束手形の廃止に向けてで確かめてほしい。支払期日の数え方は支払期日は受領日から 60 日で扱っている。
よくある質問
取引先が調査票に自社のことをどう書いたか、知ることはできますか
中小企業庁は、回答が発注者に知られないよう匿名性の確保を徹底して集計すると明記している[1]。発注側が知ることができるのは、公表される発注者リストや業種別の集計といった形の結果である。取引先に回答内容を尋ねることは避けたい。
調査票は誰に届くのですか
受注側の中小企業に届く。中小企業庁の案内は、調査依頼のはがきを受け取った事業者に回答を求める形になっている[1]。発注側に調査票は届かないので、自社がどう評価されているかは公表を待つことになる。
中小企業庁の事業はどのくらいの規模ですか
中小企業白書によれば、価格交渉促進月間の実施や発注者リストの公表、取引Gメンによるヒアリングなどを行う中小企業取引対策事業の予算は、令和 8 年度当初予算 30 億円と令和 7 年度補正予算 7.6 億円である[4]。
まとめ
価格交渉促進月間は毎年 9 月と 3 月にあり、その後のフォローアップ調査で、受注側の中小企業が匿名で発注者を評価する[1]。2026 年 3 月の月間では価格転嫁率 54.2%、労務費とエネルギーコストは 5 割前後にとどまり[2]、状況の芳しくない発注者には大臣名で経営陣あてに指導・助言が行われる[1]。発注側が整えるのは、申し入れを待たずに協議の場を作る段取り、転嫁しない部分の理由を書面で返す運用、支払期日と支払手段の点検、そして調達担当者が価格転嫁に応じても評価で不利にならない仕組みの 4 つである[5][6]。
出典・参考資料
- 価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果(中小企業庁/2026 年 9 月 18 日更新)
- 価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します(経済産業省/2026 年 6 月 26 日)
- 価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査の結果を公表します(経済産業省/2025 年 11 月 28 日)
- 2026年版 中小企業白書 官公需も含めた価格転嫁・取引適正化の更なる徹底(中小企業庁)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 「パートナーシップ構築宣言」の実効性向上に向けて(日本経済団体連合会・日本商工会議所・経済同友会/2026 年 1 月 15 日)
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