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紙の約束手形の廃止に向けて——支払手段をどう切り替えるか

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の整理である。電子交換所での手形・小切手の交換は 2027 年 3 月 31 日に廃止される。これを受けて多くの金融機関が 2026 年 9 月 30 日を手形・小切手の最終振出期限とし、その金融機関では 10 月 1 日以降に振り出された手形・小切手は原則として当座勘定から支払われない[1][2]。取適法の対象取引では 2026 年 1 月 1 日以後の発注から手形払自体が禁止され[6]、2027 年 4 月 1 日からは独占禁止法上の「支払告示」で、取適法の対象外の製造委託等でも受領から 60 日以内の支払が原則になる[3][4]。告示から外れるのは、取引上の地位が委託事業者に劣っていないと認められる受託事業者との取引だけで、事業規模が同じくらいというだけでは外れない[5]。切り替え先は振込か、満期日が支払期日以前に来る電子記録債権・一括決済である。切り替えの際に割引料相当を代金から差し引くと、取適法では減額になる[6]。
目次
2026 年 10 月時点で押さえる日付
紙の手形の廃止は、銀行の手続、取適法、独占禁止法の告示という 3 つの流れが重なっている。日付を一度に並べると次のとおりである。
| 日付 | 起きること | 対象 |
|---|---|---|
| 2026 年 1 月 1 日 | 取適法施行。同日以後の発注に係る代金の支払に手形を交付することが禁止[3] | 取適法の対象取引 |
| 2026 年 9 月 30 日 | 最終振出期限の設定を公表している金融機関の多くがこの日を期限とし、10 月 1 日以降に振り出された手形・小切手は原則として当座勘定から支払われない[2] | その金融機関に当座勘定を持つ振出人と、その手形を受け取る側 |
| 2027 年 3 月 31 日 | 電子交換所における手形・小切手の交換を廃止[2] | 手形・小切手を使うすべての事業者 |
| 2027 年 4 月 1 日 | 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(支払告示)施行。受領から 60 日を経過してなお支払わないことを禁止[4] | 取適法の対象外も含む製造委託等 |
最終振出期限は金融機関ごとに違う。全国銀行協会は各金融機関の期限を一覧にして掲載しているが、公表と同時に反映されるわけではないので、一覧の時点を確かめるよう注意書きを付けている[2]。自社の取引銀行と、手形を受け取っている顧客の取引銀行の期限は、それぞれ確かめる必要がある。
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手形を「振り出す側」と「受け取る側」の両方を見る
製造業の調達部門は、仕入先に手形を振り出す側であると同時に、営業部門が顧客から手形を受け取る側でもあることが多い。両方を点検しないと、支払を振込に切り替えたのに、受け取った手形の資金化で詰まるということが起きる。
受け取る側の注意点について、全国銀行協会は、最終振出期限が設定されている場合、その期限以降に振り出された手形・小切手を受け取った事業者は資金化できない場合があると書いている[1]。さらに、多くの金融機関が 2027 年 3 月を待たずに取扱いを縮小する動きを示しており、手形帳・小切手帳の発行終了や、2027 年 4 月以降を期日とする手形等の代金取立受付の終了などが挙げられている[1]。中小企業庁と公正取引委員会が 2026 年 9 月 2 日に金融機関あてに出した要請も、最終振出期限の到来や、他の金融機関を支払地とする手形・小切手の預金入金扱いの停止など、事業者向けサービスに重要な変更が生じることを想定している[3]。
つまり、振出期限前に振り出された手形であっても、満期日が 2027 年 4 月以降に来るものは、受け取った側が取立を受け付けてもらえない可能性がある。顧客から手形で支払を受けている取引は、満期日の位置を一覧にして、顧客と支払手段の変更を早めに協議しておきたい。
取適法の対象取引で禁じられていること
取適法では、代金の支払について手形を交付することは、支払期日を過ぎても「なお支払わないこと」に該当し、違反になる[6]。電子記録債権や一括決済方式を使うこと自体は禁じられていないが、満期日・決済日が支払期日より後に来て受注側が割引を受ける必要があるものや、決済に伴う受取手数料などを受注側が負担するものは、支払遅延に当たる[6]。満期日が支払期日より後に来るものについては、発注側が割引料を負担することにしても、通常は違反になると考えられると説明されている[6]。
手形で支払った場合の遅延利息は、中小受託事業者が割引を受けたかどうかにかかわらず、その手形の満期日を支払日として算定される[6]。支払期日の数え方と支払手段ごとの扱いは支払期日は受領日から 60 日と下請法は取適法になったで詳しく扱っているので、ここでは繰り返さない。
切り替えのときに踏みやすい減額
取適法テキストは、手形で支払っていた委託事業者が、支払期日に現金での支払を希望する中小受託事業者に対しては代金から一定額を割引料として差し引いて支払った例を、代金の減額の違反事例として挙げている[6]。手形をやめて振込に変えるとき、「これまで手形だったのだから、早く現金化する分の金利を引く」という発想で単価や支払額を下げると、減額になりうる。切り替えは支払額を変えずに、支払手段と時期だけを変えるのが原則である。代金の減額の判断は代金を後から下げるにまとめてある。
取適法の対象外の取引も、2027 年 4 月から 60 日
大企業どうしの取引や、資本金・従業員数の区分から外れる取引は取適法の対象外である。ここに 2027 年 4 月 1 日から支払告示がかかる。告示は、取適法第 2 条第 6 項の製造委託等をした事業者(国などを除く)が、その製造委託等を受けた事業者(取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く)に対し、給付を受領した日から起算して 60 日を経過してもなお代金を支払わないことを、正当な理由がある場合を除いて不公正な取引方法として指定している[4]。
公正取引委員会の運用基準は、取引上の地位が劣っていないかどうかを、取引依存度、委託事業者の市場での地位、取引先変更の可能性、その他取引の必要性を示す事実の 4 つを総合して判断するとし、委託事業者より事業規模が小さい事業者が告示に規定する行為を受け入れている場合は、特段の事情がない限り一般に告示の受託事業者に当たるとしている[5]。代金は現金またはこれに準ずる支払手段で支払う必要があり、準ずる支払手段の例として電子記録債権やファクタリング等を挙げている[5]。
取適法と違い、告示には「正当な理由」がある場合の例が示されている。受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合、製造委託等をするに当たって受託事業者と合意して合理的な理由に基づく支払条件を定めた場合、あらかじめ同意を得て遅延による通常の損失を委託事業者が負担する場合である[5]。2 つ目の合意は、委託した後に合意した場合には当たらず、形式だけ整えた合意も認められない[5]。合理的な理由の例としては、高度な精度検査や取付け後の検査のように確認・検査に時間を要する場合などが挙げられている[5]。取適法の対象外の取引で長いサイトの手形を使っている会社は、2027 年 3 月までに支払条件そのものを見直すことになる。
切り替え先をどう選ぶか
中小企業庁と公正取引委員会は 2026 年 9 月 2 日の要請で、委託事業者と受託事業者の間で協議し、電子的決済サービスへの移行などの対応を進めるよう求めている[3]。全国銀行協会も、でんさい等の電子記録債権やインターネットバンキングによる振込などへの切り替えを呼びかけている[1]。次の表は、支払手段ごとの扱いを発注側の目線で並べたものである。
| 支払手段 | 取適法の対象取引での扱い | 発注側が決めておくこと |
|---|---|---|
| 紙の約束手形 | 交付すること自体が支払遅延に当たる[6] | 対象外の取引でも、最終振出期限と 2027 年 3 月の交換廃止までに切り替える |
| 振込(現金) | 支払期日までに満額を振り込めばよい。振込手数料を差し引くと違反[6] | 支払日と手数料の負担を取引先マスタに持つ |
| 電子記録債権(満期日が支払期日以前) | 使用できる。受取手数料等を受注側に負担させれば違反[6] | 満期日の設定ルールと手数料の負担を合意書に書く |
| 電子記録債権・一括決済(満期日・決済日が支払期日より後) | 受注側が割引を要するものは支払遅延。割引料を発注側が負担しても通常は違反[6] | 使わない。既存の設定を洗い出す |
でんさい(全銀電子債権ネットワークが扱う電子記録債権)について、運営会社は、手形と異なり印紙税が課税されないこと、支払期日に受取側の口座へ自動的に入金されること、受取側が債権を分割して譲渡や割引ができることを挙げている[7]。取引先がでんさいを利用しているかどうかを検索できるサービスも用意されている[7]。ただし、取適法の対象取引では、満期日を支払期日以前に置かなければ使えないことは表のとおりである。
振興基準は、代金はできる限り現金で支払い、少なくとも賃金に相当する金額は全額を現金で支払うものとしている[6]。電子記録債権を選ぶ場合でも、全額を置き換えるのではなく、現金との組み合わせ方を取引先と協議しておくとよい。
切り替えの段取り
受注側中小企業への調査では、2026 年 3 月の月間について、支払手段を「現金のみ」とした回答が 87.5% まで増えた一方、支払期日が 60 日を超えている企業の割合が 6.6% 残った[8]。全国銀行協会によれば、手形・小切手の利用枚数はピーク時の約 20 分の 1 に減り、でんさいの利用は 2019 年から 5 年間で約 2.5 倍になっている[1]。残っている手形取引は、慣行として長く続いてきたものが多いと考えられる。次の順で進めると漏れが少ない(実務の提案)。
1. 洗い出す。支払先ごとに支払手段、サイト、手数料の負担を一覧にする。顧客から受け取っている手形も、満期日と顧客の取引銀行を一覧にする。
2. 取引先と協議する。切替日と、切替後の支払日を合意する。支払額は変えない。
3. 資金繰りを確かめる。サイトの短縮は自社の資金繰りに響く。9 月 2 日の要請は、金融機関に対し、サイトの短縮に取り組む事業者からの資金繰り支援の相談に丁寧に応じるよう求めている[3]。
4. 契約を書き換える。基本契約と支払条件の覚書の支払手段・支払日を改める。
5. 記録を残す。取適法の対象取引で電子記録債権や一括決済を使う場合は、受注側が支払期日に満額を受け取れる状態を確保する措置を、7 条の記録に記載する必要がある[6]。
基本契約の支払条項の書き方は基本取引契約書とはで扱っている。パートナーシップ構築宣言の任意記載に手形の廃止を書いている会社は、宣言を出した会社の調達で守ることもあわせて確かめてほしい。振興基準が支払について何を求めているかは振興基準の改正で、発注側に求められていることにまとめた。
よくある質問
2026 年 9 月 30 日より前に振り出した手形は、そのまま使えますか
最終振出期限より前に振り出した手形は、その金融機関の扱いに従う。ただし、電子交換所での交換は 2027 年 3 月 31 日に廃止され[2]、2027 年 4 月以降を期日とする手形等の取立受付を終える金融機関もある[1]。満期日が 2027 年 4 月以降になる手形は、受け取った側が資金化できない可能性を前提に扱ったほうがよい。
大企業どうしの取引なら、手形を使い続けてもよいですか
取適法の対象外でも、2027 年 3 月 31 日で電子交換所の交換が終わる以上、紙の手形は使えなくなっていく[2]。また 2027 年 4 月 1 日からの支払告示は、取引上の地位が劣っていないと認められる相手を除き、規模の要件なしに製造委託等の代金を 60 日以内に支払うよう求める[4][5]。相手が大企業でも、それだけで除かれるわけではない。運用基準は、事業規模が同等以上の相手でも直ちに劣っていないとは認められず、こちらへの取引依存度が高いことなどは劣っていることを示す要素になるとしている[5]。除かれると判断するなら、取引依存度や取引先を変えられる可能性などの根拠を相手ごとに記録しておき、判断がつかない相手は告示がかかる前提で 60 日以内に払う。中小企業庁と公正取引委員会も、取適法と支払告示の対象外の取引を含め、サイトを 60 日以内に短縮し、できる限り現金で支払うよう要請している[3]。
発注から納品まで長い取引はどうすればよいですか
9 月 2 日の要請は、建設工事や大型機器の製造など発注から納品まで長期にわたる取引では、支払の適正化とあわせて前払比率・期中払比率をできる限り高めるよう求めている[3]。
まとめ
紙の手形は、2026 年 9 月 30 日の最終振出期限(多くの金融機関)と 2027 年 3 月 31 日の電子交換所での交換廃止で、実務上使えなくなる[2]。取適法の対象取引では 2026 年 1 月以後の発注で既に手形払が禁止され[6]、対象外の製造委託等にも、取引上の地位が劣っていないと認められる相手との取引を除き、2027 年 4 月 1 日から支払告示の 60 日がかかる[4]。切り替え先は振込か、満期日を支払期日以前に置いた電子記録債権で、賃金相当額は現金で払うのが振興基準の求めである[6]。振り出す側と受け取る側の両方を洗い出し、支払額を変えずに支払手段と時期だけを変える——この順で、2027 年 3 月までに片づけておきたい。
出典・参考資料
- 紙の手形・小切手利用廃止へ(一般社団法人 全国銀行協会)
- 電子交換所(一般社団法人 全国銀行協会/最終振出期限一覧は 2026 年 8 月 31 日時点)
- 約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について事業者団体等に要請を行いました(経済産業省・公正取引委員会/2026 年 9 月 2 日)
- 製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(令和八年六月十八日公正取引委員会告示第三号)(公正取引委員会)
- 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」の運用基準(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 18 日 事務総長通達第 10 号)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)
- 価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します(経済産業省/2026 年 6 月 26 日)
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