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A5052 の発注で指定すること——JIS H 4000 の H32・H34、耐力と曲げは要求時だけ、A5083 との違い

この記事のポイント(結論先出し)
A5052 の板は JIS H 4000 の A5052P で、H32 か H34 かまで書いて初めて強さと曲げの目安が決まる。厚さ 0.8 mm を超え 1.3 mm 以下の板なら、H32 は引張強さ 215〜265 N/mm²、H34 は 235〜285 N/mm² である[1]。ただし A5052P の耐力と曲げ試験は、注文者が要求したときだけ適用される[1]。曲げのある板金部品で耐力や曲げ性を前提にするなら、注文時に要求しておく。5052 は溶接構造によく使われる 5000 系の代表的な合金で[1][4]、より強い 5083 はマグネシウムが多い分、使用温度と曲げで条件が付く[1][4]。成績書は求めたときに出るものなので[6]、質別と一緒に注文時に求める。
目次
A5052 は「A5052P-H32」のように質別まで書いて注文する
JIS H 4000(アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条)は、5052 の板の記号を A5052P とし、表 1 で特性を「中程度の強度をもった代表的な合金で,耐食性,成形性及び溶接性がよい」、用途例を船舶・車両・建築用材、飲料缶などとしている(参考)[1]。主な合金元素はマグネシウム 2.2〜2.8%、クロム 0.15〜0.35% である[1]。棒は JIS H 4040 で、押出棒が A5052BE、引抜棒が A5052BD になる[2]。
5052 は熱処理で強さを出す合金ではなく、冷間加工の程度で強さを変える合金である。だから質別の H の後ろの数字が、そのまま強さと曲げやすさを決める。質別記号の体系そのものはアルミは合金番号と質別で指定するで扱った。この記事では、5052 の板でよく使う H32・H34 の選び方と、注文時に要求しないと適用されない項目、5083 との違いに絞る。
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H32 と H34 は何が違うのか
JIS H 0001(質別記号)は、H の後ろの 1 けた目の 3 を「加工硬化後安定化処理したもの」とし、加工硬化した製品を低温加熱で安定化処理したもので、その結果強さは幾分低下し伸びは増加する、と定めている。この安定化処理は、常温で徐々に時効軟化するマグネシウムを含むアルミニウム合金だけに適用する[3]。2 けた目は引張強さの程度で、HX2 は O と HX4 の中間(1/4 硬質)、HX4 は O と HX8 の中間(1/2 硬質)である[3]。
つまり H32 も H34 も、加工硬化させたうえで安定化した 5052 で、H34 のほうが硬い。どちらを選ぶかは、強さを取るか、曲げやすさを取るかの判断になる。
規格値で比べる
次の表は、JIS H 4000 の表 3 から、A5052P の主な質別の機械的性質と曲げ試験の内側半径を、厚さ 0.8 mm を超え 1.3 mm 以下(曲げは 0.8 mm を超え 2.9 mm 以下)の区分で抜き出し、5083 と並べたものである[1]。ほかの厚さの区分は規格の表 3 で確かめる。
| 製品記号・質別 | 引張強さ N/mm² | 耐力 N/mm² | 曲げ試験の内側半径 | 耐力と曲げの適用 |
|---|---|---|---|---|
| A5052P-O | 170 以上 215 以下 | 65 以上 | 厚さの 0.5 倍 | 注文者の要求があるときだけ |
| A5052P-H32 | 215 以上 265 以下 | 155 以上 | 厚さの 1 倍 | 注文者の要求があるときだけ |
| A5052P-H34 | 235 以上 285 以下 | 180 以上 | 厚さの 1.5 倍 | 注文者の要求があるときだけ |
| A5083P-O | 275 以上 350 以下 | 125 以上 200 以下 | 厚さの 2 倍(0.5〜12.0 mm) | 耐力は常に適用・曲げは要求時 |
| A5083P-H32 | 310 以上 380 以下 | 235 以上 305 以下 | 厚さの 2.5 倍(1.3 mm 以下)・3 倍(1.3 mm 超) | 耐力は常に適用・曲げは要求時 |
同じ厚さで比べると、H34 は H32 より引張強さの下限が 20 N/mm² 高く、曲げの内側半径は厚さの 1 倍から 1.5 倍に広がる。板金で小さい R の曲げがある部品なら H32、平らなまま剛性を取りたいカバーなら H34、というように、加工と使い方で選ぶ。どちらにするかは図面の責任者が決め、注文書には決めたほうを書く。曲げられる R の考え方と、材料ごとの規定の違いは板金の曲げ加工でできないことで扱った。
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A5052P の耐力と曲げは、注文時に要求しないと適用されない
JIS H 4000 の 5.3.1 は、A5052P を含む一部の合金(純アルミ系、3000 系、A5005P、A5052P など)について、耐力は注文者の要求がある場合だけに適用するとしている。曲げ試験も、注文者の要求がある場合だけに適用し、行った場合は曲げた部分の外側に割れを生じてはならない、と定めている[1]。
ここから発注で押さえることが二つ出てくる。第一に、A5052P を「JIS H 4000」とだけ書いて注文した場合、成績書に耐力の値が載っていても、それは規格として保証された項目ではない。強度計算を耐力で行っている部品なら、注文時に耐力の適用を要求する。第二に、曲げ性を前提にした板金部品で、材料の段階で曲げ性を確かめたいなら、曲げ試験の適用も要求する。表の 5083 は耐力が要求の有無に関係なく適用される合金で、5052 とはこの点でも扱いが違う[1]。
H22・H24 で注文すると上限が付かない
JIS H 4000 の表 3 は、5052 の H12・H22・H32 を同じ欄で扱っている。ただし注記で、H22・H24・H26・H28・H29 には引張強さの上限と耐力を適用しない、としている[1]。H2 系は加工硬化後に適度な軟化熱処理をしたもので[3]、引張強さの上限が付かない。仕入先から「H32 の在庫が無いので H22 で」と言われたときは、強さの上限と耐力の扱いが変わることを前提に、設計の承認を取る。
A5083 との違い:強いが、条件が付く
JIS H 4000 の表 1 は、5083 を「非熱処理合金中で最高の強度があり,耐食性及び溶接性がよい」とし、用途例に船舶・車両用材、低温用タンク、圧力容器を挙げている[1]。マグネシウムは 4.0〜4.9% で[1]、5052 の 2.2〜2.8% のほぼ倍である。
マグネシウムが多いことには裏がある。溶接学会誌の概説(1984 年)は、5000 系(Al-Mg 系)合金を最も主要な溶接構造用材料とし、なまし材(O 材)の健全な突合せ継手の継手効率は 100% だと書く一方で、マグネシウムを多く含む合金は高温で粒界腐食を受けやすく、65℃以上で使用する場合はマグネシウム含有量 3% 以下の合金(A5454・A5052 など)に制限される、としている[4]。温度が上がる設備部品で「強いから 5083 に」と置き換えるのは、この制限に当たらないかを確かめてからにする。
曲げでも差が出る。表のとおり、5083 の O 材の曲げ試験の内側半径は厚さの 2 倍で、5052 の O 材(厚さの 0.5 倍)より大きい[1]。板金の展開図と曲げ型が 5052 前提で作られている部品を、材料だけ 5083 に替えると、同じ R で曲げられないことがある。
溶接部品で 5052 を使うとき
5052 は溶接構造によく使われる。先の概説は、溶接用材料とみなされるものとして A5083・A7N01・A5052 の中厚板などを挙げている[4]。注意したいのは、加工硬化で強さを出した質別の板を溶接すると、溶接の熱で加工硬化の効果が失われることである。同じ概説は A5083 について、H32 より強く加工硬化した材料は粒界腐食の感受性が増すことと、溶接部の強さが結局 O 材なみになることから、通常は使用されないと書いている[4]。
5052 の H34 の板で溶接構造を作る場合も、溶接部の強さを H34 の規格値で見てよいかは、設計の側で確かめる事柄である。これは規格の要求ではなく、発注側の確認の提案である。図面には「材料の質別」と「溶接部を含む完成品の要求」を分けて書いてもらう。溶接の方法・資格・検査の指定は溶接を含む部品の発注で指定することで、溶接記号の読み方は溶接記号を発注側として読むで扱った。
表面処理:5052 は陽極酸化の主流の材料
硬質アルマイトについて書いた 1988 年の解説でも、アルミニウム-マグネシウム系の代表として A5052 が、純アルミ系・6000 系・7000 系の代表合金と並んで、初期から主流の被処理材料に挙げられている[5]。5052 の部品に陽極酸化をかけるのは一般的である。処理業者に渡す情報(材質と質別、有効面、等級など)は表面処理の種類と図面の記号にまとめた。部品メーカーが処理を外注するときは、材質が処理業者まで伝わっているかを確かめる。
受け入れるときに確かめること
JIS H 4000 は、規格に適合した製品に、規格番号と製品記号(記号と質別)、寸法、製造番号などを表示するよう定めている[1]。受入では、現品の表示の質別が注文と一致しているかを、最後の数字まで見る。H32 と H34、H32 と H22 は表示の 1 文字の違いである。
材料の明細書(成績書)を出す義務は、JIS H 0321(非鉄金属材料の検査通則)の「報告」に書かれていて、注文者から求められたときに、試験の成績・製造番号・製造年月・数量などを記載して提出する形になっている[6]。JIS H 4000 は検査の一般事項をこの通則によるとしているので、要るなら注文書に書いておく。成績書が届いたら、次の順で見る。
1. 製品記号と質別
A5052P か、質別は注文どおりか。
2. 引張強さ
その質別と厚さの区分の上限と下限の間に入っているか。H32・H34 には上限がある。
3. 耐力と曲げ
注文時に要求していれば、規格値を満たしているか。要求していなければ、載っている値は参考値である。
4. 化学成分
マグネシウムが 5052 の範囲(2.2〜2.8%)に入っているか。5083 などとの取り違えはここで分かる。
海外の材料で受ける場合の承認の進め方は同等材の指定と承認を参照してほしい。
注文書の書き方の例
書き方に決まった様式があるわけではない。ここでは発注側として書いておきたい内容を一つの例にまとめる。
「材質:A5052P-H32(JIS H 4000)、板厚 2.0 mm。JIS H 4000 の 5.3.1 による耐力および曲げ試験の適用を要求する。試験成績書を添付し、質別・引張強さ・耐力・伸び・化学成分を記載すること。質別の変更(H22 などへの置き換えを含む)および他合金への置き換えは事前承認を要する。」
よくある質問
A5052 の H32 と H34、迷ったらどちらですか
曲げがあるなら、曲げの内側半径が小さく済む H32 から検討することが多い。同じ厚さの区分で、H32 は厚さの 1 倍、H34 は厚さの 1.5 倍が曲げ試験の内側半径である[1]。ただし最終的には、曲げ R と強度の両方の要求から設計が決める。
成績書に耐力が載っていれば、保証されていると考えてよいですか
A5052P の耐力は、注文者の要求があった場合だけに適用される項目である[1]。要求していない注文で載っている値は、規格として保証された項目ではない。耐力で強度を見ている部品なら、注文時に要求する。
5052 と 5083、溶接構造ならどちらがよいですか
どちらも溶接構造に使われる合金である[4]。5083 は強い一方で、65℃以上で使う場合はマグネシウム 3% 以下の合金に制限されると解説されており[4]、曲げの内側半径も大きい[1]。使用温度・曲げ・強度の要求をそろえて設計と決める。
まとめ
A5052 の板は JIS H 4000 の A5052P で、H32 か H34 かまで書いて初めて強さと曲げの目安が決まる。H34 は H32 より強いが、曲げの内側半径は大きくなる。A5052P の耐力と曲げ試験は注文者が要求したときだけ適用されるので、耐力で強度を見る部品や曲げ性を前提にする部品では注文時に要求する。H22・H24 には引張強さの上限と耐力が適用されない。5083 はマグネシウムが多く強いが、高温での使用と曲げに条件が付く。溶接では加工硬化の効果が失われるので、材料の質別と完成品の要求を分けて書いてもらう。成績書は注文時に求め、質別・引張強さ・耐力・成分の順に確かめる。
同じ束では、熱処理で強さを出す A6061、削り出しに使われる A2017(ジュラルミン)、純アルミ A1050・A1100、パンチングメタルの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS H 4000:2022 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 4 月 20 日改正)
- JIS H 4040:2023 アルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 12 月 20 日改正)
- JIS H 0001:1998 アルミニウム,マグネシウム及びそれらの合金-質別記号(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1998 年 11 月 20 日改正)
- 内田彰「アルミニウム合金溶接技術・概説」溶接学会誌 53 巻 3 号(溶接学会/1984 年 4 月)
- 秋本政弘「硬質アルマイト」実務表面技術 35 巻 6 号(表面技術協会/1988 年 6 月)
- JIS H 0321:1973 非鉄金属材料の検査通則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1973 年 3 月 1 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
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