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投稿日:2026年10月26日

溶接ひずみの許容値と矯正の指示——ISO 13920 の等級と、加熱矯正を許すかどうか

この記事のポイント(結論先出し)

溶接ひずみは「溶接によって部材に生じる変形」で、仕入先がそれを見込んであらかじめ逆向きに与えておく変形を逆ひずみという[1]。発注で決めるのは、どの寸法・形状にどれだけのひずみを許すか(許容値)、どの状態で測るか(溶接のまま・矯正後・機械加工後)、矯正の方法を仕入先に任せるか、の 3 つである。溶接構造物の一般公差には、溶接のままの寸法と形状を 4 つの等級で定めた国際規格 ISO 13920 がある[2]。矯正、とくに加熱による矯正は材料の性質を変えるおそれがあるので、建築鉄骨の指針のように鋼種ごとに加熱温度と冷やし方の可否を決めている例がある[5]。調質鋼のように加熱に弱い材料を使う部品では、加熱矯正の可否と温度の上限を注文書に書く。

この記事は、溶接を含む部品・架台・フレームを発注する側の目線で書く。溶接の方法や技能者の資格の指定ではなく、溶接で出る変形をどこまで許し、直すならどう直してもらうかを、図面と注文書で決めることに絞る。

溶接ひずみは避けられない。決めるのは「どこまで許すか」

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JIS Z 3001-1(溶接用語-第 1 部:一般)は、溶接ひずみを「溶接によって部材に生じる変形」と定義している。同じ規格は、溶接による角変形その他の変形量を予測して、あらかじめ逆方向に与えておく変形を「逆ひずみ」と呼ぶ。残留応力については、冷間加工や溶接時・熱処理時の不均等な加熱と冷却によって生じる、と注記している[1]。

溶接は局所的に大きな熱を入れて冷やすので、変形を完全になくすことはできない。九州大学の技術職員の研修資料は、溶接による熱のひずみの種類として、横収縮、縦収縮、回転変形、角(横曲り)変形、縦曲り変形、座屈変形を挙げ、一般にはこれらが複合して変形するとしている[4]。

ひずみの種類 部品で現れる形 図面で押さえる項目の例
横収縮 溶接線に直角な方向に縮む 全長・取付け穴の間隔
縦収縮・縦曲り 溶接線の方向に縮む・反る 長手方向の長さ・真直度
角(横曲り)変形 板が溶接線を軸に折れ曲がる フランジの直角度・平面度
座屈変形 薄板が波打つ カバー・パネルの平面度
回転変形 溶接の進行に伴って開先が開く・閉じる 突合せ部の段差・すき間

(ひずみの種類は研修資料の列挙による[4]。右の 2 列は、発注で押さえる項目に当てはめた当方の整理である。)

発注側にとって大事なのは、どの変形が部品の機能に効くかを決めることである。架台の脚の長さが 1 mm 違っても困らないが、取付け面が反ればシール不良やガタになる。機能に効く寸法と形状だけを選んで許容値を書き、それ以外は一般公差で読む、という形にする。

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一般公差は ISO 13920 の等級で読める

溶接構造物の寸法と形状の一般公差を定めた国際規格として ISO 13920(Welding — General tolerances for welded constructions — Dimensions for lengths and angles, shape and position)がある。現行版は 2023 年版で、溶接構造物の長さと角度の寸法、および形状と位置について、工場で通常得られる精度にもとづいた 4 つの公差等級で一般公差を定めている[2]。

機械加工の普通公差(JIS B 0405)は、溶接したままの構造物を想定した数値ではない。溶接のままの寸法に機械加工の普通公差を当てると、溶接では到底出ない精度を求めることになりうる。溶接構造物の図面では、ISO 13920 のどの等級で読むかを書くか、機能に効く寸法に個別の公差を書く。どちらの場合も、対象の寸法が「溶接のまま」なのか「後で機械加工する」のかを図面で区別する。

どの状態で測るかを書く

同じ部品でも、溶接直後、矯正後、溶接後熱処理の後、機械加工の後で寸法が変わる。溶接後熱処理で応力を抜くと、拘束されていた部分が動いて形が変わることもある。図面の寸法を満たすべき状態を、次のどれかで決めておく。

  • 溶接・矯正の後、出荷時の状態で満たす
  • 溶接後熱処理の後で満たす(熱処理がある部品)
  • 機械加工する面は、加工後の寸法で満たす(溶接のままの段階では削り代を残す)

測る姿勢も決めておく。長いフレームは、定盤に置くか、支えの位置で寸法が変わる。真直度や平面度を測るなら、どの面を基準にし、どう支えて測るかを仕入先と合わせる。測り方の合わせ方は幾何公差の測定方法を仕入先と合わせるで扱っている。

ひずみを抑えるのは仕入先の工夫。発注側は要求と確認

研修資料は、熱によるひずみは物体に与える熱量を少なくしたり逃がしたりすることで予防でき、アルミや銅などの冶具を使う方法(導熱法)、溶接する順序を変えて熱を分散させる方法(後退法など)、外力や熱で変形できないように固定する方法(拘束法)、ひずみを予想してあらかじめ逆方向へひずみを与えておく方法(逆ひずみ法)を挙げている[4]。

軟鋼の V 形開先突合せ溶接で角変形の発生過程を調べた室蘭工業大学の論文は、角変形は第 1 層の溶接で最も大きく、変形の大部分は溶接の初期の段階で生じることを示している。同じ入熱なら、大きな電流と速い溶接速度の組み合わせのほうが角変形は小さかった。完全に拘束したときの曲げモーメントは第 1 層では非常に小さく、第 2 層以降で大きくなることから、変形を防ぐには、変形が最も大きく曲げモーメントが最も小さい第 1 層の溶接で拘束をかけるのが最も効果的だとしている[3]。

こうした抑え方は仕入先の技術で、発注側が細かく指示するものではない。発注側が決めるのは、許容値と測る状態と、変形を抑える方法を変えたときの扱い(溶接の順序や冶具を変えたら初回品で寸法を確かめる、など)である。溶接施工要領で方法を決めてもらう考え方は溶接を含む部品の発注で指定することで扱っている。

矯正は最後の手段。加熱矯正は材料を変える

研修資料は、すでに生じたひずみは圧力をかけるか適切に加熱することで軽減できるが、ひずみ取りの作業は熟練の腕と知識が必要で、失敗するとかえってひずみを大きくしてしまうことがあるとし、ひずみ取りは最後の修正手段として扱い、初めからひずみをできるだけ生じさせないことが大切だとしている[4]。

加熱による矯正は、材料の性質にも影響する。日本建設業連合会の鉄骨工事 Q&A は、鋼材は化学成分の調整と圧延温度・圧下量の制御、熱処理の組み合わせで性質を作り込んでいるので、加熱矯正をすれば材質への影響は避けられないとし、影響の因子として加熱温度・加熱時間・加熱範囲・冷却条件を挙げている。そのうえで、日本建築学会の鉄骨工事技術指針・工場製作編(2018 年)の加熱矯正の基準を引き、この基準を守る管理と、熱の影響を表面近くにとどめる管理が必要だとしている[5]。同じ Q&A に載っている基準から一部を抜き出すと次のとおりである。

加熱矯正の方法 SN400・SS400・SM490 など SA440(調質鋼)
850〜900 ℃まで加熱し、その後空冷 実施可 実施不可
850〜900 ℃まで加熱し、直後に水冷 実施不可 実施不可
600〜650 ℃まで加熱し、直後に水冷 実施可 条件付きで実施可
600 ℃まで加熱し、その後水冷 実施可 実施可

(日本建設業連合会 鉄骨工事 Q&A「工作 ひずみ矯正」に掲載された、日本建築学会の指針の加熱矯正基準から抜粋[5]。「条件付き」は、さらに厳密な温度管理と、加熱時間・加熱範囲を最小限とすることを前提に実施してよい、の意味。表の温度は加熱した表面の温度で、600 ℃を超えてその後空冷または水冷する場合は確認実験を行ってその条件で行う、と注記されている。)

この表は建築鉄骨の鋼材についての基準で、機械部品や設備のフレームにそのまま当てはまるものではない。それでも、二つのことが読み取れる。第一に、同じ「加熱矯正」でも、温度と冷やし方の組み合わせで可否が分かれる。第二に、調質鋼は一般の鋼より加熱矯正の制約が厳しい。焼入れ焼戻しで性質を作った鋼は、高い温度に加熱すると、その性質が変わるおそれがある。溶接後熱処理についても、JIS Z 3700 は焼入れ焼戻し鋼の保持温度を、通常、素材製造時の焼戻し温度を超えてはならないとしている[6]。

矯正について注文書に書くこと

ここからは規格の要求ではなく、発注する側の実務の提案である。矯正の扱いは次のどれかに決めておく。

  • 矯正の方法は仕入先に任せる(一般の構造用鋼で、機能に効く性質が無い部品)
  • 加熱矯正は可。ただし加熱表面の温度の上限を 〇 ℃とし、冷やし方を指定する
  • 加熱矯正は不可。機械的な矯正だけ可、または矯正そのものを不可とする(調質鋼・高強度鋼・ステンレスの意匠面など)
  • 矯正したときは、場所・方法・温度を記録して報告する

何も書かなければ、仕入先は慣れた方法で直す。ステンレスの部品では、加熱矯正で表面に焼け色が出ることもあり、その除去が別に要る。焼け色の扱いはステンレスの溶接焼けの除去で扱う。

溶接の後で削る部品は、削り代で吸収する

取付け面や軸受の座面のように精度が要る面は、溶接のままで精度を出すより、溶接の後に機械加工して出すほうが確実である。その場合、図面には「溶接後に機械加工」の面を示し、溶接の段階では削り代を見込んだ寸法とする。溶接ひずみが削り代を超えると、削っても黒皮が残る、板厚が足りなくなるといった不良になる。削り代の大きさは、ひずみの見込みと合わせて仕入先と決める。

応力を抜いてから削る必要がある部品(削った後に変形すると困る部品)では、溶接後熱処理か応力除去焼なましを入れる。指定の仕方は応力除去焼なましの発注で扱っている。

発注書と図面に書くこと

項目 書き方の例
一般公差 溶接のままの寸法は ISO 13920 の等級 〇 で読む
機能寸法 取付け面の平面度 〇 mm、フランジの直角度 〇 mm
測る状態 溶接・矯正後、出荷時の状態で満たす。加工面は加工後
測る姿勢 定盤上で、A 面を基準に、〇 点で支持して測る
矯正 加熱矯正不可(機械的矯正のみ可)/加熱表面 〇 ℃以下
記録 矯正の場所・方法・温度と、矯正後の寸法を報告
工程の変更 溶接の順序・冶具・溶接方法の変更は事前に連絡し、初回品で寸法確認

よくある質問

図面に「ひずみなきこと」とだけ書いてあります

溶接ひずみは溶接で必ず生じる変形なので[1]、「なきこと」は測れる基準にならない。どの面・どの寸法に、どれだけの値まで許すかを、機能から決めて書き直す。決めきれなければ、まず一般公差の等級(ISO 13920 など[2])で読むことを合意し、機能に効く箇所だけ個別に追加する。

仕入先がひずみを見込んで、図面と違う寸法で部材を切ってもよいですか

逆ひずみは、溶接による変形を予測してあらかじめ逆方向に与えておく変形で[1]、溶接後に図面の寸法になるようにする工夫である。完成品が図面の寸法と許容値を満たすなら、途中の寸法は仕入先の工程の問題として任せてよい。完成品の検査で確かめる。

溶接後に寸法が合わず、仕入先が加熱で直したいと言っています

材料が一般の構造用鋼で、性質に特別な要求がなければ認めやすい。調質鋼や高強度の鋼、熱処理で性質を作った部品は、加熱で性質が変わるおそれがあるので[5][6]、温度と冷やし方を確かめてから判断し、記録を残させる。

まとめ

溶接ひずみは溶接で必ず生じる変形で、逆ひずみや拘束、溶接順序で抑えるのは仕入先の工夫である[1][3][4]。発注側は、機能に効く寸法と形状の許容値、一般公差の等級(ISO 13920 など[2])、測る状態と姿勢を決める。矯正は最後の手段で、加熱矯正は温度と冷やし方で材料の性質を変えうるので、調質鋼などでは加熱矯正の可否と温度の上限を書く[5][6]。精度が要る面は、溶接の後で削る前提にして削り代で吸収する。

同じ束では、調質(焼入焼戻し)の指示、タレットパンチプレス加工品、ウォータージェット切断品の発注も扱う。溶接記号の読み方は溶接記号を発注側として読むを参照してほしい。

出典・参考資料

  1. JIS Z 3001-1:2018 溶接用語-第 1 部:一般(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2018 年 2 月 20 日改正・2022 年 10 月 20 日確認)
  2. ISO 13920:2023 Welding — General tolerances for welded constructions — Dimensions for lengths and angles, shape and position(規格の概要/エストニア規格協会のカタログページで確認)
  3. 軟鋼の V 型開先突合せ溶接における角変形の発生過程(藤原幹男・坂本義継・田中雄一・井川克也/室蘭工業大学 学術資源アーカイブ/1973 年の日本金属学会・日本鉄鋼協会 南北海道支部合同大会で発表)
  4. ひずみを見る(山口恭平/九州大学 技術職員研修資料・平成 27 年度)
  5. 鉄骨工事 Q&A 工作 ひずみ矯正(A-2-17)(日本建設業連合会 鉄骨専門部会/2012 年 9 月制定・2019 年 4 月改訂。日本建築学会「鉄骨工事技術指針・工場製作編」2018 年を出典とする加熱矯正基準を掲載)
  6. JIS Z 3700:2022 溶接後熱処理方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)

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