投稿日:2025年8月20日

3Dデータ授受ルール:STEP/IGES/PMIの使い分けと注意点

はじめに

製造業の現場では、設計から生産、品質管理、調達購買に至るまで、さまざまな工程で「3Dデータ」が活用される時代になりました。
その中心にあるのが、CADデータのやりとり──すなわち「3Dデータ授受」です。
しかし、いまだに昭和から続くアナログ的な手法が根強く残っている現場も多く、デジタル化の波に乗り切れていない企業・担当者も少なくありません。

本記事では、STEP、IGES、PMIなど、3Dデータ授受を支える主要な形式ごとの使い分けと注意点を、現場目線と管理職・バイヤー目線の両方から解説します。
現場で発生する「なぜこんなトラブルが…」「どっちのデータ形式が正解なのか?」といったリアルな疑問にも答えつつ、業界がこれからどのように進化していくべきかも交え、お話しします。

3Dデータ授受の基本と業界動向

なぜ3Dデータの授受が重要か

かつての製造現場では、2D図面が圧倒的な主役でした。
しかし、グローバルな取引や短納期化、試作レスの要求が高まる中、「3Dデータなしではものづくりが立ちゆかない」時代へと急速にシフトしています。

特にバイヤー(調達購買担当)とサプライヤー(部品メーカー・加工先)との間で設計意図をスムーズに正確に伝えるには、3Dデータの活用が不可欠です。
また、品質トラブルや伝達ミスの削減、コストダウンなどにも3Dデータは大きな武器となります。

3Dデータ授受にまつわる現場のギャップ

理想的にはシームレスにデータ連携が進むのが望ましいですが、多くの現場では以下のギャップに苦しんでいます。

– ツールやバージョンの違いによるデータの互換性問題
– 図面(2D情報)と3Dデータの不整合
– 形式ごとの情報欠損や補足の手作業増加
– PMI(Product Manufacturing Information)非対応サプライヤーの多さ
– データ授受時のセキュリティや誤送信リスク

バイヤーとサプライヤーがこれらのギャップを埋め、「同じ言語でやりとり」できる仕組み作りが求められています。

代表的な3Dデータ形式の違いと使い分け

STEP形式(.step/.stp):事実上の“ものづくり世界標準”

STEP(ISO 10303)は3D CADデータの国際標準規格であり、現場でも最も広く利用されています。
構造体やアセンブリ(組立体)、色や属性情報、PMIも含めた情報伝達が可能である点が大きな強みです。

– バージョン違い(AP203、AP214、AP242 など)に注意
– 取り込める情報量が多いため、設計意図の齟齬や情報欠損が起きにくい
– 各CADソフトによる読み込み結果に若干差異があるため、事前検証が重要

サプライヤー側のツール対応が進んでおり、「迷ったらまずSTEP」がおすすめです。
しかし、バージョン指定や中間チェックのルール作り、定期的なサンプルテストは欠かせません。

IGES形式(.iges/.igs):古参だが“令和での活用”には工夫が必須

かつて主流だったIGESですが、記述できる情報が単純なため、大量データ、アセンブリ構造、PMI情報には不向きです。
一方、古い加工機やレガシーなCAMツールとの親和性が高く、まだまだ昭和の名残が残る現場では現役の場面もあります。

– PMIや属性情報は一切付与されない
– 実質、3D形状(サーフェス、ソリッド構造)のみを伝達する用途に限定
– 正確性重視なら、2D図面と併用して“ダブルチェック”を推奨

新規案件では極力STEP形式への切り替えを進めつつ、既存取引やレガシーツールとの接続用途に限定して利用すべきです。

PMI(Product Manufacturing Information):“3D図面時代”の主役

PMIは3Dモデル単体に、寸法、公差、材料、形状記号、注記などの製造情報を埋め込む仕組みです。
恐ろしい速度で海外大手が取り入れている技術で、“2D図面の完全廃止”を現実に近づけるカギともいわれています。

– 対応可能なサプライヤーが限られる(日本では大手 Tier1 でようやく普及レベル)
– PMI非対応業者向けには2D PDFなどの併用が無難
– STEP AP242など一部の形式と組み合わせることで威力を発揮

バイヤー側では「本当にPMIだけでやり取り可能なのか?」、“配下のサプライヤーが読み取れるか?”の事前確認を必ず行いましょう。

3Dデータ授受で現場がつまずく主なポイントと対策

1. データ互換性・正確性の検証不十分

意外に多いトラブルが、「発注側と受注側で3Dデータの解釈や形状が微妙に異なっていた」というケースです。
単純なフォーマット変換では“穴が六角形になる”“厚みが消える”など、恐ろしい変換ミスが現実に発生しています。

– データ授受時は、双方で視覚チェック・CAD比較ツール活用を徹底
– 「適正なフォーマット」「推奨バージョン」「変換手順」などを取引先間で標準化
– 初回は「マスター保存用」「検証用」と2セットの授受を推奨

2. PMI情報伝達の壁

PMIのみで授受を完結させる場合、サプライヤーによっては「一部見えない」「寸法公差が抜けている」などのリスクがあります。
また、作業者が3D CADを見る習慣がない企業では、情報を手書きで補完してしまう“逆戻り”も。

– PMIの可視化・展開方法(ビューアー/専用ソフト)の標準化
– サプライヤー向け教育・講習の実施
– “3Dデータ+2D添付”の併用期間を設け、徐々に移行
– 不安点や非対応要件は事前に必ず共有

3. セキュリティ/誤送信・漏えいのリスク

機密データの授受は、「メール添付」や「クラウドストレージ」など、そのやり方自体が問題になるケースが増えています。

– 専用のセキュアなファイル転送サービスの採用
– ファイル名・バージョン管理ルールの制定
– 誤送信防止のため、Wチェック・暗号化措置を徹底
– 授受履歴をログ保存し、万一の際の追跡性を担保

バイヤーとサプライヤー双方が知っておくべき“目線の違い”

バイヤー(発注側)としては、「できるだけ正確に、設計意図ごと伝えたい」「責任分界点を明確にしたい」という立場。
一方でサプライヤー(受注側)としては、「正確な仕様を知りたい」「手戻りや確認作業を減らしたい」「自社の設備・ソフト制約を理解してほしい」といった思惑があります。

– バイヤーは「自社の業務フロー/使用ツール」と「サプライヤーの事情」を両方把握したデータ指定が必要
– サプライヤーは「自社が読み込めるフォーマット/読めない情報/追加要望」を積極的にバイヤーへフィードバック

この双方向のコミュニケーションがあって初めて、「本当に価値ある」3Dデータ授受が成立します。

昭和から脱却するための“ちょっとした工夫”

昭和的な「紙図面回覧」「FAX送付」「手渡しUSB」文化に根を張る現場でも、以下の工夫でDX化は格段に進みます。

– まずは「2D+3D」併用を現場レベルで徹底し、両者の“差異”を常に見つけ出す習慣を育てる
– データ授受ガイドラインを社内外で策定し、「何かあったらここを見る」状態をみんなで作る
– 失敗事例の共有会(なぜ・なに・どう防ぐ?)を定期的に設ける
– サプライヤー選定に「3Dデータ対応力」を明確な評価項目として加える
– PMI対応ツールの導入を段階的に進めつつ、「読めない業者」へのバックアップを残す

こうした“小さな変革”の積み重ねが、やがて現場レベルから業界全体の進化へと繋がっていきます。

まとめ:新たな地平を切り開く3Dデータ授受文化の構築を

3Dデータ授受は単なるテクノロジーの話ではありません。
バイヤーとサプライヤー、現場作業者と管理者が互いの“事情”を理解しあい、より良いものづくりのために、情報伝達の質を高める文化そのものです。

STEP/IGES/PMIの特徴と使い分けを理解することは、品質向上、コスト・納期削減、安全・安心な製造体制づくりの礎になります。
昭和時代の慣習から抜け出せない現場にも、必ず変革の余地があります。

「うちにはまだ無理」「大手だけの話」と考えず、今できる一手、現場レベルの小さなDXから未来を切り拓いてみませんか。
3Dデータ授受のルール・考え方を一緒にアップデートし、日本のものづくりを新たな地平線へと導いていきましょう。

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