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長期的なロードマップを作らず行き当たりばったりで失敗した事例

目次
はじめに
製造業の世界では、長年にわたり「現場力」が重視され続けています。しかし、激動する外部環境やテクノロジーの進化に対応しきれず、昭和型の“現場で何とかする”という思考から抜け出せない企業も少なくありません。
その根底には、長期的な視点でのロードマップを描かず、目先の対応だけで業務を進めてしまう伝統的な風土や組織体質があります。本記事では、長期的な計画を策定せず、場当たり的に行動したことで大きな失敗と損失を被った実際の事例を交え、そこに潜む構造的な課題を分析します。
なぜ「長期的なロードマップ」が重要なのか
現場で起きているミスやトラブルの大半は、その場しのぎの意思決定が招いています。外部環境や市場ニーズが激変する昨今、長期的な視野で需要予測や生産計画、技術投資、人材育成を描き上げ、組織全体で歩調を合わせることが、業界全体のグローバル競争力確保には不可欠です。
特に調達購買や生産管理の領域では、サプライチェーンの長期安定化やリスクヘッジ、コストダウンを実現するために中長期のビジョンが欠かせません。一方で、現場で日々奮闘する工場長やバイヤーは、どうしても「今日、明日を回す」という意識に陥りがちです。では、具体的にどのような失敗が生じているのでしょうか。
【事例1】目先の原材料コスト削減が招いたサプライチェーン崩壊
短期志向がもたらす調達リスク
かつて大手自動車部品メーカーで起きた事例です。経営トップの号令のもと、即効性のある原材料費のコストダウンを求められた調達部門。仕入先との長年かつ安定的な関係を棚上げし、一時的に安値で供給できる海外サプライヤーへ調達先を切り替えました。
一見、調達コストは劇的に下がり、生産現場の仕入れ担当者も安堵したのですが、半年後、状況が一変。新興国のサプライヤーが経営問題や品質トラブルを頻発し、安定供給が不可能に。急遽、元の取引先との関係修復を試みるも価格は数割アップ。挙句の果てに、納期遅延と不良発生で最終納品責任を果たせなくなり、顧客流出に直結しました。
構造的な失敗要因の分析
この現象の根本原因は、年度単位の数値目標至上主義と一時的な成果を強く求める短期志向の組織体質です。長期的な供給安定性や取引関係の信頼性という“無形資産”を軽視したことが致命傷となりました。
まさに「長期的なロードマップを作らない」ことで、部材・原材料のサプライヤー選定戦略に持続性や多重化(BCP)の観点がなかったのです。
【事例2】計画なき自動化投資が招いた生産性悪化
流行りの自動化設備の“導入バブル”
AIやIoT、ロボット導入の波は昭和風土の工場現場にも押し寄せています。ある家電メーカーでは、社内現場の声や現状課題の精査もせず、大手商社やベンダーの提案をうのみにし、5年分の設備投資予算を“流行りの自動化”に一挙投入しました。
しかし、数年後には投資設備の稼働率が50%にも満たず。現場は古いままの生産プロセスや人員管理が温存されたため、「人と設備を二重に維持せざるをえない」状態が常態化しました。その結果、生産コストや品質リスクはかえって上昇し、最終的に事業撤退に追い込まれました。
背景にある日本的な“段取り型意思決定”
日本の製造業は「一度決めたもの・長年のやり方に絶対的な安心感を持つ」風土を色濃く残しています。新しい技術導入や工程改善に対し、十分な現状分析や長期シナリオの策定よりも、「とりあえず投資する」「やってみてダメなら戻す」式のやり方が見受けられます。
事業・工場単位で長期のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)や人材再配置計画を描いた上での段階的投資という視点が決定的に欠落していたのです。
【事例3】品質管理のデジタル化に対する“形式的DX”の落とし穴
紙運用からの移行失敗と現場混乱
2020年以降、製造業で加速するDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進。とりわけ品質管理の記録やトレーサビリティー強化に注目が集まりました。ただし、多くの老舗メーカーでは現場の紙日報やアナログ帳票運用が長らく根強い状況です。
そのため、「全部デジタル化すればよい」という安易な構想で一斉切り替えを進めた結果、現場作業者のITリテラシー不足や既存手順との乖離による混乱が発生。システムの運用・保守にも多大な負担が生じ、本来の目的であった品質保証体制の高度化や工程の見える化はほとんど進みませんでした。
現場起点での長期的なDX設計の不在
この失敗は、現場・管理部門一体でDXのロードマップや「段階的移行計画」を設定せず、急激なトップダウンで変革を図ったことが大きな要因です。
現場のリアルな課題抽出や段階移行に向けた人材育成スケジュール、システム運用体制の変更などを数年単位で描けなかったことが、形だけのデジタル化(形式的DX)を招き、本業の価値創出に結びつかなかったのです。
昭和型アナログ業界の「短期指向」が起こす本質的弊害
人材育成の“結果にコミット”主義
製造業界では“即戦力”や“根性論”が色濃く残っています。長期的な人材像や多能工・カイゼン文化の育成といった土台づくりよりも、目の前の当番シフトや欠員補充、成果主義にとらわれがちです。
そのため、現場に本当の「考える力」や「挑戦する文化」が根付かず、抜本的な業務改革や新たな成長戦略につながらないのです。
本社-現場間のねじれた情報伝達
本社で立てた単年度のKPIや施策を、現場が本質を理解せず“とりあえずやる”ことで目的と手段が入れ替わります。この情報のねじれ、現実乖離こそが、製造業の本当の非効率です。
また、サプライヤーの立場から見た場合も、バイヤーが「目先コスト」や「短納期対応」だけを重視し、長期ビジョンを提示できないと、安定供給・品質確保・技術共有のパートナー関係が築けません。
ラテラルシンキングによる打開策とは
「現場起点」と「長期的ビジョン」の両輪を回す
まず、経営層は現場に「あらねばならぬ長期のビジョン」を示すだけでなく、現場の知見や課題をフラットに吸い上げ、それを反映したロードマップを策定する必要があります。現場の知恵と経営視点を、横断的・多面的に(ラテラルに)融合させる設計プロセスが不可欠なのです。
小さなPDCAの積み重ねと“転ばぬ先の杖”
日本的な“カイゼン”も、長期ロードマップの中に組み込むことで真価を発揮します。場当たり的ではなく、シナリオを描いたうえでの小規模なPoC(実証実験)を重ね、都度軌道修正ができる仕組みを定着させましょう。
「戦略的調達」「協調的取引関係」への転換
バイヤーも、単純な価格交渉のプロフェッショナルでいる時代は終わりました。各部門やサプライヤーと情報共有し、5年・10年先を見据えた供給戦略や取組テーマを掲げることが、リスク管理と競争力強化につながります。
また、サプライヤー側は、短期的な価格対応だけでなく、どうすれば顧客バイヤーのロードマップ実現に寄与できるか――自社技術や品質、安定供給体制の価値アピールを強化するチャンスです。
おわりに:本当に現場が強い会社とは?
長期的なビジョンなく目先の数字や課題対応に明け暮れる体質を、このまま放置していては日本の製造業は世界の舞台で勝てません。現場力と戦略思考、その掛け算によってのみ、昭和型から脱却した“イノベーティブな現場”が生まれるのです。
これからの時代、行き当たりばったりのPDCAや単年度目標にとらわれず、大きな地図を広げて「変革の方向性」を組織全体で腹落ちさせる。それこそが、バイヤーにも、サプライヤーにも、現場スタッフにも求められる“新しい現場力”です。
現場で汗を流すすべての皆さまに、「長期的な設計思想で現場をアップデートする挑戦」を呼びかけたいと思います。明日の取引も、明後日の現場も、10年後の未来も、その挑戦の先に広がっているはずです。
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