投稿日:2025年8月25日

保証期間定義の曖昧さが原因で不良補償を巡り争ったケーススタディ

はじめに:製造業現場で多発する「保証期間」のトラブル

製造業において「保証期間」の設定は極めて重要です。

しかし、この保証期間の定義が曖昧なままだと、バイヤーとサプライヤー双方にとって深刻なトラブルの火種となりかねません。

特に昭和から平成、令和と時代が移り変わる中でも、業界特有の「慣行」や「暗黙の了解」に基づいて契約を進めてしまい、後々大きな問題へ発展するケースが後を絶ちません。

この記事では、実際に起きた「保証期間の曖昧さ」に起因する不良補償トラブルのケーススタディを紹介し、現場目線から「どうすれば未然に防げるのか」「どんな着眼点が必要か」について深堀りします。

調達購買担当者、バイヤーを目指す方、またサプライヤー側の関係者の参考となる実践的な内容となっています。

保証期間とは何か?製造業における基礎知識

まず「保証期間」とは何か、基本をおさらいします。

保証期間とは、製品を納入した日や引渡し日など、「どの時点を起点として」「どのくらいの期間」「どの範囲の不具合を補償するか」を決める重要な契約項目です。

一般的には以下の内容を盛り込んで明文化します。

  • 起算日(納入日、検収日、設置日など)
  • 期間の長さ(1年、2年、特定の稼働時間など)
  • 対象(製品全体、消耗部品、特定部品、付帯サービスなど)
  • 責任の範囲(経年劣化、天災、誤使用の扱いなど)

ところが、これらを曖昧にしたまま契約を締結してしまうケースが、特に中小規模のメーカーや部品サプライヤーでは今なお現場レベルで発生しています。

ケーススタディ:保証期間の「起算日」の曖昧さから発生した紛争事例

事例の概要

かつて私が工場長として関わったA社(部品サプライヤー)とB社(完成品メーカー)の事例をご紹介します。

A社はB社向けに産業用装置に組み込む電子部品を納入していました。

見積もり段階から継続的な取引があり、「納入日から1年間を保証期間とする」と見積書の末尾に一文のみ記載していました。

細かい契約書や仕様書には保証期間の詳細な定義がなかったため、実際の納入現場ではどう運用できるかという前提の統一認識が不十分でした。

トラブル発生の経緯

B社の組立工場では、A社部品を納品即日で装置に組み込むパターンもあれば、在庫として数か月保管し続け、数か月後に「初めて通電・稼働」させるパターンが混在していました。

納入から8か月後、とあるロットの製品を組立・運転した際に初期不良(通電時に機能不全)が多数発生しました。

B社はA社へ「保証期間内につき無償交換・再納入」を要求。

一方、A社は「納入日から1年以内とはいえ、納入後半年以上経って未使用・未開封保管されていた部品の不良なので対象外」と突っぱねる形に。

双方の主張がかみ合わず、交渉は長期化。

最終的に取引自体が頓挫寸前まで紛糾する結果となってしまいました。

なぜ保証期間の「起算日」を曖昧にしてはいけないのか

この事例から分かるのは、「保証期間の起算点」を両者が同じように理解したつもりでも、解釈が分かれる余地があるということです。

部品サプライヤーから見れば「工場に納品した時点」ですが、完成品メーカー側では「装置に組み込んで初めて稼働した日(実働開始日)」と考えがちです。

事前の明文化・ルール決めをおろそかにしたことで、

  • いつからいつまで責任を負うのか
  • 検査・保管・組立など複数段階に責任を分割できないのか

といった本質的な争点が浮き彫りとなりました。

保証条件と責任範囲の「昭和的グレーゾーン」

口頭合意や社内ルールで済ませていないか?

今なお一部製造現場では「口頭での確認」「上司同士の阿吽の呼吸」など、ブラックボックスな運用が根強く残っています。

特に昭和の現場を経験してきた世代では、「前と同じでいいよ」「業界のルールでしょ」といった形で、契約書を細かく詰めることに消極的です。

このため、新任の調達バイヤーや若手エンジニアがチームに加わった際、過去のやり方に疑問をはさみきれず、将来的な火種が温存されてしまいます。

なぜ今も「契約不明瞭」が起きるのか

その理由としては下記が考えられます。

  • サプライヤーとバイヤー間での力関係の差(強者に従う風潮)
  • 取引慣習に基づく「標準契約書」の流用、個別最適が進みにくい
  • 現場担当者が契約の重要性を理解しきれていない
  • 過去事例の引き継ぎ・ナレッジ共有不足

こうした背景を受け、契約業務の電子化やガバナンス強化が叫ばれているものの、「今さら騒ぎ立てにくい」「お互い様」という空気が根強く、根本的な解決には至っていません。

ラテラルシンキングで考える:保証期間紛争防止の新たなアプローチ

単なる「日付」や「年数」以外に見るべきポイント

時流にあわせて現場のトラブルを本質的に防ぐには、以下の観点からラテラル(水平)思考を働かせる必要があります。

  • 「納入」ではなく「受領検査完了日」「組立完了日」など工程区切りでの起点設定
  • IoT・QRコードによるトレーサビリティで、個別部品ごとの履歴を管理
  • 部品ごとの「推奨在庫期間」「使用開始期限」を明記することで、長期保管リスクの所在を可視化
  • ビッグデータ活用で「どの時点で不良発生率が急増するか」など根拠ある条件設定
  • AI活用による「異常兆候の早期検知と適切な対応条件」設計

契約条項として盛り込むだけでなく、現場オペレーション側にも「使いやすく・分かりやすい」仕組みを同時に構築することがカギです。

「保証期間」記載ひな形を単なる形式から脱却させる

典型的には、以下のような具体的・実践的な文例を推奨します。

  • 「本部品の保証期間は、下記いずれか早い日をもって終了するものとする:A.メーカー出荷日より18か月、B.受領検収日より12か月、C.最初の装置稼働日より8か月」
  • 「受領後、指定温度・湿度範囲で保管された場合に限ります。逸脱時は保証対象外」
  • 「部品シリアルNo.をもとに、個別のトレーサビリティ記録を管理します」

実運用環境や保管状況のバラつきにも柔軟に対応できるよう、事前の情報共有・疑念の持ち寄りが求められます。

サプライヤーとバイヤー双方にとっての学びと提言

【バイヤー側】現場ヒアリングの徹底と契約内容の明文化

バイヤー(調達・購買担当)には、現場からの生の声を拾い「どんな条件・環境で部品を扱っているか」をできる限り洗い出して定義しきる視点が不可欠です。

また、社内で下請け業者任せのままにせず、契約内容を明文化し全関係者へ共有することで、納得感ある契約が実現します。

【サプライヤー側】長期的な信頼構築に向けたリスクコミュニケーション

一方でサプライヤー側も、目先の契約締結・納品を優先し過ぎると、自社に過大な維持・補償責任がのしかかります。

バイヤー担当者によっては常に人事異動・世代交代でナレッジ断絶も起きます。

「なぜこの補償条件が必要なのか」「どこまでが自社責任で、どこから先が相手方責任なのか」を論理的・定量的に示せるよう、自社内にもノウハウを蓄積しなければなりません。

まとめ:「グレーゾーン契約」から「明確な補償ルール」へ

保証期間の曖昧さが生むトラブルは、製造業における最古かつ現役のリスク課題です。

昭和から続く商習慣だけでなく、IoT・ビッグデータ・AIといった新しい技術を積極的に取り入れ、「曖昧なグレーゾーン契約」から「誰にでも分かる、明確な補償ルール」へ進化させることが、現場で汗を流すすべての製造業従事者の責任です。

未来を見据え、現場と経営層が一枚岩となって「真に価値ある契約・保証条件」構築の土壌を耕していきましょう。

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