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短期間で成果を出そうとして中途半端に終わったDXの例

目次
短期間で成果を出そうとして中途半端に終わったDXの例
はじめに――昭和的価値観が根強く残る製造業のDX課題
日本の製造業、とりわけ歴史ある大手メーカーの現場では、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉に拒否反応を示す人も少なくありません。
長年に渡り磨かれてきた現場力や勘・コツ、紙の管理帳票といった昭和的なアナログ文化が今なお根強く残り、新しいテクノロジーを導入するたびに現場では戸惑いが発生します。
サプライチェーンは複雑化し、各社ともグローバル競争や人手不足に悩みつつも、DXによる業務効率化や品質向上を掲げて改革に挑みます。
しかし、「短期間で目に見える成果を!」という経営層の期待が、現場では往々にして中途半端なDXで終わってしまうケースを多く生み出しています。
本稿では、私自身が現場で体験し、同業者からも多く耳にしてきた「うまくいかなかったDX」の実例を交え、なぜうまくいかなかったのか、何が足りなかったのかを解き明かしていきます。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの皆様にも「バイヤーや経営層が何を考えているのか」「現場と経営の温度差」はきっとお役に立つはずです。
よくある中途半端DXのパターン――「パッケージ導入で一発逆転」幻想
ERP、SCMパッケージ丸投げ導入の落とし穴
多くの企業で見かけるのが、市販のERP(統合業務系システム)やSCM(サプライチェーンマネジメント)パッケージを「導入すれば一気にデジタル化できる」という思い込みに基づく事例です。
導入そのものは数カ月で完了しますが、現場は従来の業務フローや帳票をそのまま温存し、「システム入力は後回し」「結局エクセルと紙もしっかり併用」になる。
つまり、「習慣」を変える時間・意識改革が全く追いつかず、システムは宝の持ち腐れとなります。
また、バイヤー視点で見れば、「サプライヤー向けのWeb発注システムの導入」「RFIDによる在庫管理の自動化」などが掲げられるものの、取引先も同じように昭和的なアナログ管理が根強く、マスタデータの整備や標準化に年単位で時間がかかります。
「短期間で成功」というスローガンが、最大の落とし穴なのです。
「見える化」「IoT化」ブームの行きつく先
現場にセンサやPLCといったIoT機器を後付けし、稼働データの「見える化」を一気に推進するケースも珍しくありません。
しかし、データを集める(=可視化)こと自体が目的となり、その後の分析やフィードバックには手つかず。
「データはたまっているが、問題が見えすぎて現場はうんざり」「現場の誰もがデータの使い道を知らない」となり、現場のモチベーションは逆に低下します。
短期間でとにかく「モニタリング」した結果、現場の業務量はかえって増え、「紙とエクセル、IoTが全部併用」という悪循環が起きます。
短期間型DXがなぜ失敗するのか――現場目線で深掘りする
現場・経営の温度差と、「腹落ち」しない目標設定
製造業DXが失敗する最大の要因は、現場と経営層の認識のずれです。
経営層は「競争力向上」「在庫最適化」「リードタイム短縮」といった大きな成果を期待しますが、現場では「いまのやり方のどこが悪いのか」「手間が増えるだけでは」といった疑念が渦巻きます。
現場が「腹落ち」する理由や「なぜ変えなければいけないのか」の説明が不十分だと、変革はすぐに形骸化します。
工場長や現場リーダーの説得力が問われますが、「納期最短でDX!」というプレッシャーが過度に強まることで、現場からの反発や諦めの空気が一気に広まってしまいます。
部分最適化と属人化の罠――デジタル導入が新しい「自分流」を生み出す
中途半端なDXの多くは、「とりあえず一部ラインだけ」「品質管理だけ」など、限定的な導入から始まります。
現場は自分たちのやりやすいように運用ルールをアレンジし、パッケージシステムの想定外のフローが乱立。
部署ごと、工程ごとにローカルルールが林立し、結果的に「旧来の属人化」×「新しい属人化」という複雑な管理体制となります。
全社最適や標準化が全く進まず、「システムを入れたのに労力もコストも増大する」という結果になるのです。
実例:A社の生産管理DXプロジェクト
プロジェクト概要
大手自動車部品メーカーA社は、業務プロセスの刷新と人手不足対策を目的に、最新のクラウド型生産管理システムを短期間で導入しました。
経営層は「半年で新システム稼働」というKPIを立て、専門ITベンダーとコンサル会社が組んでプロジェクトは発進しました。
現場で起きた問題
・既存の工程管理表や手配帳票は、現場ベテラン作業者の手書きノートが命。
・現場では新システムへの入力の二重管理を余儀なくされ、残業・ストレスが急増。
・現場スタッフが入力に慣れる前に、経営層から「進捗データをグラフで出せ」と大量のレポート指示。
結果、現場担当者は「システムに振り回されて本業がおろそか」「品質記録も不十分」となり、かえって生産・納期トラブルが続出しました。
プロジェクト終了後、現場はシステムを外部委託に切り替え、多大なコストを追加で投じるはめになりました。
なぜ失敗したのか?
・現場での業務ヒアリングやトライアル期間の設定がほぼ無かった。
・現場と経営層のミーティングがほぼ行われず、業務フローの全体最適が図られなかった。
・新システムの「目的」「メリット」の腹落ち説明が徹底されていなかった。
本当に成果が出るDXは「遅くて当たり前」
現場との対話、スモールスタート、失敗からの学び
短期間で大きな成果を目指しがちなDXですが、真に業務の根幹を変える「体質改善」は一朝一夕ではできません。
現場が納得し、各自の「目的」を理解したうえで、スモールスタート→フィードバック→段階的な拡大が原則です。
一つの現場、最小単位からデータを取り、現場の困り事や「なぜその帳票が要るのか」に寄り添うことで初めて、「デジタル化の意味」に腹落ちしてもらえます。
また、未完成でもいいので「まずやってみる、そして失敗から学ぶ」ことを繰り返し、「会社全体で知見を貯めていく」文化づくりが不可欠です。
サプライヤーやバイヤー視点で考えるDXの本質
バイヤーやサプライヤーは、単に「新しいシステムに対応しなきゃ」という下請け的発想だと、必ずどこかで無理が生じます。
「バイヤーが何を考えているのか」「どうしてこの改革が必要なのか」を必ずすり合わせ、自社都合だけでなくサプライチェーン全体最適を念頭に動くことが大切です。
現場・経営・サプライヤー・バイヤーが「共通言語」で話してこそ、本物のデジタル改革が進みます。
まとめ――昭和の知恵とDXをどう融合させるか
短期的な奇策や技術導入に走るDXは、結局「旧来の問題をさらにややこしくする」ことが少なくありません。
昭和から続く現場文化や価値観も、無理に捨てる必要はありません。
アナログならではの現場力・知恵と、DXのメリットをうまく「融合」させること。
そのためには、現場目線の対話と段階的な進化、そして「失敗を許す風土」が不可欠です。
皆様の現場でも、拙速なDXに惑わされず、地道だけれども着実な歩みを進めて頂くことを、同じ製造業の経験者として切に願っています。
「短期間で成果を出そう」と焦る前に、まずは現場やサプライヤー、バイヤーとじっくり語り合う時間を持ってみてはいかがでしょうか。
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