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感性要素を定量化して製品価値を高める感性工学応用ガイド

目次
はじめに――感性工学とは何か
製造業の世界では、性能やコスト削減といった機能的価値が重視されてきました。
しかし、市場の成熟化や消費者ニーズの多様化が進むいま、「感性」という目に見えない価値が、製品選択の決め手となる時代へと変わりつつあります。
感性とは、ユーザーが商品やサービスを見た時・使った時に抱く印象や、直感的な好ましさを指します。
例えば「この車は美しい」「この家電は持ちやすい」など、数字だけでは表せない部分です。
そして、これを科学的手法で定量化し、製品開発や設計に反映させるアプローチを「感性工学」と呼びます。
本記事では、感性工学を実践的に製造現場へ応用するためのポイントや、昭和的なアナログ文化が根強く残る業界での導入手法に加え、調達・購買やバイヤー視点の活用策にも触れていきます。
なぜ今、感性工学が注目されるのか
製品の差別化が困難になる時代背景
多くの製造業では、技術の均質化により「どれも似たような商品」が溢れています。
その結果、機能や価格だけでなく、“感覚的な価値”がユーザーの購買行動を左右するようになりました。
例えば、自動車業界であれば「乗り心地」や「内装の質感」、家電業界では「手触り」や「見た目の遊び心」といった部分です。
これらを科学的に分析・数値化し、従来の設計や購買プロセスに加える必要が高まったのです。
アナログ文化が根強い業界が抱えるギャップ
しかし、現場には「経験や勘が最重要」という昭和的な価値観や、「感性は属人的で数値化できない」という無意識の壁が立ちはだかっています。
調達購買も、「仕入れ価格」と「納期」だけを指標にしがちです。
このギャップこそ、今こそ乗り越えるべき“新たな地平線”です。
感性工学の基本プロセスと現場での定量化手法
(1)感性ワードの抽出と選定
まず、対象製品についてユーザーがどのような感性ワード(例:高級感、軽やかさ、親しみ、ラグジュアリーなど)を抱いているのか、調査します。
社内外のアンケート、インタビュー、あるいは営業・販売現場の声に耳を傾けて、多様な表現をピックアップしましょう。
購買部門も「サプライヤーからどう見られているか」「バイヤーが何を求めているか」という感性で言語化するのが第一歩です。
(2)官能評価の実施
複数のテスター(実際のユーザー、社内他部門、新人とベテラン、管理職まで幅広く)に製品を体験してもらい、「どの感性ワードにどう感じるか」を評価してもらいます。
五段階評価、相対順位付け法、SD法(意味分化法)などを使い、あくまで“数字”として感性の違いを記録します。
これなら現場のベテランでも、「このシートは何となく良い」ではなく、「触ったときに高級感が4.5/5点」という具合に意見を共有できます。
(3)スペック値との相関分析
官能評価のスコアと、設計スペック・材料特性・色味・光沢度・表面粗さ等の“物理量”を突き合わせ、どの要素がどの感性ワードに最も影響を与えているかを解析します。
この相関分析には官能評価とスペック値のカオスを、AIや統計ソフトに掛け合わせて活用するとより精度が高まります。
これで「この室内灯の色温度が2700Kだと、親しみやすさが4点を超えやすい」などの知見が得られるわけです。
感性の定量化を工場・現場レベルで活用するには
生産管理・ライン設計への落とし込み
感性評価を現場で具体的な仕様値に落とし込み、「誰もが迷わず再現できる」形で管理基準書を策定します。
例えば手触りについて、基準サンプルを設置し、定期的に現場メンバーの官能確認をプロセスに組み込む。
あるいは表面粗さの測定値で「感性スコア3.5以上を必ず再現せよ」と明文化します。
これにより、属人化から標準化への第一歩が踏み出せます。
品質管理と感性クレームの早期感知
従来の品質管理(寸法・外観検査)に加え、感性面でも規格外れを検知する仕組みを構築します。
例えばエンドユーザークレームを「感性起因」と「機能起因」に分けて蓄積し、不具合の予兆を拾えるようにします。
生産現場でのフィードバックループを形成し、市場の声をリアルタイムで設計改善につなげることが、競争力強化の秘訣です。
調達購買・バイヤー活動への波及効果
サプライヤー選定・購買時も「スペックシート+感性評価」という二軸で評価する手法が有効です。
サンプル試作段階で、官能評価会を取り入れたり、複数社比較を感性項目入りで行うことで「条件は似ているのに、このサプライヤーの塗装はなぜ好感度が高いのか」という踏み込んだ見極めが可能になります。
サプライヤー側も、自社の“感性品質”を武器にできる新たな提案の入口となります。
昭和的アナログ現場で実践するコツ
ベテランの勘とデジタルデータの融合
「昔からの感覚を大事に」という現場では、感性工学を“数値だけのモノサシ”として押し付けると反発を招きます。
まずはベテランの“匠の勘”を言語化し、評価会議や雑談の中で「それ、なんでそう思った?」と丁寧に掘り起こすことから始めましょう。
こうして抽出した知見を、感性評価のデータセットとして蓄積→数値化していくことで、やがて「若手でも再現可能な職人芸」へと昇華します。
官能評価会・感性ボードの設置
工場のロビーやカフェスペースなど、現場メンバーが集まりやすい場所に「感性ボード」を設置します。
新製品や試作品のサンプルを展示し、チェックシートで誰でも自由に感性スコアを書き込める仕組みにします。
このように“見える化”することで、アナログな職場文化でも抵抗なく感性工学を根付かせやすくなります。
感性工学の業界動向と新たなビジネスチャンス
カスタマイズ需要とマスパーソナライゼーション
IoTやAIの進化により、これまでマス生産一辺倒だった製造業でも、一人ひとりの感性にフィットした“パーソナライズ型商品”のビジネスモデルが急伸しています。
感性工学の手法を、オプション設計や仕様選択の仕組みに組み込むことで、高い満足度と利益率を両立できる可能性が広がっています。
海外市場での差別化戦略
既存市場の縮小やグローバル競争の激化で、東南アジア・欧米など、多様な感性を持つ市場進出が不可欠です。
感性評価データを言語の壁を越えて活用できれば、現地の嗜好にかなった商品づくり、異文化間差分に基づくバイヤー戦略の最適化が可能になります。
まとめ——感性工学を現場で“武器”にする未来へ
感性要素を定量化する感性工学は、「何となく良い」を「誰にでも再現できる高付加価値」に進化させる、強力な現場発イノベーションの武器です。
これからは、生産現場・調達購買・品質管理など、あらゆるプロセスに感性工学思考を取り入れ、属人的なノウハウから組織知化・標準化していくことが重要になります。
バイヤーを目指す若手の方や、サプライヤー立場で新たな訴求軸を見極めたい方も、まずは自社や自身の感性を“数字で語る”一歩から始めてみてください。
昭和時代から続く職人気質の現場でも、デジタルデータを駆使した感性質量の管理により、誰もがクリエイティブに製品価値の新たな地平線を切り拓けます。
これからの製造業は、「感性を科学する」ことで、さらなる高みと独自の存在価値を実現できるでしょう。
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