投稿日:2025年7月10日

車載ソフト開発を加速するAUTOSAR導入と成功事例まとめ

AUTOSARとは何か?~車載ソフト開発を変革する標準化の波~

車載ソフトウェアの複雑化が急速に進む現代、自動車メーカーやサプライヤーは従来の独自開発の限界に直面しています。

その解決策として業界全体が注目しているのが、「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」です。

AUTOSARは、車載ソフトウェアプラットフォームの標準化を目指して欧州を中心に2003年に設立されたコンソーシアムです。

OEM、部品サプライヤー、ツールベンダーなど世界中の代表的な自動車関連企業が参加し、車載ECUの開発効率化や品質向上を実現するための共通アーキテクチャや仕様策定が進められてきました。

結果として、通信、診断、OS、セーフティ、セキュリティといった基盤機能が共通化されつつあり、自動車業界全体の車載ソフト開発を加速する原動力となっています。

なぜ今、AUTOSARが必要とされているのか

自動車のデジタル化が進む中、ソフトウェアの規模と機能は膨大になり、かつてないスピードで進化を遂げています。

例えば、運転支援や自動運転、コネクテッド、OTA(Over-The-Air)アップデートといった機能に対応するため、車載ECUの種類は増加し、1台あたり100個を超えるケースも珍しくありません。

従来型のアナログな開発手法、および個別最適されたベンダー独自開発では、こうした環境変化に伴う速やかな仕様変更や機能追加への対応が難しくなってきました。

また、サプライヤーごとにソフトウェア仕様が異なることで、OEM側はプロジェクトごとに検証・評価コスト、維持管理コストが膨れ上がり、品質トラブルの温床となるリスクも増しています。

こうした課題を根本的に解決するため、車載ソフトの基礎部分を標準化し、開発効率化・品質向上・コスト削減・再利用性強化を目指すAUTOSARの重要性は日増しに高まっています。

AUTOSARの基本構造と仕組み

AUTOSARにはClassic Platform(CP)とAdaptive Platform(AP)の2系統があります。

Classic Platform(CP)とは?

主に制御系(パワートレイン、ボディ、セーフティ等)のリアルタイム処理が必要なECUに重きを置いています。

車載ネットワークの通信スタックや診断・タスク管理・メモリ管理など共通機能の「BSW(Basic Software)」、及びアプリケーションレイヤーの部品化(SWC : Software Component)を標準フォーマットで実現します。

Adaptive Platform(AP)とは?

自動運転やコネクテッドなど、高度な演算能力や柔軟性・OTA更新が求められる分野に適合します。

Linux等の汎用OS、サービス指向アーキテクチャ、POSIX互換、セキュリティ機構など、IT業界の標準技術も積極的に取り入れています。

この2つを適材適所で使い分けることで、各車載機能に最適なソフトウェア基盤を構築できる点が、AUTOSARの大きなアドバンテージです。

AUTOSAR導入によるメリット

(1)開発効率の劇的向上

ECUベースソフトウェアの共通化により、サプライヤーやOEMごとに“ゼロから”開発していた部分を、モジュールの組み合わせで開発可能となります。

設計リソースをアプリケーション本来の価値向上へ集中できるため、開発期間短縮・コスト削減が顕著に現れます。

(2)品質安定化・再利用性の向上

標準化により、綿密な相互接続検証が可能となり、派生トラブルやアップデートに関わるリスク低減にも貢献します。

さらに、部品の再利用性が向上し、ラインアップ展開や世代交代にも柔軟に対応可能です。

(3)バイヤー・サプライヤー双方にとっての利点

調達購買の視点では、AUTOSAR規格に準拠したサプライヤー選定が容易となり、サプライチェーン全体の最適化が進みます。

サプライヤー側も、共通仕様に基づき開発リソースを複数顧客へ効率的に提供でき、ビジネス展開と収益力向上の双方が図れます。

AUTOSAR導入時の課題と対応策

いくら優れた標準規格とはいえ、導入には一定のハードルも存在します。

(1)既存プロセスとのギャップ

日本の製造業の現場は、昭和時代からの手作業・個人格差・属人性に強く根ざしている傾向があります。

標準化によって今まで暗黙知で回していたノウハウや調整業務が表に浮き彫りとなり、処理プロセスや運用方法の見直しが必須となります。

ここを乗り越えるためには、レガシーシステムおよび現場固有のオペレーションをよく観察し、AUTOSAR仕様へのマッピングと運用設計を“現場視点”で再構築することが重要です。

(2)人材育成と組織作り

AUTOSARに対応するためには、仕様書の読解力や抽象的な設計スキル、高度なマルチベンダー協調が必要となります。

従来の“部品屋精神”に縛られず、エンジニア・調達購買・管理部門のすべてが共通言語で議論できる横断型人材育成がカギを握ります。

社内研修だけでは限界があるため、外部カンファレンスや実践的なプロジェクト型研修への積極参加も推奨します。

(3)初期導入コストの壁

ツールライセンスや組織変更、環境構築には初期投資が不可欠です。

しかし、これは中長期的な工数削減とBtoB競争力向上のための先行投資であり、目先のコストカットに留まらず、価値創造型の購買戦略を打ち出すことが求められます。

AUTOSAR導入の成功事例まとめ

ここでは、製造業の現場で実際にAUTOSARを導入し、大きな成果を上げた事例をいくつかご紹介します。

(1)国内大手自動車サプライヤー:大幅な工数削減とグローバル対応

この企業は輸出車種の拡大にあたりAUTOSAR CP仕様を全面採用。

従来はECUごとに異なる開発環境・設計規則が存在していましたが、AUTOSARへの統合により、プログラム設計工数を約30%削減。

またグローバルプロジェクトでの再利用率向上により、多地域展開の迅速化と品質標準化が実現しました。

(2)外資系OEM:機能安全ISO26262との親和性

AUTOSAR導入により、弊社はECUの安全設計フェーズでの“設計ミスの見落とし”や“テスト工数肥大”という課題をクリア。

機能安全規格に準拠した要件追跡や自動検証フレームワークの実装が容易となり、設計・検証工程の質が大きく向上しました。

(3)中堅部品メーカー:新規分野参入とビジネス拡大

これまでアナログ部品中心だった当社ですが、AUTOSAR APに対応した頭脳系ECUモジュール開発を実現。

OEM各社への提案が可能となり、コネクテッド事業・自動運転領域への新規市場参入に成功しました。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの視点で考える、今後の製造業とAUTOSAR

日本の製造業では「車載ソフトはブラックボックス」「アナログな購買が主流」という昭和的常識が根強く残っています。

しかし、グローバル競争やDX推進が急速に進む中、共通化・標準化による全体最適、そして“バリューチェーン全体での協調”が今後の成否を左右します。

バイヤーの立場では、サプライヤーのAUTOSARレディ状況、組織横断力、デジタル化への適応力こそが購買戦略の鍵となります。

一方、サプライヤーは単なる御用聞きではなく、AUTOSAR規格への適合力やシステム提案力を磨き、開発・生産・品質・コストのすべてで顧客のパートナーとして存在価値を発揮すべきです。

大型取引や海外拡販を目指すなら、自社の成熟度評価や“将来を見据えた投資”が不可欠となります。

まとめ:製造業の新たなフェーズを切り拓くために

AUTOSARは単なる車載ソフト開発の標準化という枠にとどまらず、日本のものづくり文化そのものを次世代に進化させる可能性を秘めています。

「現場で培ったアナログ精神」と「最新のデジタル標準化」を掛け合わせたとき、はじめて新しい日本の製造業の地平線が見えるはずです。

車載ソフト開発のみならず、生産管理や調達購買にもその精神を広げ、部門の垣根を越えて全員が“自分ごと”として標準化に取り組むこと。

昭和から令和へ、アナログからデジタルへ。そして属人主義から共創型ものづくりへ。

AUTOSAR導入の現場目線・課題・成功事例を参考に、新たな挑戦への一歩を踏み出す人が増えること。

それこそが、私たち製造業パーソンが次世代へ誇れる価値創造への近道だと信じています。

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