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量産切替時の立上げ不良を巡り責任分担が曖昧だった事例と対策

目次
はじめに
量産切替時の立上げ不良は、製造業にとって避けては通れない課題です。
特に、サプライヤーとバイヤーの間で発生する「不良の責任分担」が曖昧になると、問題解決までに多くの時間とコストが浪費されてしまいます。
本記事では、筆者が実際に直面した量産切替時の立上げ不良の事例をもとに、なぜ責任分担があいまいになるのか、そしてその対策について現場目線で解説します。
また、昭和的な手法がいまだに根強く残る製造業界の慣習から一歩踏み出すためのラテラルシンキングを活用し、新しい課題解決の視点についても言及します。
量産切替時の立上げ不良とは何か
工程移行のタイミングこそリスクが高まる
量産切替とは、試作開発から本格的な大量生産工程へ移行するタイミングを指します。
このタイミングでは、製品仕様や工程条件が頻繁に更新されるため、不良が発生しやすくなります。
たとえば、試作段階ではクリアできた品質条件が、量産工程の微妙な設備差・材料ロット差・人的作業差によって、突如として不良品がラインに流れ込むことが少なくありません。
立上げ不良の典型例
量産立上げに伴う不良には以下のような例が挙げられます。
– 金型切替時の寸法精度不良
– 材料ロット切替時の物性不良
– 工程ごとの作業者手順バラつきによる外観不良
– 検査工程での基準あいまいによる見落とし
これらの不良は複数の因子が絡み合って発生することが多く、「誰が責任を持つべきか」が曖昧になる場合が多発します。
責任分担が曖昧になった現場の実例
典型的な現場の対立パターン
私がかつて経験した自動車部品メーカーでの事例をひとつ紹介します。
新型車量産の切替タイミングで、樹脂成形部品の外観不良(黒点異物)が続出しました。
バイヤーである完成車メーカー側は「サプライヤーの管理不足」と指摘し、サプライヤー社内では「材料特性の問題か」「設備起因か」「そもそも検査基準の解釈違いか」と議論が紛糾しました。
納期短縮とコストダウンが同時に求められる中、各部門で責任転嫁が始まりました。
– 資材部門「調達先の履歴やロット管理が十分か」
– 製造部門「設備の清掃とメンテは計画通り」
– 品質管理部門「検査基準書の文言が曖昧」
– 営業部門「取引先とのネゴシエーションで信頼が揺らぐ」
最終的には「部門横断チーム」で徹底的に原因を精査し、責任所在を明確化するまでに1か月以上を要しました。
現象の再発 ― 昭和的アナログ慣習の影響
さらに悪いことに、現場では「前回もこうやって処理してきた」という属人的・経験的な対応が根強く、その場しのぎの修正(追加検査や暫定措置)で乗り切ろうとする傾向が見られました。
この「昭和式現場力」は確かに短期の問題抑制には効力がありますが、根本的な責任分担の明確化や再発防止にはつながりません。
なぜ責任分担が曖昧になりやすいのか
複雑なバリューチェーン構造と力学関係
現代の製造業は複数のサプライヤー、外注先、部門間が密接に絡み合うバリューチェーン構造です。
このため、工程のどこかで不良が発生しても、どの段階で起こったものなのか、または発見すべきだったのかが即座に特定できないケースが多く見られます。
伝統的な「なぁなぁ文化」と責任転嫁
特に昭和的な企業文化では、明確な責任区分よりも「みんなで何とかしよう」という空気が漂いがちです。
このため、本質的な原因にメスを入れるより、現場で丸く納めることで問題を先送りにしてしまう傾向があります。
情報伝達と判断プロセスの属人化
また、工程ごとの情報が十分に形式知化されていない、手書きや口頭での伝達がいまだ中心といったアナログ業務が主流です。
この結果、判断や記録が属人的になり、「誰が何を決めたのか」が曖昧になりがちです。
立上げ不良における責任分担明確化の対策
工程FMEAと4M変更管理の徹底
工程ごとのリスクを洗い出し、責任範囲を明確にするために最も有効なのがFMEA(故障モード影響解析)です。
特に 4M(Man・Machine・Material・Method)の変更点がどこかを量産開始前に徹底管理することが、原因特定と責任明確化の第一歩となります。
FMEA実施時は、購買・調達・製造・品質・設計の全関係者を巻き込み、誰が何のリスクにどこまで目を配るべきか、文書化することが重要です。
契約段階での品質責任範囲の明記
取引基本契約や個別仕様書の段階で、どの工程・問題についてはどちらが最終責任を負うのかを「曖昧な表現」ではなく、数値・工程・タイミング等で具体的に明記しておきます。
たとえば、「量産初回3ロットはサプライヤー主導で寸法変動を全件記録し、バイヤー側で怪しい点は初期流動会議で即時指摘する」など、実務的な連係内容まで落とし込まなければなりません。
デジタル化による履歴・証跡管理の推進
これまで「なんとなく」進められてきた異常兆候やトレーサビリティの記録も、近年ではIoTやMES(製造実行システム)導入により、電子記録化が容易になりました。
設備データ・作業記録・材料ロット情報などがリアルタイムに可視化されることで、後追いで「責任範囲」を追求する際の証拠が格段に強化されます。
もちろん、導入初期は現場の戸惑いも大きいですが、トラブルが発生した際の原因特定スピードと精度は劇的に向上します。
昭和的慣習を打破するラテラルシンキングのすすめ
「責任を押し付け合う」から「価値を共創する」へ
量産切替時によくあるのは、「不良が発生した=誰かのせい」と短絡的に責任転嫁が始まることです。
しかし、真に製造業が生き残るには、「なぜ不良が出たのか」をみんなで紐解き、「どのようにすれば再発しないか」を部門横断型で議論し続ける必要があります。
ラテラルシンキングとは、枠組みにとらわれない発想転換です。
不良が発生したとき、単純に「検査が甘かった」「設備が古い」と決めつけるのではなく、一歩引いて「工程設計そのものを見直せないか」「検査基準と顧客要求水準を再評価できないか」といった、広い視点で考えることが肝心です。
サプライヤーとバイヤーの境界を曖昧にする
これまでは「供給側(サプライヤー)」と「購買側(バイヤー)」が完全に線引きされ、「ここからこっちが責任」という考え方が主流でした。
今後は、工程ごとの品質目標や不良リスクを「共同プロジェクト」として定義し、互いの強みで補い合う関係づくりがカギになります。
実際、共同で初期流動管理(APQPやPPAPなど)を行い、お互いの現場を見学し合うことで想定外のリスクや改善策が見つけやすくなります。
現場目線での実践的な取り組み案
1. 毎日のショートミーティングと異常早期通知
立上げ初期は工程リーダー・品質担当・調達の3者で毎日5分のショートミーティングを行い、前日発生した異常やヒヤリ報告を即時共有します。
メールや紙ではなく、朝の立ち会いで口頭ベースで構いません。
異常を「隠さず、早く出す」文化醸成が第一歩です。
2. トラブル共有会で失敗事例から学ぶ
月に一度は、バイヤー・サプライヤー合同のトラブル共有会を設け、責任を問うのではなく「再発予防策」に知恵を出し合います。
重大人災は表彰制にして、「隠さずに報告した人を評価」する仕組みも有効です。
3. 初期流動管理資料の標準化・テンプレ化
Excelや紙台帳でばらばらに運用している工程・検査基準やトラブル履歴を、「初期流動管理票」として全社で統一・テンプレ化します。
これにより、異動や退職でノウハウが分断されるリスクを減らせます。
まとめ
量産切替時の立上げ不良は、多様な要因が絡み合い、責任分担が曖昧になりがちです。
それを防ぐためには、FMEAや4M管理、デジタル化、契約上での明確な品質責任範囲設定が不可欠です。
また、昭和的な現場対応主義から一歩進み、責任追及型から共同価値創出型へと現場文化を転換することも求められています。
製造業に勤める方、未来のバイヤー、そしてバイヤー心理を知りたいサプライヤーの皆さま、ぜひ一度、ご自身の業務を「責任分担の明確化」視点で見直してみてください。
現場の知識や経験を活かした新たな工夫で、より良いモノづくりの未来を切り開きましょう。
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