投稿日:2025年6月19日

ねじ締結におけるゆるみ防止技術と疲労破壊の発生メカニズムおよび対策

はじめに-ねじ締結が製品品質に与えるインパクト

製造業の現場では、ねじによる締結はもっとも一般的な構造要素の一つです。
自動車、家電、重工業機械、航空機、さらには電気機器に至るまで、ねじの役割は極めて大きいものとなっています。

一方で、ねじ締結部のゆるみや疲労破壊は、製品の品質や信頼性に直結する深刻な問題です。
ねじ1本の緩みや破断から重大事故や大規模なリコールにつながるリスクがあり、その対策は業界共通の重要課題です。

本記事では、昭和から続くアナログな製造現場での現実や、最新の動向も織り交ぜながら、ねじ締結におけるゆるみ防止技術、疲労破壊発生メカニズム、その実践的対策についてわかりやすく解説します。

ねじ締結部がゆるむ本当の理由

ねじの緩みとは何か?

ねじの締結力(軸力)は締付け時には十分に確保されていても、実際の使用環境下では振動、衝撃、温度変化などにより次第に低下し、最終的に緩む場合があります。
この「緩み」が発生することで、隙間から異物や水が浸入したり、締結力の消失に伴い部品同士の脱落・破損を招きます。

ねじのゆるみ発生メカニズム

ねじのゆるみが発生する主な原因として以下のようなものがあります。

・ 初期緩み:座面なじみ変形や微小な締付け不足による、組み立て後の短期的な軸力低下
・ 振動・衝撃による緩み:繰り返される外力により、ナットやねじが徐々に回転してしまう「自己緩み」
・ 摩擦の減少:潤滑油の使用や経年劣化により、摩擦力が低下
・ 温度変化による膨張・収縮:異種材の締結や高温環境化における熱応力
・ ガスケットやパッキングのクリープなど二次部品の変形

このように、たった1本のねじであっても現場ではさまざまな「ゆるみ」の引き金があります。

昭和の現場ではどうしてきたのか

昔ながらの製造現場では、“経験と勘”による締付け確認や「念のため」の二重ナット、多数回の手作業検査、印による管理が一般的でした。
実際に、規格トルクに頼らず「このぐらいで締まっていればOK」という属人化した方法も根強く残っています。

しかし、製品のグローバル化と責任範囲の拡大、サプライチェーンの長大化を受け、定量的・標準化された”ゆるみ防止”がますます求められるようになっています。

ゆるみ防止技術の最新動向

1. 機械的ゆるみ止め法

・ スプリングワッシャーや歯付きワッシャー
・ ロックナットやダブルナット
・ 変形ナット(ナイロンインサートナットなど)
・ くさび付きやピン・割ピンの使用

これらは現場で即効性があり、コストも比較的低く抑えられるため今も多用されています。

2. 化学的ゆるみ止め法

・ ねじロック剤(アナエロビク接着剤)
・ 塗布タイプの防緩剤や特殊コーティング

ロック剤は気密性も向上し防錆効果も併せ持つため、精密機器や自動車分野で広く普及しています。

3. 設計変更によるゆるみ対策

・ ねじの呼び径やピッチの最適化
・ 十分なねじ込み長さの設計
・ 適正トルクおよび軸力設計
・ 複合素材・異種材接合時の予圧補正

設計段階での対策がもっとも確実ですが、コストや納期への影響も大きいのが現実です。
近年ではCAE解析によるシミュレーションや、軸力センサ付きねじ(スマートボルト)の採用も検討されるようになっています。

疲労破壊の発生メカニズム

疲労破壊とは何か

材料に繰り返し荷重が加わることで、その応力により内部に微小な亀裂が発生し、成長・拡大を経て最終的に突然折損する現象が「疲労破壊」です。

ねじ部は形状からくる応力集中や、締結時の軸力・せん断力などが重複することで特に疲労破壊が起きやすい部位です。

ねじ部特有の疲労破壊要因

・ ねじ山の底部での応力集中
・ 組付け誤差や締付け過大による局所的な圧痕
・ 繰り返しの振動・荷重
・ 部材間に僅かな隙間やがた(バックラッシュ)が存在する場合
・ サビや腐食、塩害などによる強度低下

特に自動車・建設機械・鉄道・航空分野ではこの疲労破壊による事故は絶対に避けたいものです。

疲労破壊・ゆるみ防止の現場実践的対策

1. 適正締付けトルク管理の徹底

トルクレンチ・トルク管理器具の導入により、だれが締めても「適正なトルク」で締付けられる体制づくりが基本です。

また、トルク管理では「締付トルク」だけでなく「軸力」の確保(ばね定数や素材特性の考慮)も大切です。
たった±10%のトルク誤差で軸力は大きく変動します。

2. 定量的なゆるみ検知と継続管理

現場では見落としがちな「締付け後の軸力低下(クリープ)」に注意しましょう。
マーク付け(マーキングペンやシール)だけでなく、定期的なねじ部の再測定や振動試験台による定性評価も効果的です。

IoTを活用した「ゆるみ監視」では、ボルト軸力センサやねじ部内の状態変化を常時モニタリングする手法も徐々に普及しつつあります。

3. 材料・表面処理による疲労強度向上

材料自体の疲労強度を高めるためには、高張力鋼や特殊合金の採用、表面硬化処理(窒化やショットピーニング)等が有効です。
電気めっきや防錆コートで腐食を防ぐことも重要です。

特殊なケースでは、ねじ山の“ロール成形”によるせん断強度向上、微細な表面粗さ管理も有効となります。

4. ゆるみ止め部品・設計ガイドラインの活用

ISOやJISのゆるみ止め設計ガイドライン(例:JIS B 1041シリーズ)や、自社基準書に基づいた設計・調達・製造が重要です。
“昔ながらのローカルルール”と“国際規格”の両立がユーザー信頼につながります。

また、サプライヤーとしてはねじ部品・緩み止めワッシャ・独自ロック部品などの標準品を提案する姿勢がバイヤーとの信頼構築に直結します。

サプライヤーやバイヤーが押さえるべきポイント

サプライヤー視点では、自社からの提案力(最新対策部品、耐疲労性を高めた材質・表面処理)の提示が他社との差別化につながります。
材料証明やねじの品質管理体制の透明化(COC/COA提出など)も信頼性アップのカギです。

バイヤー(調達購買担当者)としては、単価だけでなく
・ 締結部からの故障リスク低減
・ 長期安定供給
・ 現場保守性の確保
を重視した“全体最適”調達が求められます。

「見積もり価格」対「不具合による逸失利益・リコール費用」など、TCO(総コスト)視点での調達判断力がこれからの担当者には欠かせません。

まとめ-ねじ1本から製造業の未来を変える

ねじ締結部のゆるみあるいは疲労による破損は、単なる部品トラブルの域を超えて、時代とともに“サプライチェーン全体の信用問題・ブランド問題”に発展しています。
QCD(品質・コスト・納期)だけでなく、現場から得た知見・工夫・ノウハウの見える化、そしてデジタル技術の融合が今後のねじ締結部管理の進化を大きく後押しするでしょう。

現場の地道な努力も、設計・調達・サプライヤーが一体となった連携も、すべては「ねじ1本の確かさ」から始まります。

現場でも、オフィスワーカーでも、今一度ねじ締結部を“機械の安全保障”“品質の砦”として捉え直してみてはいかがでしょうか。
そして、これからの時代の締結技術の発展に一緒に取り組んでまいりましょう。

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