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セーターの縮みを防ぐ防縮加工と仕上げ工程の科学

目次
はじめに:セーターの縮みはなぜ起こるのか?
セーターは冬季の定番アイテムとして幅広く愛されています。
しかし、お気に入りのセーターが洗濯後に縮んでしまうという経験は、多くの方が一度は体験しているのではないでしょうか。
この「縮み」は、消費者にとっては大きな不満となり、アパレルメーカーや素材供給業者にとっても重大な品質課題です。
そもそも、なぜセーターは「縮む」のでしょうか。
主な要因は、動物繊維(主にウール)の特性と、編み組織の構造にあります。
さらに、それに加えて、製造現場の工程管理や品質管理のあり方が大いに関係してきます。
本稿では、20年以上製造業の最前線で現場を見てきた経験から、セーターの縮みを防ぐ防縮加工と仕上げ工程の科学的な側面について、現場目線の実践的な内容とアナログ業界の現実を踏まえながら、詳しく解説します。
セーターの素材特性と縮みのメカニズム
ウールの構造とフィブリル化
セーターでよく使われるウールは、動物繊維ならではの「スケール」が表面にあります。
スケールとは、羊毛の表面についたウロコ状の部分で、水や熱、摩擦などの作用を受けると、このスケール同士が絡み合い、結果として繊維が収縮しやすいのです。
これが、いわゆる「フェルト収縮」現象です。
ウールを構成する角質タンパク質は、湿気やアルカリ性環境下で分子レベルの結合に変化が生じます。
このため、特に洗濯で水分と熱が加わった際、スケールが逆立ち、繊維間の滑りが悪くなって互いに絡みつきやすくなります。
この複合的な現象が「フィルト化」、すなわちセーターの縮みとして現れるのです。
編み工組織による違い
もうひとつ見逃せないのが、「編み地」の特徴です。
セーターはニット、つまり「編み物」として制作されており、経編(たてあみ)や横編(よこあみ)など、組織が緩いことが一般的です。
このため、伸縮性には富んでいますが、洗濯等の物理的刺激により「目」が詰まり、面積が縮むリスクが高いという欠点を抱えています。
防縮加工の種類と仕組み
防縮加工の概要
セーターの縮みを防ぐには、防縮加工が重要です。
現場では「防縮ウール」などと呼ばれる製品が出回っていますが、これには様々な処理方法が存在します。
防縮加工の目的は、ウールの繊維表面から「スケール」の毛羽立ちや絡みを抑え、繊維同士がフェルト化しにくいようにすることです。
代表的な防縮加工(クロリネーション処理)
最も古典的かつ現在も広く用いられているのが「クロリネーション処理」です。
これは、塩素系薬品によって繊維表面のスケール部分を部分的に溶解・除去し、繊維表面をなめらかに仕上げます。
スケール同士が絡みにくくなるため、洗濯による縮みを大幅に抑えられます。
この処理は低コストで効果が高く、品質管理コストと歩留まりの観点からも導入しやすい加工です。
ですが、一方で薬剤管理に注意が必要であり、環境問題や繊維の感触変化も指摘されています。
樹脂系防縮加工
さらなる技術として、近年では「樹脂バインダー加工」も普及しています。
これは、繊維表面に特殊な樹脂をコーティングし、スケール同士の物理的絡みをガードする方法です。
塩素系処理よりエコロジカルな傾向があり、有害な副生成物が少ないためISO14001等の環境規格でも好まれています。
コーティング層は繊維の柔らかさや吸湿性を多少損なう場合もありますが、コンフォート性と加工効果のバランスを「最適化」する設計が進んでいます。
防縮加工の現場での実態:昭和からのアナログと最新技術の融合
工場現場での工程管理
みなさんがイメージするよりも、現場はアナログな部分が根強いのが実態です。
防縮工程は「すりこみ綿密作業」や「手触り検査」など、古くから受け継がれる職人感覚に依存する点が多く残っています。
近年はオンラインで筒状センサーや画像解析による自動判定も登場しましたが、小ロット・多品種生産では未だ人の経験と五感による判断が欠かせません。
最終仕上げで機械を通す前に、目で柄・厚み・色・風合いを確認する、古き良き昭和の工程管理が根付いている工場も少なくありません。
ひとたび「不良ロット」が出れば、現場の「なぜ?」を徹底的に掘り下げ、元凶となる「温度・薬剤濃度・滞留時間」などを泥臭く現認・記録し、再発防止策を講じていきます。
このアナログとデジタルのバランス感覚こそが、熟練現場の真骨頂です。
仕上げ工程の科学と品質管理
セーターの風合いを左右する最終プロセス
防縮加工のあとには、「仕上げ工程」が待っています。
これは、糸のふくらみや弾力性を適切に戻し、自然な肌触りや伸縮性、落ち着いた光沢感を出す繊細な工程です。
主な手法には以下のようなものがあります。
– 湿熱仕上げ(スチームセット)
– 乾燥テンションセット
– ポストカレンダー仕上げ
繊維を蒸気とやわらかな圧力のもとで整え、目がきちんと戻った編み地にすることで、セーター本来の立体感をキープします。
この工程でも、ちょっとした機械の温度差やスチーム量、送り速度の設定が品質を左右します。
現場の「勘」とデータ活用
昭和~平成の長い間、仕上げ工程も「ベテランの五感判断」に頼ってきました。
しかし、ここ十数年で品質データの蓄積やAIフィードバック、画像解析技術の進歩が製造現場に浸透しています。
重要なのは、「勘」や「経験値」を「記録」と「数値データ化」し、他の担当者や将来世代へ共有・標準化していくことです。
このアナログ感覚と最新科学の共存が、業界発展の鍵を握っています。
バイヤーやサプライヤー目線で考える、今後の防縮加工の展望
調達・購買戦略の視点から
バイヤーにとって「生地の防縮性能」は、クレーム削減やブランド価値・市場評価に直結する重要要素です。
従来は単一のコストダウン要求が主流でしたが、SDGsスタンダードにより「環境配慮型」「トレーサビリティ確保」「長期的な品質安定」が価値として高まっています。
配合薬剤や加工記録、エビデンス管理体制、工程カイゼンのPDCA状況までを現場で確認できるサプライヤーは、今後大いに選ばれる存在となるでしょう。
サプライヤーがバイヤーから求められるもの
サプライヤーとしては、「ただ縮まない」だけの加工ではなく、消費者のライフスタイル変化(家庭洗濯・時短志向等)やエシカル消費対応、肌触りや伸縮性といった総合的な「価値」をどう提案できるかが差別化ポイントです。
とくに、単なる外注任せではなく、「自社一貫管理体制のアピール」や「現場での継続的なカイゼン活動レポート」を打ち出すことで、バイヤーとの強固な信頼関係を築けます。
まとめ:「進化」と「原点回帰」の狭間で
セーターの縮み防止は科学的技術進化と現場のアナログな知見の結晶です。
効率や自動化だけではなく、「最後は人の目・手・五感」による品質鍛錬と、記録・データ管理による標準化の共存こそが、現場の地道な発展を支えてきました。
今後、SDGsや本質的な品質志向の高まりとともに、防縮加工の工程もますます多様化・高度化していくでしょう。
一方で、「現場で培われた知恵」と「技術進化」をうまく融合させ、双方の強みを引き出していくマインドが、製造業全体の競争力アップに繋がるはずです。
セーター一着が持つ科学と現場魂の物語を、次世代のものづくりやサプライチェーンに存分に活かしていきましょう。
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