投稿日:2025年12月19日

営業と調達のどちらも専門になれない不安

営業と調達のどちらも専門になれない不安とは

製造業の現場で長く仕事をしていると、「営業」「調達(購買)」という二つの重要な機能に接する機会が必ず出てきます。

しかし、それぞれが密接に関わる一方で、どちらも専門になりきれない。そんなモヤモヤとした不安を感じている方が、実は業界内には少なくありません。

特に昭和世代から続く“なんでも屋”文化が色濃く残る製造現場では、職務を横断することが価値であると思われる一方、専門性を突き詰めたいという個人のキャリア観とジレンマに陥るケースが目立ちます。

本記事では、製造業における営業・調達の役割の違いと、その間で揺れる「どちらも専門になれない不安」の本質について、現場経験を踏まえて深く掘り下げていきます。

製造業における「営業」と「調達」——それぞれの専門性

営業職の特徴と求められるスキル

製造業の営業は、単なる「モノ売り」ではありません。

顧客の要望を細かくヒアリングし、技術部門や生産現場と協力して最適な製品・ソリューションを提案します。

プロジェクトのリードタイムを把握し、納期・コスト・品質など、複数の条件のバランスも管理。

また、見積書作成、サンプル出荷、商社・代理店との調整、クレーム対応など、業務範囲は幅広いです。

さらには顧客開拓、新規市場への販路拡大といった攻めのスキルも求められます。

調達(購買)職の特徴と必要とされる能力

一方、調達・購買はサプライチェーンの川上を担う職種です。

部品や原材料の価格交渉、契約条件の調整だけでなく、品質保証や納期管理、災害や為替リスクに備えた調達戦略の立案も含まれます。

また、サプライヤー開拓や現地工場とのやり取り、海外調達の場合は英語対応・貿易実務も必要になります。

コストダウン活動や在庫管理など、きめ細かな原価・コスト管理能力が要求され、社内の生産管理・品質管理・技術部門との調整にも長けていなければなりません。

切っても切れない「営業と調達」の関係性

営業がとってきた案件を実現するのも、調達が交渉してコストや納期を守るのも、最終的には顧客満足という同じゴールに結びついています。

しかし、目線は違います。

営業は「顧客の期待に応える」ことが絶対であり、調達は「仕入先と自社の利益最大化」も大きな責務です。

この視点の違いが、時には摩擦を生み、同時に両者の役割の重要性を際立たせています。

なぜ「両方の専門家」になれないことが不安なのか

ジェネラリスト志向とスペシャリスト志向のはざまで

昭和・平成前半の日本企業では、「全部門を幅広く経験し、マルチな能力を持てる人間が理想」という価値観が根強くありました。

一方で、世界的には「ひとつの分野で尖ったスペシャリスト」が高く評価される時代。

現場では、営業経験に培った“顧客視点”も、調達で身につく“原価意識”も、どちらも頼りにされます。

その結果、“なんでもできるが、どれも極め切れていない自分”に不安を抱きがちです。

AI・グローバル化時代で加速する「専門性」の重み

特に近年は、AIやデジタルツールの導入、グローバル市場の拡大により、営業・調達それぞれのスキルは高度化しています。

デジタル時代のデータ解析やSCM(サプライチェーン・マネジメント)、海外調達の法務知識など、専門職ならではの知識要求が急増。

「どちらも表面的に手を出しているだけでは埋没してしまう」という危機感が、不安の正体です。

また、インダストリー4.0やIoTといった先端分野では、旧来の業務経験だけでは通用しない場面も増えています。

現場のリアル――部門間異動の多さと“専門店”文化の壁

大手メーカーでは、営業と調達をキャリア上でローテーションするケースも珍しくありません。

そのメリットは、「多面的に現場を理解し、部門連携に強くなること」ですが、逆に言えば「根を張って深掘りできる期間が短い」とも言えます。

一方、中小製造業や海外勢では「入社直後から特定部門一筋」「一人あたりの守備範囲が狭い(専門店化)」というスタイルも多く、ジェネラリストとの競争で悩む方も多いのです。

「どちらの専門にもなれない」現実との向き合い方

本質は「間(はざま)」を知る人材の価値にある

実は、営業と調達の両部門を経験した人材は、極めて貴重です。

双方の業務目線・社内調整力を理解しているからこそ、お互いの落としどころを探れる“ファシリテーター役”になれます。

たとえば、営業起点の無理な納期要求を調達視点で現実的な調整に落とし込む、あるいは調達目線の原価低減を営業側で顧客提案に活かす——こうした「橋渡し」こそが、品質トラブルの防止やリードタイム短縮に直結します。

新たな時代の「専門性の作り方」

業界横断でコストダウン、SDGs、カーボンニュートラル調達など、新たなテーマが台頭しつつあります。

そのなかで「部門を超えた知見」「プロジェクトマネジメント力」「仕組み作りの発想」など、従来型の“狭く深い”専門性とは異なる軸が不可欠になってきています。

例えば、データ活用や自動化、DX推進といったテーマでは、営業と調達を串刺しにした“プロセス再構築”が求められます。

こうした「横断領域のスペシャリスト」=“ジェネラリストの専門家”が、これからの製造業で確実に重宝されるでしょう。

現場目線でできるキャリアアップ戦略

自身の強みを明確にし、専門職への道を模索するなら——
– 営業であれば、特定業界(たとえば自動車、半導体等)に精通した営業
– 調達であれば、海外調達や部材共通化の実績を積み、業界トップサプライヤーとのネットワークを築く

このように“テーマで尖る”方法も有効です。

部門ローテーションを「経歴ブレ」と捉えず、「部門間連携の専門家」「仕組み作りの旗振り役」として新しい肩書き・ブランドを確立するのもひとつの道でしょう。

サプライヤーやこれからバイヤーを目指す方へ——現場の本音から学ぶ視点

サプライヤー視点でバイヤーの考えを読むコツ

サプライヤーの立場で営業・調達両方の視点を持てると、相手の期待や本音が鮮明になります。

バイヤーは単純に「安いものがほしい」のではなく
– どんなリスクを恐れているのか(不良率・納期遅延など)
– 顧客や社内で立場がどうなっているのか
– 新しい提案や情報をどのくらい重視しているのか

こうした“行間”を読む力が重要になります。

営業経験がある調達担当者は、この点でサプライヤーとの信頼関係構築に優れています。

また、近年は「提案型バイヤー」や「共創バイヤー」への需要も強まっており、現場を理解したコミュニケーション力が強い武器です。

バイヤー志望者が知っておきたい「現場のリアル」

購買職は消耗品の発注係、というイメージは完全に過去のものです。

現場全体を見渡す広い視野と、納入先工場まで足を運ぶ現地現物主義が評価される傾向にあります。

また、取引条件や価格だけでなく
– サステナビリティ(持続可能な調達)
– 部品トレーサビリティ
– 生産中断回避のためのリスクマネジメント

こうした新しい視点を武器にできます。

営業から調達にキャリアチェンジしたい人も、現場ベースの知見=「どちらの専門にもなれない」経験が、むしろ現代の製造業には大きな強みになるのです。

まとめ:営業×調達の“間”にこそ、これからのキャリアがある

製造業は、今まさに大きな変革期を迎えています。

営業でも調達でもなく、両方の専門性を理解する「橋渡し役」は、今後ますます価値が高まるでしょう。

過度に「どちらかに寄せる」必要はありません。

現場・市場・組織、それぞれの間に立ち、調整と仕組み作りを推進できる人材を目指す。

それが、これからの製造業を支える“新しいプロフェッショナル”の道ではないでしょうか。

「両方専門になりきれない」ことを悩みとせず、「両方の経験があるからこそ、自分にしかできないことがある」と、自信を持って現場に貢献しましょう。

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