投稿日:2025年7月1日

インフラの劣化診断センサにおける圧電発電および電磁誘導発電技術の活用法

はじめに: 進化するインフラ診断と発電技術の融合

現代社会の基盤を支えるインフラ(道路、橋梁、トンネル、ダムなど)の老朽化が加速する中、定期的な劣化診断の重要性は年々増しています。

人的な監視や検査に頼るだけでは、限られたリソースで広範囲な劣化を見逃してしまうリスクも大きいという実態があります。

昨今、IoT技術の発展によって、インフラ各所へのセンサ常設が現実的となりつつありますが、ここで大きな壁となるのが「センサの電源問題」です。

バッテリー交換や配線は、設置場所によっては非現実的、または極めてコスト高となり、普及を阻害してきました。

こうした課題解決に注目されるのが、「圧電発電」と「電磁誘導発電」を活用した自立給電型センサです。

本記事では、私が二十年以上製造業界に関わる中で得た経験と現場目線で、両発電技術の基礎から、インフラ診断センサへの応用、さらには今後の業界動向までを徹底解説します。

インフラ劣化診断の重要性と現場の実態

インフラ劣化と社会的リスク

高度経済成長期に建設された多くのインフラが、今や更新時期を迎えています。

橋梁や道路の崩落事故は社会的に深刻な被害をもたらし、莫大な補修コストと共に人的被害も後を絶ちません。

そのため、早期発見・早期対応を実現するために、各インフラの状態を常時監視するセンサの設置ニーズが拡大しています。

現場での課題:センサ電源という“壁”

トンネル内、橋の支柱、山間部のダムなどは電源確保が困難なためバッテリー頼みになるものの、膨大な数のセンサで定期的に電池交換となると、その労力、コストは想像以上です。

加えて一部インフラでは、点検自体が高所や水中など危険と隣り合わせで、現場では「センサ設置を拡大したくても電源問題で手が出せない」という悩みが広がっています。

圧電発電と電磁誘導発電技術の概要

圧電発電とは

圧電材料(代表的なものはPZTやPVDFなど)は、圧力や振動など機械的なストレスが加わると、そのエネルギーを電気に変換する特性を持ちます。

インフラに加わる道路車両の振動や橋梁のわずかな動きを、圧電素子で捉え発電させることで、センサや無線通信の電源として活用できます。

電磁誘導発電とは

一方、コイルと磁石の組み合わせによって運動エネルギーを電気エネルギーに変換するのが「電磁誘導発電」です。

例えば、橋が通行車両の重みで微細に揺れる、その相対運動を利用してコイルと磁石が動き、交流電流が発生します。

圧電発電より比較的多くの電力が得やすい半面、物理的な構造が若干複雑になりますが、繰り返し応力が期待できる場所では非常に有利な技術です。

現場での活用法:インフラ診断センサへの実践的応用

事例① 道路橋梁のひび割れ・応力モニタリング

橋の床版や主桁・支承部などは常に車両の重量や外的要因で揺れています。

この揺れや振動を使って、圧電素子や電磁誘導素子を内蔵したセンサを設置します。

例えば、床版に貼り付けた圧電素子で微細な振動から得た電力で、定期的にひび割れの変位を計測し、ワイヤレスで管理事務所へ送信する。

人手を減らし、安全確保のための「常時見守り体制」(IoT監視)が可能となっています。

事例② トンネル覆工コンクリートの浸水検知

トンネル内の湿気や浸水の長期変化を計測するセンサにも発電技術は有効です。

圧電素子や、電磁誘導式のマイクロ発電機を設け、トンネル上部の微細な振動や水滴落下による衝撃をエネルギー源として利用します。

これにより、配線レスで長期連続計測が叶い、厳しい現場環境でも安定したデータ取得が可能になります。

事例③ ダム堤体内部の歪み・漏水モニタリング

巨大なダムも地震や経年による歪み、漏水がリスクとなります。

コンクリート内部や土中へ圧電式発電素子を混入し、構造物の微小な変位・ひび割れが生じた際、それをトリガーに発電、信号送信――といった利用法が進められています。

昼夜を問わず異常を逃さず監視できることで、「起きてから対処」から「兆候を捉えて予防」へ業界の発想が転換しています。

技術導入の課題と今後の展望

発電量の壁と電子回路の進化

圧電発電、電磁誘導発電とも1回の発生電力はμW〜mWオーダーが主流で、従来型の回路や通信モジュールでは到底足りません。

しかし近年、超低消費電力センサ回路やLPWA(省電力・長距離通信)、1回の発電で蓄電してバースト送信する設計手法の進歩により、「マイクロパワー」でも十分に診断業務が成立する現場が広がりつつあります。

設置現場との“相性”を見極める

圧電発電は周囲の振動や圧力入力が必須、また材料疲労への配慮が必要です。

一方、電磁誘導発電は物理的な構造上、耐久性や保守点検性への工夫も要ります。

現場ごとの力学的な条件(振動の周波数、繰返し応力の大きさ、設置スペース)を正確に捉え、コストと得られるデータ価値の見極めが導入設計時のカギとなります。

購買・調達部門の視点での評価ポイント

バイヤーを目指す方、公的インフラの調達担当に必要なのは単なる「部品調達」の枠を超えた、現場ニーズと技術動向への深い洞察です。

発電素子単体、センサ+無線通信のパッケージ、それぞれどの企業がどんな強みを持ち、過去どんな導入実績があるか。

サプライヤー側は、自社技術の「現場での使われ方」「顧客現場状況」にしっかり向き合いバイヤー目線の提案を意識することが長い信頼関係を築くポイントです。

アナログからデジタルへ: 業界変革と今後の期待

製造業に根付く現場主義、匠の直感や経験に頼る暗黙知が、“センサ常時監視”の普及により見える化・共有化が急速に進みつつあります。

一方で、まだまだ保守的な現場文化や、設備投資の意思決定の遅さに課題を感じている人も多いのが実情です。

民間プラントはもちろん、官庁発注のインフラ改修や社会インフラプロジェクトでは、「できない理由探し」よりも、「どうすれば現場で真に役立つか」を考え抜くゼロベース発想が不可欠です。

現場主体で小規模導入からスタートし、現場で真に使いこなせるシステムとノウハウを蓄積、「使える」ことが当たり前になれば、保守作業の自動化、インフラ管理の遠隔・省力化が現実味を帯びてきます。

まとめ: インフラ診断×自立発電型センサが製造業の未来を切り拓く

インフラの劣化診断という領域は、安全・安心という絶対的な社会価値だけでなく、業界全体の業務効率・働き方改革にも直結する分野です。

圧電発電・電磁誘導発電を活用した自立給電センサは、こうした“現場の壁”を打ち破る強力な武器です。

現場目線を忘れず、製造業・インフラ業界双方の知恵と工夫で新たな地平を開拓していきましょう。

購買・調達部門、現場エンジニア、サプライヤーそれぞれの立場から、「現場に本当に根付く」技術活用モデルを模索することが、昭和から続くアナログ業界の変革の起爆剤になると私は確信しています。

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