投稿日:2025年8月15日

部材属性管理でRoHS対応品を自動選定する環境規制順守型発注メカニズム

はじめに:製造業に不可欠となった環境規制対応

近年、製造業界を取り巻く環境規制はますます厳しくなっています。

とくに欧州発の有害物質規制であるRoHS指令は、電子・電気機器に使われる部品や材料を扱う企業にとって、避けて通れない法律です。

この規制に違反すると多額の罰金や市場撤退に追い込まれるリスクがあるほか、企業としての社会的信頼も大きく損なわれます。

しかし、現場に目を向けてみると、部品調達や発注の際、「正しくRoHS対応品が選定できているのか」「規制改定に適切に追従できているか」といった悩みを抱えている購買担当や現場管理者が少なくありません。

この記事では、現場目線で環境規制順守を実現する“部材属性管理”と、それによって自動的にRoHS対応品を選定・発注できる実践的なメカニズムについて解説します。

これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場で顧客の現場ニーズを深く理解したい方にも分かりやすくお伝えします。

環境規制対応がもたらす現場の課題

アナログ管理の限界と現状

昭和から続く製造業の現場では、いまだに部品表(BOM)や部材選定、発注業務がアナログ的に進められている企業も多く存在します。

Excelの独自シートや紙ベースの名簿、ベテラン調達者の頭の中にだけ残る“勘”と“経験”。

一部の工場では「規制対応一覧」と称したプリントアウトがロッカーに貼ってある、といった光景も珍しくありません。

こういった環境では、法規改定の度に情報アップデートが追いつかず、「うっかり規制違反品を使ってしまった」という“ヒヤリ・ハット”は決して対岸の火事ではありません。

万が一出荷後に不適合が判明すれば、膨大なコストと信用失墜、最悪の場合はリコール問題にまで発展します。

複雑・多品種化する調達品目

エレクトロニクス製品を例にとると、一つの製品に1,000点以上の部品が組み込まれることも珍しくありません。

それぞれの部品に「RoHS対応」「REACH対応」「紛争鉱物不使用」等、さまざまな属性情報が付与されています。

しかも、同じ型番でも「Xの工場製は対応」「Yの工場製は非対応」といった事例が発生するため、単純に型番だけで管理することは困難です。

この膨大な属性情報の管理と適正な選定は、すでに人手とノウハウでカバーできる限界を超えています。

グローバル調達の加速と複数法規対応

アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ――グローバルサプライチェーンの中で、各国・各地域の規制も複雑化しています。

RoHS指令もEU以外の国で独自色を強めており、中国RoHSやインドRoHSなど、微妙に規定値や運用が異なります。

すべてを人力で管理し続けることは、現場にも調達管理者にも過重な負荷をかけます。

部材属性管理とは何か?現場の新しい地平線

属性情報ベースの部品マスタを構築

「部材属性管理」とは、部品マスタに「環境規制」をはじめとしたさまざまな属性情報を付与して紐づけておく管理手法です。

例えば一つの部品に以下の属性を持たせるイメージです。

– RoHS対応:〇/×
– REACH対応:〇/×
– 使用用途:半田付/圧入/ねじ留め
– サプライヤー情報:A社/B社
– 製造場所:本社工場/海外工場
– 価格帯
– 最小ロット/納期

この情報をデータベースとして一元管理しておくことで、「今度の新製品はRoHS対応必須」「取引先からREACH証明も求められている」となった時、その条件で自動的に候補品を抽出できます。

属性ごとに自動選定するメリット

この仕組みを導入することで、各種の「選定漏れ」「選定ミス」を防ぎやすくなります。

また規制改定があった時でも、「非対応」属性がついた部品群だけ集中的に選定・発注を止める、といった運用も現実的に可能です。

さらに部材情報と調達業務がシームレスにつながることで、サプライヤー側にも「この部品のRoHS最新版証明書を依頼したい」といった連携がスピーディに行えるようになります。

昭和アナログ業界でも実現できる理由

「そんなのはIT化が進んでいる先進企業だけの話だ」と思われる方もいるかもしれません。

しかしExcelベースの「部材台帳」や「属性一覧」からスタートし、少しずつ自動抽出条件(フィルタ機能)を持たせていくことで、ノーコード・ローコードでも十分実現可能です。

まずは現場で「今なにを使っているか」「どの属性が把握できていないか」の見える化から始めることが重要です。

環境規制順守型発注メカニズムの構築方法

ステップ1:部品マスタの属性定義

まずは現場で運用されている部品リストを洗い出し、必要な属性を定義します。

環境規制(RoHS、REACH、など)はもちろん、グローバル顧客が求める類似規制などもヒアリングし対象を決定しましょう。

この時、「どのタイミングで、どんな証明書類(CoC等)が必要になるか」も整理して属性に加えます。

ステップ2:サプライヤーへのヒアリングとエビデンス取得

「この型番はRoHS対応品なのか」「有害物質が含まれていないことを保証できるのか」をサプライヤーにヒアリングし、可能なものは証明書類を取得しておきます。

ここで大切なのは「ロット管理番号」や「生産拠点」をひも付けることです。

同じ型番でも納入時期や生産工場が異なると属性が変わることがあるからです。

ステップ3:属性情報のデータベース化

Excelや簡単な業務システムで、部品マスタに属性情報欄を設け、情報を入力します。

このとき、将来的にはERPやMESといった生産管理システムと連動することも見越し、データの粒度や区分はあらかじめ整理しておくとよいでしょう。

ステップ4:調達・発注業務と自動連携

新規製品投入やリピート品の発注時には、「RoHS属性が○であるものだけを抽出」などのフィルタをかけ、自動的に候補品をリストアップします。

この候補リストから実際に発注をかけ、サプライヤーへの証明書依頼までワンストップで連携できれば、現場担当者の負荷も大きく軽減できます。

ステップ5:規制改定・部品変更時のメンテナンス

法的な規制改定やサプライヤー都合による部品仕様変更があった場合は、都度部品マスタの属性情報をアップデートします。

この履歴を残しておくことで、どの製品ロットにどの部品属性が適用されたかトレース(追跡)できる体制を整えます。

自動化・DXの先に見える新たな付加価値

バイヤーから提案型バイヤーへ

単純な手配人・バイヤーから一歩進んで、「環境規制やSDGs、カーボンニュートラル」等の観点で最適な選定・発注ルールを提案できる人材が今後ますます求められます。

部材属性管理を使いこなすことで、「なぜこの部品を選んだのか」「どのような顧客価値を提供できるのか」を根拠を持って示すことができるため、自社内外で存在感を高めることが可能です。

サプライヤーの立場から見た価値の創出

顧客から「○○対応品だけほしい」「同じ型番でも拠点ごとに違いがあるので細かく情報をください」と言われたとき、迅速かつ正確な回答ができるサプライヤーは取引先からの信頼も厚くなります。

また、部品のエビデンスや属性データを提供することが新たな“差別化ポイント”にもなります。

工場現場の業務改善・トラブル未然防止

現場担当者は「選定ミス」「誤発注」のリスク低減だけでなく、不適合品使用による生産停止や再工事といった重大インシデントも減らせます。

今後、部品トレーサビリティやグリーン調達の要求レベルが引き上げられる中、部材属性管理の重要性はますます高まるでしょう。

まとめ:部材属性管理は現場DXの第一歩

環境規制対応は単なる“お作法”や“義務”にとどまりません。

部材属性管理の導入は、製造現場・サプライチェーン全体を可視化し、リスクを減らし、バイヤーや現場担当者の業務品質を飛躍的に高めてくれるソリューションです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、一足飛びの大改革でなくても構いません。

まずはExcelから、まずは一部属性からでも現場で始めることが大切です。

「現場目線」と「データ活用」の視点で新しい地平線を切り拓き、持続可能なものづくり企業をともに目指しましょう。

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