投稿日:2025年6月12日

機械の自動化・自動化設備の安全設計ポイントと構築事例

はじめに:製造業現場で求められる自動化と安全設計の重要性

製造業の現場では、近年ますます「自動化」がキーワードとして注目されています。

慢性的な人手不足、品質や生産性の向上への要求、働き方改革、そして何よりも従業員の安全確保が不可欠な時代になりました。

しかし、単に機械を導入すればそれだけで自動化・省力化が進むわけではありません。

むしろ自動化設備には、設計段階から「安全対策」を織り込むことが必須となります。

現場の経験から言えることは、「生産効率向上」と「従業員の安全」を両立させる設備設計がいかに大切かということです。

本記事では、機械の自動化設備設計における安全ポイントや構築の実践事例、さらに今なお残る「昭和的」なアナログ体質との向き合い方まで、現場目線で深掘りしていきます。

バイヤーやサプライヤー、または現場の技術者の皆様にとっても具体的なヒントや気づきとなれば幸いです。

機械自動化の現状:なぜ今「安全設計」が重視されるのか?

かつての日本の製造業、特に昭和から平成初期までは「人が動かし、人が監視する」現場が多数を占めていました。

しかし、世界規模での競争激化や少子高齢化に伴い、人手による運用には限界が見えてきました。

自動化によって生産効率は向上しますが、その分、装置の危険源も高度化・多様化します。

「自動化設備=リスクの自動化」といっても過言ではありません。

今や単に安全柵や非常停止を設ければよい時代は終了しています。

むしろ装置自体の仕組みや設置・運用方法、そして現場作業者や保全担当への教育内容まで含めて「総合的な安全設計」が求められています。

特に2012年施行の労働安全衛生規則改正や、ISO 12100(機械の安全―設計のための一般原則)など、グローバル基準の採用も進んでいます。

日本独自の「現場合わせ」の安全設計から、世界水準で通用する「本質安全設計」へのシフトがあらゆる現場で課題となっています。

安全設計の本質:リスクアセスメントと「本質安全」へのアプローチ

リスクアセスメントの実践ステップ

自動化設備における安全設計の第一歩は「リスクアセスメント」にあります。

具体的には、以下のような流れで進めます。

1. 装置や工程の危険源を全て洗い出す
2. 各危険源が引き起こす可能性のある事故やトラブルを想定する
3. 発生頻度と被害の大きさからリスクレベルを評価する
4. 許容できないリスクを低減するための対策を立案・実施する

ここで重要なのは、「形式的」に終わらせないことです。

実際の現場作業や、想定外のオペレーションを熟知したうえで、現実的なリスクシナリオを想像する洞察力と経験値が不可欠です。

たとえば非常停止ボタン設置は全自動ラインの常識ですが、「停止時にどんな危険があるか」「誰がどのタイミングで使うのか」まで深く考える必要があります。

本質安全設計とは何か?

本質安全設計とは、危険な部品や構造そのものを可能な限り排除・低減させ、安全装置に依存しない安全を追求する考え方です。

たとえば不要な可動部品を持たない設計や、人体が触れない構造の工夫などが一例です。

ISOの国際基準では、リスク低減の優先順位は次のように定められています。

1. 本質的安全設計によるリスク低減
2. 安全装置の追加(ガード、インターロック等)
3. 作業手順書や警告表示、教育・訓練による対応

特に1番目、構造・原理でリスクを除去する姿勢が最重視されています。

この考え方は、「とりあえず安全カバーを付ければOK」といった場当たり的な対応から脱皮するために極めて有効です。

現場の「昭和的体質」と自動化安全設計の衝突:なぜ改善は難しいのか?

日本の製造業の現場は、「現場の知恵」「慣れ合い」「暗黙の了解」といった人間関係ベースの管理や、作業現場での臨機応変さが評価される文化が根強く残っています。

ベテラン作業者の「経験則」に頼る部分が大きく、標準化やマニュアル化が進みにくい状況も多く見受けられます。

自動化設備を導入しても油断はできません。

なぜなら、保全や段取り替え、トラブル時の対応で「非常停止ボタンが押されるまで作業者が危険域に近づき続ける」「手を入れて仮復旧」など、人間系のリスクが現場にはたくさん潜んでいるからです。

こうした「人頼み・場当たり的運用」は、国際的な安全規格への適合や、法令順守、コンプライアンス経営の流れとは明らかに逆行しています。

だからこそ現場現実に根ざした安全設計の徹底が、ますます企業価値の源泉になります。

自動化設備の安全設計における具体的ポイント

1. ガード・インターロックの適切設計

ガード(覆い)やインターロック機構は、設備の危険部分に直接人がアクセスしないようにするうえで効果的です。

ポイントは「現場で外されにくい設計」「点検や清掃時にも安全が確保される設計」にすることです。

たとえば簡単にねじを外すだけでガードが取れるようでは意味がありません。

また、頻繁な清掃や調整が発生する部位は、ガードやドアを開けるたびに自動的に電源がカットされるインターロックを設けたり、開閉履歴のロギング機能を持たせる工夫も有効です。

2. 非常停止・センサ等の多重化による「冗長設計」

非常停止スイッチ、ライトカーテンや接触センサー、圧力スイッチなど、複数の安全装置を重ねて設けることが推奨されます。

「1つのシステムに異常が発生しても必ず他の方法で安全が確保される」よう、冗長性を担保する設計です。

また、センサー単体の「誤作動」「故障」検出、制御ソフトの二重化などもトラブル時のリスク低減に有効です。

3. エニタイム・エニワン設計の考え方

「誰がどんなタイミングで設備にアプローチしても安全を確保できる設計」という発想が、現代の安全設計の肝です。

シフトや熟練度の異なる作業者でも、変わらず安全を担保できるユニバーサルな設計が求められます。

担当者が異なるなか保守・段取り・調整が行われることを想定し、現場リーダーだけの「隠し操作」など禁止事項もはっきり定める必要があります。

現場導入事例:自動化と安全設計の両立を目指した改善とは?

事例1:プレス機自動搬送ラインの安全化(自動車部品メーカー)

従来、プレス機へのワーク投入や取出し作業は人手で行われていました。

しかし圧力センサーや光電センサーを備えた自動搬送装置を導入し、「人体が少しでも侵入すれば即停止」「搬送トラブル時は位置検知センサーが異常発報」という多重安全構成としました。

また、ガードの取外し時には必ずライン電源がカットされるインターロックロックと、トラブル時の操作履歴を全て記録する仕組みも加えました。

導入後は労働災害ゼロとなり、保全工数も削減。顧客監査でも国際基準の適合性が高く評価されました。

事例2:食品工場自動包装ラインの「清掃性」と安全設計改善

従来、包材搬送装置はカバーや仕切り板が作業の邪魔になるため清掃時に取り外されることが多く、作業者の手指巻き込み事故が後を絶ちませんでした。

改善として、既設機のカバーをヒンジ付き透明ポリカに変更、開閉時は主モーターが完全停止するインターロックを新設。

さらに清掃中は操作パネル上でしか再起動できないソフトインターロックを加え、「場当たり的な復旧作業」を徹底排除しました。

清掃手順も作業動画と一緒に標準化し、パート・派遣スタッフも同水準で安全教育可能となりました。

事例3:脱昭和的現場へ、作業標準・教育プロセスの刷新(家電部品メーカー)

これまで熟練オペレーターの個人ノウハウや「口伝え」による安全教育に頼ってきた現場の刷新事例です。

自動化装置のリスクアセスメントに現場スタッフ全員で参加してもらい、「どこが危ないか」「どうすれば事故が起きないか」を徹底的に洗い出しました。

標準化できる工程はすべてフロー化し、教育用VR動画も作成。

全スタッフの安全意識が向上し、内製自動化チームでの設備改善活動も加速しました。

バイヤー・サプライヤー目線で考える「安全設計」のポイント

自動化設備の導入を検討する場合、バイヤーはサプライヤーに対しても必ず「安全設計の思想」を確認すべきです。

見積時に「ただ守ればよい法令・規格対応」ではなく、なぜその設計になっているのか、危険ポイントとリスクアセスの根拠まで聞き込む姿勢が大切です。

同時にサプライヤー側も、「現場実態」「利用者属性」「将来の工程変化」まで十分ヒアリングし、過剰防衛や逆に不十分な提案にならないよう双方の共創姿勢が問われます。

「安い装置を手早く、最低限の安全基準で…」といった昭和的発想から脱却し、「現場で本当に使える安全自動化設備とは何か?」を対話・提案できるパートナーシップが必須です。

まとめ:現場発の安全自動化で世界に誇る製造業へ

自動化と安全設計は、天秤にかけるものではなく、未来の成長へ向けた「両輪」の関係です。

現場にはまだまだ「昭和の残滓」も残るなか、リスクアセスメントと本質安全設計で新たな価値創造が可能です。

バイヤー・サプライヤーそして現場の全員が安全性を「自分ごと」と捉え、自動化による事故ゼロ・高効率現場の実現を目指しましょう。

そのひとつひとつの地道な積み重ねこそが、日本の製造業の真の競争力となるはずです。

今まさに、機械の自動化・安全設計から、未来のものづくりの新たな地平線を切り拓いていきましょう。

You cannot copy content of this page