投稿日:2025年6月12日

漏洩防止のためのシールの基礎とガスケット・パッキンの最適選定・使用法のポイント

はじめに

製造業において、気体や液体の漏洩防止は製品品質と安全性確保の根幹を成す重要課題です。
機械設備の運転効率やコスト、さらには環境問題まで影響を及ぼすため、シール、ガスケット、パッキンの選定や適切な使用法は極めて重要です。
本記事では、現場目線で押さえるべきシール技術の基礎から、アナログ的な現場にも根付いている実践的な選定ポイント、さらに近年の動向まで、バイヤーやサプライヤー、製造業の現場担当者の皆様に向けて徹底的に解説します。

シール技術の基本〜漏洩のメカニズム

なぜ漏洩が発生するのか?

工場の現場では、「なぜシールをしているのに漏れが止まらないのか?」との疑問をよく耳にします。
漏洩の大半は、配管や機器の接合部(フランジ部、バルブ部など)の微細な隙間から発生します。
その原因は、表面の微小な凹凸、熱膨張、振動による軸ブレ、経年劣化など多岐にわたります。

現場環境や使用流体、温度・圧力条件によっても求められるシール性は大きく異なります。
このため、「現場の状況を正確に把握する」ことが漏洩防止の最初のステップとなります。

シールに求められる機能

– 浸透を防ぐ密閉性
– 振動・圧縮・温度変動などの耐久性
– 使用流体(酸・アルカリ・油・ガスなど)への耐薬品性
– 保証したい期間にわたって性能を維持する耐劣化性

これらを満たすことで、初めて安定生産や事故防止、省力化投資(修理工数削減)につながります。

シール、ガスケット、パッキンの種類と特徴

ガスケットとは

ガスケットは主に静的なシール部(動かない接合面やフランジ部)に使用されます。
ゴム、繊維、金属、PTFE(テフロン)、カーボングラファイトなど多種多様な材質が存在します。

ガスケット選定の際は、
– フランジの種類(平面、突合せ、レイズドフェイス等)
– 流体の種類(温度、圧力など)
– 許容できる漏洩量
をしっかり把握したうえで選択します。

パッキンとは

パッキンは主に摺動部や可動部(バルブ、ポンプの軸封部など)に用いられます。
動的シール製品であり、Oリング、Vパッキン、グランドパッキンなどの種類があります。
特に摩耗や発熱による劣化に注意しなければなりません。

ガスケットとパッキンの違い

現場ではこの2つを混同されがちですが、「静的シール向けはガスケット」「動的シール向けはパッキン」と理解するのが基本です。

最適なシール材選定のポイントとは?

1.流体の性質と温度条件

バイヤーや設計者が最初に検討するべきなのは、使用する流体の性質と温度帯です。
例えば、水蒸気配管には膨張黒鉛系や非アスベストガスケット、高温油にはPTFEや金属ガスケットが適しています。
腐食性流体なら、金属部分は耐食材を、ガスケットはフルオロカーボン系などの特殊素材が推奨されます。

2.圧力条件の把握

圧力はシールの寿命や漏洩率に直接影響します。
高圧配管では金属ガスケットやリングジョイントガスケットなどの高耐圧型が必要です。
一方、低圧用途ではコストや柔軟性を優先し、非アスベストやグラファイト系などを選択するのが一般的です。

3.取付け現場の再現性(作業性)

現場目線で重視すべきポイントは、「誰が、どうやって、何回、どの程度の時間で交換作業を行うのか」です。
ガスケットの形状・厚みが複雑であるほど作業ミスが増えやすく、締め付け不足や偏りに起因する漏洩に繋がります。
手作業が多い昭和型現場では、シンプルな形状・厚みのガスケットや、柔軟性の高い高品質なパッキンを選ぶとトラブル低減に繋がります。

4.経年変化とメンテナンス周期

漏洩への耐性だけでなく、設置後にどのくらいの頻度で点検・交換が必要かも選定の重要基準です。
特に連続稼働設備や、深夜・休日の停止が難しい現場では、長寿命タイプやメンテナンスサイクルが長い製品を選ぶことが現場の省力化に直結します。

5.コストと入手性

価格面だけでなく、緊急時に容易に入手できるかどうかもバイヤー目線での重要ポイントです。
特注品や海外調達しかできないガスケットは、在庫管理や調達リードタイムの面でリスクとなります。
標準品や汎用品を中心に検討し、サプライヤー選定時は「安定供給力」も重視しましょう。

正しい使い方と現場トラブル事例

締め付けトルク管理の重要性

最適なガスケットを選定しても、締付けトルク管理が不十分だとすぐに再発します。
トルク管理の悪い事例として、「感覚で締めている」「ボルト毎に締め付けがバラバラ」「十字締めをしていない」などが現場レベルで多く見られます。
必ずメーカーの推奨値を確認し、場合によってはトルクレンチやトルク管理の自動化(IoTボルト監視機器など)の導入も有効です。

表面処理&取り付け面の確認

取り付け面にサビ・キズ・バリ・異物が残っている場合、どんな優れたシール材を使っても確実な密封は望めません。
ガスケットやパッキン交換時には、接合面の清掃・平滑化を徹底しましょう。
作業手順マニュアルの整備や、シール部の予防保全も有効です。

業界で強く根付く“昭和的”慣習の弊害

「昔からこのやり方でやっているから大丈夫」「ベテランの勘に頼っている」など、昭和以来の慣習が改善を妨げているケースは少なくありません。
最近は、標準化・見える化の流れも浸透しつつありますが、特にガスケットやパッキンの交換記録、漏洩発生履歴などを定量管理し、「見える化」することが現場改善の起点です。

近年の動向と今後の方向性(アナログからデジタルへ)

シール技術は一見成熟した分野に思えますが、実は素材や工法、管理手法の進化が加速しています。

新素材・高機能ガスケットの登場

ノンアスベスト、超高耐熱、PTFE複合、特殊エラストマーなど、新素材を活用した高機能シール材の選択肢は年々増加しています。
例えば、グラファイト系のガスケットは従来材に比べて耐熱・耐薬品性に優れ、省メンテ現場で重宝されています。
これらの新素材については、従来以上にメーカーや材料サプライヤーとの綿密な打合せが不可欠です。

IoTによるシール部監視とトラブル予兆検知

近年では、バルブ・ポンプなど主要部位にシール状態監視用センサーを取り付け、漏洩予兆を早期検知するIoT機器も登場しています。
一斉交換・タイムスケジュール交換から、「必要な時だけ交換」という予兆保全型へのシフトが、最先端現場では進行中です。

グローバル調達時の注意点

サプライヤーが海外に分散し、グローバル調達が進む中で「現地材料の品質ばらつき」や「納期リスク」も増加しています。
世界的な素材規制(RoHS、REACHなど)も年々強化されるため、法規制対応も必須となりました。
バイヤーや調達担当は、メーカー提出資料の精査や、現地実装のフィードバック体制までを意識する姿勢が求められます。

まとめ:漏洩防止の“これから”を見据えて

シール、ガスケット、パッキンの管理と選定は、製造業現場の課題を最前線で支える技術です。
アナログ的な感性や経験値も大切ですが、現場の標準化や見える化、新素材やデジタル技術の活用によって、今後は「人・設備・情報」が一体となった高度な漏洩防止体制が主流になります。

自社の現場に最適なシールアプローチをぜひ見直し、昭和の伝統と最新技術を融合した“勝てるものづくり”を進めていきましょう。

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