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投稿日:2025年7月5日

車載電子機器EMC規格対応とノイズ低減設計ベストプラクティス

はじめに:車載電子機器に求められるEMC規格対応の重要性

現代の自動車は、単なる「移動体」から、「高度な電子デバイス」へと進化を遂げています。
ACC、ADAS、EV、コネクテッドカーなど、多種多様な機能の中核をなす電子制御ユニット(ECU)は、快適性や安全性、環境性能の向上に大きく貢献しています。

しかし、電子制御化が進む一方、自動車業界の現場では「EMC(Electromagnetic Compatibility)」すなわち電磁両立性への対応が日々、より厳しく問われています。
EMCとは、機器が自ら不要な電磁ノイズを出さず、外来ノイズにも影響されない「共存性」のことです。
この弱い一端がドライバーや歩行者の生命、安全、および車載の各種電子システム全体の信頼性を直接的に左右しているため、メーカーおよびサプライヤー、バイヤーそれぞれにとって規格適合は避けては通れません。

この記事では、車載電子機器におけるEMC規格の最新トレンドや、業界目線・現場目線でのノイズ低減設計のベストプラクティスについて、深堀りしながら解説します。

車載EMC規格の基礎知識:ISO、CISPR、OEM規格まで

代表的なEMC国際規格・業界規格について理解する

車載向けEMCに関連する主な規格には以下のようなものがあります。

  • ISO 11452シリーズ(車載部品の伝導・放射ノイズ試験)
  • CISPR 25(自動車用受信装置のラジオノイズ性能)
  • ISO 7637(自動車電源系統への過電圧・過渡現象)
  • OEMごとの独自規格(トヨタ、ホンダ、日産、VW、GM、BMWなど自動車メーカー個別仕様書)

ISOやCISPR規格は、国際的なベースラインですが、実際の試験現場では各OEMの独自規格・社内基準が上乗せされることが多いです。
とりわけ近年はEV化・自動運転化の影響で「より低いノイズレベル」「過酷な試験条件」「広範な周波数帯域」など、規格要求が増えています。

先進国と新興国OEMとで見える規格運用の差

EV専業メーカーやアジア新興OEMは、国際規格に準拠しつつ、部品ごとに低コスト・最短納期を厳守させる傾向があります。
一方、日系や欧州の伝統的OEMは、規格要求の明文化、検証体制の内製化、サプライヤー管理の徹底度が違います。
受注側は、顧客先の規格ごとに設備投資や工数が増えるため、常に最新情報・トレンドをキャッチアップしておくことが肝要です。

車載電子機器におけるノイズ源とその発生構造を現場視点で考える

ノイズ源の分類:設計・実装・部品選定ごとの着眼点

車載電子機器が発するノイズの主な要因は、以下の3点に整理できます。

  1. 設計段階でのノイズ(例:回路設計ミス、パターンレイアウト不良、グラウンド設計ミス)
  2. 実装・生産工程でのノイズ(例:部品実装時のはんだ不良、ケーブル取り回し、アース不良)
  3. 部品個別の特性に起因するノイズ(例:モーター、リレー、インバータ部品のスイッチングノイズなど)

部品選定や設計段階だけでなく、生産現場の日々の実装品質や出荷基準もノイズ管理上は決定的に重要です。
昭和時代の「手作業中心」「熟練者依存」から、どこまで設計段階での防止策や自動化検査、良品条件のデジタル化ができるか、現場力の差がEMC適合の成否を分けています。

現場に根付く“昭和的な落とし穴”とその解消策

昭和時代から続く組立現場の「経験則」に基づいたアース処理や箱物内のケーブル収束方法では、高周波ノイズや新たな車載インターフェース(イーサネット、CAN-FD等)には十分に対応できません。
工場長経験者として強く感じることは、新規設計時のCAEシミュレーション活用や、現場配線スタッフへのEMC教育、AIや自動検査機の多用など、”アナログ的な勘ピュータ作業”の限界をいかに克服するか、です。

ノイズ低減設計のベストプラクティス5選

1. グラウンド設計・シールド強化の徹底

車載ECUやコントロールモジュールで最も効果的なノイズ低減策は「グラウンド設計」と「シールド処理」です。
複数GND系(パワー系/信号系)の分離、シャーシグラウンドへの低インピーダンス接続、筐体やケーブルシールドの強化など、各部の“電気的帰路”を論理的に設計することが第一歩になります。

2. レイアウト最適化と部品配置検証の習慣化

回路基板上でノイズ問題を引き起こしやすいのは「配線のクロストーク」「高感度回路とノイズ発生源の近接配置」などです。
部品ごとにノイズ発生/受信感度の”ゾーニング”を行い、基板設計時にEMC目線で配置・配線チェックを複数人で実施しましょう。

3. 適切なフィルターデバイス・ESD保護の選定

ラインフィルタやコモンモードチョーク、キャパシタ、サージ吸収デバイスなどを回路図段階から組み込み、ノイズ流入・流出経路ごとに最適品を選定します。
安価な部品で取り急ぎ対策するのではなく、上流設計段階でのシミュレーション/実機評価で本当に効く対策に投資する姿勢が求められます。

4. モーター・アクチュエータ等、電動系部品へのノイズ対策

EVシフトによりインバータ・モーター数が飛躍的に増え、結果としてスイッチングノイズ・高調波ノイズの問題が激化しています。
ノイズ源となる部品には金属ケースシールドを施す、駆動回路にスナバ回路を挿入する、リード線のツイストペア化やラッピングシールド処理するなど、コストと効果を両立した現実的対策が肝要です。

5. 現場での全数検査・トレーサビリティ体制の確立

設計段階での対策だけでは、不良現象の「現場流出」を完全になくすことはできません。
最終組立ラインでのEMC点検工程を設けたり、異常波形検知AI、出荷前の振動・温度ストレス試験と組み合わせることで、ノイズトラブルの流出リスクを激減できます。
トレーサビリティ管理ができれば、どの工程で不良が生じたか迅速に特定でき、品質事故の予防・再発防止につながります。

調達購買目線で押さえるべきEMC対応のポイント

部品メーカー/サプライヤーとの「歩留まり込みの最適取引」

バイヤーやサプライヤー担当者としては、EMC基準を満たす品質レベルを安定的かつ長期的に確保するため、
「設計段階から一緒にEMC要件検討を進める体制」や「リスク発生時の即応体制」「品質会議の定期的な実施」など、取引先との信頼関係が極めて重要です。

価格や納期のみならず、最新の規格変化やOEM要求へのきめ細かい情報提供、現場でのフィードバック体制を整えることで「EMCトラブルに強いサプライチェーン」を構築できます。

実装現場/生産管理者が持つべきEMCリテラシー

現場の「腕自慢」「なんとなくやっている手作業」では、設計意図通りのノイズ性能は得られません。
生産管理者や現場リーダーが、EMCの基礎~自社のEMC対策水準、どの工程・作業がどう影響するかを理解できる仕組み作りが、業界全体のレベル底上げには不可欠です。

EMC規格対応を巡る業界動向とアナログ現場の未来

自動車技術の進化とEMC要求のこれから

これまで車載EMC技術は「EV化・自動運転化」「無線通信モジュール」「車載イーサネット」など新デバイスの増加に厳しく追従してきました。
今後、5G・V2X・OTAアップデート対応など、外部とのネットワーク化が進むにつれて、“自動車一台あたり”のノイズ管理の難易度は確実に上がり続けます。

サプライチェーン全体が「アナログの伝統」から「データドリブンな品質保証」への転換を果たすことが、グローバル競争を勝ち抜く鍵だと断言できます。

アナログ現場の良さを活かしつつ、DX・自動化推進の勘所

昭和的な現場力、熟練工の経験は依然として価値を持っています。
しかし、人に依存した属人的管理から脱却し、AI検知、IoT監視、自動EMC測定ロボット等と組み合わせ、現場知識をデジタル技術で“再現性の高い標準化”へ転換していく潮流はもう避けられません。
未来志向の工場現場づくりこそ、長く強い企業・産業を築く出発点です。

まとめ:車載EMCは「設計・現場力・取引体制」三位一体で勝つ

車載電子機器のEMC規格対応とノイズ低減は、もはやサプライヤー・バイヤーどちらにとっても「経験・慣習」だけで戦える時代ではありません。
日々進化する規格・OEM要求をキャッチアップしつつ、「設計段階での論理的対策」「生産現場での標準化」「部品調達先とのパートナーシップ構築」に、どこまで知恵と工夫を注げるかが、最終的な競争力の分水嶺です。

アナログの強み×デジタルの進化を組織全体で両立させ、自動車産業の次の時代を切り拓きましょう。
現場目線の実践的EMC対応で、日本のものづくりの底力を世界に発信できることを願っています。

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