投稿日:2025年6月30日

異種材接着の基礎知識と環境対応型構造用接着剤応用ポイント

はじめに:異種材接着が製造業の未来を切り拓く

日本の製造業は、長らく高い品質と緻密な工程管理で世界に名を馳せてきました。
しかし近年では脱炭素、軽量化、コスト低減の流れが加速し、従来の「金属同士をボルト締結する」「溶接主体で部品を組み立てる」といった手法だけでは競争に勝てない時代へ突入しています。
複数素材を効果的に組み合わせることで、より高機能で環境負荷の少ない製品を生み出す「異種材接着」に注目が集まるのも、そのような背景があるからです。

一方で、「昭和の常識」が未だに根強く残るアナログな現場では、接着剤を構造部材に使うことに対して不安や懸念も多いのが現状です。
バイヤー、サプライヤー、現場の作業者それぞれの視点で、異種材接着の実用と応用、そして環境対応型構造用接着剤のポイントについて、現場目線で深掘りしていきます。

異種材接着とは何か?基礎知識と歴史的背景

なぜ異種材接着が必要とされているのか

異種材接着とは、金属・樹脂・複合材料・セラミックスなど異なる物質どうしを接着剤で結合する技術です。

自動車分野では、「鉄だけで車体を作る」従来の方法から、軽量かつ高強度なアルミ・樹脂・炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられるようになりました。
これは燃費向上・CO2削減・安全基準向上への対応です。

家電や電子機器でも、軽量化や部品集積化のため、異種材料を使った設計が急増しています。
このような流れの中、従来では避けてきた熱膨張係数や表面性状の違う素材を、いかに容易に、しかも信頼性高く接合するかが、競争力の分かれ目となっています。

異種材接着が抱える懸念と昭和的価値観の現実

日本の多くの現場では、「接着剤は仮止め用」「構造体には溶接やボルトが当たり前」といった、古い常識が根強いです。
現場を担うベテラン作業者の多くは、接着剤に対して「経年劣化が心配」「強度が読みにくい」「不良の対策が難しい」といったマイナスイメージを持ちがちです。

しかし、最先端の自動車や航空宇宙分野では、異種材接着を高度に活用し、すでに実用化されています。
膨大な試験とエビデンスが積み重ねられ、品質管理の手法も進化してきました。
この流れを、いかに「昭和的現場」に浸透させていけるかが、日本の製造業の転換点といえます。

構造用接着剤の種類と選定のポイント

構造用接着剤とは?

構造用接着剤とは、製品の構造部に使えるだけの高い強度と、長期耐久性を持った接着剤のことです。
一般的な工業用接着剤とは異なり、「数トンの荷重に耐える」「10年以上の使用に耐える」といった要求水準に応えます。

主な種類には以下があります。

– エポキシ系:高い強度と耐熱性。金属や一部プラスチックに好適。
– アクリル系:さまざまな素材へ適応性が高い。開放時間が短く生産性にも優れる。
– ウレタン系:柔軟性があり、動的負荷や衝撃を吸収。
– シリコーン系:耐熱・耐寒・耐候性に優れ、振動や熱サイクルの大きい部位に適する。

材料どうしの相性や、最終製品の使われ方に応じて最適材料を選定します。

異種材接着における選定フロー

1. 素材同士の親和性(表面エネルギー、化学的反応性)をチェック
2. 接合部への荷重・応力分布を算定
3. 使用環境(温湿度、薬品、屋外or屋内など)を想定
4. 生産プロセス(塗布・硬化時間、治具設計、ライン速度)をシミュレーション
5. 試験片による強度・耐久性評価を実施
6. 必要に応じてプライマーや表面処理を検討
7. 製品単価や量産性、歩留まりも考慮

これらの観点から材料を選定し、段階的に最適化します。

バイヤーやサプライヤーが押さえるべき「選定のコツ」

バイヤーの場合
– 価格だけでなく、信頼性(試験データ有無、メーカーの技術サポート体制)を重視
– 現場トラブル時の再現性や、ロットごとのバラツキも確認事項
– 将来的な環境規制(REACH, RoHS指令など)への適合状況も加味

サプライヤーの場合
– なぜこのスペックになったのか、背後にある設計意図やリスク観点を理解
– 顧客工場での現場作業性(余剰塗布の清掃性、硬化不良への耐性など)を想定
– 将来の環境対応や軽量化要件に備えた開発パイプラインを自社で持つ

こうした目線で製品提案や条件交渉に臨むことが、差別化にもつながります。

環境対応型構造用接着剤とは?最近のトレンドと実例

なぜ「環境対応」が接着剤にも求められるのか

近年は「カーボンニュートラル」「環境規制適合」が調達購買の現場でも重要ワードとなっています。
接着剤は添加剤や溶剤由来のVOC(揮発性有機化合物)が発生しやすいことから、規制対応の動きが強まっています。

– REACH規制(EU):特定の化学物質を規制
– RoHS指令:有害物質の使用を制限
– カーボンニュートラル調達:製造時のCO2排出量を数値化

これらの規制をクリアしつつ、高強度・高耐久の構造接着を実現させることが差別化ポイントです。

代表的な環境対応型構造用接着剤の特徴

– 水性タイプ:VOC(揮発性有機化合物)の排出が少なく、環境負荷低減。主に家具・家電分野で急増
– 無溶剤タイプ:溶剤を一切含まない。自動車・建設分野向けで導入が進む
– 生分解性樹脂配合:自然界で分解されるバインダーを利用。将来の循環型社会へ向けた潮流

各メーカーがリサイクル性や非危険物、製造工程のCO2排出まで考慮した製品開発を加速しています。

実践導入例:自動車、家電大手メーカーでの活用事例

– 自動車部品の「樹脂—金属」接着:水性アクリル系で塗布量を減らし、VOCを大幅削減
– 家電フレームのアルミ—樹脂接合:速硬化で作業性を高めつつ、加熱不要でCO2削減
– 複合材パネル構造:生分解性接着剤で環境イメージ向上+社内SDGs評価にも寄与

これらの現場成功体験では、安全教育や設備変更など一時的なコスト増もありましたが、中長期的には安定量産・品質向上・調達リスク低減など多様なメリットも享受できています。

異種材接着の実用化で生じる現場課題とその対応

接着による品質リスクと管理ポイント

接着工程では、従来にない品質課題が生じやすいです。例えば、
– 塗布量やムラによる強度のバラツキ
– 未硬化や加熱ミスによる接合不良
– 表面の油やゴミ残りによる接着不良

したがって、デジタルカメラや画像処理技術で塗布工程の自動検査を導入したり、表面エネルギー測定などの技術で事前の工程管理を強化する動きが進んでいます。

量産現場では、「初物・異物を嫌う」昭和的意識もまだ根強く、現場教育やモチベーションの醸成、ライン改善ノウハウも極めて重要です。

現場受け入れと現場起点のイノベーション事例

– 作業者による接着部位の「しるし付け」自動化、「スポット塗布」治具開発
– 不良判定工程のマニュアル化、画像データによるNG傾向の見える化
– 現場の声を反映した「環境対応型接着剤トライアル班」の組成

こうした現場起点の活動は、単なる技術導入よりもはるかに「異種材接着」の安定稼働率を押し上げています。
特にバイヤーや工場長立場としては、現場の不安や疑念を早い段階で拾い上げる“現場対話力”が成功のカギと言えます。

バイヤー目線で押さえるべき将来動向と戦略

今後の法規制動向とグローバル視点の重要性

異種材接着・環境型構造用接着剤について、今後もEU・北米・中国など各国の法規制が拡大すると考えられます。
海外生産・グローバル調達が当たり前となった中で、日本だけの常識で判断するのではなく、海外バイヤーや設計陣と連携した早期情報収集が不可欠です。

また、将来的にはLCA(ライフサイクルアセスメント)対応=「どこから見ても環境負荷の低い部材・材料」を調達できるかどうかが企業競争力の分かれ目となります。
接着剤メーカーとのパートナーシップも戦略的に構築しましょう。

サプライヤー・下請けの立場での新たな機会

異種材接着の導入は、従来の金属プレスや加工業者、単なる部品供給企業にも新たな商機をもたらします。

– 表面処理や塗布工程の受託=新サービス創出
– 新規環境規制材料の共同開発=新規納入ルート獲得
– 複雑な複合部材を設計—量産—組立まで一気通貫で提案

例えば「このアルミと樹脂の接着で困ってます」「VOC規制で海外顧客から指摘を受けている」などの声に耳を傾ければ、中小企業でもブルーオーシャンのビジネスチャンスを掴むことができます。

まとめ:異種材接着、環境対応の”現場知”こそ競争力の源泉

異種材接着は、”溶接・ボルト一辺倒”だった昭和的モノづくり現場を大きく転換させる起爆剤です。
同時に、環境配慮型構造用接着剤は今後のグローバル調達で差別化の武器になります。

本記事で紹介したように、現場目線の実践的アプローチや、バイヤー・サプライヤーの立場で押さえるべき要点、昭和的価値観と最新技術のギャップを埋める“現場イノベーション”が、日本の製造業が真の意味で持続的成長を遂げるためのカギとなります。

最後に、「現場の悩みや声を拾い上げ、現実解に落とし込む」こと、
「異種材接着の基礎と環境対応を日常の発想として取り入れる」こと、
これが「新たな地平線」を想像し、切り開いていく力になると、20年以上の現場実体験をもとに自信をもってお伝えします。

今後も、製造業の発展をともに目指してまいりましょう。

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