投稿日:2025年11月2日

スニーカーのクッション性を高めるEVA発泡技術の基礎知識

はじめに:スニーカーにおけるEVA発泡技術の重要性

近年、スニーカー市場はファッションアイテムとしてのみならず、機能性の追求が顕著になっています。
特に「クッション性」は各ブランドがしのぎを削るポイントであり、その肝となるのがEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)発泡技術です。

私は20年以上製造業の現場で品質管理や生産管理、調達購買など多岐にわたる業務に従事してきました。
現場では、スニーカー開発に不可欠なこのEVA発泡技術と日々向き合い、バイヤーとしてメーカーとの条件交渉、サプライヤーとして新たな素材や技術提案にも携わってきました。

本記事では、EVA発泡技術の基礎から現場目線での実践ポイント、さらに昭和のアナログ体質からは抜けきれない日本の製造業の現状と、今後の展望についても掘り下げて解説します。

EVAとは何か?その物性と基本特性

EVA樹脂の基本

EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)は、エチレンと酢酸ビニルを共重合させて得られる合成樹脂です。
天然ゴムや通常のポリエチレンと比較して柔軟性、弾性、耐候性が高いのが大きな特徴です。

スニーカーにおいては、ミッドソールの主要素材として使用されます。
クッション性と軽量性、成形の自由度の高さから、世界中のスポーツブランドで採用されています。

EVAの代表的な物性

・柔軟性/弾力性に優れ、衝撃吸収力が高い
・耐水性・耐薬品性に優れる
・比重が小さく、軽量化が可能
・低温下でも硬化しにくい
・成形性が高く、量産に向いている

これらの特性が、スニーカーに安全性・快適性・デザイン性をもたらせる要因となっています。

EVA発泡体の製造フローと技術の肝

発泡の基本原理

EVAの発泡体は、発泡剤(一般的にはアゾジカルボンアミドやDCPなど)を加えて加熱発泡させることで作られます。
これにより樹脂内に無数の気泡が生じ、軽量で弾力性の高い素材となります。

発泡倍率のコントロール

発泡倍率は「何倍まで膨らませるか」を意味します。
例えば5倍発泡なら5倍の体積まで膨らみます。
発泡倍率が高いほど軽くなりますが、クッション性や強度とのバランスが難しくなります。

現場で求められるのは、「どこまで発泡倍率を高めながら必要なクッション性・弾力性を確保できるか」ということです。
このため、配合設計、発泡剤の種類・添加量、加熱温度など、各パラメータの最適化には熟練したノウハウが求められます。

EVA発泡体の品質管理の勘所

クッション性=弾力性と考えがちですが、工場でよくあるのが「硬さ不良」「発泡ムラ」「気泡粗大」「物性不均一」などの品質トラブルです。

たとえば
・発泡剤の分散不良で、部分的に気泡が大きく粗くなる
・加熱むらで発泡具合にばらつきが出る
・金型冷却が不適切で、収縮・反りが発生する

など、現場でのトラブルシューティングが欠かせません。
品質管理現場では、「現物を見る」「測定データを取る」「原因究明と再発防止」のサイクルが根付いています。
昭和世代の「現物・現場・現実」の三現主義は今も強く生きています。

バイヤー・サプライヤー視点で考えるEVA発泡技術

調達購買担当者が重視するポイント

調達購買のバイヤーはEVA発泡素材の選定において、下記の指標で総合的な判断を行います。

・コストパフォーマンス:発泡体の重量あたり単価、成形歩留まり
・供給安定性:主要原料(エチレン、酢酸ビニル)の入手ルートと価格変動リスク
・品質安定性:ロット間のバラつき、納入後の材質変化
・加工対応力:金型設計とのマッチング、細やかな仕様カスタマイズ

現場の立場では、「とにかくクッション性が高ければいい」というわけではありません。
軽量化・耐久性・コスト・加工性など複数要素を最適化した「落としどころ」を探ることこそ、バイヤーのプロフェッショナリズムです。

サプライヤーが知るべきバイヤーの思考法

サプライヤーの視点では、「とにかく良い物を作れば買ってもらえる」という発想は昭和の成功体験かもしれません。
しかし、現代の調達購買は経営戦略の一角を担い、SCMの観点からも「全体最適」を重視します。

実務経験上、バイヤーが重視するのは
・技術革新による差別化提案
・リスク対応力(BCP、原料調達リスク分散)
・市場トレンド(環境対応EVA、生分解性素材等)

サプライヤーが自社の特徴・強みを数字や手順で分かりやすく説明できるか、問題発生時に迅速かつ誠実に対応できるかが、長期的な信頼関係のカギとなります。

昭和のアナログ文化と変革の必要性

現場文化の光と影

日本の製造業は、「熟練の勘」や「現場力」を武器に世界を席巻してきました。
しかし一方で、データ活用や自動化、自主提案力などに遅れが目立ちます。

EVA発泡技術でも、例えば
・製造データの記録が紙ベース/エクセル止まり
・製造条件の暗黙知がベテラン社員に集中
・「なぜこの配合なのか」を理論では説明できない
といったアナログ的文化が根強く残っています。

このままでは海外メーカーのスピード・革新力に置いていかれます。
現場目線とデジタル活用・科学的検証を融合させる「技術伝承と変革の両立」が待ったなしの課題です。

これからのEVA発泡技術と製造業の競争力

たとえばIoT活用で発泡条件をリアルタイム監視し、AI分析で不良リスクを早期検知する仕組み。
DXによるボトムアップ型の生産管理。
原価構造や歩留まりデータの「見える化」。

これらは現場の感覚と数字で話す習慣を両立するために欠かせません。
マスカスタマイゼーションやサステナビリティ要請もふまえ、環境対応EVAの開発(水系樹脂、生分解性添加など)も重要です。

まとめ:EVA発泡技術で製造業の未来を切り拓く

EVA発泡技術は、スニーカーをはじめさまざまな製品の基礎性能=クッション性の要です。
その基盤を支えるのは、芯の通った現場力と「昭和の良きアナログ文化」。
一方で、これからはデータの力、科学的分析、そしてグローバル視点での総合的な競争力が問われます。

バイヤーを目指す方には、「素材・物性・プロセス設計」の本質を知り、現場と経営を両輪で見られる感覚を身につけていただきたいと思います。
サプライヤーの皆さまにも、是非バイヤーと同じ目線で自社技術の付加価値や業界動向を理解し、柔軟に提案できるパートナーシップを築いてほしいです。

EVA発泡技術は単なる素材・工程の話に留まりません。
現場の努力、バイヤーとサプライヤーの信頼、時代に即した技術革新が三位一体となり、これからの日本の製造業の競争力を押し上げていくものと信じています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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