投稿日:2025年6月17日

基礎から学ぶモータ制御系設計と電流制御速度制御への活かし方

はじめに — モータ制御系設計の重要性と業界動向

工場の自動化や生産ラインの最適化が進む現代の製造業において、モータ制御の技術的な進歩は、そのまま製造力の差として表れます。

昭和の時代、多くの現場では、アナログ的な手法や人の熟練技術がモータ制御の主役でした。

しかし、デジタル化とICT技術の進展、そしてIoTやインダストリー4.0の波によって、工場のモータ制御はより精密で高度なものへと変わっています。

本記事では、まずモータ制御系設計の基礎をわかりやすく解説し、さらに電流や速度制御への応用方法を、現場目線かつ実践的な視点で掘り下げます。

サプライヤーや現場のエンジニア、あるいはバイヤー志望の方にとって、「なぜこの部分にコストがかかるのか」「どこを改善すると現場の生産性が上がるのか」などの疑問にも応えます。

モータ制御系設計の基礎 ー まず押さえるべきポイント

モータ制御と一口に言っても、その範囲は広大です。

まず、「何のためにモータを回すのか」という目的を明確にする必要があります。

これにより、必要とされる制御方式や要件が大きく異なるからです。

目的ごとに変わる制御方式

搬送ラインで一定速度・一定荷重で使う用途であれば、単純な速度制御が主となります。

一方、ロボットのアームなどで、高精度な位置制御やトルク制御が求められる場合は、より高度な制御が必要です。

また、ポンプやファンのように負荷特性が変化する機械の場合にも、それに応じた制御技術を選定する必要があります。

モータの種類で変わる制御設計の考え方

代表的なモータには以下のようなものがあります。

– DCモータ
– AC誘導モータ
– サーボモータ(ブラシレスDCモータ含む)
– ステッピングモータ

それぞれ制御特性が異なるため、駆動させる機器や用途によって選択が変わります。

たとえば、精密な電流制御や応答性を追求するならサーボモータ、コスト重視で単純な搬送ならACモータという具合です。

伝統的アナログ制御からデジタル制御への進化

昭和の工場では、リレーや接点、マグネットスイッチを利用したアナログ制御が中心でした。

現在でも一部の現場では根強く使われています。

しかし、精度やトレーサビリティ、生産性向上の要請に応じて、デジタル制御(インバータ/サーボドライバ、PLC、MCUベース)が主流となりつつあります。

こうした制御方式の違いは、調達段階のコストや保守性にも大きく影響します。

バイヤーやサプライヤーが「なぜこの仕様になっているのか」を理解するためにも、基礎を押さえておくことが重要です。

電流制御と速度制御の基本 ー 現場を動かすポイント

モータ制御の要は、「どのように正確にモータの動きをコントロールするか」に尽きます。

その核をなすのが「電流制御」と「速度制御」です。

この2つの考え方を理解することは、購買担当としても技術者としても非常に有用です。

電流制御とは何か — モータのパワーを支配する方法

電流制御とは、モータに流す電流値を厳密にコントロールし、出力トルク(=パワー)を安定させる制御方法です。

特にサーボモータや一部の高性能DCモータでは、負荷の変化や急激な動作にも追従できるよう、電流制御用回路(主にPI制御やベクトル制御)を利用しています。

現場目線でのメリットは、負荷変動時に安定したトルクを維持できること、保護回路の最適化によって長寿命化に寄与する点にあります。

調達側の観点では「なぜ安価なインバータより高価なサーボドライバが必要とされるのか」というポイントが、実はこの電流制御の有無(精度差)に直結します。

速度制御とは — 生産ラインの安定稼働の基軸

一方、速度制御は、モータの回転数を精密に制御する手法です。

搬送ラインでは「一定速度」を求められる場面が多く、ちょっとした速度のムラが不良品の発生や工程遅れにつながります。

速度制御には、

– オープンループ制御(入力を変えるだけ、外乱に弱い)
– クローズドループ制御(エンコーダなどのフィードバックで厳密制御)

といった違いがあり、より高品質を求めるラインにはクローズドループ型が選ばれます。

ここでも、購買や企画の立場で「どこまでの制御を求めるのか」「コストとリスクのバランス」は大きな判断材料となります。

昭和流から脱却する最新制御手法の現場適用例

今でも、部品メーカーや下請けの現場では「昔ながらの簡易な制御で十分」と考えるケースが根強くあります。

ですが、例えば自動車部品の組み立て工程や半導体工場の搬送装置では、ミクロン単位の精度が当然の水準です。

現場での機器入替、ライン増設交渉時に「なぜ、今の設備では品質事故が止まらないのか?」「なぜ新しい制御方式が必要なのか?」を技術だけでなく生産管理・品質保証の立場からも説得する知識が、これまで以上に必要になっています。

電流制御と速度制御の現場応用 ー トラブル対策と最新トレンド

モータ制御をうまく活かすには、理論に留まらず、実際の生産現場で起こるトラブルや制御上の課題にどう対応するかがカギとなります。

現場で多いトラブル事例

– 負荷変動で速度ムラが発生し、製品不良が続出
– 温度上昇によりモータ内部抵抗が変化し、トルクが出力できない
– 装置間の連携遅れによるジャムや突発停止

こうしたトラブルは、経営側から見ると単なる「ダウンタイム」ですが、技術面から見ると「制御方式の選び方や設定値が不適切だった」場合が多いです。

現場レベルでは、制御パラメータ(PID値や電流リミット等)の定期的な見直しや、異常検知用センサーとネットワークの細やかな設計が、問題の早期発見・解決に直結します。

最新トレンド:リモートメンテナンスとデータ活用

IoTが本格的に現場へ導入される昨今、ドライバやモータ自身が状態信号をネットワークで出力し、クラウドで稼働監視や予兆保全に役立てる取り組みが増えています。

たとえば、電流制御で異常値が出たとき、従来は現場担当者しか気付けませんでしたが、今では自動的にメール通報したり、即時保守要員の派遣を可能にしています。

これにより、トラブルの前兆を迅速につかみ、ダウンタイム削減や保全コスト削減につながっています。

バイヤーやサプライヤーがここに注目し、自社の設備提案や部品選定に反映させれば、一歩先を行く競争力を発揮できます。

調達・購買・バイヤーの戦略的判断 ー 本当に価値ある制御系設計を見抜くには

最終的に、こうした高度な制御技術は「どこまでコストをかけるべきか」「逆にどこで妥協するか」という線引きが重要です。

生産性と初期投資、ランニングコスト、そして品質リスクのバランスをどう考えるかは、調達・購買担当者や現場マネージャーの腕の見せ所と言えます。

サプライヤーが気をつけるべき提案ポイント

– 顧客(バイヤー)が真に重視するのは「価格」か「品質」か「納期」かを見極め、制御仕様を提案する
– 現場トラブルや将来の拡張性にも目配りした設計、設定・変更の柔軟性を強調する
– 維持・保全コストが下がる事例や、IoT活用による予兆保全導入例など、『導入後のメリット』に根拠を持たせる

バイヤーが押さえておきたい現場知識

– なぜ「そのモータ」が「その制御方式」でなければいけないのか理論的根拠を確認する
– 現場で過去どんなトラブルが起こったか、製造や保守担当と情報連携する
– 新しい技術(IoTデータ活用、AI制御)の「実際の現場投資効果」にもアンテナを張る

これらの視点を持つことで、曖昧な営業トークに惑わされず、現場と調達の両面で最適な選択ができるようになります。

まとめ — モータ制御系設計の未来を現場・購買が共に切り拓く

モータ制御系の設計と電流・速度制御の知識、それらを基盤とした現場志向での応用、さらにバイヤーやサプライヤーが押さえるべき戦略的判断には、共通して「現場の課題解決」「生産性向上」「コストの最適化」というゴールがあります。

昭和型からデジタル現場への転換は、簡単なようでいて、現場固有の課題や文化、コスト構造など多くの難題が潜んでいます。

その中で今こそ、従来のやり方だけでなく、Lateral thinking(水平思考)で新たな視点から問い直し、理論と実践、最新技術と現場知恵を融合させていくことが、製造業のさらなる発展につながります。

「なぜこの制御方式なのか?」を問い続ける姿勢が、現場力・交渉力・調達力の向上と、バイヤー・サプライヤー双方のWin-Winに必ずや役立つことでしょう。

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