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ねじ締結技術基礎と疲労強度信頼性向上ゆるみ防止設計演習ハンドブック

目次
はじめに:ねじ締結技術の重要性と昭和時代からの進化
ねじ締結は、製造現場においてもっとも古くから存在し、普及している機械要素の一つです。
しかし、「単なる部品の組み付け」と侮ってはいけません。
現代の製造業において、ねじの締結は安全性・品質・生産性を左右する極めて重要な工程であり、部品同士の信頼性を左右します。
昭和時代からの「ベテランの勘と経験」に頼る締結作業は今も根強く現場に残っていますが、競争力強化や製品の高機能化の流れの中で、設計段階から”締結の信頼性”を徹底的に考慮することが求められています。
本記事では、ねじ締結技術の基礎から疲労強度・信頼性の向上、具体的なゆるみ防止設計手法について、製造現場目線でわかりやすく解説します。
また、調達・購買担当者やサプライヤーのみなさんにも役立つ、バイヤー発想での締結設計の考え方や、アナログ業界特有の課題も交えて解説していきます。
ねじ締結技術の基礎:なぜ「締め付けトルク管理」が重要なのか
ねじ締結技術は「超基礎」と思われがちですが、不適切な締付が後工程や市場クレームの原因になるケースが後を絶ちません。
まず、ねじ締結の基本は
「ボルトとナットによる締め付け力(軸力)を部品同士に伝え、設計通りの強度・精度・機能を発揮させる」
ことです。
ボルトに加わる力と軸力の重要性
ねじは締め付けることでボルト軸方向に「軸力」が発生します。
この軸力がしっかりと部品同士を密着させ、機械的な機能を発現します。
軸力が不足していると、
・部品のガタつき
・ゆるみ
・異音
・漏れ
などの不具合が発生しやすくなります。
多くの現場不具合は「適正な軸力がかかっていないこと」に起因しています。
トルク管理=軸力管理の難しさ
よく「規定トルクで締めればよい」と言われますが、トルクと軸力は必ずしも一致しません。
トルク値は「回転させる力」であり、摩擦の影響(ねじ山の状態、表面処理、座面の凹凸など)を大きく受けます。
実際の軸力を左右する要素は、
・締付工具の精度
・作業者個人差
・表面状態
・潤滑有無
など無数に存在します。
したがって、「適正トルクの管理」だけでなく、「軸力そのものの評価」や定着性を保証する工夫(ワッシャーやロック機構の組み合わせ)が欠かせません。
疲労強度とねじ結合部の信頼性向上のポイント
現代の製品は「設計寿命」や「静的耐荷重」だけで安心できません。
自動車、産業機械、家電のすべてが、振動・衝撃・繰り返し載荷(サイクル荷重)に晒されます。
このとき、ねじ締結部の「疲労強度」が極めて重要なファクターになってきます。
ねじ締結部の疲労破壊メカニズム
ボルトや座面、部品の合わせ面には、設計想定以上の応力集中(ストレス)が発生することがあります。
特に、
・締付が過小または過大であった場合
・座面が不完全だった場合(当たり面の傷、サビ、バリ)
・部品同士の組み付け精度が悪い場合
には局所的な「繰り返し応力」が集中し、ミクロな亀裂が発生します。
これが「疲労破壊」やゆるみの始まりです。
疲労破壊はゆっくりと進行し、ある日突然ねじが折損・脱落するため、重大な事故につながります。
疲労強度を高める3つの設計アプローチ
1. 適正な締付荷重(プリロード)の実現
設計荷重に対し、十分かつ過大とならないプリロード(あらかじめかけておく引っ張り力)を設定します。
これによって「動荷重」がボルトそのものに及ぶ影響を最小限にします。
2. 座面加工とワッシャーによる応力緩和
・座面を平滑に仕上げることで、力の集中を防ぎます。
・ばね座金や平座金は局所応力を拡散し、ゆるみ止め効果も期待できます。
3. 材料選定と表面処理の最適化
・高張力鋼、耐疲労鋼などの高強度ボルトを採用する。
・防錆、摩擦係数安定化のための表面処理(メッキ、コーティング)も重要です。
ゆるみ防止設計の最新トレンドと実践テクニック
ねじの「ゆるみ」は現場のクレームNo.1といっても過言ではありません。
技術的には以下の3要因が複合しています。
1. 設計ミス(負荷設計が甘い、異材質組み合わせ)
2. 材料・表面処理(摩擦低下、腐食)
3. 作業精度・組立環境(異物混入、作業者スキル差)
主なゆるみ防止技術と使い分け
・ばね座金(スプリングワッシャー)
組立が簡単でもっとも広く使われていますが、振動やサイクル荷重には限定的です。
・ナイロンナット、セルフロックナット
ナイロン部分や特殊加工でナットの戻し回転を阻害します。一回締付け後の再使用不可が多いので注意が必要です。
・ねじロック剤(液体タイプ)
ボルトとナットの隙間に流し込み、固化させることでねじ部をロックします。
熱や油に注意が必要です。
・二重ナット締結
ナットを2重に締めて、ゆるみ方向のトルクを相殺します。工数は上がるものの効果的です。
・ピン/ワイヤーロック
航空機、重機分野で使用。機械的にボルト・ナットが回転しないよう固定します。
設計・現場で重視したい最新トピック
近年は「摩擦係数安定化技術」が注目されています。
摩擦係数が安定しないと、トルク管理や軸力管理が意味を成しません。
コーティングや特殊潤滑剤の活用によって、厳しい作業環境下でも安定的な締結品質を実現する事例が増えています。
また、IoTセンサー内蔵ねじや「トルク・軸力自動計測締付機」の導入も先進工場では進んでいます。
組立現場とバイヤー、サプライヤーで知っておきたいポイント
ねじ締結品質は設計部門・購買部門・現場の全てが関与する「チーム戦」です。
以下の観点でコミュニケーションを強化することが、全体最適化や不具合低減に繋がります。
バイヤーの視点
・ねじ製品や座金、ロック剤は価格や納期だけで選ばない
・過去の不具合履歴やメーカー推奨技術情報も重要
・サプライヤーの品質保証体制(ロット追跡、材質証明など)の確認が必須
サプライヤーの視点
・バイヤーが「なぜこの仕様と強度が必要なのか」を理解し、用途に即した提案を行う
・現場からのフィードバックを的確に設計部門に伝える
・海外調達品の場合はJIS/DIN/ANSIなどのネジ規格相違に特に注意
現場の視点
・「とりあえず締めればOK」という属人的作業になりやすいねじ締付を、できる限り標準化・見える化する
・実際の締結力確認用「軸力計」、証拠としてのトレーサビリティ管理を進める
・トルクレンチや締付工具は定期校正を徹底
昭和のアナログ文化からの脱却とデジタル化のすすめ
今も工場の作業現場や設計会議では、
「ベテランの勘が一番」「昔からこれで問題ない」
という空気が、ねじ締結技術にも根強く残っています。
ところが、市場不良や重大事故は、こうした「なんとなく」や「経験主義」から生まれます。
ねじ締結デジタル化のポイント
・トルク・軸力自動記録式の締付工具の導入(作業履歴の自動保存)
・組立手順書や動画マニュアルのデジタル化
・各種ねじ製品のAI適合設計・材料選定支援ツール
これらの現場ツールと、設計・調達・現場がリアルタイムに協力する体制こそ「昭和の経験」から「令和の品質」への飛躍につながります。
まとめ:ねじ締結技術の真価を現場で発揮するために
本記事では、ねじ締結の基礎、疲労強度・信頼性、最新ゆるみ防止技術、バイヤーとサプライヤーの視点、そしてアナログからのデジタル化まで幅広く解説しました。
ねじ締結は、ものづくりの初歩でありながら、まだまだ深い探求の余地がある領域です。
「締結不良は品質不良の入り口」と捉え、設計から現場まで“横断型の標準化”と“新技術導入”を進めることが製造業全体の進化につながります。
これからの製造業は、ねじ一つにまで徹底してこだわり、「つながる品質」と「安心」の価値を現場から生み出していきましょう。
製造業現場、調達部門、サプライヤー、工場長、全員の知恵とラテラルシンキングで、日本のものづくりをさらに発展させていくことを心から願っています。
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