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高温腐食の基礎と解析・評価および腐食防止対策

目次
はじめに ~なぜ製造現場で高温腐食が問題になるのか~
製造業に従事している方なら、腐食は身近で深刻な問題であることを実感されているのではないでしょうか。
とくに「高温腐食」は、鉄鋼、機械、化学、電力、自動車、さらには食品や医薬関連の生産プラントにおいても、設備の劣化や製品トラブルの大きな原因となります。
昭和の時代から、製造現場では高温腐食との“戦い”が続いてきました。
しかし、高度経済成長を支えた標準的な知見や材料評価、運用ルールが、デジタル化・国際化が進む現代の生産現場には必ずしも合わない例が増えつつあります。
そこで改めて、現場に寄り添いつつ、業界動向も意識した「高温腐食の基礎」「解析・評価法」「最新の腐食防止対策」についてお伝えします。
バイヤー(調達購買担当者)やサプライヤー(供給側のメーカー・部品製作所)、そして現場のエンジニアや管理職の方に、実践的な示唆を持ち帰っていただける内容を心がけています。
高温腐食とは ~そのメカニズムと種類~
高温腐食の基本定義
高温腐食とは、主に金属材料が400~1200℃程度の高温環境下で、空気や燃焼ガス、化学薬品などと反応して進行する物性・表面劣化の現象を言います。
一般的な「サビ」とは違い、酸化、硫化、窒化、ハロゲン化など、複数の化学反応が組み合わさって進みます。
耐熱鋼や耐食合金など専用材料を使っても、使用環境を見誤ると短期で甚大なダメージを招くことが多いのが特徴です。
主な高温腐食の発生パターン
高温腐食は、以下のような形で現れます。
・高温酸化
空気中や燃焼ガス中の酸素との反応で金属表面に酸化膜が生成される現象です。
鉄鋼・アルミ・ニッケル系など、ほぼすべての金属で発生します。
・スケーリング(付着スケール)
高温酸化の結果として生成した“スケール”(はく離しやすい酸化物層)が長時間付着し、熱伝導率低下・剥離による再曝露を招きます。
・高温硫化
化石燃料の燃焼炉や化学プラントなど、硫黄分の多い環境で、硫化皮膜や硫化物堆積が発生します。
酸化物とは異なり、より深部まで浸透してクラックを進行させる場合があります。
・腐食性ガス(塩化・ハロゲン化)腐食
焼却炉や化学プラントなどで塩素やハロゲンガスが発生する環境下では、塩化物・ハロゲン化物反応により激しい腐食を引き起こします。
・カーバイド・窒化・ホットコロージョン
高温で炭素源や窒素源との反応、特に重油・アルカリ金属との相互作用が進む“ホットコロージョン”も、火力発電所やガスタービン分野で警戒されています。
高温腐食の現場リスク ~製品・工程・設備に与える影響~
高温腐食は以下のようなリスクを生じさせます。
・配管や容器の局部的減肉による圧力破損
・溶接部や接合部からのクラック、リーク(漏洩)
・熱交換器チューブやノズルの詰まり・機能低下
・製品表面のスケール転写や品質不良
・設備のメンテナンス頻度・コスト増大
・突発的な事故の引き金
昭和型のルーティン保守や経験則だけではカバーしきれない、計画外のトラブルにつながるため、近年ではIoTやAIによる状態監視や予兆管理も強く求められています。
高温腐食の評価・解析技法
現場観察と一次評価
・定期的な厚さ測定(超音波測定器による減肉チェック)
・外観検査(スケール、変色、割れなどの目視・顕微鏡観察)
・スケールの成分分析(SEM-EDS、XRDなどによる皮膜分析)
これらの“現場でできる観察スキル”こそが、昭和から脈々と受け継がれる最重要ポイントです。一方、個人技や“熟練のカン”に頼りすぎる弱みもあると言えます。
先端的な解析技術
近年では、以下のような解析も実用段階となっています。
・X線CTやSEMによる内部欠陥観察
・EDSなど定量分析による化学組成の詳細特定
・腐食生成物の三次元画像解析
・電気化学的腐食速度測定(ポテンショダイナミック法など)
・AI+画像解析による自動異常検知
これらは、単に“壊れた原因”を解析するだけでなく、「次にどこがどのくらいで壊れるか?」という予兆根拠を収集することにも役立ちます。
バイヤー視点からみた高温腐食対策の本質
多くのサプライヤーや装置メーカーが“高温腐食・耐熱性”をアピールするなかで、バイヤーの方には次の点を意識していただくと良いでしょう。
設計基準の見直しや明文化
部材・設備の選定基準を「カタログスペック」頼りにせず、現場ごとの使用環境・流体・温度条件に徹底的に合わせ込むことが重要です。
金属材料に関しても、JISやASTMなどの標準値だけを追うのではなく、実際のプロセスサイクル(温度変化、冷却速度、ウォームアップダウン時の環境変動等)までヒアリングする必要があります。
ライフサイクルコスト思考
部材価格と初期耐食寿命だけで比較するのはNGです。
むしろ「何年スパンでどのくらいの減肉が許容できるのか」「どのタイミングで交換するのか」「部分補修やシャットダウンが何回必要か」まで見積もることで、真のコスト最適化が可能になります。
現場コミュニケーションの強化
サプライヤーは自社技術・自社材質のPRに寄りがちですが、現場とバイヤーが実際に“今どこに課題があるか”“どこに介入すれば効果的か”を共有する現場指向のコミュニケーションが品質トラブル低減のカギとなります。
現場で実践できる高温腐食防止策
材料選定・表面処理の工夫
・耐熱性・耐食性の高い合金材料(例:SUS310S、ハステロイ、インコネルなど)の選択
・特殊な表面処理(溶射・クラッド・メッキ・コーティングなど)によるバリア強化
・あえて犠牲陽極やコーティングを適材適所で使い分ける技術
プロセス条件の最適化
・できるだけ“腐食促進ガス”の発生を抑制したい(燃焼条件、空気導入量、雰囲気切替など)
・急速な加熱・冷却回数や温度変動の幅を小さくする運用ルールを設計段階から織り込む
・腐食侵攻しやすい“弱点部位”は、メンテナンスのアクセス性を高く設計する(点検しやすい設計)
予兆管理×IoT・DXの導入
センサや画像解析AIを活用したリアルタイム減肉・剥離監視は、運用保守の現場負担・コストを大きく低減します。
定期的なデータ蓄積と、モノづくり現場独自の“腐食予兆パターン”を継続開発していくことが、昭和から脱却し、Society5.0時代の最先端現場を実現する近道です。
まとめ ~アナログとデジタルの融合が今後のカギ~
高温腐食は、設備や製品の信頼性・安全性ひいてはバイヤーとサプライヤー双方のブランド力そのものに直結するクリティカルな課題です。
ベテラン現場技術者の経験知と、最新の解析・監視システムを組み合わせること。
過去の“常識”を活かしつつ、材料選定・工程最適化・ライフサイクル管理へと切り替えていくこと。
バイヤー、現場、エンジニア、サプライヤー全員が「知って選び、議論し実行する」場を積み重ねていくことが、次世代のものづくりの基盤となります。
時代とともに変化する高温腐食対策こそが、長い目で見た設備投資と製品競争力強化の最大の差別化ポイントです。
現場の皆さんは、どう動きますか?
本記事が、皆さんの職場・ビジネスの成長につながる一助になれば幸いです。
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