投稿日:2025年6月10日

実験計画法の基礎と効果的な活用およびポイント

はじめに:現場視点から見た実験計画法の重要性

製造業の現場において、「なぜ不良が発生するのか」「どうすれば歩留まりを上げられるのか」という課題は常につきまといます。
一つひとつの工程や材料に無数の変数が絡み合う中、感覚や経験だけでは原因追及や最適化が困難なケースが増えているのが実状です。

こうした複雑な現場課題を科学的に解き明かし、効率的に品質・コスト・納期(QCD)を向上させる手法として注目されているのが「実験計画法(DOE:Design of Experiments)」です。
この記事では、実験計画法の基礎から実践的な活用方法、そして昭和時代から続く現場の“カン・コツ主義”との向き合い方まで、長年現場で培った知見をもとにわかりやすく解説します。

実験計画法とは何か:原点と目的

実験計画法とは、少ない実験回数で最適な条件や因果関係を明らかにするための「実験の設計理論」です。
単なる”試行錯誤”ではなく、計画的に因子(変数)の組み合わせを変えて実験を実施し、統計的に分析して効果や交互作用を抽出します。

あなたの現場でも、「同じ材料なのにロットごとに結果が違う」「作業者ごとに微妙に品質がばらつく」など、頭を悩ませた経験があるはずです。
原因が一つに特定できない場合や、複数要因が同時に絡むケースでこそ、実験計画法の力が発揮されます。

基礎用語と代表的な実験法

因子と水準

「因子」とは、実験の対象となる要素、たとえば温度・圧力・時間・材料ロットなどを指します。
「水準」はそれぞれの因子の試す範囲・値のことです(例:温度は140℃/150℃の2水準)。

代表的な実験設計

製造業の現場では、実験計画法の中でも以下の手法がよく使われます。

  • 一因子実験:1つの因子だけを変えながら実験する。
  • 全因子実験(フルファクショナル):すべての因子とその組み合わせを網羅する(例:2因子×2水準→4回の実験)。
  • 直交表実験(例えばタガチ法):重要な組み合わせを“抜粋”して回数を減らし、効率よく因果を特定する。
  • 分割法(スクリーニング):たくさんの因子から影響度が高いものだけを絞り込む。

現場ではとりあえず一因子実験から始めることが多いですが、複数要因が絡む場合は直交表実験などの応用が決定打になります。

実践例:昭和式アナログ現場における導入ステップ

「現場は手一杯で、統計手法なんて理屈だけ」と思われがちですが、実験計画法はむしろ多忙な現場こそ効果を発揮します。

事例で理解する導入フロー

ある射出成形工場で、「製品が一部不良になる原因がわからない」という課題がありました。
従来は『とりあえず温度を5℃ずつ上げ下げしてみる』といったトライ&エラーの繰り返しでした。

ここで実験計画法を導入した結果、以下の3ステップで成果が出ました。

  1. 主要因子の“見える化”
    現場ベテランやマニュアルに頼らず、「どの因子が効いているか」を工程表や作業記録から列挙(例:射出圧力、型締め力、冷却時間、材料ロットなど)。
  2. 直交表による効率良い組み合わせ実験
    例えばL8直交表(8回実験で7因子まで評価)を使い、短期間でどの因子が不良に影響しているかを特定。
  3. 再発防止と標準作業化
    特定された「温度と圧力の交互作用」が品質にクリティカルであると判明。
    結果をもとに作業標準書を更新し、再発防止と業務の属人化回避を実現。

このように、従来の”カン”の頼みから脱却し、理論と実践を融合することで現場は劇的に変わります。

実験計画法を成功させるための現場ポイント

1. 目的・ゴールを共有する

「何のために実験するのか?」を現場の全員で共有することが第一歩です。
不良低減、コストダウン、リードタイム短縮など、明確な目的がないと実験が単なる“自己満足”に終わりがちです。

2. 因子洗い出しは現場との対話で

理系の知識だけで因子を選定するのではなく、実際に作業している現場員や管理者とヒアリングしながらリストアップしましょう。
ベテランの“現場感”と統計的な視点の両輪が重要です。

3. データを正確に、かつ迅速に取れる環境づくり

昭和から続くアナログ現場では、計測器が古い、データ記録が手書き…というケースも多いです。
最低限、エクセルなどに入力できる環境をつくり、数値データの可視化・自動化を目指しましょう。

4. 結果のアウトプットと改善へのフィードバック

実験が終わったら解析結果を「どれが効いたのか」「なぜ効いたのか」を現場にわかりやすく共有します。
改善内容は必ず現場作業に反映し、効果をふり返って定着させる仕組みが大切です。

バイヤー・サプライヤーにとっての実験計画法活用のメリット

バイヤー(調達担当者)の視点

近年のグローバル調達では、品質の標準化・材料ロットのばらつき抑制が重視されています。
実験計画法を使って「理論値」と「現場値」を埋める知見を持っていることは、サプライヤー選定・現場QCD改善提案の際に大きな武器となります。

例として「この条件では不良率3%以内、納期XX日まで対応可能」という根拠の説明力を高められます。

サプライヤー(供給者)の視点

サプライヤー側でも、単なる「現場力」だけでなく一歩進んだアプローチが求められています。
実験計画法のノウハウを持ち、材料や工程ごとの根拠ある提案ができるサプライヤーは顧客(バイヤー)の信頼を勝ち取れます。

「いつものやり方」から脱却し、「なぜこの条件か」をロジカルに語れるかが、今後のサバイバルポイントです。

昭和的アナログ現場を変えるためのカギ

実験計画法はたしかに“学術的”な印象やデータ処理へのアレルギーを生みがちです。
しかし、現場でこれほど“理屈と現場感”の両立が役立つ手法はありません。

昔ながらの「とにかく経験則」「数値ではなく感覚重視」の管理手法では、今後サプライチェーンや製品品質の高次化・DX時代に乗り遅れてしまいます。
実験計画法はその“昭和”的な発想と現代的な科学的思考を橋渡しできる貴重なイノベーションツールです。

実験計画法活用の落とし穴と注意ポイント

小規模実験で終わらせず、必ず現場全体に展開を

小さなモデル実験で効果がわかったものの、現場全体にはうまく水平展開できず「一部だけの改善」で終わるケースがあります。
実験計画法で得た知見は、必ず作業標準やマニュアル・教育に展開しましょう。

データは目的に沿って使う

数値だけを追いかけて「本当は何を改善すべき?」がぼやけないよう注意が必要です。
データ分析の目的、現場課題の本質を見失わないよう軌道修正も意識しましょう。

まとめ:実験計画法がもたらす現場イノベーション

製造業の現場は、変化の激しい環境下で日々進化しています。
「やってみないとわからない」から一歩進んだ「やれば理由もわかる」現場づくりには、実験計画法の活用が不可欠です。

特に、調達購買・生産管理・品質管理・工場自動化など部門横断で課題解決を図る際、実験計画法を“現場目線で運用する”力が大きな価値を生みます。
カンや経験だけに頼らない時代を迎え、今こそ“理論×現場”のシナジーで現場イノベーションを加速させましょう。

あなたの現場でも、まずは一歩。
小さな実験から「変化」が始まります。

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