投稿日:2025年6月12日

廃熱回収技術および熱利用技術の基礎とポイント・応用事例

廃熱回収技術および熱利用技術の基礎とポイント・応用事例

はじめに:昭和的工場文化を変革する廃熱回収の重要性

製造業界は、いまだに「昭和のアナログ的やり方」が各所に根付いており、非効率な慣習から抜け出せない工場も少なくありません。
しかし、世界的な省エネルギー・CO2削減要求や電力コストの高騰を受け、今や「ムダな熱」を放置できる時代ではなくなりました。
廃熱回収と熱利用技術は、単なるコスト削減にとどまらず、企業価値を高め、サステナブルなものづくりを実現するカギとなっています。
本記事では、製造現場で20年以上働いてきた経験をもとに、基礎知識から実践的ポイント、そして最新の応用事例まで、現場目線で分かりやすく解説します。

廃熱回収技術の基本

廃熱とは何か?製造業で発生する熱ロスの実態

廃熱とは、工場の生産工程で生じる未利用の熱エネルギーのことです。
たとえば、ボイラーや焼却炉、各種加熱機器が排出する排ガス、蒸気や冷却水、コンプレッサーや乾燥機からの放熱などが廃熱の主な発生源です。
経済産業省の調査でも、国内の産業部門全体で消費されるエネルギーのうち、なんと約3割が「廃熱」として捨てられていると言われています。
この「埋蔵省エネ資源」である廃熱を有効活用できれば、エネルギーコストの削減やCO2排出量の削減はもちろん、会社全体の生産性向上にも繋がるのです。

廃熱の種類とその特徴

廃熱には、おおまかに「高温廃熱」「中温廃熱」「低温廃熱」の3段階があります。
高温廃熱(200℃以上)は、鉄鋼・非鉄・ガラス業界などで多く、回収・利用が比較的容易です。
一方、中温廃熱(100~200℃)、低温廃熱(100℃未満)は食品、化学、電子部品など幅広い業界に存在しますが、回収効率や利用先の確保が難しく、技術開発が求められています。

主な廃熱回収・利用技術

1. 熱交換器による直接的再利用

もっともシンプルかつ効率的な廃熱利用法が、熱交換器(プレート式、シェルアンドチューブ式など)によるプロセス水・空気の予熱です。
たとえば、空調の給気や給湯、プロセス投入水を予熱することで、既存設備の燃料消費量を大幅に減らせます。
新規設備導入時だけでなく、既設工場でもスペースさえ確保できれば後付けも可能です。

2. 吸収冷凍機・ヒートポンプの活用

高温廃熱を冷凍機の熱源として活用し、工場内の冷房やプロセス冷却をまかなうシステムがあります(吸収式冷凍機)。
一方、低温廃熱でもヒートポンプを利用すれば温度を増幅し、給湯や暖房用として価値のある熱源へと再生できます。
最近では「産業用ヒートポンプ」の性能が格段に向上し、低グレード廃熱の有効利用事例が増えています。

3. 有機ランキンサイクル(ORC)発電技術

中温~低温廃熱も、工場内の自家発電に利用できる時代になりました。
有機ランキンサイクル(ORC)は低沸点の作動流体を使い、80℃~200℃程度でも発電が可能な技術です。
この省スペース型小規模発電装置は、特にグループ企業内での熱・電気の融通に適しています。

4. スチーム再利用・減圧余剰蒸気の有効活用

食品業界や化学プラントで多いのが、蒸気加熱によるプロセス用蒸気の廃熱回収です。
通常は凝縮して廃却する低圧スチームやブロー蒸気も、減圧して他ラインに再供給したり、低圧スチームタービンで発電利用したりする事例があります。
特に蒸気運用が複雑な現場では、大きな成果が上がっています。

廃熱回収の実践ポイント

1. 回収対象の熱源・用途の可視化

まず現状分析がすべての出発点です。
どの工程で、どのくらいの温度・熱量の廃熱が生じているかを計測し、熱マップやエネルギーフローを作成しましょう。
その上で、エネルギー需要(ヒーター、熱媒体、給湯など)のパターンとマッチさせることが重要です。
これを行わずに設備会社任せで個々の装置だけを入れても、投資効果が出ない失敗例が多発しています。

2. 「ヒトの作業」と「自動化・IoT」のバランス

設備投資だけでは本質的な省エネにはつながりません。
現場の運用(例えば停止ラインの蒸気遮断漏れ、手動バルブの適切操作不徹底など)が原因で、廃熱回収量が理論値より大幅に下がるケースもよく見られます。
生産管理や班長クラスへの教育指導がカギを握る一方、現場が変わるたびにセンサーや自動制御・IoTを併用し、熱の流れ・利用状況をリアルタイムで可視化できる仕組み構築も有効です。

3. 企業規模と投資判断:スモールスタートのすすめ

工場ごとに設備規模や稼働率、既設インフラが違うため、「これがベスト」という万能技術はありません。
初期投資が大きな場合は、まずは部分的・小規模でスタートし、確かな効果を“見える化”したうえで、段階的に全社展開するアプローチがおすすめです。
この“成功の実績”こそが、現場の理解や経営層・バイヤー(購買部門)の説得力へと繋がります。

事例で学ぶ最新の廃熱利用

鉄鋼関連:高温廃熱を利用したコークス乾燥・発電

国内大手鉄鋼メーカーでは、コークス炉の排ガス(約1000℃)から熱回収ボイラーを介して蒸気を発生し、自社発電やプロセス給熱に使っています。
この「エネルギーの地産地消」で数十億円単位の燃料コスト削減とCO2削減を両立しています。
また新設ラインでは排熱発電設備(CDQ)やエネルギーマネジメントシステムの導入が進んでいます。

食品・飲料工場:生産ラインの低温廃熱を給湯・暖房に

食品工場など衛生要求の高い現場では、洗浄工程に大量の温水や蒸気が必要です。
ここに目を付け、冷却排熱やエアコンのコンデンサ廃熱をヒートポンプで50~60℃に昇温し、洗浄給湯や暖房で再利用しているケースがあります。
初期投資の回収も3年程度で、現場の作業環境改善という副次的メリットも生み出しています。

化学・電子材料業界:中温廃熱で工場全体の電力自給も

分散型中規模工場では、各反応用ヒーターの排気やエアコンプレッサーの吐出熱源を有機ランキンサイクルでまとめて発電し、事務所や照明用途の電力自給を実現している例があります。
これにIoT解析を組み合わせることで、季節や稼働率に応じた最適な運用へと進化しています。

現場担当者・購買・サプライヤーの協調がカギ

バイヤー目線の課題

多くの設備投資案件で課題になるのが、初期コスト・維持管理・目に見える効果といった「見積もりの透明性」です。
バイヤーは、他の投資(機械設備更新やライン増設など)と比較しROI(投資対効果)や補助金条件も吟味する必要があります。
従って、サプライヤーや熱利用技術者は単に「技術の説明」ではなく、現場のプロセス・運用の課題、保守・管理・教育まで含めて一体提案するスキルが求められています。

現場・管理職としての優先順位のつけ方

結局のところ、廃熱回収は「全社の生産性とエネルギーコストにどう効くか」が問われます。
現場は人材不足・運用効率化にも直面しており、従来型の“人手+根性”からの脱却が焦点です。
新技術やIoT化による省エネと同時に、“人の現場力”との相乗効果が現実解となります。

今後の展望と製造現場へのメッセージ

廃熱回収・熱利用技術は、日本の製造業における「半分眠っている省エネ資源」とも言えます。
新しい設備の導入だけでなく、現場の意識改革、教育、身近な“小さな改善”の積み上げが大きな効果を生みます。
グローバル基準のサステナブル経営が求められる今、技術・人材・マネジメントを三位一体で進めることが競争力の源泉となるでしょう。
今こそ、現場から発信する知恵と、バイヤー・エンジニア・サプライヤーが共鳴して新たな付加価値を創出する時代です。
ぜひ廃熱回収・熱利用の取り組みを、あなたの工場・現場から始めてみてください。

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