投稿日:2025年6月21日

電子電気機器におけるEMC対策の基礎とそのノウハウ

はじめに ~EMC対策がビジネスに与える影響

電子電気機器の設計・生産に携わる方、またそれらを調達・購買する立場の方にとって、「EMC対策」は決して無関係なものではありません。

EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)は、製品が周囲の電磁環境に悪影響を及ぼさず、かつ、外部からの電磁ノイズの影響も最小限に抑える能力を指します。

現場ではしばしば「このノイズさえ無ければ…」「EMIの規格に通るか不安」といった悩みが聞こえてきます。

現代の工場・サプライチェーンにおいて、EMC対策は不良品削減やリコール防止、ひいてはブランド価値の維持・向上に直結します。

また、グローバル化が進む中で各国規格(CE, FCC, VCCIなど)への対応も喫緊の課題です。

本記事では、20年以上の製造現場経験をもとに、EMC対策の基礎から現場で使えるノウハウまでを具体的に解説します。

厳しい品質要求、市場のグローバル化、そして昭和のやり方から脱却しつつも「現場で使える」知識を重視し、今日から役立つEMC対策の新たな地平を、共に切り拓いていきましょう。

EMCとは何か?その重要性を再確認

EMCの意味と、EMI・EMSの違い

EMCは「Electromagnetic Compatibility」の略で、「電磁両立性」と訳されます。

製品本体が発する電磁ノイズ(EMI:Electromagnetic Interference、電磁妨害)が他の機器に障害を及ぼさないこと、そして外部からの電磁ノイズ(EMS:Electromagnetic Susceptibility、電磁感受性)に対しても、自分自身が影響されにくいことが条件となります。

たとえば事務所の隣室で稼働するモーターがWi-Fi機器を誤作動させたり、製造現場のインバータが近隣設備に影響を与えたりする現象は、すべてEMC課題です。

なぜEMC対策は「今」重要なのか

デジタル機器の高密度化・高周波化が進み、さらに各種ワイヤレス通信との共存が求められています。

加えて、法規制は年々強化され、CE(欧州)、FCC(米国)、VCCI(日本)など各国の認証取得も必須要件となりつつあります。

仮にEMC対策が不十分であれば、
・返品・クレーム
・市場リコール
・生産の手戻り
・サプライヤー切り替え
など、大きなコストと信用失墜を招く可能性もあります。

現場レベルでのEMC対策はもとより、サプライチェーン全体での意識統一が不可欠です。

EMC対策の基礎 ~どうやってノイズは「生まれ」、どう防ぐか~

ノイズ源・伝達路・被害側(被干渉機器)を可視化する

EMC対策の要は、「ノイズはどこから、どの経路で、どこ(誰)に影響が及ぶのか」を正確に把握することです。

製造現場でありがちなのは「ノイズが出てるっぽいけど、誰も特定できていない」「加湿器と小型プリンタの併用でやたらトラブルが出る」など、現象レベルで迷宮入りするパターンです。

そのため、現場では次のような段取りで「見える化」を行うことが重要になります。

ノイズ対策3本柱:発生源・伝搬経路・受信側

1. 発生源対策
ICやスイッチング電源、モーターなどノイズ源となりやすいデバイスの選定、その配置やシールドを行う。

2. 伝搬経路対策
ノイズは配線や筐体を伝わって広がります。配線のねじり対策、配線距離やレイアウト最適化、絶縁やグランド強化が有効です。

3. 受信側対策
被干渉機器(感受性側)は、フィルター挿入やシールド強化、アースの工夫などで外部ノイズの影響を抑えます。

この三位一体(ラテラルシンキングの観点でいえば、各現象の「結びつき」と「分断」を重視する手法)で対策を講じることが、現場力強化の土台となります。

現場目線で重視したい「基本徹底」

特別なノウハウよりも、まず設計・組立て段階での
・グランドの適正化
・シールドの徹底
・アース方法の順守
・配線ダクト・バスバーの実装
などを「守れるか」が、品質の大部分を左右します。

現場でよくある「先輩からの口伝」や「暗黙のルール」、そして「何となくこの配置が安全」といった昭和的感覚が残っている場合も多く見受けられます。

しかし、昨今の高周波化・小型化トレンド下では、「一歩先を行く論理思考」と「測定による見える化」が不可欠です。

実践的なEMC対策ノウハウ ~現場で本当に効果があった技術と工夫~

ポイント1:グランド配線の最適化

グランドのループを作らず、可能な限り一点アース方式(スターポイントグランド)を採用します。

床アースとの対策を見直すだけで、ノイズトラブルが半減した現場事例もあります。

板金筐体への直接導通や、配線まとめの際の結束方法もトラブルの分岐点です。

ポイント2:シールド・ケースの“細部へのこだわり”

筐体やカバーに使うアルミや銅のシールド材選定、またシールドの「隙間」対策も極めて重要です。

ラテラルシンキング的には、『ノイズは水のごとし』ととらえ、流れ出る”すき間”や未対策箇所がないか、横から眺めて確認するクセをつけることが現場力強化のコツです。

端子台やコネクタ部のパッキン、筐体の合わせ目など「後回しにされがちな細部」こそ、現場で最もトラブルを生みます。

ポイント3:フィルター活用の新地平

電源ラインや信号ラインへのEMIフィルター設置は基本中の基本です。

が、現場では「カタログ値だけで選んだ」「とりあえずつけたけど効果薄」という話もよく聞きます。

重要なのは
・使用周波数の実測
・現場での装着状態(設置場所、取り付け姿勢など)
・経年変化による特性変化
までを多角的に検証し、最適なフィルター選定・配置にこだわる姿勢です。

ポイント4:配線レイアウトの“センス”を磨く

高周波ノイズは、配線の取り回しや交差の取り方によって大きく影響します。

「ノイズ源と被害側のケーブルをできるだけ離す」「直角交差を基本にする」「シールド線はグランドへ短距離で接続」といった基本ルールを現場の全員に徹底することで、不良リスクの大半は予防可能です。

配線経路の可視化(写真や3Dモデル化)、標準配線図のブラッシュアップも「脱・昭和」への第一歩です。

現場が陥りやすい”あるある”とその突破法

現象1:「EMC対策は設計部署の仕事」と思い込む

調達・生産・品質・現場全体でEMCを「自分ごと」にできないと、真の品質向上は望めません。

調達担当であれば、サプライヤーのEMC対策履歴や工場監査での現場確認を重視してください。

生産管理であれば、組立手順や配線方法の標準化教育がカギです。

品質管理は、製品単体だけでなく、現場システム全体での「EMCリスク分析」の導入が有効です。

現象2:根本原因の特定で“昭和脳”に戻ってしまう

「昔からこれで問題ない」「長年やってきた経験が正解」といった思考停止は大敵です。

新商品や新材料を使ったときほど、EMC試験(プレテストや簡易測定など)を念入りに。

経験とデータを組み合わせた「新たな判断軸」が、現代の競争力につながります。

海外規格・グローバルサプライチェーンにおけるEMCのトレンド

グローバル市場で戦う製造業各社は、CEマーキング(EU)、FCC(アメリカ)、VCCI(日本)など諸外国規格への適合が必須です。

最近では、中国などアジア圏での規制強化も進み、各国法規の把握と書類整備がサプライチェーン上流から求められるようになりました。

調達・バイヤー目線では、取引先サプライヤーのEMC管理体制や技術水準までヒアリングし、事前に情報を取得することが賢明です。

また、現地生産拠点での部品混入リスクや、現地法令対応の遅れが致命傷になることを現場全体に情報共有しましょう。

まとめ ~EMC対策がもたらす経営上の価値

EMC対策は決して「専門家だけの仕事」「規格適合だけのための作業」ではありません。

調達、設計、現場、品質管理、それぞれの立場で
・異常の早期発見
・トラブルの未然予防
・メーカー、顧客双方の信頼獲得
・効率的なグローバル展開
を実現するカギとなります。

「EMCは現場力を底上げする鏡である」という視点で、アナログ時代からデジタル時代への意識改革を続けましょう。

今日からできる現場改善の一歩が、数年後の“あなたの会社のプレゼンス”を決定付けるはずです。

一人でも多くの現場担当者・バイヤー・サプライヤーが、日々の業務の中でEMCを『自分ごと』として考えられる、その「気づき」と「実行力」こそが、ものづくり日本の未来を切り拓きます。

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