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実験計画法の基礎・演習講座

目次
はじめに ― 製造業における実験計画法の重要性
製造業の進化を語るうえで、実験計画法(Design of Experiments: DOE)は外すことのできない手法です。
生産現場での工程改善や品質向上、コストダウンを進めるうえで「やってみないとわからない」という“現場の勘”に頼る時代は終わりを迎えつつあります。
昭和の時代から強く根付く“職人技”や“暗黙知”も大切ですが、データに基づいた合理的な判断ができる現場こそ、今後のグローバル競争を勝ち抜けるのです。
この記事では、製造業20年以上の現場経験と管理職としての視点から、実験計画法の基礎と実践的な活用方法、さらに明日から使える演習例も交えて詳しく解説します。
バイヤーやサプライヤーの立場でも役立つ知識を、できるだけ現場目線でお伝えすることを心がけています。
実験計画法(DOE)とは何か?
DOEの定義と目的
実験計画法とは、複数の要因が製品品質や生産工程へ及ぼす影響を効率的かつ体系的に調べる手法です。
たった1つのパラメータを“ひとつずつ”変えていく従来の単純比較実験ではなく、複数の因子(変数)を同時に組み合わせて実験することで、最小限の手間とコストで最大の効果検証が可能となります。
DOEの目的は、限られたリソースで確実に「改善に結びつく本当の要因」を明らかにし、より良い生産・調達意思決定につなげることです。
製造業における課題とDOEの必要性
さて、なぜ今DOEが必要なのでしょうか?
それは国内外で求められる「高品質・低コスト・短納期」への対応、そして人的スキルのブラックボックス化を解消し、ロス削減とサステナビリティに直結する“科学的ものづくり”への転換が求められているからです。
たとえば、以下のようなシチュエーションにおいて、DOEは非常に有効です。
– 不良率低減や歩留まり改善のために、どの工程・どの条件が最も影響を与えているか分析したい
– 多品種少量生産になり、勘や経験のみでは最適条件が見つけきれない
– 調達部門として、サプライヤーの技術提案を評価したいが、エビデンスが少ない
このような現場の「困った」を解消する力を、DOEは持っています。
実験計画法の基本 ― 最初に知っておくべきポイント
要因(因子)と水準
DOEでは、まず品質や性能に影響を及ぼしうる要因(例えば温度、圧力、原材料、作業者など)を洗い出します。
そして、それぞれの要因ごとに試したい条件=「水準」を決めます(低・高の2水準、3水準…など)。
どの水準で実験するかは、現場の知見や過去トラからもヒントが得られます。
フルファクショナルと直交配列表
すべての組み合わせで実験を行う単純な方法は「フルファクショナル実験」と呼ばれます。
ただし、要因や水準が増えるほど、必要な実験回数はあっという間に数百・数千通りになってしまいます。
そこで、現場で一番重宝されるのが「直交配列表」という考え方です。
直交配列表では、統計的に必要十分な組み合わせだけを選び、それだけで全体の傾向を抽出します。
国内製造業で広く用いられている「タグチメソッド」も、この直交配列表の応用です。
効果の評価と交互作用
DOEの要点は「どの要因が、どれだけ結果に影響したか」を数値で明確にできること、さらに「要因AとBを同時に変えたときの相乗効果」(これを交互作用と呼びます)まで分かる点です。
たとえば、材料Aのみを変更するとうまくいかず、温度条件も合わせて変更すると良好な結果になる。
こうした複雑な“掛け算”の関係性も、DOEなら一度の実験計画で解明できます。
実践現場でのDOE導入 ― 成功のカギは事前の準備力にあり
現場あるある ― 省略されがちな「実験目的の明確化」
現場でDOEを導入するとき、ほとんどのチームが陥る落とし穴があります。
それは「何を、どこまで、なぜ明らかにしたいのか」を十分に言語化していない点です。
とりあえず試してみる、思いつきで因子を増やす、といったやり方では、現場で得られる知見が曖昧になりがちです。
調達購買・サプライヤー管理を担う立場でも、「目的ありき」の視点は外せません。
まず、現象(例:不良発生の増加)が発生した背景を整理し、関係する因子について現場ヒアリングや過去データを徹底的に調べましょう。
ここでの準備が実験の成否を大きく左右します。
現場で役立つDOEの進め方(演習例つき)
ここでは、どの工場でも起こりがちな「溶接強度のばらつき低減」を例に、DOEの実践ステップを示します。
1. 目的の明確化
– 例:「部品Aの溶接強度のばらつきを3σ以内に抑え、不良率を1%以下にしたい」
2. 因子と水準の検討
– 因子:溶接電流(低・高)、溶接速度(遅い・速い)、材料の組成(A・B)の3つ
– 水準:それぞれ2水準(合計8通り)
3. 直交配列表を作り、実験手順を作成
– OA8(直交配列・8回実験)を使って8通りの組み合わせを設定
4. 実験実施とデータ記録
– 測定した強度をすべて残す。外れ値の有無、温度や湿度などの環境も記録
5. 効果分析・交互作用の確認
– 結果データをもとに、各因子・組み合わせごとの平均値を算出
– グラフ(主効果図、交互作用図)で視覚的に傾向を確認
6. 最適条件の特定と現場フィードバック
– どの条件がもっとも安定し、強度が高いかを判断
– 最適条件を標準作業に落とし込み、QC工程表やサプライヤー向け仕様書にも展開
この6ステップを繰り返し改善に使うことで、現場に“成功体験”が根付いていきます。
製造バイヤーに求められるDOE的思考 ― サプライヤー主導の品質改善とは
バイヤーやサプライヤー管理者にもDOE的思考が求められる時代です。
コスト交渉や納期管理だけでなく、サプライヤー工程そのものに積極的に関与し、品質改善に共に取り組む姿勢がサステナブル調達、選ばれる取引先となる最大のカギです。
たとえば、「従来の仕様ではこの品質が限界」「この工程での歩留まりはこれ以上上がらない」といった現場の声が上がった場合でも、DOE手法をもとに「どの因子に着目して新しい組み合わせを試せないか?」と、データで裏付けられた提案を働きかけてみてください。
調達側でも「数字に基づいた根拠」は上司・現場への説明材料に不可欠です。
また、サプライヤーの現場力を可視化できるDOEの実績は、新規取引や技術提案の強力なアピールポイントになり得ます。
業界が抱えるアナログ体質の壁 ― 昭和的現場でもDOEは根付くのか?
多くの現場では「紙ベースの報告」「ベテランだけが知る調整ポイント」「試作する時間も人も足りない」といった課題が根強く残っています。
しかし、その中でもDOEの導入は無駄な作り直しや事故・トラブルの事前予防に大きなパワーを発揮します。
小規模現場でも、最小限の要因(設備1台、作業条件2つ程度)から始め、「実験ノート」やエクセルで十分に活用可能です。
現場スタッフの“身体知”を言語化・数値化し、一歩ずつQCサークルや工程FMEAと連動させていけば、自然と“デジタル工程改善”への地盤ができあがります。
まとめ ― これからのものづくり人材に必要なDOE力
製造業は今、これまで支えてきた“職人の勘”と“現場の経験”から、誰にでも引き継げる“科学的アプローチ”へと大きく変革しようとしています。
調達購買・生産・品質のすべてにDOEの考え方が求められており、“仮説を立てて検証し、現場を巻き込み、最良の選択肢を生み出す力”が、次世代のバイヤー・サプライヤーの強みになります。
明日からまず、「どの条件が結果を変えているのか?」と問いかけるところから始めてみてください。
実験計画法の一歩が、現場の働き方と組織、そして日本のものづくりの未来を変える大きな力になるはずです。
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