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投稿日:2025年6月11日

含浸技術の基礎と応用およびトラブル対策

はじめに:含浸技術とは何か

含浸技術(Impregnation Technology)は、製造業、特に鋳造・粉末冶金・電子部品業界で広く用いられている基礎的かつ重要な技術です。

材料内部の微小空隙やクラック、ピンホールに特殊な樹脂や溶剤を浸透させ、気密性・強度・耐腐食性などを向上させることを目的としています。

職場では「ピンホール対策」「リーク防止処理」「補強加工」などのキーワードで呼ばれることも多く、現場目線での利便性や生産性向上に直結する技術として根強いニーズがあります。

昭和の時代から変わらぬ課題である“見えない欠陥との闘い”を解決し、より高品質な製品づくりを支えるこの技術は、DX化の波にも適応しつつ、今も現場で強く必要とされています。

本記事では、含浸技術の基礎から最新の応用事例、そして失敗時のトラブル対策まで、ものづくり現場で本当に役立つノウハウを解説します。

バイヤー・現場担当者・サプライヤーいずれの立場でも参考になる実践的な内容にしています。

含浸技術の基礎知識

どんな場面で使われるのか?

含浸処理は主に以下の場面で活用されています。

・ダイカスト(鋳造)品の微細な巣(ピンホール、ブローホール)対策
・粉末冶金部品の剛性・気密性向上
・電子部品基板の耐湿・絶縁補強
・切削加工部品や溶接部のリーク対策
・繊維製品や紙器の防水・補強

製品の材質や設計仕様上、内部に空洞や空隙が入りやすいものは、一定の確率で「滲み」「漏れ」の不良が発生します。

その欠陥を補修し、歩留まりや信頼性を上げる最後の“砦”として、含浸技術は長年現場に根付いています。

特に自動車・家電・航空機分野では、安全基準や品質要求が年々厳しくなる中で、その活用の場面はむしろ拡大傾向にあります。

基本のプロセス

含浸の標準的なプロセスは一般的に以下の手順となります。

1. 洗浄(事前クリーニング)
2. 含浸剤(樹脂など)への浸漬:真空・加圧サイクルをかけて材内部まで樹脂を浸透させる
3. 樹脂の硬化(熱、UV、化学反応など)
4. 余剰樹脂の除去・最終洗浄

手作業から自動機まで規模や目的により実施方法は様々です。

近年は高機能な樹脂や環境負荷低減型の薬剤も登場しており、扱いのしやすさや後工程への悪影響の少なさも重視される傾向です。

代表的な含浸剤(材料)

・熱硬化性樹脂類(メラミン、エポキシ、ウレタンなど)
・紫外線硬化型樹脂
・ワックス、オイル、パラフィン系
・特殊無機薬品(防錆、導電性付与)
これらは製品の用途やコスト、環境要件に応じて使い分けます。

最近では、REACH規制等の環境規制対応や、RoHS指令を意識した含浸剤の選定も必要となっています。

含浸技術の応用例:現場実例から学ぶ

自動車エンジン部品のリーク対策

自動車業界では、エンジン周辺部品の鋳造品が多く、内部巣によるオイル漏れ・冷却水漏れが古くからの課題です。

従来は「巣が出たらそのまま廃却」でしたが、コスト競争の激化や材料高騰、納期短縮の要請を受け、歩留り向上のために含浸技術が積極導入されるようになりました。

現場では、圧力テスト(リーク検査)で不良判定された部品を含浸処理工程にまわし、処理後再度リークテストで合格判断を行っています。

繰り返し使える治具設計やロット管理・履歴トレーサビリティの構築も含めた「含浸再生システム」が、サプライヤーの差別化要因となっています。

粉末冶金部品の耐食・気密性向上

ギア・ベアリング・バルブなどの粉末冶金(焼結)部品は、その製法上どうしても細孔率(ポーラス)が高くなりやすいです。

含浸処理を行うことで、顕在化していない微細な空隙を充填し、オイルシール部や流体制御部品の耐久性・気密性が著しく向上します。

設計段階で“含浸前提”の寸法公差設定や処理後性能試験など、バイヤーおよび設計側との連携が必要です。

電子基板の防湿・絶縁補強

小型化・高密度化が進む電子基板(プリント基板)でも、気温・湿度変化による絶縁不良や腐食が問題となります。

ここではUV硬化樹脂を用いた局部含浸や、樹脂注型によるモールド技術と含浸のハイブリッド応用がなされています。

ハンドワークの域を超えた“インライン自動化”派生分野として業界の注目を集めています。

業界のアナログ文化とデジタル化の壁

アナログ文化の強さとその問題

含浸技術は“最終手立て”“職人芸”のイメージがいまだ根強く、現場主導の属人的な運用が多いのが実情です。

現実には、
・作業者ごとのばらつき
・記録が手書き、承認が口約束
・歩留まりや不良率の見える化未着手
など、DX化とは程遠い運用も多く残っています。

また、「何となくこれで良いだろう」「他社もやっているから…」という慣習に頼った運用は、新たなトラブルや品質問題の要因ともなりえます。

デジタル化がもたらす変化の兆し

近年では、AI/IoT技術によるリーク検査データのリアルタイム管理、含浸処理工程の自動記録、樹脂消耗量・生産性分析によるPDCA管理など、従来の「暗黙知」をデータ化・可視化し、“見える工場”を目指す動きも始まっています。

工場自動化やスマートファクトリー推進の一環として、“含浸プロセスのデジタルシフト”が促進されており、今後はサプライヤー選定や発注条件にもこの潮流が影響するでしょう。

サプライヤー視点では、「トレーサビリティ」「工程管理」「迅速な歩留まり改善提案」などが大きなセールスポイントとなります。

よくあるトラブルとその対策

1. 含浸ムラによる再リーク・残渣

トラブルの最多発は「完璧に処理したはずなのに、また漏れた!」というケースです。

主な原因としては、
・含浸剤の浸透不足(真空・加圧条件不適切、部品の配置ミス)
・処理品の事前洗浄・乾燥不良
・含浸剤の劣化・使用期限切れ
などが挙げられます。

再発防止策:
・前処理~含浸本処理~後処理の工程ごとに、温度・時間・圧力などの管理基準を明確化
・含浸剤の定期分析・交換ルールを設定
・含浸後のリーク検査を複数回実施し、クリティカルパーツで特に重点チェック

2. 樹脂の残留や後工程への悪影響

含浸樹脂が部品表面やネジ穴などに残留し、
「塗装工程で剥離やブリスターが発生した」「組立工程で嵌め合い公差を超えた」といった問題が起きることもあります。

対策としては、
・余剰樹脂除去のためにウォッシュ工程を徹底
・樹脂選定段階で、次工程適合性(塗装/プレス/接合との相溶性等)を考慮
・サプライヤー間(含浸―表面処理―組立)の事前意見交換を強化
が重要です。

3. 含浸剤の環境・安全リスク管理

含浸剤には強い溶剤・可燃性物質などもあり、
「引火事故」「健康被害」「環境基準値超過」などのリスクがあります。

対策として、
・MSDS(安全データシート)の管理を徹底
・廃液・廃棄物処理の適正化
・労働環境の換気・保護具の標準化
などを実施しましょう。

4. コストと納期への影響

含浸処理は「後工程」になるため、トラブル時のコスト増・納期遅延はバイヤーにとって大きなデメリットです。

・不良低減の観点(再発防止費用と歩留まり改善の比較)
・「含浸品」という条件でサプライヤーとコスト体系を協議
・必要最小限の含浸で済むような設計や製造条件(初期粒度管理・鋳造条件厳守)

これらを現場・調達・サプライヤーが三位一体となって議論することが重要です。

バイヤー・サプライヤー双方から見た含浸技術

バイヤー視点で重視されるポイント

・リーク・強度不良の抜本解消、最終製品の信頼性確保
・安定供給による生産計画遵守、リードタイム短縮
・含浸工程を含む一気通貫のサプライチェーン設計
・工程/品質の可視化によるリスク低減
バイヤーにとって、含浸は「仕方がなくやる工程」ではなく「信頼品質の最後の防波堤」であり、
その技術力・管理力を重視したパートナー選定が求められます。

サプライヤー視点での競争力

・高度な工程管理(自動記録・トレーサビリティなど)の訴求
・材料・処理コスト/納期/アフターフォローの最適化提案
・含浸に依存しない製造技術との両立(“治せる技術”と“作り込む技術”のバランス)
・特殊ニーズ(大型品、複雑形状、特殊薬品対応等)への柔軟対応
サプライヤーは「含浸します」だけでなく、「最小不良で最大の付加価値」をトータルで提供できる体制が今後より重要です。

まとめ:これからの含浸技術の在り方

含浸技術は現場の“職人技”“最終手段”とみなされがちですが、今や高品質ものづくりとコスト競争/環境対応を両立する武器として、従来以上の進化と標準化が求められる時代です。

昭和モデルのアナログ運用から脱却し、
・データ重視の工程管理
・設計/生産/品質 保証の垣根を越えた連携
・「治す技術」だけでなく「作り込む技術」との組合せ
これらが、これからの日本のものづくり現場に不可欠な視点となります。

サプライヤー/バイヤー/現場…それぞれの立場で「なぜ含浸工程が必要なのか」「どんな最適化ができるのか」を深く考え抜くことが、現場力強化と持続的成長の第一歩です。

時代遅れと思われがちな含浸技術こそ、デジタル変革を起点に新たな地平を切り開くポテンシャルを秘めた分野です。

現場からの具体的かつ実践的な気づきと工夫で、次世代のものづくりをリードしていきましょう。

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