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接着技術の基礎と接着剤の最適選定および強度耐久性向上とそのポイント

目次
はじめに 〜昭和的発想からの脱却と接着技術の進化〜
製造業の現場に長年身を置いていると、「接着剤はボンドと呼べば十分」「ネジや溶接のほうが信頼できる」といった昭和的な価値観が根強く残っている現実に直面します。
しかし、現在の製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。
サステナビリティ、軽量化、異種材料の複合化など、新たなモノづくりの要請に応えるため、接着技術が果たす役割は日々拡大しています。
本記事では、接着技術の基礎から接着剤の最適選定、そして強度・耐久性向上のための現場ならではのポイントまで、実践的な視点で解説します。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーが何を考えているかを知りたい方、現場で奮闘するモノづくり担当者の皆様にとって価値ある内容となるよう心がけました。
接着技術の基礎 〜結合メカニズムと主要な接着剤の種類〜
なぜ「接着」なのか? 代替不能な結合手法
製造業の部品同士の結合には、機械的締結(ネジ、リベット)、熱的結合(溶接、ろう付け)、そして化学的結合である「接着」があります。
「接着」は、異種材の結合や、表面損傷を避けたい用途、製品デザインの自由度向上など、“他の方法では実現しがたい”独自の価値を発揮します。
特に次のような現場課題の解決策として有効です。
– アルミやステンレスなどの薄板金属の軽量構造接合
– 樹脂同士、または樹脂と金属の異種材料結合
– クリーンルームなど粉塵や振動を嫌う部位
– 高周波特性など、溶接やネジでは性能が損なわれる電子機器部品結合
接着メカニズムの基礎知識
接着は「素材表面と接着剤が接触し、分子間力や化学反応で結合」する現象です。
そのメカニズムには大きく4つあります。
1. 【機械的結合】表面の凹凸に接着剤が入り込んで固着
2. 【物理的吸着】分子間力(ファンデルワールス力など)による結合
3. 【化学的結合】共有結合・イオン結合など化学反応型の強固な結合
4. 【拡散結合】接着剤と素材分子が互いに拡散して一体化
昭和の時代は機械的結合のみ意識されていましたが、現代の高機能接着剤は複数のメカニズムを組み合わせて強度と耐久性を向上させています。
主要な接着剤の種類と特徴
現場でよく使われる接着剤は下記の通りです。
– エポキシ系:金属・ガラス・セラミックスなど幅広い材料に対応し、強度が高い。ただし柔軟性が低い。
– アクリル系:速硬化性に優れ、金属やプラスチックに好適。においや接着面の黄変に留意。
– シリコーン系:耐熱性・耐水性が高い。電子部品や自動車部品など可動部にも強い。
– ポリウレタン系:柔軟性と接着力のバランス型。車両や建築構造に多用。
– 瞬間(シアノアクリレート)系:取扱が容易で速硬化。小部品や仮止めに適す。
– ホットメルト系:加熱で溶融→冷却で固化。包装・雑貨など大量生産に好適。
用途・材料・作業条件でベストな接着剤は異なります。
バイヤー視点では、単に「カタログスペック」でなく現場適性・TCO(トータルコスト)観点の選定が重要です。
接着剤の最適選定 〜バイヤーの着眼点とサプライヤーへの期待〜
最適な接着剤を選ぶためのフローチャート
1. 【接合する材料を特定】
金属同士、樹脂同士、異種材料か?それぞれ材質名を明確化。
2. 【要求される性能・耐久期間】
何kgの張力・せん断力がかかるか。使用環境(温度・湿度・薬品・紫外線)は?量産ラインでの硬化性(時間・温度)も明確に。
3. 【量産性・ハンドリング】
1日に何ヶ所接着するか、どのくらいの作業時間が許容されるか。手塗り・ディスペンサー・自動塗布装置のどれを使うか。
4. 【品質・信頼性保証】
規格(JIS、ISO、ULなど)、顧客要求(自動車、家電、医療分野は特に厳格)を定義。
5. 【コスト・サプライチェーンの安定性】
ランニングコスト、入手可能性、納期、輸送条件・在庫保管性までトータルに見る。
バイヤーとして成功するための視点
単に「価格が安いから」と採用するのは危険です。
接着失敗による再工事・リコール・信頼失墜の損失は、目先のコストメリットを上回ります。
現場目線で重視すべきポイントは以下の通りです。
– 実際の材料による現物評価(カタログ値・サンプルではNG。本番同等条件で実験を行う)
– 加工現場の作業者負担や安全性(VOC(揮発性有機化合物)問題、手荒れ、臭気など)
– ロットごとの品質バラツキ、冬季や夏季の性能安定性
– 塗布・硬化工程の自動化適性(今後のIoT/ロボットライン導入見込みにも対応できるか)
サプライヤーが求められる提案力
サプライヤー(接着剤メーカー・商社)は、単に「この製品ならスペックが合います」ではなく、
– 初期強度・硬化時間の具体的な事例提示
– 不適合・ハンドリング失敗の事例
– 現場改善に役立つ技術情報や教育支援
など、現場目線に立った情報提供やアフターフォローが重要です。
接着強度・耐久性を高めるための実践テクニック
材料表面処理の徹底(クリーニングの重要性)
接着技術を現場で成功させる最大のキーポイントは、「表面処理」です。
いくら高性能な接着剤を使っても、「油分」「ほこり」「成形離型剤」などが残った表面では本来の性能は発揮できません。
具体的な方法例を紹介します。
– シンナー・アルコールによる脱脂
– 研磨紙やサンドブラストによる粗面化(特に金属素材で有効)
– プラズマ処理やコロナ放電による高機能化(主に自動車やエレクトロニクス分野)
– 樹脂成形品は、樹脂表面の“白化”を避ける適切な溶剤選定
現場での“慣れ”で省略されやすいですが、トラブルの約7割はここに起因します。
塗布量・塗布形状の工夫
「たくさん塗れば安心」というのは大きな誤解です。
適正な厚み(多くの場合、0.05〜0.2mm程度)を厳守しないと、内部に気泡や隙間を抱え、強度不足につながります。
自動車業界など大規模ラインでは、“ビード幅・厚み”を画像センサーで自動計測し、均一な塗布を徹底しています。
小規模現場でも、極細ノズルやディスペンサーを工夫しましょう。
硬化条件の評価と管理
接着剤には
– 室温硬化タイプ
– 加熱硬化タイプ
– UV(紫外線)硬化タイプ
など多様な種類があります。
現場の温度・湿度、ワークの熱容量で硬化速度や最終強度が変動します。
QC担当が十分な管理(温湿度管理やサンプリングチェック)を実施し、トラブルを未然防止しましょう。
バイヤーは現場ヒアリングに基づいた「規格化」「工程管理」も意識してください。
設計時からの「はがしやすさ・リワーク性」への配慮
一度接着したら「はがせない」「リワーク不能」なものもあります。
将来の修理・リサイクル、もしくは脱炭素対応で素材分離が必要になる場合は、「リワーク性」の良い接着剤や、熱で解体可能な新素材も選択肢に入れましょう。
これはSDGsにも直結する、新時代のバイヤー・エンジニアの選択眼です。
アナログ業界でも接着技術が進化する理由 〜時代の要請と新たな価値創造〜
昭和的なアナログ文化とデジタル自動化の狭間で、製造現場の現実は“急激な変化”を求められています。
– 環境負荷低減…有機溶剤系から水系・無機系・バイオマス系接着剤へのシフト
– 生産性向上…AI/IoTを活用した自動塗布・検査システムの普及
– 設計自由度UP…トポロジー最適化や3Dプリント品同士の結合
– 脱炭素・リサイクル…分離可能なサステナブル接着技術
– グローバル化…ローカル調達対応や規制(RoHS、REACH等)への適合
「接着」は最先端分野で想像以上に革新的進歩を遂げています。
バイヤーや現場の担当者が、“アナログ職人気質”の殻を破れるか否かが、競争力を左右します。
まとめ 〜これから接着技術に取り組む方へ〜
接着技術は、「見えない部分」だからこそ現場での細やかな配慮と、新たなモノづくり技術の知見吸収が重要です。
材料・現場・顧客ニーズに応じた最適選定と日々の改善が、強度・耐久性の高い“良品づくり”とコスト改善のカギを握ります。
「どのメーカーを選ぶか」ではなく、「どんな工程で、どう管理し、サプライヤー・お客様とどう連携するか」——
この視点こそが、バイヤーや現場担当者としての真の付加価値です。
ぜひ、従来の枠を超えて“新たな接着の地平線”を切り拓いていきましょう。
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