投稿日:2025年6月17日

流体力学の基礎と適切な流体の損失低減法

はじめに――現場で活きる流体力学の基礎知識

流体力学というと、大学や研究室で習う学問だと思われがちですが、実は毎日の製造現場で非常に役立つ知識です。

流体とは、液体や気体など、自由に形を変える物質のことを指します。
工場の現場では、空気や水、油、蒸気といった流体が配管を通して移動しているのが当たり前の光景です。
流体がなめらかに流れることで生産コストが抑えられ、品質が安定し、トラブルが減少します。

しかし、配管や装置の設計・保守を間違えると、流体損失(エネルギーロス)が発生し、生産効率の低下やコスト増加、さらには重大な事故につながる場合もあります。

ここでは、製造業のリアルな現場感覚と、私自身の長年の実体験をもとに、流体力学の基本と、業界で強く根付いている実践的な損失低減法をご紹介します。

流体損失とは何か――無視できない”見えないコスト”

配管・バルブで生じる流体損失の本質

流体損失とは、流体(液体や気体)が配管などを通過する際に生じる圧力の低下、すなわち「抵抗」のことです。
簡単に言えば、流体が“行きたい方向にスムーズに行けず”、途中で力(圧力)を奪われてしまう状態です。

この損失には主に2つの種類があります。

  • 摩擦損失:配管内面との摩擦によるもの
  • 局所損失:バルブやエルボ、継手など、流れが急に変わるポイントで発生するもの

特に日本の製造業では、戦後から高度経済成長期、昭和の全盛期にかけて構築された古い配管や設備が未だに稼働している現場が少なくありません。
こうした設備では、「本来必要のない損失」が日常的に発生しています。

損失の積み重ねが生産効率の天敵に

損失を軽視するとどうなるのか。
結論から言えば、「ポンプやコンプレッサー(圧縮機)のエネルギー消費が増大し、設備コストが跳ね上がる」のです。

昭和の現場では、損失増加を「ポンプ能力アップ」や「モーターの大型化」で単純に乗り切ってしまうことが多く見受けられました。
しかし現代のグローバル競争や脱炭素社会、SDGsの流れの中で、これまでの延長線だけでは通用しません。
電気代1円のムダ、CO2 1gの削減が製品競争力のカギを握ります。

現場で抑えるべき流体力学の基礎

ベルヌーイの定理―工場の配管で何が大事か

流体力学の代表格「ベルヌーイの定理」は、エネルギー保存の法則に基づいています。

エネルギー保存とは、「流体が移動するとき、位置エネルギー・運動エネルギー・圧力エネルギーの総和は一定(外部から損失や加減がなければ)」というものです。
つまり、流速が上がれば圧力が下がり、圧力が上がれば流速が下がる…というわけです。

現場では、このバランスが崩れる「損失」を見逃すと、流体の供給不足やムダな電力量増加、ライン停止に直結します。

レイノルズ数―乱流と層流を見極める

配管設計や運転管理で重要となる「レイノルズ数」。
これは、流体のスムーズな流れか、ゴチャゴチャと乱れる流れかを示す指標です。

– 一定以下なら層流(なめらかな流れ)
– 一定以上なら乱流(渦を巻くような流れ)

乱流になると摩擦抵抗が急増し、損失が一気に膨れてしまいます。

古い工場では、能力アップ時に「とにかく流量を上げて圧送」しがちですが、この乱流化が大きな無駄とリスクの温床です。

よくある損失発生ポイントと昭和の“あるある”設計ミス

配管内径の選定ミスとその影響

小さな口径の配管を無理に使い続けると、流速が必要以上に上がり、摩擦損失が増えます。

これは、当時の資材コスト圧縮や「とにかくスペースがない」といった理由で安易に細い配管を採用した結果です。

現場のリアルな声として、「配管はとにかく太ければいいわけじゃない」という意見もありますが、適正な流速を考慮した内径選定が最重要です。

バルブ・エルボ・継手の配置と数の無駄

狭い工場スペースをやりくりするために、配管経路を不自然なS字や急な曲げで施工する。
しかも複数のバルブや継手を多用してしまう。
こうした施工は、多くの工場で“昭和あるある”として根強く残っています。

実は、この「無駄な数のバルブ・エルボ」が局所損失となり、トータル効果では大きなエネルギーロスを生んでいます。

現場でできる損失低減法――即効性のあるアクション

経路の最短化とバルブ・継手の最適化

まず、現状査定として配管経路を可能な限りシンプル(最短距離)に見直すことが効果的です。

バルブやエルボ、ティーなどの継手は、「本当に必要な場所以外はできるだけ排除」する。
どうしても避けられない場合は“低損失仕様”の機器を選ぶことが必須です。

配管内径の適正化と流速コントロール

流量計算を行い、最適な流速(層流になる範囲)と内径を算出します。
配管の拡張や口径アップにはコストが掛かりますが、長期的には損失削減によるエネルギー費用の節約分で十分に元が取れる場合が多いです。

メンテナンスによる損失低減

現場目線で忘れがちなのは、「異物混入や配管内の錆・スケール蓄積」による損失増加です。
定期的な洗浄・メンテナンスにより、流路断面積を確保し、本来の流れを維持することが重要です。

設備を「導入して終わり」「修理して終わり」にしない、という意識改革がポイントとなります。

デジタル化(IoT)による流体損失管理の今

流体損失の”見える化”がトレンドへ

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる今。
古い現場でも、差圧計や流量計をネットワーク化し、リアルタイムに「どこで・どれだけ損失が発生しているか」を把握できる環境が整いつつあります。

バイヤーやサプライヤーの立場からすると、流体設備の損失監視・診断サービスを組み合わせた提案は、差別化・商談拡大の大チャンスとなります。

AI・ビッグデータによる配管・流体シミュレーション

今ではAIやビッグデータ技術を使い、配管システム全体の流体損失を可視化し、最適化するソリューションも登場しています。
例えば従来は経験や勘に頼っていた配管ルートや機器選定も、シミュレーションでベストな案を提示できる時代になりました。

現場目線でバイヤー&サプライヤーにお伝えしたいこと

コストパフォーマンス重視から「トータルバリュー」へ

バイヤー視点では、「初期コストの安さ」だけで選定する昭和型調達から脱却し、「運用トータルコスト(LCC:ライフサイクルコスト)」「環境インパクト」まで考え抜いた選択が不可欠です。

サプライヤーとしては、単なる製品提案ではなく「運用現場の損失コントロール」や「メンテナンス性」、「脱炭素・IoT連携による運用DX」といった+αの価値訴求が求められています。
つまり、“製品+現場ノウハウ”を組み合わせたコンサルタントの発想が必要になります。

現場の声に耳を傾けた提案こそが勝つ

流体損失は、数字や理論だけでは測りきれない「現場特有のクセ」や、「人の暗黙知」に強く左右されます。
机上の空論やマニュアル一辺倒ではなく、ベテランの現場エンジニアや作業者とのコミュニケーションの積み重ねこそが成功への鍵です。

まとめ――現場視点で進化し続ける製造業へ

流体力学の基礎を押さえることは、製造現場だけでなく、設備調達や保全、サプライヤー選定、IoT導入など、あらゆる場面での競争力強化につながります。

課題解決の第一歩は、「今ある損失に気付き、現場の本音に耳を傾け実践する」ことです。
昭和時代から積み上げてきた知恵と、現代のデジタル技術や環境意識を融合させることで、製造業の”新たな地平線”を一緒に開拓していきましょう。

流体損失の低減は、単なるコストダウンではなく、ものづくりを根底から進化させる大きな一歩です。
今こそ、一歩踏み出してみませんか。

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