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摩擦摩耗の基礎と評価および損傷予防設計への応用

目次
はじめに:摩擦と摩耗、その重要性を再認識する
モノづくりの現場で避けて通ることのできない現象の一つに「摩擦」と「摩耗」があります。
これらは古くから製造業の現場で“当たり前”のように語られてきましたが、実はこの「当たり前」に深い知識と現場感覚を持って向き合うことが、製品価値向上と競争優位性の獲得に直結するのです。
現場目線に立つことで気づける、生きた摩擦・摩耗管理の現実と評価、そして設計現場への応用について、昭和のアナログ思考から一歩進んだ新しい視点で掘り下げていきます。
摩擦および摩耗の基礎知識
摩擦とはなにか
摩擦とは、物体同士が接触し運動する際に発生する抵抗力です。
例えば、金属ギアとシャフト、スライド機構のガイド、ベルトとプーリーなど、至る所で摩擦は生じています。
静止摩擦力や動摩擦力といった基礎用語を正確に理解することは、損傷予防設計の第一歩です。
摩耗のメカニズム
摩耗は、接触した部材の表面が繰り返し滑る・転がることで、徐々に失われていく現象です。
主な摩耗のモードは以下のように分けられます。
– アブレージョン摩耗(すり減り、引きずりによる摩耗)
– アディーショナル摩耗(表面付着物による摩耗)
– アドヒージョン摩耗(表面どうしの溶着と剥離)
– 表面疲労摩耗(繰り返し荷重による表面ひび割れ)
これらを詳細に見極め、使う部位や環境に合わせた評価・対策こそが現代製造業の腕の見せ所と言えます。
工場現場でよくある「摩擦・摩耗」トラブルの実例
金型部品の寿命低下、軸受焼付き、異音・振動発生、摺動機構のガタつき、これらはすべて「摩擦・摩耗」の失敗事例です。
設計・調達・現場保全のどこかで、摩擦・摩耗の本質把握が不十分だったことが根本原因となる場合がほとんどです。
摩擦・摩耗試験とその評価の実践
評価手法の基礎
摩擦係数の測定、摩耗量・摩耗痕観察など、試験片によるラボ評価が主流ですが、実際の使用現場に近い状態を再現することが重要です。
たとえば乾式か湿式か、低・高荷重での挙動、繰返し数による累積損傷など、学生実験の範疇を超えて“いかに現場を模擬できるか”がポイントとなります。
代表的な摩耗試験装置
– ピン・オン・ディスク(回転摺動)
– ブロック・オン・リング
– リニア・リサプロケーション(往復摺動)
用途や材料・潤滑条件によって装置を選び、定量的なデータと定性的な損傷観察を組み合わせて、机上の空論ではない評価結果を導き出すことが大切です。
現場での生きた活用方法と日常点検
研究開発の「測る」評価だけにとどまらず、生産現場では“摩耗くず”,“振動パターン”,“クリアランスの変化”といった定量・定性の両面から日常点検を積み重ねることが重要です。
例えば異常摩耗は匂いや音でも発見できるため、五感も重要な評価装置の一つと考えるべきでしょう。
摩耗損傷を防ぐための予防設計思考
設計段階での工夫がカギを握る
昭和型の「トラブルは現場に押しつけて解決」から脱却し、設計段階で摩耗対策を講じておくことが、トラブル未然防止とカイゼンの最大のポイントです。
以下に、実際の現場で頻出する摩耗予防設計の工夫をまとめます。
– 摩擦係数の低い材料選定(例:超高分子量ポリエチレン、自己潤滑樹脂、セラミックコーティング金属)
– 潤滑設計(グリース/オイル給脂間隔や自動給脂機構の導入)
– 表面改質(熱処理やショットピーニング、DLCコーティングなど)
– 摩耗余裕設計(摩耗部位だけ交換できる構造、スリーブ付加など)
– 初期摩耗・慣れ摺動への配慮(ラニングイン済み部品の調達や試運転での初期負荷低減)
これらの一つ一つは、小さな知恵の積み重ねですが、現場レベルで工程毎・設備毎に摩耗モード分析を行い、確実にフィードバックすることが、製品の安定品質とコスト最適化に直結します。
部品調達・外注生産における重要ポイント
設計・生産部門だけでなく、部品を買い付けるバイヤーも摩耗リスクを理解しておく必要があります。
サプライヤーとの技術協議の場で、「こういう環境下だと想定される摩耗モードは何ですか?」「実際の現場データや耐摩耗試験データはありますか?」といったやり取りができるかどうかで、調達先の提案力やトラブル対処力に大きな差が生まれます。
サプライヤー目線での「提案型受託」のススメ
お客様のバイヤーが摩耗特性をどこまで把握しているか。
打合せの中で“実物サンプルの摩耗箇所観察”や“競合部品との摩耗試験比較”といった具体策を提示できれば、昭和型の「御用聞き」から脱皮できるチャンスと見るべきです。
摩耗に強いことを売りにできれば、コスト交渉や受注獲得にも大きな力を発揮するでしょう。
昭和からのアナログ慣習のなかで進化する摩擦・摩耗分野
「経験と勘」頼りの現場は今も多いですが、変化の波は確実に押し寄せています。
IoTセンサで摺動箇所の摩耗を自動測定・通知、AIが異常摩耗の予兆をピックアップ、摩耗進行に応じて部品交換を自動発注――多くの現場が、「摩耗の見える化」と自動化で、レガシーな保全から抜け出しつつあります。
一方で、現場の技能者が蓄積した「音・振動・匂い・触感」による摩耗検知は、未だデジタル化が難しい“最後の砦”。
これをうまく融合し、若手・中堅のスタッフが摩耗管理に習熟するための教育フローを確立することが、新時代の現場力=競争力となりつつあります。
まとめ:ラテラルシンキングで切り拓く摩耗対策の未来
摩擦・摩耗の課題は単なる「消耗品の部品管理」だけではありません。
材料開発、設計思想の革新、バイヤー×サプライヤーの共創(アライアンス)、生産効率と品質保証、あらゆる面で最先端の“攻め”の分野になっています。
今こそ、現場目線のラテラルシンキング—横断的かつ創造的思考—で、従来の枠を超えた摩耗対策を生み出しましょう。
昭和から続く伝統と、最新のデジタル技術、人的技能を融合させることで、持続可能な製造現場を実現し、次世代に誇れる「日本のものづくり」をリードしていく手応えがきっと得られるはずです。
摩擦・摩耗との戦いは永遠ですが、このノウハウを共有し、共に工夫し続けることで、安定生産・高品質・低コストという最大価値を現実のものにしていきましょう。
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