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投稿日:2025年4月18日

薄膜の内部応力・密着性改善・評価法の基礎と剥離トラブル防止策

はじめに:なぜ薄膜の内部応力と密着性が重要なのか

薄膜コーティングは金属、ガラス、樹脂、半導体など多様な基材を高機能化する技術です。
しかし現場で最も多いトラブルが「剥離」。
剥離は歩留まり低下やリコールに直結し、調達・生産・品質の全部門を巻き込みます。
剥離の主因は内部応力と密着性のミスマッチです。
この記事では内部応力の発生メカニズム、密着性評価法、改善アプローチを体系的に解説し、購買・製造・サプライヤーの垣根を超えた剥離防止マネジメントを提案します。

薄膜内部応力の基礎

内部応力とは何か

薄膜が堆積されると、膜内と基材との熱膨張差、構造欠陥、成膜条件の不均一性により圧縮応力または引張応力が残留します。
これを内部応力、または残留応力と呼びます。

内部応力の主な発生メカニズム

1. 熱応力
 基材と膜材料の熱膨張係数差が大きい場合、冷却過程で引張または圧縮が発生します。
2. 成長応力
 PVDやCVDでは原子・分子衝突、島成長、ボイド形成により緻密度が変わり、応力が蓄積します。
3. 相変態応力
 アモルファス→結晶化、あるいは相の再配列で体積変化が起きる際に応力が生じます。

内部応力が及ぼす影響

• 大面積基板での反り、クラック発生
• 密着強度低下による剥離
• 光学薄膜では屈折率分布変動、波長ズレ
量産ラインでのトラブル率8割は内部応力起因という報告もあり、軽視できません。

薄膜密着性の考え方

密着性を決定づける4つの因子

1. 機械的かみ合わせ
 基材表面粗さを最適化しアンカー効果を高めます。
2. 化学結合
 プラズマアクティベーションやサイレンカップリング剤で共有結合を増強します。
3. 物理吸着
 極性基を導入しファンデルワールス力を強化します。
4. 拡散層形成
 インターフェースでの元素拡散により漸進的な組成勾配をつくります。

密着性が劣化する要因

• 基材汚染物(油、酸化膜、水分)
• 膜と基材の表面エネルギー不適合
• 成膜温度と硬化プロファイルの不一致
• 量産現場での前処理バラツキ(古い洗浄機、手拭きアルコールなど昭和的運用)

内部応力・密着性の評価法

内部応力の代表的評価

• ストーニー式によるウエハ反り測定
• X線回折 sin²ψ 法
• カンチレバー付きMEMSセンサ
• マイクロリング剥離法

密着性評価の代表例

• クロスカット試験(JIS K5600-5-6)
• プルオフ試験(ASTM D4541)
• スクライブ試験+スカッチテープ
• 4点曲げ法による層間破壊靭性測定
購買部門はサプライヤー選定時に「どの試験をどの基準で合格とするか」を仕様書に明文化することが肝要です。

内部応力を低減する実践的アプローチ

PVD/スパッタリングの場合

• 基板バイアス電圧を低めに設定し入射エネルギーを抑制
• 反応性ガスを二段階導入し膜密度を段階的に高めるグレーディッド法
• 高パワーパルス直後のクールタイムを設け熱衝撃を緩和

CVDの場合

• 低温プラズマCVDへ置換し熱応力を軽減
• プレカーサー流量を最適化して析出反応の過飽和を抑制
• アフターベーク(200〜300℃)で水素脱離と応力緩和アニールを実施

有機塗膜の場合

• 可塑剤・フレキシビライザーを添加し伸び性能を向上
• 乾燥炉の温度勾配を緩やかにし溶剤揮発速度を制御
• ナノフィラーを均一分散し内部欠陥を封じ込め

密着性を向上させるポイント

前処理プロセスの最適化

• アルカリ脱脂 → DI水リンス → 酸洗浄 → プラズマ洗浄を標準フロー化
• 自動搬送で人依存を排除し、古い手洗い文化から脱却
• 表面粗さをRa 0.05〜0.2µmで管理しアンカー効果を最適化

インターフェース設計

• クロム、チタンなど下地バッファ層を設置し熱膨張差を緩衝
• シランカップリング剤をスプレーではなく真空蒸着で均一化
• グラデーション膜で応力を段階緩和(例:Ti→TiN→AlN)

工程間の物流改善による密着性維持

前処理から成膜まで2時間以内をルール化し、酸化膜再生成を防止します。
AGVで真空バッグ搬送すれば大気中水分の吸着を抑制できます。

剥離トラブルの未然防止マネジメント

設計段階での防止策

• DfX(Design for eXcellence)レビューで膜—基材—使用環境の熱膨張マップを作成
• 厚膜化するほど応力は積算されるため、目的機能を満たす最薄厚を算出
• 部品共通化でテストサンプルを集約し評価コストを低減

購買・サプライヤー連携の要点

• 量産前に「膜応力−密着性−環境耐性」の3軸でPPAPを要求
• 剥離コスト換算(不良率×再処理費×納期遅延ペナルティ)を見える化し、単価交渉時の武器にする
• サプライヤー変更時は同一評価メソッドによるベンチマークで横並び比較

製造現場モニタリング

• 成膜設備にAEセンサを取り付け、リアルタイムで膜クラック音を監視
• バッチごとに反り測定データをMESと連携しトレンド監視
• 5M1E(日・時・装・人・材・法)をタグ化し、異常傾向を早期検知

品質保証と顧客対応

• 剥離クレームには「破面観察→EDS→FTIR→FIB断面」まで実施し、責任分界点を即時特定
• 顧客への説明資料は内部応力マップ付きで提出し技術的説得力を高める
• 再発防止策を工程FMEAへ反映し、CAPAサイクルを完結させる

昭和的アナログ運用からの脱却

まだ「刷毛塗りプライマー」「手磨きサンドペーパー」が現役の現場も存在します。
アナログ作業は職人技に頼る一方、ばらつきと属人化リスクが高いです。
自動化やIoTを導入しデジタルツインで応力シミュレーションを回すことで、勘と経験からデータ駆動型へシフトできます。
古い設備でも後付けセンサとクラウド分析でアップデート可能です。

まとめ:薄膜剥離ゼロへ向けた総合戦略

1. 内部応力のメカニズムを理解し、成膜条件で先手を打つこと。
2. 密着性は「前処理+インターフェース設計+物流時間」で決まること。
3. 評価法を統一し、購買とサプライヤーの共通言語にすること。
4. データ監視と自動化で昭和的バラツキを排除すること。

薄膜の剥離トラブルは、多部門が一丸とならない限り根絶できません。
設計・購買・製造・品質が同じ指標で対話し、科学的根拠に基づく改善を積み重ねることで、歩留まり向上とコスト低減を同時に達成できます。
本記事が、現場担当者からマネジメント層、そしてサプライヤーの皆様まで、薄膜技術のレベルアップに貢献できれば幸いです。

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